スーパーメタルクウラ伝【本編完結】   作:走れ軟骨

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それぞれの1年

紆余曲折を経てフリーザは復活した。

最新式の大型医療ポッド(メディカルマシーン)から出てきたフリーザは、鈍りきった体の動きを確かめつつ周囲の者たちの姿を見る。

そして場の雰囲気から、自分の復活を主導したリーダーらしき小男へ視線をスライドさせた。

 

「あなたは…」

 

どこか見覚えのある小男であった。

 

「第3星域で参謀を務めていたソルベです!お、お忘れですか…?

何度かお会いした事も…あ、あるのですが…っ」

 

「………あぁ、思い出しました。勿論覚えていましたよ」

 

そう答えたフリーザだが、その実ソルベの記憶はそこ止まりだった。

顔と名前が一致する程度である。

それ以外の者に至っては全く記憶にない。

フリーザは一定以上の強さを持った者にしか興味を示さない。

或いは面白い能力を持っていたりの所謂一芸入隊の者であったり、側近だったり、直属の指揮下にあった中央軍団のメンバーの顔は知っている。

末端兵士であったサイヤ人のラディッツやアプールの顔と名前まで覚えている記憶力であるから、そのフリーザが覚えていないという事は、今周囲にいる者達はかつて中央のレベルではないと判断された辺境組・雑用組だろう。

フリーザは地球人のように気の感知が得意ではないが、スカウター無しでも今周囲にいる兵達が取るに足らぬ雑魚ばかりであることは確信できていた。

この場にフリーザの御眼鏡に適いそうな者はいないようで、小さな溜息が思わず漏れる。

しかし…、

 

「フリーザ様の御為に、かつてにも劣らぬ程の戦士をご用意しておりました!

存分にお使いください!」

 

ソルベは胸を張ってそう言うものだから、余計に前途は多難に思うフリーザだ。

(そんなわけないでしょう…)と思いつつも、フリーザは片眉をやや釣り上げ、そして抑揚を抑えた調子でそれに応えた。

 

「へぇ…かつてにも劣らぬ、ですか」

 

「はい!このシサミはザーボン様やドドリア様にも劣らぬ屈強な戦士タイプの男です。

また、こちらのタゴマはシサミにはやや劣るもののやはり優れた戦闘力があり、しかも頭脳も中々でありまして諸星の管理官としても――」

 

「それはもう結構」

 

手をサッと振り、もういい、と発言を終わらせるフリーザ。

そして、己が求めていない情報を齎してくれる内政官型の部下に、さっさと欲しい情報を要求した。

 

「現在の軍団構成員のデータは後でリストアップした物を見させてもらうとして…とりあえず現状を報告なさい。

我が軍団の状態と…そして今の宇宙の状況。それが知りたいのですよ」

 

ソルベが襟を正す。

 

「そ、それは申し訳ありませんでした。

現在は…―――」

 

かいつまんで現状を語り、報告を終えるソルベ。

それを聞いてフリーザは嘆息した。

 

「やれやれ…とんだ惨状ですね。

まさかこうまで…私の軍団が落ちぶれるとは」

 

深い深い溜息。

そして誰にでもなく自分に言い聞かせるように言う。

 

「…まぁこれも仕方のない事かもしれませんがね。

ザーボンさんもドドリアさんも…そしてギニュー特戦隊までも全滅。

オマケにパパまで死んでしまってはフリーザ軍を維持出来る者などいる筈もありませんからね。

そこにクウラまで襲ってきたとなると、貴方達では何も出来ないのも当然といったところですか」

 

フリーザの脳裏に、一瞬ちらりと乳母の姿が浮かぶも、乳母は所詮乳母。

フリーザのプライベートの多くを抑え、頭の上がらない存在とはいえその影響力はコルドやフリーザありき。

フリーザ死亡中に影響力は発揮できぬだろうし、しかも既に乳母は一線を退き半引退状態だ。

乳母の存在を脳裏から消し、フリーザはゆっくりとメディカルルーム内を歩く。

 

そんな姿に、フリーザの恐ろしさを知るソルベはともかく、新世代のフリーザ軍構成員達は怪訝な目を向けていた。

タゴマとシサミを筆頭に、特にタゴマが…

 

(…あんな子供のようなチビが偉そうに…それに、今はもう時代が違うんだ。

ザーボンやドドリアの錆びついた死人共の戦闘力なぞ我々新世代組はとっくに超えている)

 

そのような事を心で思い侮っているらしかった。

全く知己も得ていない部下とも思えぬ他人達が、そんな不敬を思っていると知ってか知らずか、フリーザは興味も無いと言いたげに独り考え込んでメディカルルームをゆったりと歩き続けていたがやがてこう言った。

 

「地球にあのサイヤ人だけでなく、クウラまでいるとなると…どういう理由かは分かりませんが同盟協定のようなものでも結んだのでしょうか?

……あのクウラが猿と対等な交渉テーブルにつくとも思えませんが…しかしクウラが地球にいるのは確実。

そして、クウラがサイヤ人に気づかぬ筈もなし………はてさて、どうも奇妙な事ですね」

 

フリーザの視線が舐めるようにタゴマやシサミを行き来するも、きっと彼はタゴマ達など()()はいない。

視界に入れただけだろう。

だが、一瞬目が合ったように感じたタゴマはそれを発言のチャンスと判断したようで、待ってましたとフリーザの独白に割って入り、

 

「恐らくクウラはサイヤ人と手を結んだのではと――」

 

タゴマがそこまで言った所で、彼の言葉は不快な叫び声に変わり、己の声に遮る。

「ぎゃあっ!」というタゴマの甲高い声が突如としてメディカルルーム内に響いたと思うと、皆の前でブツブツと言っていたフリーザの姿が消えていたのだから皆の驚きは二重だ。

 

「っ!?な、なっ!!??」

 

「え!?フ、フリーザ様!?いつの間に!!」

 

「う、うそだろ…全く見えなかった…!」

 

「タ、タゴマ様…!」

 

ソルベ達の狼狽は凄まじい。

彼の目の前にいた筈のフリーザが消えて、そして気付けば悶え蹲るタゴマの上に片足を乗せて立っていたのだから当たり前だろう。

 

「私が物を考えている時は静かにするように。

それに…あんな不出来な男でもクウラは私の兄でしてねぇ…あなた風情に呼び捨てにされるのは許せません。

アイツを呼び捨てにしていいのは同じ栄光の一族である私かパパだけなんですよ…お分かりですか?」

 

「あがっ!?がああああ!?!?」

 

めきっという音がして、タゴマの背に乗せられたフリーザの足が彼の体にめり込んでいく。

静かながらフリーザから発せられる威圧的〝気〟は、一瞬で新世代組の心胆を寒からしめた。

現在のフリーザ軍残党の中で最強格だったシサミとタゴマ。

その片割れが為す術もなく背を取られ、足蹴にされて、そしてシサミは脂汗と冷や汗をかいて体中を震わせていた。

他の兵士達も概ねそのようなもの。

彼ら新世代組は、全く見誤っていたのだ。

宇宙の帝王の恐怖伝説は、所詮尾ヒレ胸ビレがつきまくった与太話だと。

 

「ぎゃああああああっ!!!」

 

嫌な音がして一際大きな音が響いたと思うと、次の瞬間にはタゴマは苦悶の声の欠片すらあげなくなった。

彼の口からは多量の血液が漏れて、今はただ痙攣するだけだ。

 

「ホッホッホッ…おやまぁとんだ事になっていますよ、タゴマさん。

あなたの先程の視線…私への敬意に欠けているのにこの私が気づかないとでも?

いやですねぇ…これだから最前線(現場)を知らない若造は。

ドドリアさんなら、私のこの程度の踏みつけくらいで背骨が折れるような事はありませんでしたよ」

 

「あ…が…が…ゴボッ…が、はッ…」

 

「戦闘力では確かにあなたはドドリアさんレベルでしょう。

ですが、ドドリアさんやザーボンさんは伊達に私の側近を務めてはいない。

経験も豊富だし、打たれ強さなり狡猾さなり…とっておきの奥の手なりを隠し持って、単純な戦闘力以上の強さを持っていましたよ。

もしもザーボンさん達が新世代組と戦ったなら、殺されるのはあなた達でしょうね。

優れた戦闘力を持っていようと、現場のカン(殺しの場数)はそれを容易くひっくり返すものです」

 

特にあなた程度の戦闘力ではね、とフリーザは最後にそう付け加えた。

もっと差の桁が大きくなれば話はまた変わるが、数万程度の差などフリーザから見れば目くそ鼻くそで、フリーザの言う通りどれだけでもひっくり返る可能性はある。

若い世代の誰もが震えて動けぬ中で、ただ一人ソルベだけが必死に言葉を紡げた。

 

「お、おやめくださいフリーザ様!それ以上はタゴマがっ!

い、今は、その男は貴重な戦力です!部下達の態度に非礼があるとすれば、それは私の教育不足でございます!

申し訳ありません、フリーザ様!!どうか、どうかタゴマをお許しを!」

(な、なんて兄弟だ…!やはり兄が兄なら弟も弟…どちらも傍若無人っ!ほ、本当に…私のやった事は正しかったのだろうか……い、いや…やるしかない!目には目を歯には歯を…化物(クウラ)には化物(フリーザ)だ!)

 

そんな必死なソルベをフリーザは一瞥し、そしてあっさりと足を離してやる。

 

「いいでしょう。私もこんな事で駒を失いたくありませんからね。

今は、低レベルとはいえこの戦力でやらなくてはならないのですから」

 

足を離されたタゴマの半死体を、他の兵士が急いで担ぎ手近なメディカルマシーンに放り込む。

フリーザを蘇らせた最新式が揃っている今、運が良ければタゴマは助かるだろう。

フリーザはまた皆をゆっくり見回したが、今度は全ての兵達の背筋はこれでもかという程に伸びていた。

直立不動で帝王の言葉を傾聴する。

 

「汚いので床も掃除しておきなさい。

………さて、ではまずは…軍を本格的に活動させる前にサイヤ人への復讐といきましょう。

それに私のいない間に好き勝手してくれたらしいクウラへのお仕置きも、ね」

 

タゴマがあんな目にあった直後で、それに否を唱えられる者などいない。

皆黙ってフリーザを見つめるのみ…と思いきや、またもソルベが恐る恐るといった体で口を開いた。さすがはフリーザ亡き後、軍を統括していただけはある。

 

「恐れながら…フリーザ様。

サイヤ人は……かつてフリーザ様とナメック星で戦ったときより更に力を増しています。

クウラ様も…」

 

「ホッホッホ…その程度想定内ですよ。

あの戦馬鹿のサイヤ人とクウラですからね…さらなる戦闘なりトレーニングなりをしたでしょうし…。で?今奴らの戦闘力はどれ程なのですか?」

 

予想値でも良いから言ってみろとフリーザは言う。

だがソルベは返答に窮した。

現在のフリーザ軍の機器ではとても計測できぬ領域にまでクウラ達は到達していると、スパイ衛星での偵察ではそういう結論が出ていたからだ。

なのでソルベは抽象的なもののたとえしか出来ない。

 

「サイヤ人は、あ、あの魔人ブウに勝ったというデータがございます。そして…クウラ様も、その…あ、あの破壊神ビルスと対等に戦ったとか…あ、あくまで噂ですが…」

 

それを聞き、フリーザはその日初めて余裕ある態度を崩した。

 

「魔人ブウに、ビルスですって!?……パパが言っていた、あのブウをサイヤ人が…?

そ、そして、間違いなく、あのビルスなのですか?クウラが…あのビルスと!?」

 

「は、はい」

 

「………くっ…そ、それはそれは…なるほど。す、少し想定外ですね。

ホホホ…そこまで力をつけていたとは」

 

そう言ったフリーザの声はやや震えている。

さすがに動揺したように見えた。

 

「そ、それでも…サイヤ人と…クウラ様と戦われるのですか?」

 

フリーザの顔色をうかがいつつソルベが聞けば、フリーザは「当然です」ときっぱりと言い切った。

それを聞きソルベは内心でほくそ笑む。

(よ、よし…!サイヤ人なんぞどうでもいい!これで…あの憎っくきクウラにフリーザ様がお挑みになる…!ふふふ、わはは、わはははは!)

辺境星域とはいえ、参謀まで務めた男の知略が ――かなりのウェイトを運と他力本願に任せているとはいえ―― 炸裂し成就した瞬間である。

策がうまくいったものの、自分でも大それた悪辣な策謀を巡らせていると自覚している小心者は引きつった笑顔でフリーザに追従し、そしてフリーザはそんな小物に大した興味も示さない。

フリーザはこの小粒な部下が、クウラへの復讐に自分を利用しているのを既に見抜いている。

見抜いているが、(だからどうした)というのがフリーザの本音だ。

復活前のフリーザならば、小物に利用されるなど我慢ならぬと直様処刑しただろう。

しかし、今は無い物ねだりをしている場合ではない。

この手駒達でどうにか地球にまで攻め込まねばならないのだから、フリーザも我慢はする。

それに、地獄での己が身に起きた()()を思えばこの程度の我慢はどうってことないのだ。

 

「私はね…あの猿どもを始末せねばどうも寝付きが悪いんですよ。

クウラもですよ…ずっとずっと気に食わない兄でした。

宇宙最強を吹聴し、領地経営もほっぽりだして戦い三昧。

…ですが確かに、復活したてで体が鈍っているのも感じますしねぇ」

 

フリーザは己の手を握り、開き、その感触を確かめる。

次いで己の手から、視線を母船の窓から宇宙の虚空へと変えてソルベを見もせずに言った。

 

「私は天才です。生まれてからろくにトレーニングもしたことがない。

それで充分でした……生まれながらにして私には敵などいない戦闘力を持っていましたからね。

兄のクウラは、馬鹿みたいにトレーニングを繰り返していましたがね……まるでサイヤの猿のように下劣な行為だと、昔の私は思っていたものですよ」

 

ホッホッホ、という彼特有の笑い声が静かに船内に響く。

 

「ですがトレーニングというものの価値を見直さねばならないようですね。

私が生まれて初めて本格的なトレーニングをすればどうなるか…楽しみではありませんか?

才能で劣るあのクウラや、サイヤの猿共が修行でそれ程の力を得たなら……。

そうですねぇ…4ヶ月…いや、サイヤ人だけでなくクウラもとなると…1年っ!

この私がそれだけ修行すれば、クウラもサイヤ人も…そしてビルスも私は倒せるでしょう!

フフフ…お猿さん達…最後の一年、せいぜい大切に過ごすのですよ!ホッホッホッ!」

 

フリーザは理想の未来図を思い描き、そして大口を開けて高らかに笑う。

得体のしれぬ不気味さが、静かな船内を急速に覆っていくのをソルベ達は感じ、そして背筋を寒気が走るのだった。

 

「あぁそれと…当然ですが…――」

 

大笑いをピタリと止めて、フリーザが皆へ振り返り見渡す。

 

「――あなた達、全員私の練習相手になってもらいますからね」

 

酷薄な笑みと共に放たれた宇宙の帝王のその一言は、新世代兵士達にとって地獄の始まりを意味していた。

 

「…!」

(ひぃぃぃ…!や、やっぱ…この人は、ク、クウラの兄弟…!頼るべきじゃ…なかったかも…!う、うぅ…復讐戦まで…我々は生き残れるのかぁ!?)

 

 

 

 

 

 

 

――

 

―――

 

 

 

 

 

ソルベとタゴマが隠密行動で地球に来てから1年。

すなわちフリーザが地獄より舞い戻って来てから1年。

戦いの連続だった悟空達から見ても、その期間は珍しいまでに平和なものだった。

かつて地球のみならず宇宙中を恐怖に陥れたフリーザ…その実兄が地球にいるというのに平和であった。

だが穏やかな日々であったかというと、それには少し疑問符がつくだろう。

 

なぜなら、クウラが地球にいたのはサイヤ人を完全に超えるためだからで、そして悟空はそのクウラに修行の仕方を教えてやると言ったものだから、この1年間は命を掛けた修行の日々だったのだ。

当初は悟空とクウラがカメハウスで暮らしていただけだったが、そのうちに悟空がクウラを誘いウイスとビルスの元にまで顔を出すようになった。

人間、変われば変わるものだ。

 

「へへっ、今日もいっちょ頼んますウイスさん。お土産の大福持ってきたからさ」

 

「おや、ダイフク…聞くだけで美味しそうな響き…いいでしょう。今日も張り切って修行といきましょう。

…ベジータさんとクウラさんの姿はあれど……おやおや?ブロリーさんがいませんね。

ブロリーさんも連れてくるんじゃなかったんですか?」

 

「あいつは今子供が生まれてさ~、ちっと来れなくなっちまった。

だから今日はオラたちだけ連れてってくれ」

 

そんなやり取りの後にビルスの星へと転送される一行。

出迎えたのは、気怠げに午後の陽光の中で微睡む破壊神……そして予言する金魚etc…。

そんな破壊神がチラッと来客を横目で見、そしてとある人物を見てあからさまに嫌そうな顔となった。

 

「…クウラか。どの面下げてここに来たんだぁ?」

 

ビルスが実に不機嫌そうにそう言えば、クウラもクウラで不機嫌そうに返す。

互いに譲ることはないらしい。

 

「俺とて好きで来たわけじゃない」

 

「はんっ!孫悟空に負けたから言うことを聞いているって本当だったんだな。

でも、だったらさー、さっさともう一度戦ってみればいいじゃないか。

今戦ったら…お前が勝つんじゃないか?クウラ」

 

「確かに単純な戦闘力では、既に俺は孫悟空を超えている。

貴様でさえももはや恐れる俺ではない。

だが…それでもかつて一度ならず、俺はサイヤ人に遅れを取った。

俺は…俺が納得するまでサイヤ人の…孫悟空の強さの根源を見定める。

貴様がどうこう言う筋合いは無い。

それよりも…貴様も本腰を入れて鍛え直した方がいい、と助言してやろう…破壊神。

俺は…もうじき貴様を完全に殺せるぞ。小細工無しに、な…クククク」

 

「…へぇ、随分口だけは達者じゃないか、クウラ」

 

「…口だけかどうか…試してみるか?」

 

クウラはまったくビルスにもウイスにも媚びない。

ビルスが青筋を立てながらクウラを黙して睨むと、クウラも負けじと鋭い眼光で睨み返す。

と、そこに間延びした声。

天使ウイスだ。

 

「おほほほほ。そうなんですよ、近頃ビルス様ったら本気で修行再開したんです」

 

ギョッとした顔でビルスが慌てた。

 

「ちょっ!?ウイス!!お前黙ってろって言ったろ!!!」

 

「えぇ~?いいじゃありませんか、どうせバレますよ。

ふふふ、クウラさんのお陰ですね。

あなたの存在と…そしてあなたに引っ張られるようにメキメキ強くなる悟空さん達に、ビルス様も危機感を抱いたようでしてね」

 

「ウイイイイイイスっ!!!」

 

「はいはい」

 

叫んだビルス。ようやくウイスも主の言葉を受け入れて言葉を謹んだ。

そしてクウラに視線をやると、また呑気な顔で言い始める。

 

「しかし…あなたもお分かりでしょうが、クウラさんがここに来ても…何も教える事はできませんよ?」

 

「フン…分かっている。俺とて貴様らに教えてもらうつもりはない。

ただ…ここで孫悟空達が何をし、何を得ようとしているのか…それを俺自身の目で見、そして学ぶ。

それだけだ」

 

それだけ言うとクウラは腕を組んでビルスの星の大樹に寄っかかり、そしてそれきりビルスとは目も合わせない。

ビルスもビルスで、プイッとそっぽを向いてそれきりだ。

そんな二人を見て、ウイスは悟空とベジータにいつもの修行を授けながら考える。

 

(…クウラさんの精神が安定している。

底しれぬ殺気を発する事はあれど…禍々しさというものが驚くぐらい洗い流されている…。

ふぅむ…善人になったわけではない。けれど、邪悪の塊でもなくなってきている。

精神のバランスが成った事で遥かに力を増大させているようです。

しかし……クウラさんの力って、機械とか()純度100%な生命エネルギーのせいでほんっと見難いんですよねぇ。

私の見立てでは天使の領域に至りつつあるようにも思えますが…。

天使級の強さを得ていて…、しかも邪心は微かなものになれど野心も覇気も健在……いやはや面倒な事になりそうですよコレは)

 

目まぐるしくつらつらと、そんな事を思考していた。

人差し指と小指で悟空とベジータのパンチを受け止めつつも、考える事はついついクウラの事となってしまうウイス。

それでもほぼ完璧に悟空らをあしらうあたり流石だが、しかし見る人が見ればいつもより精細の欠いたものと言えた。

 

(本当に悟空さんという人は不思議な人だ…クウラさんの心をこうも導いてしまうだなんて。

あんな頑固者を心変わりさせるなんて私達天使でも苦労するでしょうに、孫悟空(あの人)は天使にも破壊神にも…そして全王様にも出来ない事が出来る。

そんな気にさせる不思議な人…故に厄介なのですがね)

 

悟空とクウラを見ていると、何千何万年と世界を達観して見守ってきたウイスでさえ「何かが起きるのでは」とワクワクし、そして不安を感じる。

自分の想像以上の何か(未知)が起きる事を期待しているとも言えた。

結果論になるが、クウラがここまで力をつけたのも、そしてあれだけ邪悪だった心に純粋な武人的な精神が宿りつつあるのも悟空のせい。

そうウイスは思っていて、そしてどちらもウイスの予想を超えた結果を残した。

 

(既に…この私も孫悟空の影響を受けているのかもしれません。クウラのように)

 

神や天使達…そして全王の〝有り様〟にさえ影響を与えているのでは…、とウイスにさえそんな危惧を抱かせる。

クウラと悟空を見ていると、不変など有り得ないと思えてしまうのだ。

つまり、大神官も天使も神も……全王さえも変わるかもしれない。変わってしまうかもしれない。

 

 

 

そしてウイスのまさに目の前に、悟空によって人生の全てを変えられた男がいる。

ベジータも、ウイスと同じようにクウラの変わりようを見て度肝を抜かれた男だ。

だがベジータの場合は、クウラを見ていると自分が失った何かを見ている気分になる。

破壊神ビルスにただ怯えるしかなく、そしてプライドを投げ売って無様な踊りまで披露した。

それがどうだろう。

クウラは、ビルスに物怖じせず、真正面から生意気な口を聞き、そしてそんな口を聞いてもビルスに一方的に蹂躙されない強さを持っている。

 

(くっ…あ、あの姿…ビルスに怯えぬ、何者にも怯えぬあの姿…!)

 

あれこそが、かつて自分が追い求めたものだとベジータは感じる。

フリーザに媚びへつらい、ギニュー特戦隊に怯え、セルにしてやられ、ブウにも歯が立たず…そしてビルスに頭を下げ続け、全てにおいて悟空の後塵を拝し続けた。

こんなはずではなかったと思う。

確かに、今の人生そう悪くはない。

愛する女にも出会えたし、子も生まれた。

良い義父、義母もいるし、友人と思うのは癪だがカカロットともその他Z戦士とも良く関係を築いてる。

それでも、サイヤ人の王子ベジータとしては、こんな筈ではなかったと考えてしまう時がままある。

 

クウラの姿は、かつて自分が思い描いた理想の自分にダブるのだ。

こうなりたかった自分。こうだったら良かったと思う自分。

悟空と邂逅し自分に変化が訪れるとしても、こう(クウラのように)なりたかった。

有り体に言えば、ベジータはクウラを「かっこいい」と思い、憧れてしまったと、そういう事らしかった。

 

(っ…!くそ!こ、この俺が…サイヤ人の王子たるこの俺が!

フリーザに虐げられたというのに…そのフリーザの兄貴に!!兄貴なんぞに!!!)

 

惹かれるなどあってはならない。

尊敬するなどあってはならない。

クウラ(あいつ)はサイヤ人を皆殺しにしたフリーザの血族なのだ。

そう自分に言い聞かせる。

そしてそのイライラを修行にぶつけ大いに発散するのであった。

 

 

 

 

 

 

そういう日々が続いた。

ビルスの星での修行と観察。

地球に戻りカメハウスでの精神修養。

ビッグゲテスターでの、無限に湧き出るメタルクウラを相手にしての無限組み手。

…とほんの少し部下達(クウラ機甲戦隊)への手ほどき。

まさに、かつて(フリーザ)が「低俗で下等な、戦うしか能のない猿のよう」と評した訓練漬けの日々。

 

最強の二文字をひたすらに追い求める事に変わりはない。

だが、最強に行き着くまでの手段の選択肢がガラリと変化しているのだ。

己より強い者を破壊し殺すのではなく、常に己を高め続けて他者を圧倒し続ける…そういう方向にシフトしつつあるのはやはり悟空の影響だろうか。

 

クウラは変わった。

無論、強くなったという意味もある。それは間違いない。

だがそれ以上に、ウイスも悟空も言うように心の有り様の変化が一番顕著だ。

 

その変容は、この1年でとうとう他の者達(ウイス、悟空以外)から見ても分かる程となっている。

徐々に対人関係にも変化が起こるのは当然だろう。

たとえばクリリンやヤムチャだ。

怯えきって決して自分から話しかけなかった二人でさえ、顔を見た時などは挨拶する程度にはクウラという存在を受け入れ始めている。

クウラはもちろん返事などよこさぬが、それでも最初は視線にすら入れなかったものだが、今ではチラリと目線を寄越す程度はするのだ。

見知った現住生物ぐらいには認識しているらしかった。

今までのクウラを思えば、これは充分に友好的態度と言えた。

 

「ははは、まさかフリーザの兄貴と挨拶するような日が来るなんてなぁ。(返事してくれないけど…)

こうなったのも悟空のお陰だけど…感謝していいのかちょっと分かんないな」

 

とはクリリンの言葉。

 

 

対人関係の軟化…その恩恵を最も受けた者がいる。

忠臣の一人にして、クウラに寄り添う唯一の花・ザンギャその人である。

 

とある日のことだ。

 

「あ、あの…本日も…………その、トレーニング…お、お疲れさまでした」

 

ビッグゲテスター内のクウラのプライベートルームで、ザンギャが言葉を濁すように、歯切れの悪さを顕にして突っ立っていた。

扉をノックし、入室許可を求めてきたのはザンギャだ。

だというのに自分からそれを要求しておいて、当のザンギャは何故かプレートの上に食料を大量に載せたまま、しどろもどろとなっていた。

それをクウラは冷たい目…というよりも不思議そうな目で見た。

鋭く赤い目が、ザンギャを見る時だけは気持ち和らいで見える。

これもクウラの顕著な変化の一つだろう。

かつてならば誰に対しても平等に絶対零度の視線を送っていたはずなのだから。

 

「どうした。その食料は俺へ差し出すものではないのか?

それとも…ここで貴様が食うのか?」

 

今のはクウラ流の冗談かもしれない。

ザンギャは慌てる。

 

「あっ、い、いいえ…クウラ様のです。そ、その…ど、どうぞ」

 

プレートを差し出すザンギャ。

そして、クウラはそれを一瞥すると、

 

「そこへ置いておけ」

 

とだけ言った。

はい、と小さな震える声で言ったザンギャは、言われた通りにクウラの鉄色のデスクへとそっと置く。

そして、一歩下がるとジッとクウラを見つめていた。

 

「…?どうした」

 

「あ…」

 

いつも冷静なザンギャらしからぬ不可思議な行動が多い事に、クウラはまたも不思議そうな目で彼女を見る。

そうするとザンギャは少し頬を赤らめて俯いて、またもそわそわと挙動不審となるのだ。

 

「どうも様子がおかしいようだな………ザンギャ、何があった」

 

ズノーの知識を吸収し、ほぼ全知と言えるビッグゲテスターのコンピューターと融合しているクウラであるが、分からぬこともある。

それはビッグゲテスターのコンピューターは勝手に何でも教えてくれるものではなく、こちらからデータバンクにアクセスする必要があるためだ。

つまりクウラが興味を抱いたもの、知りたいと思ったものをビッグゲテスターは教えてくれるという事で、蘇ったズノーと全宇宙一を競う知識量を持つビッグゲテスターの超大容量の知識を常に溜め込んでいては知的生命体は脳を破壊されてしまうだろう。

ズノーが無事なのは、情報の過負荷に耐性を持った極めて特殊で貴重な知的生命体だからである。

 

今、ザンギャに対してはどのようなデータ検索をすればいいのかクウラには見当がつかない。

だから手っ取り早く直接聞くという選択肢をクウラがとるのは当然だ。

忠誠心の厚い部下であるのは承知済みであるし、以前にザンギャには若干の醜態を晒した(弱音を吐いた)事があるのだから、今更この程度でカッコがつかないとは思わないクウラである。

 

「呼吸も脈拍も荒い。鼓動もいつもよりも強く速いようだ」

 

「あ、いえ…その…」

 

「………気分が優れぬのならば自室で休んで――」

 

「いえっ!」

 

珍しくザンギャが主の言葉を否定し、そいて急いで二の句を次ぐ。

 

「た、体調は万全です」

 

ザンギャはそう言うが、そんな事はビッグゲテスターのナノマシンを通して分かっている。

しかしクウラが指摘したのは肉体ではなく精神の調子だ。

精神的動揺が彼女の肉体にまで影響を及ぼしているのが分かるからこそ、クウラはザンギャに休息を奨めたのだが…。

 

ザンギャの珍しい様子に、クウラの赤く小さな瞳孔が驚いたように少し大きくなっていた。

それを見てザンギャが申し訳無さそうに頭を垂れる。

 

「あ…申し訳ありません。失礼なことを…」

 

「それはいい。だが、どうしたというのだ。

何か言いたいことがあるならさっさと言うがいい」

 

ザンギャの左右の手の細い指が忙しなく互いの腹を擦って、そして彼女の小さな口は何かを言いかけては止めるを繰り返す。

その様をクウラはただジッと見ていた。

どうも急かすとザンギャはしどろもどろになるようなので、ここは彼女のペースで進ませる事にしたらしい。

 

「その」

 

ふぅー、とザンギャは微かに息を吐いて、そして一拍して意を決したように言った。

 

「今日の料理は…わ、私が…作りました」

 

クウラの赤い瞳孔がまた一段回大きくなる。

組んでいた腕も思わず少し解かれていた。

これは別にザンギャが料理をした事に驚いたわけではない。

まさか、ザンギャ程の女傑がこの程度の事で散々に逡巡していた事への驚きだ。

 

「その程度の事で―――」

 

そこまで言い掛けてクウラは口を閉ざし、言葉を飲み込んだ。

目を閉じ、ゆっくりと腕を組み直し、そして椅子へと腰掛ける。

 

「…スマンな。俺は…どうもこういう事への機微には疎い」

 

そう言って目を開け、ザンギャの料理に手を付け頬張る。

 

「料理の腕は、地球の女共に仕込まれたか」

 

「は、はい」

 

「フン…そうか。俺のためにか?」

 

「え…?その…え、えぇと……………………はい」

 

頬の赤みをより強くして、ザンギャは視線を忙しく彷徨わせた。

クウラは慌てふためく女傑を観察するように見、そして一見冷酷そうな声色で女へ言った。

 

「…うまい」

 

「っ!」

 

ザンギャの顔に花が咲いた。

常に赤い頬で困惑していたような表情は、花が綻んでいた。

抑えようとも抑えきれない喜びがザンギャの顔に浮かんでいる。

 

「あ、ありがとうございます!」

 

ザンギャも女という事か、クウラは察する。

クウラは、己で言った通りそういう機微には疎い。

つまりは色恋沙汰だが、武辺一辺倒であったクウラは恋愛などに興味を持ったことすら無い。

繁殖はいずれするかもしれぬと思っていたが、その相手の雌を見繕うのはまだ何十年も後の予定だったし、繁殖も己の血を残すための義務感からするつもりでいるだけで、当たり前のように愛などという感情故ではない。

そもそも…ビッグゲテスターと融合した今、クウラ自身の寿命はナノマシンによってほぼ不老不死であるから、繁殖の必要性は希薄となってしまっていた。

クウラは誰かを愛するつもりもないし、また愛がどういうものかも分かっていない。

 

「…愛着、か」

 

クウラの呟きに、ザンギャは喜びを湛えながらも困ったように返す。

 

「あ、愛着、ですか?」

 

愛着とか支配欲とか、独占欲ならばクウラにもあるし理解できる。

以前、孫悟空の師匠にザンギャの体を差し出すよう求められた時、クウラは確かに不快に思った。

それは己の所有物であるザンギャに、自分以外の者が手垢をつけようとした事に対する強烈な不快感と、そしてその者への激烈な排他的欲求だ。

鑑みるに、それは強い愛着であろう。

 

「お前は俺を愛しているという事か?」

 

恋愛的なロマンを解さぬ男は、ズバリ直接的に聞いた。

恋の機微に疎いのだから仕方がないし、この方がクウラらしいと言えばらしい。

 

「えぇ!?あ、あの…!え、ええと、あ、愛…は…あ、ぁぅ…―――」

 

ヘラー一族特有の青い肌と尖った耳。

それが耳の先まで真っ赤になっている。

声だって上ずってしまっていた。

 

「俺は、愛というものが良く分からん。

だが…貴様に対して愛着は感じる」

 

「っ!!…そ、それは…」

 

今、ザンギャは気を抜くと頬がにやけてしまいそうだった。

いや、それどころで終わらないだろう。

あのクウラがそんな事を自分に言ったという事実。

愛着を感じるという言葉。

それはクウラを良く知る者にとって愛の告白に等しい。

ザンギャは、今にも顔から火が吹き出そうで、そして感極まり涙までが溢れそうだった。

 

「私は…、私は…っ」

 

そして、ここまで主に気持ちを知られているなら今しかない、女は度胸だとザンギャはキッとクウラを睨むように決意の表情。

 

「――私は、クウラ様を愛しております」

(っ!い、言ってしまった…わ、私…あぁクソ!なんて、なんて大それた…あぁぁぁ私らしくないってこんなの!銀河戦士であるヘラー一族の私が、こ、こんな夢見る乙女みたいに!)

 

馬鹿か私は、と自己嫌悪しつつも、一方で本当に男性経験がない乙女だから仕方がないんだ、とも自己弁護を心で叫ぶ。

どちらにせよ勢いに乗って口に出してしまったからにはもう引き返せないと、真っ赤な顔を俯かせる。

かつてない程にザンギャの鼓動は煩くて仕方がない。

ザンギャはつい(やかましいんだよ!)と叫んで自分の心臓の煩さに八つ当たりをしてやりたかったが、土台無理な話。

言った直後からして、言わなきゃよかった、いや言って良かった、私はやり遂げた、あぁやっぱ私は宇宙一の馬鹿だ、とかそういう相反する感情がザンギャの頭の中で立て続けに爆発している。

煩い心臓の音に悪態をつきつつ、だがしかしザンギャはその音に耳を傾けて静かな部屋で待つしかないのだ。

想い人が、果たしてどんな言葉を自分にかけるのか。

 

少しの沈黙の後…ザンギャにとって数十分にも数時間にも感じる沈黙の後に、クウラはやがて口を開いた。

 

「俺はそういう事に疎いと言ったぞ、ザンギャ。

俺を愛しても貴様は報われんだろう………俺を愛そうとも、愛されるとは思わぬことだ」

 

「っ」

 

ザンギャの顔から赤みが引いていく。

(やってしまった…)という思いがヘラーの乙女の脳裏に去来していた。

 

「は…い」

 

愛することはない、という言葉。

ザンギャはそれを明確な拒絶と受け取る。つまり、人として愛することはなく玩具として気に入っている程度という事なのだろう、と。

先ほどとは打って変わって血の気の引いた顔。

冷水を浴びせられたようにザンギャは感じる。

それでも本当は過分な言葉を貰って幸せを感じていたというのに、なのにザンギャはその先を勝手に期待して、そして勝手に絶望している。

冷や水を浴びせられた心は休息に冷静さを取り戻し、そしてネガティブとなってまたも勝手に思考と感情が突き進んでいくのは、これはもう心を持つ知的生命体としてのサガでもある。

しかも今のザンギャは人生で初めての恋と愛の渦中にあるから、尚更自分の心を制御出来ていない。

 

(は、はは…そうだよ、やっぱ、そうだよ。あたしは、馬鹿だ。クウラ様は…あたしなんかの想いなど…迷惑な、だけ、で………っ、ぅ…く、くそ…泣くなんて、そんなガキじゃあるまいに…!)

 

情けなく涙まででそうになる。

今度の涙は喜びのあまり、ではない。

己の浅はかさと愚かさと、そして惨めさ故である。

しかし、その時…

 

「だが――」

 

クウラがまた口を開く。

どうも話には続きがあったらしい。

 

「ザンギャ、貴様は俺のものだ。俺以外の何者にも…やる気はない」

 

「…」

 

泣きそうだったザンギャは、今度はポカンとした顔で主を見つめた。

 

「え…?」

 

そしてゆっくりと主の言葉を咀嚼し、反芻し、その度にザンギャの頭の中をいろいろな感情が目まぐるしく巡る。

 

「え、えぇ?え?…その、つまり…わ、私は……」

 

「三度は言わん……………………貴様は俺のものだ」

 

そう言うと、クウラは席を立ち、いつものように堂々とゆったりと扉へ向かう。

 

「ザンギャ、サウザー達にC区画トレーニングルームに来るよう通達しておけ」

 

振り返りもせず、最後にそれだけ言ってクウラはさっさと部屋を出ていってしまった。

後に残るは、呆気にとられるザンギャと、そして空になった食事のプレート。

 

「…」

 

そのまま、サウザーに連絡するのも忘れてたっぷりと10分程ザンギャは止まっていた。

そして…

 

(料理全部…食べてくれている、し……今の、言葉…〝貴様は俺のもの〟…!〝貴様は俺のもの〟!!?う、ぅあ…それって…――)

「~~~~~~っ!」

 

クウラの言葉を思い出し、またまた顔を真っ赤にし、首も耳も真っ赤にして悶える。

いつものクールビューティーな女戦士はどこへやら、とにかく今日のザンギャは忙しく表情を変える百面相であった。

喜んだり泣いたり、自己嫌悪に陥ったり、また喜んだりととにかく大いに忙しい。

どうやらザンギャの長年の片思いが叶う実る日も近い…のかもしれない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その後、結局サウザーへの連絡を最後まで忘れて大目玉を食らったザンギャが、またも忙しく表情を変えて沈んでいたのをクウラ機甲戦隊の面々が目撃したという。

 

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