スーパーメタルクウラ伝【本編完結】   作:走れ軟骨

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破壊神選抜格闘大会・後始末

破壊神選抜格闘大会は第7宇宙の勝利に終わった。

だが悟空らはそこまで手放しにこの勝利を喜べない。

相手方を必要以上に痛めつけた此方側の選手(クウラ)の蛮行にやや恐縮していた。

だがそのクウラ当人はというと、

ようやく大会が終わったことで清々した顔で少しは機嫌が良さそうだ。

最後にヒットと戦えたのも機嫌を持ち直した要因だろう。

 

最後にはシャンパが

 

「エキシビジョンマッチだ!俺と星喰で直接試合するぞ!!」

 

と息巻いてクウラもそれに乗り気で挑発するものだから本当に一騎打ちが始まりかけたが…

ヴァドスがシャンパにげんこつを食らわせると破壊神は沈静化してしまった。

 

「…チッ、ヴァドスめ…余計な真似をする」

 

これには、クウラもそう言って残念そうにしていた。

少し前までのクウラならば、それでもシャンパに襲いかかったろうが、

そこで引き下がるあたりクウラも何だかんだで少しずつ温和にはなっている…兆候が見える。

その後、ヴァドスは

会場となっていた星が最後の願い玉だとネタばらしをし神族言語でそれを起動する。

 

「テエナカヲ イガネテシソ ウユリノミカ ヨデイ チョンマゲ!」

 

語尾がとりわけマヌケな雰囲気を醸し出す召還呪文だが、

これが現在の神の言葉なのだから仕方ない。

ヴァドスが言い終わるやいなや7つの小惑星級の超ドラゴンボールが鼓動のように明滅し、

眩い黄金の光が宇宙の暗闇を強烈に照らし出すとその光は龍を象りだしたのだった。

星々を股にかけて尚それでも足りない程の、巨大という言葉すら生温い規模の超神龍(スーパーシェンロン)

非常に雄大かつ優美で格闘大会に来ていた全ての者らが度肝を抜かれていた。

収集に苦労したシャンパも大いに喜び感動も一入(ひとしお)だ。

然しものクウラでさえ、

 

「データでは知っていたが…素晴らしい…。圧巻だ」

 

黄金の巨大龍を呆けて見ていた。

超神龍の輝く黄金色が宇宙を遍く照らし、

超神龍の溢れる神威が光の粉雪となって宇宙中に優しく降り注ぐ。

 

「わぁ…綺麗」

 

ブルマが感嘆する。

さっきまでの凄惨な試合も忘れてしまうような幻想的な光景だった。

ブルマだけでなく、この場の誰もが息を呑んで超神龍に見入っていた。

 

黄金の巨龍を見上げるクウラの元にすかさず4人の人物が跪き、

そしてクウラへと祝いの言葉を述べる。

言うまでもなくクウラ機甲戦隊である。

 

「優勝、おめでとうございます…クウラ様」

 

サウザーが恭しく、本当に嬉しそうに主へ言う。

 

「…うむ」

 

超神龍に見惚れながらクウラはやや心ここにあらずで答えた。

サウザーはそれを好機と見た。すかさず、とある事を提案する。

 

「クウラ様の勝利を記念し、宜しければ喜びのダンスを披露いたしましょうか!

 ギニュー特戦隊のものにも負けぬものをお目にかけてみせます!!」

 

「それはいらん」

 

だがやはりクウラは冷静だった。

サウザーもドーレもネイズも「くっ!」と唇をかみしめて悔しがっているが、

ザンギャだけは(何だそのダンスって…やめてくれよ)と先輩三人衆を怪訝な目で睨む。

そんな紅一点の後輩の反抗的な目に気付いたのか、

サウザーら先輩三人衆は意趣返しも込めてとある凶行(無茶振り)にでた。

 

「…クウラ様」

 

サウザーが頭を垂れながら主へ言った。

 

「なんだ」

 

「ザンギャが、何やら大事な話があるとのことで

 是非クウラ様と今ここでひそひそと話したいとのことです」

 

「えっ!?」

 

珍しくザンギャがややコミカルに驚いた。

クウラは黄金の巨龍から目を離さずに許可を出す。

 

「…構わん。言え、ザンギャ」

 

しめた!とサウザーは心の中で叫んでいた。

 

(試合に勝ったという高揚感、満足感!

 そして初めて肉眼で見るこの超神龍の幻想的な光景!

 まさに今告白しないでどうする!というシチュエーションではないか!)

 

「な、何を言ってんだ、サウザー!?」

 

戸惑うザンギャを機甲戦隊は見事な連携プレイでぐいぐいと前に押し出していく。

 

「や、やめろって!押すな!」

 

「さぁザンギャ!言いたいことがあったんだろう!?クウラ様が許可を出して下さったぞ!」

 

「そうだぜザンギャ!ほらもっとお側に寄りな!!」

 

「ひそひそと話すことを許して下さったんだ。

 ほ~ら、クウラ様のお耳のすぐ側で…話すんだよぉ」

 

ネイズにどんっ!と力強く背を押されてしまい、

勢い余ってザンギャはクウラの本当にすぐ側までよろけ出てしまう。

顔を上げれば、もうそこにはクウラの顔が近い。

 

「あ…」

 

「……」

 

クウラの横顔に見惚れるヘラーの少女。

クウラは黙ってずっと空の超神龍を見上げていた。

そして気付けば、あっという間に機甲戦隊先輩三人衆は姿を消している。

 

(消えてる!?あ、あいつら…!こんな時ばっかり戦闘力以上の良い動きしやがって!)

 

格上の力を持つザンギャに一切気取られぬ見事な消えっぷりだった。

ザンギャが先輩らに憤って秘かにプルプルと拳を握り締めていると…

 

「どうした。いつまでそうしているつもりだ」

 

クウラが超神龍から顔を背けてザンギャを見ていた。

 

「あ、え?も、申し訳ありません…!そ、その」

 

しどろもどろになってしまう。

 

「俺に話があったのではないのか?」

 

最も腕っぷしの強い実力者たる己の部下の落ち着きのない様子を

クウラは不思議そうな目で見ている。

こんな目はクウラにしては珍しいものだった。

 

「その…」

 

何を言えば良いのかザンギャには分からない。

思い切り目が泳いでいる。

 

(なんだ!?一体あたしにどうしろってゆーんだよ!クソっ!

 いきなり愛の告白でもしろってのか!無理に決まってるだろう!)

 

きっとどこぞから今も此方を観察しているだろう機甲戦隊に

ザンギャはむかっ腹が立ってくる。

人の恋路を見てほくそ笑むような奴らは後でトレーニングと称してボコボコにするに限る。

ザンギャはそう決意した。

だが、それはそれとして今この状況を何とか打破せねばならない。

それも可及的速やかに。

 

「き、綺麗ですね…超神龍というのは」

(何を言っているんだあたしは!)

 

思考を超高速で回転させて、その挙げ句に出てきたのはこんな言葉だった。

 

(こんなんじゃ全然大事な話じゃないじゃないかっ!

 こんな下らない話でお時間をとらせちゃクウラ様にも礼を失するって!)

 

表面上冷静を取り繕うザンギャだが、その内心は混乱極まっている。

 

「………フッ、そうだな」

 

だが、とてつもなく意外なことにクウラは微笑んだ。

その微笑みはいつも敵に見せるような不敵なものではなく、

クウラのイメージを崩さずやはり冷静さが前面に押し出されてはいたが、

どこか優しさも滲ませているものだった。

ザンギャの視点から言えば、かっこよくてクールだった。

 

「あっ…」

 

ヘラーの少女はクウラに見惚れる。

一気に鼓動が跳ね上がって、なんだか下っ腹の奥が熱い。

例えクウラと言葉を交わしていても業務的な会話ならばこうはならない。

だが、一歩業務から外に出た会話をするとザンギャはいつもこうなる。

顔がポーッと熱く赤くなって、もうクウラの目を見られない。

ザンギャは俯いてしまう。

 

「その…も、申し訳ありません。大した、は、話は…無くて…その…」

 

「フン…そんなことだろうと思っていた。

 大方、サウザー達が変な気を回したのだろう?

 奴ら、俺に妻を娶れ子を成せとやかましいからな」

 

「え?あ…、えー…と。…ん?……えぇ!?そ、それは…そんな、だ、大それたこと…!

 サウザー共…が、そんな失礼なことを言っていたなんて、その…、

 クウラ様に直接そのように下らぬことを物申しているのですか!?あいつら!」

 

クウラから初めて聞かされる衝撃発言だった。

やはりザンギャはあわあわしている。

 

「…もう貴様は機甲戦隊という括りではなく俺の側仕えだ。少しは落ち着け。

 場合によってはお前はサウザー達を顎で使う立場になるのだからな」

 

「ば、場合によっては…?」

 

その言葉の続きを妄想し、その言葉を深読みし、

ザンギャの頬はより赤みを強くしていった。

今ザンギャの脳内では、

クウラに娶られる自分の姿がセピア色のノーカット放送でお送りされている。

冷酷な宇宙海賊だったザンギャもこの一ヶ月で地球の女達にここまで毒されていた。

だが、それはクウラも似たようなものだ。

 

かつてのクウラならば、そもそもこんな試合に出るわけはないし、

出てもルール無用の虐殺の嵐だったろう。

フロストとキャベは終わりなき拷問の果てに殺され、

マゲッタは洗脳を解除せず使い捨ての手駒にし、

そしてヒットは餌として解体されて生体エネルギーを喰われる。

そういう展開となっていた筈だ。

破壊神や天使が側にいてもビッグゲテスターやメタルクウラ軍団を駆使して

きっと実行しただろうことは想像に難くない。

 

しかし、クウラは曲がりなりにもルールを守った。

クウラは最終形態にも変身しなかったし気功波やエネルギー弾の類も使っておらず、

彼なりに精一杯の手加減は心掛けていたのだ。

しかも、神の言語を知っているのに願いを横取りせず、

今も大人しくヴァドスが願いを言うのを待っている。

これもかつての彼なら自分だけに都合のいい願いを横合いから言っていた筈だ。

クウラもまたこの一ヶ月の間に少しずつ変わっていた。

 

「お前の戦闘力は既に2兆に近い。サウザーと比べれば約10倍だ。

 これは立派に我が軍団のNo.2と言える…古株かどうかだけで俺の部下の地位は定まらん」

 

「…あぁ、なるほど…そ、そうですね…。

 ………………ありがたき幸せ」

 

ザンギャはやや肩を落として目にも力が無くなるが、それでも熱が完全に引くことはない。

だが、臣下の立場として一歩引くことを思い出せるぐらいには、

クウラの言葉によって冷静さを取り戻して常通りに形式張った跪きを披露した。

 

(はぁ…だから…あたしも学ばないね、まったく。

 こういう意味でクウラ様は言ってるって…当たり前じゃないか)

 

クウラ軍団は少数精鋭の実力主義。

冷徹な主が色恋沙汰(そんなこと)を言う筈がない。

だと言うのにちょっと他人に発破をかけられるとすぐにザンギャは色めき立ってしまうのだ。

ヘラーの少女・ザンギャは今、恋…を通り越してそれよりも重い愛の真っ只中だ。

心の中で深い深い溜息をつく。

 

「…見ろ、ザンギャ」

 

そんなザンギャに、クウラが顎で空を示す。

言われて見てみれば、

願いを受け入れた黄金の巨龍がエネルギー体となって星の海に飛び立っていく所であった。

超神龍が雄叫びを上げて真紅の目を爛々と輝かせると、

一本の黄金の矢のようになって宇宙の暗闇を照らしながら、どこまでも飛んでいく。

 

「…素晴らしいエネルギーだ。確かにあれは『美しい』と呼ぶに値するだろう。

 あれは際限無く願いを叶える…ということはつまり無限のエネルギーを持つのだ。

 恐らく…今この時点で、全王以外に唯一無限を内包する存在だ」

 

「クウラ様…」

 

ザンギャは、自分が開口一番に咄嗟に言った『綺麗』というフレーズが、

「くだらん」とクウラに流され一顧だにされなくともおかしくなかったのに、

きちんと拾われ反応を返してくれたことに胸の奥がじわりと温かくなるのを感じていた。

それだけで純粋な嬉しさが心に満ちる。

 

「だが、無限にも大と小がある。

 超神龍は無限だが、全王は更に大きな無限…全王の力を無効化したり、

 あるいは全王に直接害をなす願いは不可能だろう。

 それほど全王の内なるエネルギーはでかい」

 

宇宙の漆黒の闇空の下、溢れんばかりの黄金の輝きに照らされる中でのクウラからの言葉。

だが、主からの貴重な金言は残念ながらザンギャの頭には全く入ってこない。

彼女はただポーッとなってクウラの顔を見つめていた。

さっき、自分を叱咤して臣下の分を弁えろ、と己に言い聞かせたのにすぐこの有様だった。

ザンギャの恋の病は重篤の一途を辿っているらしい。

 

その時、空の黄金は弾けて消えた。

 

天使の声が皆に届く。

 

「さて、これで願いは届けられました。

 第6宇宙のバランスが急速に戻っていくのを感知しましたから、

 そっちも問題なく元通りになっている筈です」

 

「いやぁ、あんがとなヴァドスさん。これでどっちの宇宙も大丈夫なんだよな?」

 

悟空もようやく安堵できたようだ。

破壊神選抜格闘大会のピリピリムードもどうにか消えて

今は再び穏やかな空気が場を支配し始めていた。

 

「姉上」

 

そこに悟空達にとって聞き覚えのある甲高い男の澄まし声が聞こえてきた。

振り返ればそこにはヴァドスと似た天使がいた。

 

「あら、ウイス。再起動したの」

 

姉たるヴァドスが表情一つ変えず言う。

悟空はストレートに喜びを顔に浮かべた。

 

「ウイスさん!よかったー!生き返ったんだな!

 ってことはビルス様も無事なんだな?姿見えねぇけど…大丈夫か?」

 

「あぁ悟空さん、ちょっと見ない間にまた腕を上げたようですね。大した方です。

 …それに、どうやら他の方々も…星喰も強くなったみたいですねぇ。

 ふふっ、あの星喰を仲間に引きずり込むなんて…やっぱ貴方、大したお人ですよ」

 

彼の、見慣れた胡散臭い笑顔が悟空には懐かしく思えた。

 

「あ~、そのことなんだけどよ…。

 クウラもちったぁ変わったと思う…

 だから、1ヶ月前のことは水に流して貰いてぇんだ…いいかなウイスさん」

 

「姉上とシャンパ様がそう判断したなら問題はないでしょう。

 試合は、先程私も水晶の記録で少し拝見させてもらいましたけど…

 確かにちょぉ~~~っとだけクウラも変わったみたいですし。様子見としておきましょう。

 それに…倒した悟空さんがそう仰るんですから、その判断を尊重します。

 その宇宙に生きる者たちの意思が大事ですからね」

 

「ふぅ~、よかったぁ!ありがとなウイスさん!

 で、ビルス様の姿が見えねぇけど本当に大丈夫なんか?

 来れねぇぐらい具合悪ぃとか?」

 

その言葉にシャンパも反応したようだった。

ぴくりと彼の猫のような大きな耳が動く。

 

「おほほほっ、いえいえ。そんなことありません。全く全然だいじょーぶ。

 でも、ちょっと本人も気恥ずかしいみたいで。

 皆さんの前に顔を出し辛いんじゃないでしょーかねぇ。ふふっ」

 

「恥ずかしい?なんでだ?」

 

悟空がきょとんしているが、後ろでベジータや悟飯は何やら察した顔をする。

彼らの更に後ろにはブロリーはやや眠たそうな顔で突っ立っていた。

今大会中、ずっとブロリーはうとうとしていただけで出番はとうとう無かった。

今、彼は寝起きで気怠いのだ。

早くナタデ村に帰ってココの膝枕で寝直したい。ブロリーが思うことはそれだけだ。

 

「だって破壊神なのに星喰と真正面から戦って判定負けのような終わり方でしたからね。

 プライドが傷ついたんですよ。久々に修行に本腰入れる気になったみたいです。

 しかも生き返ってみたら星喰は更に強くなっていますしねぇ。

 危機感も煽られたようで…久しぶりにやる気出してますよ。いい傾向ですねぇ…おほほっ」

 

ウイスが片手を頬に当てて笑うが、そこにヴァドスが少し嫌らしく微笑んでツッコミを入れる。

 

「あら、貴方もよウイス。

 貴方だって星喰に裏をかかれて負けてしまったんだから危機感を持ちなさい」

 

「ぎくっ」

 

ウイスがわざとらしく、だが少しだけ本当に気まずそうに眉根を曲げた。

天使の彼がこんな表情をするのもなかなか珍しい。

 

「で、でも姉上。あれは界王神がやられてしまったからですし…

 それに私達天使は中立ですから勝つも負けるも――」

 

「そうね、中立よ。

 でも、貴方はあの時その掟を破ってでも

 お気に入りのビルス様と第7宇宙の為に戦おうとした…違う?」

 

さすがは実の姉。弟の心はお見通しのようだ。

ウイスが目を逸らしたのが、指摘は大正解だという証拠だった。

 

「さてなんのことやら」

 

「掟を破る危険を犯してまで星喰と戦おうとしたのに、

 その直前に機能停止に追い込まれるなんて、実質貴方の負けじゃない…ウイス。

 情けないとは思わないの?」

 

「トホホ…。姉上のご指摘いちいち御尤もです…私もまだまだ修行が足りませんね」

 

ウイスが大げさな演技のようにガックリと肩を落とす。

あくまで剽軽なウイスだが、姉の()撃は効いているようだ。

 

「久々に愚弟(あなた)を鍛えてあげましょうか?」

 

「うーん…じゃあ、久々にお願いしちゃうましょうかねぇ…?」

 

ホッペタを軽く掻きながらウイスは少しぎこちなく笑った。

いつの世にもどんな種族にも弟は姉に敵わない法則は当てはまるらしい。

ウイスがたじたじになる珍しい光景に目を引かれる悟空達だったが、

なんと更に珍しいことがその場で起きる。

次から次に、起きる時は起きるもの。

珍しいことのバーゲンセールだ。

 

「ぜ、ぜぜぜぜ…全王様っ!?」

 

シャンパの大声が会場に響く。

天使の姉弟はその声に振り向くと同時に恭しく頭を下げ片膝を地につけた。

第6宇宙の界王神達も、そしてシャンパも慌ててそれに倣う。

きょとんとしているのは悟空達第7宇宙の面々だ。

全王と呼ばれた丸っこい子供のような宇宙人を、誰もが怪訝な目で眺めていた。

 

「ば、ばか!第7宇宙の奴らは何て恐れ多い奴らなんだ!

 ビルスの馬鹿は一体何を教えてんだ、まったく!

 さっさと頭を下げろって!!」

 

シャンパが大いに慌てて第7宇宙人達に跪くよう促してくるが、

それでも悟空らの頭の上にはクエスチョンマークが浮かんでいる。

 

「誰だあいつ?」

 

「あいつ!?」

 

悟空のざっくばらんな物言いにシャンパがヒステリックに叫んだ。

 

「あの方は全王様。

 界王神は勿論、破壊神も頭が上がらない全宇宙の神の頂点に立つ御方です。

 とっても偉い方で、全王様のお陰で全宇宙が存在しているも同然なのですよ」

 

おっとりと、敢えて優しく砕けた言い方で悟空に押してやるウイス。

驚愕しているベジータや悟飯、ピッコロらと違い「へぇ~」と呑気な反応を示し、

必死に頭を下げるシャンパを我関せずと眺めていた。

悟空の横ではクウラも腕を組んだ姿で立っていて、

悟空とは違って実に興味深い様子で全王を観察している。

だが、その目には当然尊敬だとか崇拝の精神は微塵も宿っていない。

全王を見つめるクウラの目は、恐ろしい程冷たいものだった。

 

「こ、これはようこそ全王様!ほ…本日はどういったご用件で…?」

 

作り笑いのシャンパ。全王が答える。

 

「あのね、きょうは勝手にこんなことやってるからね。

 注意しようと思って来たのね」

 

「ははっ!!も、申し訳ありませんっ!!」

 

低頭平身でシャンパはただ謝りまくる。

ひょっとしてこのまま叱責の流れで『消去』されるのか!?とシャンパは生きた心地がしない。

しかし、

 

「でもね、観てたらね。面白かったの~!とってもね!

 だからね、今度全部の宇宙の戦士を集めてね。

 やってみようかなぁ…なんて思っちゃった」

 

少し風向きが変わってきたようだ。

シャンパは頭を下げ続けて全王の言うこと全部に頷くYESマンと化している。

だが、それは情けないのでも何でも無い。

神という地位に在る以上その上司にあたる存在には従う義務があるし…

そして全王の気紛れと権能(消去)を知っているからこそヘコヘコするしかないのだ。

シャンパは自分の宇宙を守るために神としてしっかり働いていると言える。

そんな気紛れ全王の思いもよらない発言に誰よりも素早く、

そして大きな反応を見せたのは当然悟空だ。

 

「おっ!?本当か全王様!よぉ~しやろうやろう!

 オラ、今回の大会ではちっとばかし不完全燃焼でさ!

 クウラにおいしいとこ全部持ってかれちまったからよ…是非やろうぜ!」

 

シャンパの頭を下へ押し退けてズイッとやってきた。

全王の真ん前に顔を突き出し、喜色満面でウキウキな悟空を

全王の付き人の二人は忌々しそうに睨む。が、全王は然程気にしていないように見える。

 

「うん、やろうね。近いうちにね!」

 

全王も微笑みを浮かべて悟空に答えた。

悟空の背後ではシャンパが、

そして全王の両サイドでは付き人が慌てたり怒っていたり忙しそうに表情を変化させている。

だが悟空はそんなことお構いなし。

 

「約束だぞ!」

 

右手を突き出す悟空。

全王に握手を求めていた。

僅かな間、キョトンとしていた全王だがすぐに悟空の手を握り返し、

 

「うん。約束……あ。そうだ。あとね、きみ。ちょっとこっちきて」

 

悟空と握手をしていない方の腕…左手で手招きをする。

手招きされたのは…

 

「…俺に何のようだ」

 

なんとクウラだった。

シャンパが心の奥で叫び声を上げた。

(ああああああっ!!ヤバイ!絶対ヤバイ!あいつ全王様に絶対失礼なことするよ!!)

第7宇宙の消滅を予感し、

そして連座して第6宇宙までも消える未来をシャンパは容易く想像できた。

 

「ねぇーねぇーこっちきて」

 

紫と水色のストライプ柄の絶対神が手招きをし続ける。

 

「おいクウラ。全ちゃんが一生懸命呼んでんだから来てやれよ」

 

大した気が感じられないこと。

明らかに小柄で未成熟な肉体。

非常に子供っぽい口調、声と仕草。

それらから、神様の頂点とはいえデンデのようにまだ子供なのだろうと思った悟空は、

完全に全王を『まだ発展途上のあどけない少年神様』とでも見ていた。

故に親戚の子供に対するおじさんのような態度で接する。

 

「全ちゃん?」

 

全王が、握手を求められたときのような顔でまた悟空を見る。

勿論、他の連中(破壊神や付き人や界王神達)はアガガッと口を開いて愕然としていた。

 

「ん?全王様だから全ちゃんだ。

 また大会開いてくれるってありがてぇ神様とはオラ友達になっておきたいしな!

 友達はあだ名で呼ぶほうがらしいだろ?だから全ちゃん。嫌か?」

 

「きみ、ぼくと友達になりたいの?」

 

「おう!オラと友達になろうぜ」

 

「ふーん…。うん、いいよ!全然嫌じゃない」

 

ニコリと全王が笑う。悟空も笑い返す。

そして全王はまたクウラへ視線を戻して手招きを再開した。

 

「おーい、ほらクウラ。全ちゃんが呼んでっぞ」

 

果たして悟空(こいつ)は自分がどれだけ薄氷を踏む行いをしているのか理解しているのか。

クウラは秘かに舌打ちをしながら、今はまだ敵わない全王の手招きに応じた。

が、数歩、彼らに近寄っただけだ。

これがクウラの最大限の譲歩だった。

 

「なんだ。要件があるならそこから言え」

 

クウラの態度に第6宇宙の神々は卒倒しそうだった。

いや、実際に界王神はその場に倒れた。

 

「握手しよ」

 

全王はへらへら笑いながら、まだ手招きをしている。

 

「…何故だ。俺のような邪悪な小物と触れ合うと…

 そら、そこにいる付き人共が拗ねているぞ」

 

せせら笑いと共にやや自虐し、尖った気を僅かに漏らした付き人二名を顎で示すクウラ。

 

「…きみたち、機嫌悪いの?」

 

途端に無表情となって己の付き人を見つめる全王。

彼の目は、どこかクウラ以上に無機質で冷たい。

付き人らは必死になって首を横に降る。

 

「ほら、誰も機嫌悪くないよ。おいで、クウラくん!握手しよ」

 

「…」

 

だが、クウラはそれでもそこから動かない。

全王も次第に無表情になって来て、

それを見たシャンパは「もうダメだ!」とたじたじだったが、

 

「仕方ねぇなー。ごめんな全ちゃん…あいつ強情で、ちょっと素直じゃねぇとこあるからさ。

 よっと…」

 

「わっ」

 

悟空が全王を小脇に抱えて自分からクウラの元へ駆け寄った。

そして、クウラの手を無理やり持ち、そして反対の手でこれまた全王の手を持ち…

 

「ほら、握手握手」

 

無理やり握手させてしまった。

全王はニコリと微笑んで、そしてクウラはあからさまに不機嫌な顔をした。

 

「わー、本物のクウラくんの手だ。あのねあのね!

 ぼく この大会観ててね?きみがすごく強いから昔のこと、ちょっと調べたの」

 

全王は見た目と声、口調に相応しい、どこか本当に少年染みたキラキラとした表情を見せ、

予想外の笑顔にクウラでさえやや鼻白む。

 

「そしたらクウラくん変身してたの!

 シャキーン!ってマスクして目が光ってかっこよかったの!

 声もロボットっぽくなってかっこいいの!

 しかもクウラくん本当のロボットにもなれるんでしょ?すごいのね!

 すごくかっこよくて、ぼく熱中して見ちゃった。

 サインほしいのね!そしたら宇宙をめちゃめちゃにしたの許したげる。

 願い玉で第7宇宙は直ったしね。特別なのね。

 だからちょうだい?」

 

全王は神々の頂点。

それは間違いないが、同時に無邪気な子供のような残酷さもある。

そして…一部感性も子供のように純粋というか、無垢なものだったみたいだ。

子供が変身ヒーローやクール系キャラだったりロボット系が好きだったりするように、

どうもクウラの最終形態やメタル化が全王にはお気に召したらしい。

全王のこの反応にはクウラも戸惑いを隠せないようで、

 

「サイン……だと?ふざけているのか?

 貴様が俺に惹かれる要素など…見当もつかん。どういうつもりだ」

 

どう対応したものか、と少々苦慮しているのが悟空には可笑しかった。

 

「さっきも言ったのね。だってかっこいいからなのね。だからね、サインがほしいの」

 

全王はクウラの手を離さない。

クウラもまた、気分次第で消滅パワーを行使する存在が

キラキラした無垢な笑顔で自分の手を握って褒め殺す、という現象に戸惑い続けている。

それを見て悟空がとうとう吹き出した。

 

「ぷくく…いいじゃねぇかサインくらい!

 オラもおめぇの変身はかっこいいと思うぞ」

 

「貴様は黙っていろ…猿め。

 チッ…やはり神の精神性は異常だな…この俺にサインだと?

 …俺は所詮その程度…敵とすら見えない、ということか。

 ……第一、俺の変身は見世物ではない」

 

そんなやり取りをしている彼らの遠く背後ではザンギャを除く機甲戦隊らが

「やったぞ!全宇宙の暫定至高神にクウラ様の美しさが認められた!」などと、

円陣を組んで騒いでいたがとりあえずそれはどうでもいいことだった。

ザンギャも一人、「当然だね」という顔をして頷いていたらしい。

 

ぶんぶんと己の腕を振ってくる全王を見て、

クウラはとにかくこの場から離れたくて仕方ない心持ちだった。

それに、孫悟空に敗北し彼の決めた処遇を受け入れると決めたのはクウラ自身。

つまり悟空の要請に応じて、サインをする決意を固めた。

これも精神修養の一貫と思い、怒りの感情を鎮めて霧散させる。

 

「………まぁいい、ここでへそを曲げられて消されてもつまらんからな」

 

悟空が言うから仕方なく…等とは口が裂けても言えないクウラは、

取り繕ったような言い訳をしながら

全王が何処からか取り出した色紙に向かって指を突き立てた。

彼ら程の身体能力があれば指の摩擦だけで文字を書ける。

クウラは意外と達筆であっという間に彼の名が神族言語で色紙に刻まれるのだった。

 

「わぁ、ぼくらの言葉でかいてくれたのね。ありがとうね、クウラくん!」

 

「約束は果たした…さっさと手を離せ」

 

クウラがやや乱暴に全王の腕を振りほどく。

背後に控える全王の付き人は額に血管をこれでもかと浮かべて怒りを抑えているが、

 

「ありがとうね、クウラくん!ぼくの椅子に飾るね、これ!」

 

仕えるべき絶対神は嬉しそうにしている為動けない。

それに血管を浮かべる程怒りながらもそれを抑えているのは付き人だけではない。

当のクウラもそうなのだから()()()()だろう。

 

「じゃあね、孫悟空、クウラくん。また大会で会おうね!」

 

付き人二人の腕にぶら下がった全王は、そう言い残し満面の笑みで姿を消した。

悟空は笑顔でそれを見送り、そしてクウラは仏頂面で見送る。

他の者達はようやくホッとした様子で、皆肩の力を抜いて溜息をついていた。

皆、悟空とクウラに一言物申したい…そんな恨めしい顔で二人を見ていて、(機甲戦隊除く)

 

「…どうにか、無事終わった…………。

 ………………あのさぁ…あのさぁ。あのさぁ!

 おい星喰…そっぽ向いてんな!お前だよお前!それに孫悟空!貴様もだ!

 お前らのせいで俺の寿命が1000年は短くなったと思うんだが!

 なんなんだお前ら!すっげぇ無礼だよ!逆にスゲェよ!

 見てる俺のほうがハラハラしたよ!

 ある意味格闘大会以上にエキサイティングだったろうが!!」

 

「へへへっ」

 

「それはよかったな。下らん大会以上に喜んでもらえたわけだ」

 

「皮肉だよ!!なんで孫悟空はちょっと誇らしげなんだ!?喧嘩売ってんのか貴様ら!」

 

とくに第6宇宙の破壊神がお冠だ。

頭から湯気を吹き出しているのが幻視できるぐらいお冠だ。

クウラとしてはいい加減この茶番劇から退場したかった。

これ以上ここにいたら、本当に破壊神や天使達に喧嘩(殺し合い)を仕掛けてしまいそうだ。

 

「…とにかく、これで俺の役目は終わった。

 第7宇宙は元通りに修復されたのだから、もう俺は無罪放免だ。

 それでいいな、ヴァドス」

 

「えぇ、シャンパ様の約束ですから。それで結構ですよ」

 

「あらら、姉上ったら星喰とそんな約束をなさったのですか?」

 

ウイスがジト目で姉を見るが、姉は何処吹く風。

 

「仕方ないじゃない。シャンパ様がそう言ったんだから」

 

ペロリと舌先を出してまるでイタズラがバレた小娘のようだった。

もう完全にここにいる理由は消えた。そう判断したクウラが己の配下らに命を下す。

 

「機甲戦隊!全員、帰還するぞ!」

 

「「「ははっ」」」

 

「はい」

 

サウザー達と、そしてザンギャが答えると同時に姿を消した。

彼らもまたクウラのナノマシンの恩恵によって瞬間移動ができる。

だがクウラと比べると気の残り香も多く、

精度も距離もクウラや界王神、悟空やヤードラット星人ほど洗練されてはいないが。

臣下が消えたのを見届けて、いよいよクウラも帰還する…寸前、

 

「おい、クウラ。明日は朝7時にカメハウスに集合だぞぉ~!

 オラだけじゃなくてじっちゃんにも修行つけてもらうからよ」

 

悟空が手を振りながらそんなことを言った。

クウラが眉根を寄せる。

 

「あんなジジイに?今更俺が何を教わるというのだ」

 

「じっちゃんは亀仙流を誰より理解してる。

 それにオラより教えんの上手だからさ。

 単純な体の強さとかだけじゃねぇんだよ、亀仙流ってのは」

 

クウラは尚も不審の眼差し。

だが、軽く溜息を吐き出して了承の返事を投げやりに寄越した。

 

「…仕方あるまい。だが、修行でそのジジイが死のうと俺は知らんぞ。

 今のうちに己が師匠と今生の別れでもしておけ」

 

そしてクウラはさっさと瞬間移動で消えてしまう。

相変わらずの唯我独尊っぷりだが、それでも大分マシになったと悟空は笑う。

そして明日からの修行や、

次回行われる全12宇宙から猛者を集めての大会のことにも思いを馳せて心を踊らせると

もう笑顔が漏れるのを止めることが出来ない。

 

「くぅ~!あぁ楽しみだ!なぁ悟飯、ベジータ、ブロリー!おめぇらもそう思うだろ?

 今回はぜんっぜん戦えなかったしなぁ。

 特にブロリーは残念だったよな。ずっと寝てて試合終わっちまうなんて!」

 

「…別に俺はそれで構わない」

 

肩を組んでくる因縁のサイヤ人を睨みながら、ブロリーは興味なさげに呟いた。

 


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