スーパーメタルクウラ伝【本編完結】   作:走れ軟骨

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こちらも最終話です。
シャンパとヴァドスが来るのがもうちょっとだけ速かったんじゃバージョン。

あと1つか2つ、違う結末を書く予定です。


最終話’ 世界が終わる日

無限に広がる暗黒宇宙の真ん中で、銀に輝く男が猛り、吼える。

 

「勝った…! 俺は破壊神共に勝ったのだ!!

 我が一族こそがこの宇宙で最も優れた栄光の種!

 破壊神でも俺を止めることはできない!

 全宇宙を俺の餌とすれば、やがて全王を超えることも不可能ではない!!」

 

息絶えた破壊神と天使が、だらりと力なく彼の周辺を宛もなく漂う。

クウラとしては、嬲って無力化した果てに2人を分解し吸収して自らの糧としたかったのだが、

さすがに彼らはそこまで温い相手ではなかった。

 

「……コイツらを喰えれば劇的に俺の力は上昇したのだがな」

 

マスクによって表情は窺い知ることは出来ないが、

クウラの声には少しの口惜しさが滲み出ていた。

まぁいい、と呟き彼らの死体を焼却しようと右手をかざした時、

 

――コーン、コーン、コーン、

 

宇宙空間に、杖の石突を大理石に緩く叩きつける様な音が染み渡る。

 

「……今の音は」

 

クウラが手早く周囲にサーチを走らせ音源を探ろうとした、その瞬間。

 

ギュルリ、

 

と世界が歪みだす。

 

「な、なんだっ!?」

 

クウラの真紅の瞳、その内のセンサーが直ぐ様それらの現象を解析すれば、

 

「じ、時間が…巻き戻っている…!?

 バカな! ウイスは既に死んだのだ!! こんな真似ができる者など!!

 う、うおおおおおおおおおお!!?」

 

逆再生の映像媒体を眺めるように、世界の全てが逆へと巻き戻っていくのだった。

不完全ながら時空を操れるクウラとて逆らえぬ時間の逆戻り。

 

(と、止められん…!! 時が…も、戻っていく!!! クソ…クソ、クソォォォォ!

 何分だ…! 何分過去まで遡る!!)

 

時を越え、空間操作が出来るクウラだからこそ、逆再生の世界でそれを認識出来た。

出来てしまった。

それが故に口惜しさも人一倍だったろう。

メタルクウラのモニターを通し、

殺した界王神やナメック星人達が逆再生で元通りになっていくのが見える。

ウイスが目覚め、自分と言葉を交わし去って、

スーパーノヴァと恒星が存在を取り戻し……その狭間で焼かれるビルス。

メタル化が解除され、ビルスとクウラは拳打の応酬を繰り返し、

壊れる星々は再生し…………何もかもが戻っていく。

 

(バカな…! ウイスの3分を上回る時の逆流だと!! おのれぇぇぇぇぇ!!!)

 

そして…。

 

今、クウラの目の前にはあの時見た光景と全く同じもの…、

闘いを終えたばかりの孫悟空、ビルス…そしてウイスがいるのであった。

異次元から彼らの目の前に出現した段階にまで時は戻され、

全てが無かったことにされてしまった。

あの激闘は存在しない………そういうことに()()()のだ。

ワナワナとクウラの両腕が震え、心底からの悔しさに全身が染まっていき、

 

「こ、こんな……こんな事が…!

 ちくしょう……!! ちくしょうおおおおおおーーーーーーーっっ!!!!!」

 

通常形態にまで戻されたままの姿で、クウラが屈辱に打ち震える。

 

「いいっ!? な、なんだぁ!? クウラのやつ…急に悔しがりだして、一体どうしたんだ?」

 

時が戻ったのを認識しているのは、クウラと、そしてビルスとウイス。

何も知らぬ悟空には、

クウラは出現と同時に地団駄を踏んで癇癪を起こしたようにしか見えない。

だが時戻しを認識しているビルスとウイスもまた、悟空程ではないが困惑していたのだ。

 

「………正直言って驚いたよ。 あんなに追い詰められ…挙句に殺されるなんてね。

 だけど、ウイス。 一体どうやって時を戻したんだ?

 お前も死んだんじゃないの?」

 

頬を掻いて疑問をありありと顔に浮かべる破壊神に、ウイスも

 

「さぁ~~~~~?

 私もクウラにしてやられまして……『やり直し』も出来ずに停まってしまいましたからねぇ。

 ですが、あんな芸当が出来るのは私と同じ天使の―――」

 

首を傾げてそう言おうとした、その時。

 

「―――そう。 私が『やり直し』たのよ、ウイス。

 同じ天使の、この私がね」

 

以前の時間には存在しなかった筈の者達。

ビルスとウイスによく似た2人が、地球を見下ろすように浮遊していた。

声の方を振り向いたウイスが、

 

「姉上……やはり貴方でしたか」

 

少しバツの悪そうな顔で実姉を迎えた。

ウイスの横ではビルスも同様に「マズイ所を見られた」という表情である。

負けず嫌いの彼はシャンパにこの状況を知られるのは避けたかったらしい。

しかし、彼らの存在を知った時に、ビルス達の心の隅っこには確かに安心感も芽生え、

事態が全王にバレる前に丸く収まることを確信した。

だが、ヴァドスは

 

「ウイス……何なのかしら、この有様は。

 天使ともあろう者が、下界の一生物にこうまで遅れを取るなんて。

 お父様と…そして全王様の顔に泥を塗るも等しいことよ」

 

薄ら笑いを浮かべてはいたがややキレ気味であった。

 

「とほほ……返す言葉もありません…」

 

怒られながらも、言葉と態度の節々からウイスが既に余裕を取り戻しているのが分かる。

それはつまり、それ程にヴァドスという姉は頼れる存在ということで、

純粋な戦闘力では、彼らの父・大神官を除き凡そ最強である。

彼女の横に立つビルスの双子の兄弟、破壊神シャンパですら、

自分の付き人の静かなキレ具合をやや情けない顔で眺めるのみ。

普段は主・シャンパの望むことだけを淡々とこなす彼女であったが、

今は前面に出て存在感を全力で醸し出していた。

そんな彼女が、チラリ、とクウラへ視線をやり…

 

「……でもまぁ、確かに下界の生き物にしてはかなりの強さを身に着けたようね。

 お互い、ツメの甘い弟を持って苦労するわね? クウラ。ふふふふ」

 

冷笑を、怒りに震えるクウラへとよこした。

全てを知っている…そう言わんが如くの瞳である。

 

「ぐ、く……っ!! 第6宇宙の破壊神共が……!

 貴様らがでしゃばってくるとはな………!!」

 

あれ程に追い求め、

そして一度は確かに掌中に収めた『破壊神に勝利する』という事実を消されたクウラは、

憎悪すら込めた眼光でヴァドスを見返す。

けれども、そんな彼の眼力も言葉もヴァドスは涼やかに受け流してしまうのだ。

 

「あら…? 私達が第6宇宙の破壊神と天使であることも知っているのね。

 逆巻く時の流れの中でも世界を認識していたようだし……、

 自力で全王様の存在にも気付いていた………あらあら、ほんとに凄いのね」

 

弟が負けるのもわかるわぁ、と呑気にのたまう第6宇宙の天使に思わず弟も、

 

「い、いえ姉上。戦えばいい感じの勝負を演じてそのまま私が勝つ予定だったんですよ?

 戦う前に私が死んでしまっただけでして」

 

実際に戦えば遅れは取らないと主張するのであった。

しかしそれは全く言い訳になっていないのはビルスとシャンパから見ても明白で、

そんなウイスを姉はバッサリと、

 

「お黙りなさい」

 

「はい」

 

一刀両断で黙らせた。

肩を落とし、見るからにションボリとしたウイスへ同情の視線をよこす双子破壊神。

弟は姉には勝てないという家族の法則は、遥か次元が上の天使の世界でも同じらしい。

女天使が弟からクウラへと視線を移していき、

 

「しかし、随分と無茶したものね。

 最強に拘るのは結構なこと……けれど幾ら足掻いても無駄なことよ?

 ビルス様とウイスを倒した手腕はお見事でしたけど、

 そんな目立つことをすればすぐに全王様の知るところとなり、あなたは消滅する。

 全王様の消去の力の前には何者も無意味。

 ズノーの知識を得た割に…そんなことも分からないのですか?」

 

冷ややかな目でクウラを見る。

だがクウラは何も答えず、ヴァドスの冷たい瞳を鋭い目つきでジッと睨むだけで、

その間もずっとヴァドスが1人で饒舌に喋り続けていた。

 

「そうそう、この程度なら分かってると思いますけど、

 界王神星には結界を張りましたので、あなたの瞬間移動ではもう侵入できません。

 私とシャンパ様はこれから第7宇宙の不手際を拭う為に活動します。

 このままでは第7宇宙は破壊しつくされ、そうなれば第6宇宙にも影響が及ぶでしょう。

 そして、先の戦いぶりを観察した結果、第7宇宙を食い尽くした次は……、

 あなたは順次、別の宇宙を攻撃する可能性が極めて大きい。

 この戦いに介入しても、全王様は我々をお許しになるでしょう。

 このまま戦えばあなたは破壊神2人、天使2人、ついでにそこのサイヤ人1人、

 合計5人を相手に戦わなければならない。

 ……………お分かりですか?」

 

降参をオススメします、と薄い笑顔を美貌の顔に貼り付けて女天使は言う。

ビルスは、『やり直し』前の、一度目の決戦時のような昂ぶりを見せていない。

仕事に徹する気でいるようだ。

シャンパも「よくも兄弟を殺してくれた」という憤りを視線に乗せてクウラを見ているが、

彼の瞳に込められたモノはそこ止まりで、激しい憎悪や闘争心を抱いていないように見える。

ウイスとヴァドスの天使姉弟のまとう空気も極めて落ち着き、静かなもの。

この布陣でクウラ1人に相対している彼らは敗北を1mmたりとも予感しておらず、

故に弛緩しリラックスしているのだった。

 

当然だろう。

この場にいる孫悟空も、破壊神とは出会ったばかりだが、

間違いなくクウラ側につく人物ではない。

サイヤ人とクウラの一族には浅はかならぬ因縁があるし、

クウラが、地球もサイヤ人も破壊する気がマンマンだったのは悟空も承知だろう。

ヴァドスの言った通り5対1は確実だ。

もっとも…端からクウラは悟空に助けなど求めるなどお門違いも良い所だと理解しているし、

彼のプライドが命乞いや助勢の嘆願などを許さない。

 

クウラ(ビッグゲテスター)は思考する。

 

(ビルスとシャンパの戦闘力は1京5000兆。

 ウイス、2京2250兆………

 ヴァドス、2京5000兆………

 孫悟空は消耗し、ゴッドの力が未だに安定していないが…

 それでも戦闘力は1京付近を彷徨っている。

 俺の現戦闘力は5500兆。

 最終形態からのメタル化・フルパワーならばやってやれないことはない。

 だが……………)

 

このメンツ相手に変身の隙を作ることは至難の業だ。

自身が殺された記憶を引き継いでいるビルスは、

余計な()()()を捨て去っているのは間違いない。

ビルスが昂ぶっていない事がその証拠だ。

完全に『破壊神としての責務』を果たす気でいる。

 

破壊神の『破壊』の力も恐ろしいが、

何よりも厄介なのは天使の異能…『やり直し』だ。

ヴァドスの『やり直し』の再チャージまでは幾らか時間があると思われるが、

ウイスの『やり直し』はまだ残っている。

戦いを楽しむでもなくクウラの抹消を最優先するであろう今回の戦闘では、

仮に変身できたところで容赦なく時を巻き戻されるのは間違いないのだ。

 

(メタルクウラ達を融合させ、戦闘力を一時的に上昇させた個体を用意しても無駄、か。

 マシーン共を呼び寄せた所で……全ては無効化される。 増援も無意味だ)

 

それら全てを考慮した上での、ヴァドスらの余裕であろう。

とはいえ、場の空気は弛緩したものの、今も少しの緊張を孕んでいる。

クウラという男がおいそれと両手を挙げて降伏するとは誰も思っていないからだ。

そして、

 

「…………………フッフッフッ……降参だと?

 俺は誰にも頭を垂れる気はない。

 冗談がキツイ奴らだ………俺達の間には、もはや生か死か……それしかない。

 俺か………貴様ら全てが死ぬまで…戦いは終わらん!!!」

 

大方の予想通りの言葉を放つのであった。

今まで固唾を呑んで状況を見守っていた悟空が、

 

「クウラっ! 幾らおめえでもこれで勝てるわけがねぇ!

 おめぇも分かってんじゃねぇのか!! よせっ!!」

 

残酷な男とはいえ、あたら猛者を無駄死にさせるのを止めようとしてしまうのだった。

そんな悟空を尻目に、

 

「そうか。ならば消え去れ……クウラ」

 

ビルスはクウラの目と鼻の先までゆっくりと滑り行くと、右手を彼の眼前に添えた。

 

「………お前のことは、きっと忘れられないだろうな。

 忘れたくても、お前に味合わされた敗北は忘れられん」

 

それはビルスなりの強者への賞賛だったのかもしれない。

破壊神が『破壊』と呟いた次の瞬間には、

この宇宙からクウラという男は消えていた。

 

「…クウラ」

 

呟く悟空が、かつて味わったことのない虚しさを胸に去来させる。

彼の、ずば抜けた戦闘者としての天才的才能が、

 

(自分の認識を超えた何かが起こり、クウラは戦う前に敗北した)

 

という勘を彼に閃かせて、そして悟空はそれを本能で確信していた。

さすがに「時を戻した」という真実にまでは辿り着かなかったが、

充分に正解に近い解答といえる。

 

(おめえは凄かった。オラだったら、絶対ビルス様に降参してただろうな。

 フリーザも、おめぇも……やったことは許せねぇけど、

 死んでも『宇宙一』に拘るプライドは………ちょっとだけ尊敬する)

 

「一度くらい……手合わせしてみたかったぜ。

 次に生まれてくる時は良い奴になれよ……そんときゃオラと闘おうぜ…一対一でな」

 

――じゃあな、クウラ。

 

最強を目指した男に手向けの言葉を送ったのは、

地球育ちのサイヤ人唯1人だけであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

異層次元内に、ポツンと漂う機械星がある。

その内部中枢、ビッグゲテスターのメインAIが『(かね)てからの作戦通り』に、

増殖させたメタルクウラ達と

移動要塞ビッグゲテスターの2号以上の数字を持つ存在を全て同時に爆破、処分した。

それに気付いた留守番司令のサウザーが、

 

「コピー共を爆破した!? クウラ様が…負けたのか!」

 

オリジナル・ビッグゲテスター星の司令部で椅子から腰を浮かせて大声を上げた。

彼ら機甲戦隊はクウラ本人からオリジナルのナノマシンを注入された、彼の数少ない身内。

このような重大事はビッグゲテスターのAIから即座に知らされる権利を有している。

 

「信じられねぇ……クウラ様の戦闘力は変身をなされば2京を超えるんだぜ?

 フルパワーになりゃもっといくはずだ」

 

緑の顔をやや青褪めさせたドーレ。 

狼狽えを隠せないようだ。

ガックリと肩を落とすネイズも、

 

「ちくしょお…、神や天使って奴らはもっと強ェのかよ……。

 もう俺達の戦闘力じゃ……戦場でクウラ様をお助けするなんて夢のまた夢だな…。

 クウラ機甲戦隊が戦場で恐れられたあの頃が懐かしいぜ」

 

大きな目玉に涙をうっすら溜めながら愚痴るのであった。

だがそんなネイズを親衛隊隊長が一喝し、活を入れる。

 

「愚か者め! いいかネイズ!

 クウラ様は、今や戦場の足手まといでしかない我々を

 未だに機甲戦隊としてお側に置いて下さっているのだぞ!

 その意味を考えろ!

 俺達の活躍の場は何も、血と熱風が吹き荒ぶ戦場だけではない。

 そう………例えばこの移動要塞ビッグゲテスターの掃除!」

 

グッと拳を握り力説するサウザーだが、

 

「全部ロボットが完璧にやっちまうぜ?」

 

ドーレが冷静な突っ込みを入れてきて親衛隊隊長は一瞬言葉に詰まるが、

 

「…ならば料理だ。 機械の冷たい手で作れない、温かい愛情たっぷり料理だ!

 これならばビッグゲテスターのロボット共に勝てる!」

 

見事に切り返す。

これにはドーレも、おおっ、という感心顔で

 

「そ、そうだなサウザー! これからは、俺達の戦場は厨房だ!

 たまには良いこと言うじゃねぇか!!」

 

ネイズも曲がっていた背を伸ばして気合を漲らせた。

 

「たまには…? 何やら聞き捨てならない言葉が聞こえた気がするが、まぁいい。

 よし、では我らクウラ機甲戦隊の新たなるステージの為に!

 まずはスペシャルファイティングポーズで――――むっ?」

 

士気高揚の舞いに突入する寸前にサウザーは気付いた。

―――4人目がここにいない。

ということに。

 

「し、しまったぁーー!

 ザンギャめ…! またも抜け駆けしおったな!

 クウラ様を1人で出迎えに行きやがった!!

 そうはさせんぞ……機甲戦隊、続け! 上部ハッチまで駆け足!!」

 

脱兎のごとく駆け出したサウザーを、

ドーレとネイズは慌てて追うのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして、ビッグゲテスターの上部ハッチ、開口部。

今、そこに着陸した男を1人の女が出迎えていた。

 

「お帰りなさいませ、クウラ様」

 

ザンギャは硬質の冷たい床に跪き、穏やかな口調で主へ言う。

主とは………………無論、クウラである。

 

「神と天使4人に囲まれた時は、さすがに私達も顔を青くしましたが……、

 『脱皮』による擬死は上手くいったようですね」

 

「…当たり前だ。奴らの目は既にビッグゲテスターのジャミングの影響下にある。

 そもそも、ジャミングが無かろうと余程の事が起こらぬ限り見抜けん」

 

脱皮………それはクウラの緊急脱出手段の仲間内での通称である。

メタル化の応用によって、クウラ本人の細胞とナノマシンを表層に薄く張り巡らせる。

研究に使用するような電子顕微鏡で見比べれば、

展開前と展開後で僅かにクウラの体の大きさが変わっているのが分かるはずだ。

それらで全身をくまなく覆った後は、内側のクウラ本人が瞬間移動で脱出。

残った『皮』は残留したナノマシンが操作し、

続いて、即座に自己と有機細胞の分裂を促し内側……内臓や肉、骨格を再現。

クウラ本人のように完璧に振る舞うダミー人形が変わり身となるわけである。

あの世にクウラの魂が来ていないことから、いずれ彼らはクウラの生存に気付くだろう。

だが、今、地獄は死者で溢れかえっておりテンテコ舞いで、

しかもビッグゲテスターのジャミングは宇宙中に遍く広がり、

界王神、界王、閻魔らもその影響からは逃れられない。

破壊神や孫悟空達があの世からその情報を受け取るのも遅れるだろう。

気付いた頃には手遅れだ、とクウラはほくそ笑む。

 

「とはいえ、この俺にこのような逃げの最終手段を使わせるとはな。

 ……………この屈辱は忘れん。

 だが…奴らには良い土産も貰った」

 

「土産…?」

 

「時戻し……天使が『やり直し』と呼んでいた術だ。

 体験して分かった………あれは俺とビッグゲテスターならば習得できる」

 

「あ、あの能力を!」

 

天使によるあの脅威の異能は、ズノーから得た情報の周知によって彼女も知っていた。

ザンギャが切れ長の瞳を大きくし、

彼女の声色には多分に興奮が含まれていて感嘆しているようだった。

 

「時空を操作するこの俺に…安易にあの力を使ったのが間違いだったのだ……フフッ。

 ……そして、もう一つ……………分かったことがある」

 

クウラの口から紡がれる声とその内容、彼の自信に満ち溢れた仕草…

その何もかもにザンギャは目を奪われ魂が引き寄せられる。

敗北しても、逃走を余儀なくされても、それでも闘志を失わぬクウラを見ていると、

眼前の男がどれほど残虐非道、冷酷無情の人物であっても彼女の心臓は高鳴ってくるのだ。

 

「もう一つ…とは」

 

そう聞くザンギャの声には熱を持ち始めた吐息が混じる。

 

「全王だ。奴の力はこの宇宙の外側と時間には及んでいない。

 そこに付け入る隙がある」

 

そう言って不敵に笑ったクウラは、それきり口を閉ざして歩いて行ってしまう。

既に彼の頭の中は、来るべき復讐へ向けて忙しく動き出しているようだ。

 

(宇宙の外側……?)

 

一瞬、怪訝な表情となったザンギャであったが、歩みだした主を追おうと急ぎ立ち上がると、

大股でズンズンと歩いて行くクウラの横、やや後ろを早足歩きで追っかけるのだった。

 

(よくは分からない……だけど……)

 

やはりクウラ様にこそ最強は相応しい。ザンギャはそう確信する。

きっとクウラは理解したのだ。

破壊神と天使と向き合ったことで、何かを掴んだに違いない。

 

彼女は、この後もずっと……永遠にクウラと共に覇道を歩み続ける。 そう決意していた。

少しマヌケな先輩達の忠誠心も言わずもがな。 

ついてくるなと言ってもついてくる程だ。

クウラ本人も何だかんだでサウザー達が嫌いではないらしい。 

彼らも側近として在り続けるだろう。

 

破壊神を超える地力を身に着け、

ズノーの知を得、宇宙の外…『世界の外側』の存在を認識し、

そして、天使との邂逅を経て『時』を完全に理解した。

それらが、クウラの魂の奥底に嵌められていた本質的な枷を解き放ってくれる。

そしてそれは『この世界』において無敵を約束されている全王の完全抹殺へと繋がるのだ。

 

世界は泡であった。

クウラの今いるこの12のおよそ無限の宇宙が連なる世界も、その泡の一つでしか無い。

いずれ、世界と宇宙をもっと違う姿で捉えることになるやもしれぬが、

少なくともクウラとビッグゲテスターの現在の認識はそれである。

 

泡の一つ一つ……ある泡は悟空が心臓病で死ぬ次元を内包しているのかもしれない。

別の泡はドラゴンボールの願いのマイナスエネルギーが暴れだす世界かもしれない。

時を管理する界王神がいて、時の卵から宇宙を作り出しているかもしれない。

フリーザが蘇り、その才能を存分に活かし黄金の如く輝く世界かもしれない。

魔人ブウとの戦いの後、人間として生まれ変わったブウ…

ウーブが成長するまで何も起きず全王も破壊神も存在しない平和な世かもしれない。

クウラが過去へと跳ぶ前……孫悟空とベジータにしてやられた世界にも帰還できるだろう。

 

(全王も、そして俺も……未だちっぽけな存在でしか無かったのだ)

 

小さな泡の中で鳴く井の中の蛙でしか無かった。

自分の小ささを知ると同時に、クウラは昂るのだ。

世界を喰い続ければ自分はもっともっと強大になれるのだ、と。

 

(可能性は……餌はこんなにもすぐそこに転がっていた…)

 

クウラが浮かべる笑みは、いっそ何処か優しげで何かを悟ったかのようにも見える。

彼は宇宙の外側へと食指を伸ばし、そこで無限の進化と吸収を繰り返し……、

いつの未来か『外側』の全てを埋め尽くし、ここへと必ず戻る。

この12の宇宙が広がる世界へと。

その時こそ、圧倒的な無限となった銀の機械生命体は全王の全てを押し潰すだろう。

 

(全宇宙を思念で完全に消滅させる全王……

 奴を倒すのに必要なことはひどくシンプルだ…。

 ひたすらに、ただひたすらに、星を…命を…宇宙を喰い強くなる!

 奴の消滅パワーを上回れば良いだけのこと…!

 無限を滅ぼすことが出来るのは、より強く大きい無限だけだ!)

 

生きとし生けるものにとっての絶望の未来はそう遠くはない。

静かに笑うクウラの赤い眼には、その光景が時を超えてハッキリと浮かんでいた。

 

そして…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

エイジ???年。

 

全王の聖域にて。

 

クウラの足元には生々しい残骸が転がっている。

幾つかの肉片とそれにへばり付く衣服から、

それは全王の付き人であった長身の2人であると…分かる人には分かるだろう。

 

グシャリ、

 

と転がる大神官の頭部を踏み抜いたクウラを、青と紫のストライプの肌の丸っこい小さな人…

全王はまん丸の目を不思議そうに瞬かせ首を傾げながら眺めていた。

幼い少女のような可愛らしい声で、

 

「う~~ん、おかしいのね。 なんでキミを消せないんだろうね?」

 

まるで目の前の敵へ解答を求めるように自問自答していた。

だが、子供のような華奢な全王を無言のまま見つめるクウラは、

全王の問いに応える素振りも見せずに

 

ギュピ、ギュピ、ギュピ――

 

ゆっくりと彼へと歩み寄っていく。

全王もまた、近づいてくる彼に怯えるでもなくただ黙って見つめていた。

最初こそ、「キミ、むかつくね」とクウラに対し不快を顕にしていたが、

消滅を念じてもまったくクウラが消えぬと知ってからは、

己の側近二名と大神官一名を眼前で嬲り殺した敵だということも忘れたかのように、

眼前の男をジッと見つめる全王の瞳には負の感情は見当たらなくなっていた。

 

「ね、なんで?」

 

丸い瞳に好奇心を湛えてクウラを見上げている。

クウラは全王を見下ろしながら、

 

「簡単なことだ。

 1のパワーで願われる消滅と…

 100のパワーによる存在しようという力……どちらが強いか。 ただそれだけだ」

 

何とも単純な力の理論をぶちまける。

そして、言い終わると同時に全王の顔面を蹴り上げて彼を数十mほど蹴り飛ばす。

 

「!!」

 

丸っこい全王はまるでサッカーボールのように跳ねて、

すっかり荒れ果てた王宮をコロコロと転がっていくのだった。

 

「うーーーん…蹴られるなんて初めてだよ。 キミって凄いのね」

 

フラフラと立ち上がる全王の口調は、どこか楽しげですらある。

嬲る側のクウラの方が楽しそうでない顔であった。

 

「………」

 

黙ったまま、指を全王へと指し向けるクウラ。

指先へとエネルギーを溜め、デスビームを幼児のような絶対神へと放つ。

 

「あっ」

 

どこかのんびりとした声をあげながら全王は千切れ飛んだ右腕を眺め、

 

ビッ、ビッ、ビッ

 

続けざまに三条の閃光がクウラの指先から伸びると、

 

「わわっ」

 

左腕と両足も()()()()全王が、浮遊できるのも忘れて思わずそのまま転がり倒れる。

 

「わぁ~~~~! あのね、あのね! キミってね、本当に凄いね!」

 

ダルマにされて地に転がされるなど初めての経験である彼は、

少年のように目を輝かせてキャッキャッとはしゃいでいる。

かつて彼を傷つけ、あまつさえ明確な殺意を持ち手足までもいでくる者はいなかった。

全王は楽しいのだ。

自分が殺されることが。

 

ズシャッ、という鈍い音を荒れた王宮に響かせて、クウラが全王の頭を踏みつける。

全王がはしゃいでいるうちに、彼はとっくに全王のもとまで悠然と歩いてきていた。

 

「あのね、聞きたいこと…あるのね。

 ………ボクを殺してキミは一体何をしたいの?」

 

ミシミシと頭蓋が悲鳴をあげるが、

それでも全王は痛みを感じる素振りすら見せずにクウラへと語りかける。

そんな全王を見つめるクウラの目は無感情で、冷たいマシーンのようである。

狂った機械と冷たい機械。 

それが全王とクウラなのかもしれない。

 

「……………最強となり、最強で在り続ける」

 

数拍を置いてクウラはそう答えた。

 

メシリ…、メシリ…、

 

全王の頭がいよいよひしゃげはじめ、

 

「ふーーーーん……………………あのね、クウラくん。なれるといいね! 最強!」

 

―――でもなってもつまらないと思うなぁ。

 

それが彼の最期の言葉。

そう言い残して全王の頭は、水風船が飛び散るようにして破裂した。

 

「………」

 

全王だったそれを踏み潰した足を、聖域の床にグリグリと(なす)ると、

クウラはゆったりとした足取りで全王がいつも座していた玉座へと近づき、

どっかとそこへ腰掛ける。

溜息が一つ、クウラの口から漏れる。

そして、

 

「………ククク、ハハハハハ……ハッハッハッハッ」

 

己以外、何者も存在しなくなった静かな王宮で

(心底、可笑しくて堪らぬ)という様子で肩を揺らして笑い出すのだった。

 

もはや世界の何処を見ても、何処を探しても、クウラ以外には何者も存在しない。

クウラ以外の何もかもは、宇宙も時もいかなる存在も、全てはクウラに貪り食われた。

三千世界の全てを飲み込んだクウラにもはや敵も味方もいない。

在るのはただ己だけである。

 

 

 

 

 

 

 

―完―

 

エンディングNo2・孤高の帝王

 


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