さて、赤羽が第九鎮守府へと流れ着いてから数週間が経った。
「明石ィー、暇だ」
「そうですね……」
鎮守府に流れ着いた時に深緑色の航空隊員の服を着ていた赤羽は今薄い緑色の整備員のつなぎを着ていた。
「本当にやることねぇのな」
「仕方ありませんね、今うちは資材が尽きかけてますし、工廠もやることが無いんですよ」
結局あれから冷泉は赤羽の所属先に連絡を取ろうとしたが元より場所がはっきりせず、更に深海棲艦の攻撃を受けていたこともあってか通信は繋がらなかった。
その後の赤羽は本人が希望したこともあってそのまま第九鎮守府の所属となった。と言ってもここは人間の基地ではなくあくまで艦娘と提督の鎮守府。人間のパイロットに需要はなく、結果として工廠に回された。
「夕張ィー、今日の予定は?」
「その質問今日三度目ですよ?」
「そうだっけか」
先程から眠そうな表情で紙パックのジュースを啜り赤羽と気だるそうに会話をするのは工作艦“明石”と軽巡洋艦夕張型一番艦“夕張”だ。
「なんだかなぁ……もっとこう……なんだ、作業はないのか」
紙パックが空になったのを確認した赤羽はゴミ箱へ空箱を放り投げ、小汚ないソファへ腰かけた。
「そうですねぇ……やることもないですし、暇つぶしになりそうなものもないですし……」
「だな……あー、空に行きてぇ」
工廠の高い天井に取り付けられた広い天井には不釣合いな程小さな窓を見上げ、赤羽が呟く。どこと無く悲壮感が漂っている。
「……」
「そういえば少佐」
悲壮感漂う赤羽をみかねた明石が沈黙を破った。
「ん?」
「
「んー……いや、ここに配属されてからろくに出歩いてないからなぁ……」
「なら丁度いい!せっかくですし、行ってきたらどうですか?」
明石は手を叩いて声を上げた。しかしそれに対し赤羽は困惑したような表情を浮かべる。
「いや……確かにそうしたいところではあるが俺らは一応まだ勤務中だぜ?勤務時間内に仕事場を離れた、なんて提督に知れたら面倒じゃないか?」
「どうでしょう?バレないんじゃないですか?」
夕張が工廠の隅に置いてあったダンボールからポテチを一袋取り出しながら言う。
「
あくまで夕張は気だるそうにソファに腰掛け、ポテチの袋を開く。
「そうなのか?」
怪訝そうに言いつつも赤羽は夕張が開けたポテチの袋にすぐ手を突っ込んで一枚口に運んだ。夕張が少し不機嫌そうな顔をする。
「まぁ、そうですね。夜時々海岸の方に歩いていくのを見かけますけど日中執務室の外にいるところなんて見たことないですね」
明石も袋に手を突っ込んで一枚ポテチを取り出す。自分が袋を持ってきたのに先に二枚持っていかれた夕張は露骨に嫌そうな顔をした。
***
「うーむ、やっぱ広いな」
赤羽は結局工廠を出た。第九鎮守府側も流れ者の赤羽の部屋を急には用意できず、結果赤羽は職場となった工廠に置かれた小さなプレハブで生活しており、工廠からろくに外出していなかったのでなんだかんだ新鮮だった。
「さて……出たはいいがどこに行くかね……」
工廠から出てあたりを見回すと数人の駆逐艦が走っていくのが遠目に見えた。
「あー、おい!ちょっといいか……」
声を上げ制止してみるが届かない。走り去られてしまった。
「ふぅむ」
赤羽は鼻で大きな息をつくとポケットに両手を突っこみ歩きだした。当然行くあてなどなく、どこに何があるのかわからない状況だ。
「お?」
しばらく歩くと来客用に作られたのか鎮守府の地図が描かれた金属製の看板を見つけた。
「こりゃいいや、どれどれ……現在地は……どこだ」
「あ、あのっ」
不意に後ろから声をかけられた。か細くか弱い声だ。なんとなく自信がなさげな高い声は瞬時に艦娘の声であると赤羽は察した。
振り替えるとそこにはやはり艦娘が立っていた。予想と違ったのは思っていたより小柄だったということ。いや、それはもう小柄というより身体の幼さ、と言った方が正しいかもしれない。
「あー、ええと、なんだ。確かあんたは……」
「電と……いいます」
極端に小柄な体躯に少しサイズの大きなセーラー服を纏い、薄い黒に近い色のスカートを履いている。髪は艶のある茶髪であり、もみあげは肩にかかるほど伸び、後ろ髪は一本に束ねられ、先が上を向くように後頭部に固定されている。よく見ると一部微妙に束ねきれておらず、それなりに髪の量はあるようだ。きっとほどけばそれなりの長さがあるのだろう。眉は微妙に八の字になっており、髪の色より薄い茶色の大きな瞳は真っ直ぐに赤羽の瞳を見据えていた。
「……誰?」
「だ、だから電ですっ!」
「悪い悪い、冗談だよ」
赤羽がからかうと電は少し声を大きくした。赤羽は非礼を詫びると電に歩み寄り、話を続けた。
「確か……提督と一緒に居たよな。するとあれか?あんたが……秘書艦ってやつか」
「はい。電は提督の秘書をやっているのです」
自分の仕事に誇りを持っているのか電は胸を張り答えた。心なしか先程までのおどおどした雰囲気もこの一瞬で無くなったようにも感じる。
「で……その秘書艦が俺に何の用だい?」
「その……少佐が危ないことをしないよう見てるように、と提督が……」
バレていた。
***
数分後、電と赤羽は広場を歩いていた。電は赤羽を工廠に連れ戻そうとはせず、むしろ施設案内を始めた。工廠に押し込めておくよりはこの方がいいと判断したのだろうか。
第九鎮守府は赤羽が思っていたよりずっと広く、電につれまわされながら内心驚きの連続だった。
電はまず北の正門へ赤羽をつれて行った。
「ここが正門です」
「おう」
そう言う電の背後には彼女が三人肩車しても通れそうな程高い門が開かれていた。この鎮守府は基本的に高い塀で囲われており、出入り口は限られている。
「ここの他にもう一つ東門があります。正門は町に、東門は海にそれぞれ続いているのです」
「市街地と浜辺ねぇ……なるほど」
次は正門の前にある広場を真っ直ぐ進み、広場を挟んで正門と向かい合うレンガ造りの比較的大きな建物の前に来た。
「ここが‘本館’です」
「ふむ」
「提督の
「つまり居住スペースってことか。……ケッ、いいとこあんじゃねぇか」
赤羽は工廠の隅に急遽置かれたプレハブのことを思いだしながら独り言を漏らす。
「次は別館です」
電は本館の門前に立ちながら右手に建っている建物を指差した。
本館もそうだがこっちも組まれたレンガの劣化が進んでおりみすぼらしい。
「ここには間宮さんの食堂や病院があるのです。少佐がこの間起きた所もここなのです」
「ああ……ここか」
赤羽の脳裏にあの日病室で目覚めた時の場面がよぎった。よくまぁ生きていられたものだと勝手に感慨深い気持ちになった。
「そして次が工廠です」
正門から見て広場の北東、本館と別館の間にできたスペースを抜けると目の前に水平線が広がった。鎮守府を囲うレンガ造りの高い塀が鎮守府南部にはなく、代わりに艦娘サイズのドックがいくつか設けられていた。うち一つに覆い被さるようにコンクリートの四角く洒落っ気のない建物を電は指差した。赤羽にとっては今の職場にして自宅である。
「……知ってますよね」
「うん」
赤羽の返事には生気がなかった。
「じゃあ最後はあれだけなのです」
そう言うと電は工廠の右手を指した。
本館、別館と工廠の間にはちょうど街の大通りのようなスペースがある。鎮守府を横断するように伸びたスペースは東門から伸び最終的には西端の――――森に辿り着く。
「あぁ、あそこな。最初見た時は驚いたぜ?まさか鎮守府内に森があるとは。それとも海軍じゃ普通なのか?」
「あそこまで大きな森があるのはここだけなのです」
「あー……やっぱり」
「色んな
「ハハ、そうかもな。まだお前にはちょっと早いかもな」
赤羽は腰を折りかがむと、電の頭に手をおいて無邪気な笑みを浮かべた。
「ありがとな。お陰でよくわかったよ」
「……は、はいっ、こちらこそ、ありがとうございます……なのです!」
一通り鎮守府内を歩き、少し話をしたことで気づいたことだが、赤羽は電が思いの外難しい言葉を使うことに驚いた。まぁ常に傍にいるのが
「ええと、これで案内は全部なのです。何か聞きたいことはありますか?」
「ん……あ、あぁ、そうだな、じゃ一つ聞きたいんだが……」
「電」
赤羽が電に対し質問しようと口を開くと横から別の声が割って入ってきた。赤羽は出鼻を挫かれ口をつぐんだ。
声の方を見るとそこには電と同じく幼い容姿の艦娘が立っていた。
セーラー服を着用している電とは違い、こちらは深緑色のジャケットにスカート、タイツを着用している。ジャケットの下には白いシャツを着、赤いネクタイを巻いているがシャツは裾がはみ出ており、ネクタイも胸元が空いている。きちんと服を着用している電が近くに居るのも手伝って全体的にだらしない印象を受ける。が、表情はそれに似合わず口元は真一文字に結ばれ、その眼光にも鋭いものがある。電と同じ茶髪、瞳まで同じ色だ。
「ああ……なんだ若葉か」
赤羽はこの艦娘を知っていた。数週間前、医務室の一角で目が醒めた時にベッドの傍にいた。その後も資材運搬などでちょくちょく工廠を訪れており、顔見知り程度にはなった。
「なんだとはなんだ」
若葉はショートに切り揃えられた自分の髪のハネを直しながら応答する。
「それで……私に何の用ですか?」
今度は電が話に割って入る。
「ああ、そうだ。呼ばれているぞ。提督の執務室へ戻ってこいだそうだ」
「え、でも提督に少佐を見ておくようにって……」
「その提督が呼んでいるんだ」
「あ……わかったのです」
電は赤羽に深く頭を下げると広場の奥の方にある大きな建物へ走っていった。
広場の噴水の前には赤羽と若葉の二人が残された。
「……そういえば」
先に口を開いたのは若葉だった。
「なにか電に聞こうとしていたな。なんだったら私が代わりに答えよう」
「え?あ、おう……そうだな……ここの名前って確か……」
「第九鎮守府」
「そう。それだ。ずっと気になってたんだが……
「……うん、まあ、結論から言うとそうだ」
そう言うと若葉は歩き出した。“ついて来い”と言いたいのだろう。赤羽は黙ってついて行くことにした。
二人は広場を横切り、やがて正門へたどり着いた。
「これだ」
若葉はそう言うと正門に掛けられていた大きな木製の札を指差した。
「ん……?」
赤羽の体躯ほどはあろうかという大きな札にはまるで筆で書いたかのように堂々と『単冠湾グループ第九鎮守府』と彫られていた。
「単冠湾グループ?」
「そうだ。私達の鎮守府はこの‘単冠湾グループ’の九番目の鎮守府。だから単冠湾グループ第九鎮守府、というんだ」
若葉は小さな胸を張って自慢気に言った。対してその隣の赤羽は顎に手を当て難解そうな顔をしている。
「あー……よし、‘第九’の部分はわかった。今度はその‘単冠湾グループ’について教えてくれないかね……」
「うん?……あー、そう……だな」
若葉は急に口ごもった。
「ん?なんだ若葉、あっ!さてはあれだなおめー肝心の単冠湾グループが何かわかってないな!?」
「ち、違うっ!ちょっとド忘れしただけだ……」
「あら?どうしたんですか?」
正門前で騒ぐ二人の会話に上品な高い声が入りこんで来た。赤羽と若葉が同時に首を九十度回すと声の主が視界に現れた。
赤羽より微妙に背が高く、将校の制服によく似た青い服、青いベレー帽、かなり短めなスカート、黒のニーハイソックスに髪はこれまた透き通るような黒のショート。きちんと服を着用しているがどうも胸部に目が行く。あまりの大きさにボタンが弾け飛ばないか不安になってくる。と、こうして文章に起こしてみると中々ハレンチな格好をしているが実際にはそうは感じさせない上品な淑女然とした雰囲気を放っている。
「高雄か、どうしてここに?」
若葉がいち早く調子を取り戻しいつものクールな雰囲気で尋ねる。
「ちょっと街へお買い物に行ってて……それよりあなたが噂の少佐ですね?」
「え?あ、おう。そうだ」
急に話を振られた赤羽は生返事をする。
高雄は赤羽から門の札へ目を移し、先程までの二人のやりとりを察した。
「なるほど、単冠湾グループについて話してたんですか」
「よくわかったな」
「あれだけ声が大きければね……せっかくですし、私が解説しましょう」
「おっ、頼むわ」
赤羽は腕を組み、話を聞く体制に入った。若葉も諦めたように黙りこむ。
「まず、少佐は現在の‘鎮守府’という施設の定義について、どこまでご存じですか?」
「さっぱりだ」
「うーん、そうですね、まず現在の鎮守府は私達がまだ船だった頃と比べてだいぶ小規模になって数が増えたんです。それはもうあちこちにあるくらいで」
「ふむ」
「今では艦娘とそれを率いる人物がいて、深海棲艦と戦う基地としての働きができていればもうそこを鎮守府、と呼ぶようになったのが原因ですね」
「んー……なるほど」
赤羽は右手をあごにあてる。理解しているのだろうが端から見ればまるで理解していなさそうだ。
「そこで無数に存在する鎮守府を束ねる為の‘大本営’が設けられ、鎮守府は地区ごとにグループ分けされたんです。地区の名前は昔日本海軍が基地として使っていた場所の地名がつけられました」
「あー……横須賀~、とか舞鶴~、とかか?」
基本的に赤羽は海軍の知識は全く持っていなかったが何故かこの二つの地名だけは知っていた。
「そうですそうです。そして私達の地区につけられた名前は‘
「ほーう。なるほどな」
赤羽はもういちど札に目をやる。
「しかし……小規模になった、とはいえやっぱ鎮守府はでかいぞ。この大きさの施設を所構わずドカドカ造ったってのか?土地や資金はどうしたんだ」
「そうですね……資金は各地でどうにかしたようですが、土地に関しては元々あった軍事施設の再利用が多いみたいです」
「んー……そりゃつまりどういうこと?」
「私達艦娘が登場するより先に深海棲艦は現れ、しばらく人間と戦っていましたね?その時各地に軍事基地が造られたみたいで。ほとんどの鎮守府はそういった基地を改装してできたみたいですよ」
高雄も流石にそれ以上詳しくは知らないようだ。言い方が先程と比べて自信無さげである。
「なんでも、ここもそうだとか」
「ここもか」
「ええ。ここは元々航空基地だったそうですよ」
「航空基地!」
赤羽の目が輝く。
「……当時の機体と思われるものは一機たりとも残ってませんでしたけど」
赤羽が目に見えて落胆した。
***
若葉、高雄と別れた赤羽はまたふらふらと歩きだした。
「……行ってみるか」
この際だから行ける所には全部行ってしまおう。そう考えた赤羽は電と別れる前に少しだけ話題に上がった森に行ってみることにした。
再び正門をくぐり、広場を通り、本館と別館の間を通って通りに出る。そのまま右を向くとやはり奥にはうっそうとしげる森があった。
「うし」
赤羽は森の中へ足を踏み入れた。既に雑草に呑まれ始めているが一応石で道が作られており、人の手は入っているようだ。
「……」
森の中へ進むに連れて赤羽の独り言は減っていった。ここはもともと人間の航空基地。きっとここでは数々の人間のやりとりがあったに違いない。
しばらく無言で歩く。小鳥のさえずりが耳に心地いい。軍隊の基地であることを忘れてしまいそうだ。
赤羽は地面に手頃な大きさの石が落ちているのを見つけるとサッカーのドリブルよろしくそれを蹴りながら歩いた。
「……しかし広いな……」
やがて石を蹴るのにも飽き、石を拾い上げると道端の深い茂みにむかって放り投げた。
石は狙い通り勢いよく茂みに飛びこみ、雑草を分ける音を立てた。が。
「ん?」
その音に紛れて金属音が聞こえてきた。
「……なんかあるのか」
石はかなり奥まで飛んでいったようだ。どうせ当てもなく歩き続けていた赤羽は音の正体が気になり、茂みへと入り込んでいった。
「っ!?こりゃあ……」
そこにあったのは一機の戦闘機だった。深い茂みの中に半ば埋もれており、注意深く見なければ発見はできなかっただろう。
「高雄め……さてはちゃんと探さなかったな?」
赤羽は舌を出し口の周りを湿らせ、帽子のつばを後頭部へ回すと茂みの中に足を踏み入れた。
「ま、とはいえ損傷機。直さねぇと動かないだろうな……」
赤羽は独り言を言いながら機体の下に潜り込み、機体の様子を確認する。
「……ん?」
赤羽の口から思わず声が漏れる。
「……まだ動かせるんじゃないか、こいつ」
機体の下から這い出た赤羽は翼によじ登るとキャノピーをこじ開け、操縦席に潜り込んだ。
「……へぇ、見た目の割にはまだ元気じゃないか」
しばらく無言で損傷機の動作テストをした後赤羽はこう結論づけた。
「ただまぁ燃料がないな……まぁそれくらいならなんとかなる、か」
赤羽は重々しく腰を上げ立ち上がると操縦席の縁に腰掛け、小さくため息を漏らした。ちらと操縦席の計器に目をやると燃料のメーターだけがゼロを指している。
「……弾は入れ替えないと駄目かねぇ……いや、まずは修理、あいや、提督にパイロットとして雇ってくれって言うところからか……はぁ」
赤羽の独り言はそこに行き着くと止まった。右手で頭を掻き、黙りこむ。
「ん……?」
不意に耳に音が届く。自然の音ではない。
「これは……」
赤羽にとっては聞き慣れた音だ。おおよそこんな穏やかな森で聞きたい音じゃない。
「……誰だこんな森の中で大砲なんて撃ってるのは」
砲撃音だ。正確には砲撃音と銃声の中間のような微妙な音だ。
答えはすぐに出た。音のする方へ木々をかきわけ歩いて行くと海岸へ着いた。正門から外へ出て辿り着く砂浜のような場所ではなく、目の前に突然海が現れた。陸と海の境界線がはっきりとしている。
そこには先客がいた。
「あんたか」
赤羽は目の前に現れたシルバーブロンドに見覚えがあった。
白髪は後ろからかけられた声に反応し振り返った。
「……少佐?」
駆逐艦、浜風。数週間前、赤羽を医務室に運び込んだ張本人だ。
「射撃訓練か」
赤羽は近くにあった手頃な大きさの岩に座り込み、あぐらをかいて浜風の行動を尋ねた。
「えっ、あ、はい」
見ると浜風の手には彼女の艤装が握られており、煙を吐いていた。海の方にはいくつか丸い的が先端につけられた棒が立てられており、その内の何個かは先端を粉々に砕かれていた。
「いつ何が起こるかわかりませんからね……普段からこうしてっ、鍛えておかないと」
浜風はそう言いながら的を一つ撃ち抜いてみせた。
「自主練ってわけか。はえー、真面目なやっちゃな」
赤羽は感心したように息をもらす。
「というより何故ここに?」
浜風は赤羽がこの森を訪れた理由を尋ねた。考えてもみれば勤務時間中の赤羽がこの森を訪れる道理はない。
「あー……仕事が無くて暇なもんでな……散歩ついでに施設見学してたら迷っちまってな……」
赤羽の返答を聞くと浜風は眉をつり上げた。
「つまり仕事を抜け出してきたんですか?」
「まぁ……そうなる」
「……信じられませんね、あなたそれでも軍人ですか?」
急に浜風の態度は冷淡になった。岩の上にあぐらをかいていた赤羽は浜風の態度が変わったのにきょとんとしている。
「な、なんだよ……いいじゃないか、どうせやることもないんだし」
「そういうことではありません。あなたは工廠で整備員としての仕事を受けましたよね?でしたらその仕事に従事するのは当たり前です。例えやることがなくても勤務時間内に仕事場を離れふらふらしているなんて言語道断です!」
話してる内にだんだんと浜風は早口になっていく。最後にはまくしたてるように一気に言い放った。あまりの勢いに流石の赤羽もたじろぐ。
「いいですね!すぐに工廠に戻ってください!」
「ま、待て、待てよ」
「いいえ待てません!すぐに戻りなさい!」
浜風は指先を赤羽に突きつけるように小刻みに振りながら赤羽に迫る。彼女の偽装はバレルの長い拳銃のような形をしており、そんな風に手を振れば当然銃口が赤羽に向けられることになる。
「待てって!銃口向けんな!」
「ん、失礼しました。つい」
「ついってお前……」
浜風は少し落ち着いて偽装を下げた。
「全く……これで軍人だというのだから驚きです。規律を守れない軍人なんて論外ですよ論外」
浜風のとげのある言い方に赤羽が眉をひそめる。言い方はともかくこの場合非があるのは赤羽であり、彼女が言っていることは正論であるからたちが悪い。
「待て、そんな言い方はねえだろ」
「事実です。他にどんな言い方をしろと?」
「かっちーん。あったま来た」
一触即発。赤羽も浜風もお互いに相手を睨み付けて一歩も引かない。浜風にいたってはまだ艤装を握ったままだ。
「待て。そこまでにしておけ」
突然木々の間から深みのある声が飛んできた。赤羽と浜風が同時に声の方を見ると、ちょうど木の陰から一人の艦娘が姿を現した。
黒い髪はショートカットに切り揃えられ、端正な顔立ちは穏やかな表情を浮かべている。背は艦娘にしては高く、赤羽や高雄より少し高いくらいだ。おそらく、戦艦娘だろう。白い巫女服のような服を着用し、黄土色のスカート、黒いインナーを着ている。艤装は装着していなかったが、腰に刀を差していた。
「ひゅ、日向!」
浜風が驚いたような声を上げた。
「なんだ?私がここにいるのはそんなに驚くことか?……ここは読書に最適でね」
「い、いえ、そうではなくて……」
日向はあくまで穏やかな微笑を崩さない。
「……君が噂の少佐、だな?」
「お、おう……」
日向は赤羽に向き合うと腕を組み赤羽の目を見つめた。
「な、なんだよ……」
「いや、なんでもない。それより、浜風の言う通り工廠へ戻った方がいい。そろそろ提督も見逃してはくれないだろう」
「あ、あぁ……そう……だな」
調子の狂った赤羽は日向の忠告に素直に従い、工廠へ戻ることにした。
赤羽は去り際に振り返った。するとちょうど浜風と目があった。
「……」
赤羽は右手の人差し指を右目にあてると浜風に向かってあかんべをしてみせた。
振り返り前を向くと背後から浜風の大きなため息が聞こえてきた。
こんにちは!ラケットコワスターです。二話目にしてこれだけ時間が空いてしまいました……すみません。ここまでの難産回は初めてでした……すっごい書くの難しかったです。最初にある程度まで書いたら赤羽ががただのウザいやつになってたり……とにかく頑張りました(笑)
そういえば、先日劇場版艦これ観に行きました。元よりアニメも割と楽しんで観れたので(ただ睦月の扱いには閉口しますが……)期待してましたが期待通りのものでした。面白かったです。結果やる気が一気に絶頂に達して書き上げられたわけで……
とにかく三話以降も頑張っていきたいです。では、また次回に!