スーパーメタルクウラ伝【本編完結】   作:走れ軟骨

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再会

何にでも終わりというものは来る。

だが、孫悟飯は今の平穏が何時までも続いて欲しいと願っていた。

 

(本当に平和だ)

 

彼は他のどんなサイヤ人よりも平和を謳歌している。

学者は金にならない職業であるから、悟飯は研究対象に関する知識を面白可笑しく、そして分かりやすく解説した著書も書いて金に変え生活の潤いとする。

妻・ビーデルの実家は世界一の格闘家として各イベント・メディアに引っ張りだこのミスター・サタンで、しかもサタンと孫一家は蜜月の関係であるから金の心配はまるで無い。

だがそれでも孫悟飯は、可能な限り己の食い扶持で妻子を養ってやりたいと思うのは男の矜持であるのだろう。

その日の研究と執筆活動を終えて、愛しいビーデルとまだ赤子の愛娘パンの待つ我が家に帰り団欒を過ごし、そして夜遅くになると日課の基礎訓練に励む。

 

(クウラさんはもう地球を壊したり、父さんを殺したりをする気は無いみたいだけど……でも、クウラさんは言っていた。破壊神や全王は、いつこの地球を破壊してもおかしくない気紛れな神だと)

 

そう話す機会は多くない知己の人物、クウラ。

かつて宇宙そのものの存在を脅かした宇宙規模の大悪人であり、そして宇宙を恐怖で支配しようとした帝王フリーザの実兄だが、今では自分を高める事に妥協の無い戦士として地球に居着いている。

強さと、そして知識量では悟飯の知る限りずば抜けている。

父・悟空こそが最強の戦士だと悟飯は信じているが、それでもクウラの強さは父の強さとはまた毛色の違う圧倒的なものを感じる。

それはかつての、恐ろしかった時代のベジータやピッコロに近く、そしてナメック星でまざまざと見せつけられたフリーザとも似るが、それは兄弟だからだろうか。

 

(でも、父さんとラディッツは全く似ていなかったな)

 

フとそんな事も思い出してしまう悟飯。

 

(…今じゃピッコロさんはもちろん、ベジータさんも仲間。

…そしてあのフリーザの兄・クウラさんとも…仲間とは違うけれど敵ではなくなって、今では隣人として受け入れられている。

ラディッツという人も、もう少し運命が違えば、今頃僕は〝伯父さん〟と呼んでいたのだろうか)

 

運命の歯車の精緻。ほんの少しでも歯車の噛み合いが狂えば、運命は大きく捩れて全く違う顔を見せる。

未来から来たトランクスもかつて言っていた。

彼が語った、孫悟空が心臓病で死に、それを切っ掛けに陰惨な運命へと突き進む本来の未来。

その時空のブルマとトランクス、そして悟飯(自分)が孤独に戦い続け、多くの犠牲の果てに掴む一縷の希望。

それでも、トランクスが語った恐るべき未来の世界の今後は困難の連続だろう。

想像しただけでも恐ろしい。

今、自分がビーデルと出会い、子に恵まれ、年の離れた弟にも出会い、友人、仲間、恩師、家族…多くの幸せに包まれているのは、勝ってきたからだ。

父と仲間達と共に多くの難敵と戦い勝ってきたからこそ、今の幸せがある。

 

クウラに言われて気付いたのだ。

「お前の幸せは砂上の楼閣だ」と。

学者をやりたいから、勉強が好きだから、戦いが嫌いだから…だから鍛錬を疎かにしていい理由にはならない。

いや、別に疎かにしても構いやしないだろう。

地球に住む多くの者達は、そうやって平々凡々とした日常を謳歌しているのだから。

だが、戦うだけの潜在能力を持っているのに、それを腐らせていざという時にろくに戦えずに平和が終わるのを見るしか出来ぬというのでは、それは孫悟飯にとって死ぬよりも辛い事だ。

父や師匠(ピッコロ)、ベジータに戦いを押し付けて、自分だけがのうのうとした生活に甘んじて、そしてその結果、いつか強大な敵が現れた時…自分が鈍り衰えていたら、トランクスの語った絶望の未来がこの世界にもやってくるかもしれないのだ。

だから孫悟飯は戦士としても己を磨き続けている。

どうしても長期間の泊まり込み修行が出来ぬので、ウイスの元でゴッド化のトレーニングなどは無理だとしても、今もアルティメット化を鋭く磨き続けるのに余念はない。

父程ではないとしても、それでも修行を続けている悟飯は今も屈強な戦士であった。

 

「っ!こ、この気は…ま、まさか…!」

 

そんな悟飯が、身震いを感じるような…懐かしくも恐ろしい気を感じて空を見る。

空の向こう…遥かなる宇宙の彼方を。

 

「まさか…フリー、ザ…?」

 

今の悟飯から見ても背筋が寒くなる気。

それが空の向こうからひたひたと近づくのを感じるのだ。

 

 

 

同時刻、ピッコロもまた一人荒野の只中で修行にふける中、異様な気に星々の向こうを睨みつけていた。

天津飯も、ヤムチャも、クリリンも…そして亀仙人も、地球にいる戦士達は、皆その恐ろしい気に冷や汗を滲ませながら同じ空を見上げていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そしてクウラはというと…。

 

彼は、ウイスの元にトレーニングへ行っている悟空やベジータと別れ、ビッグゲテスターのメインルームの指揮席に座して壁面いっぱいの大型モニターから鋭い目で地球を見ていた。

傍らにはザンギャが佇み、主の肩へそっと手を置き撓垂れ(しなだれ)掛かっている。

そして、指揮席を少し降りた吹き抜けの階層下…幹部席からはサウザー、ドーレ、ネイズが固唾を飲んでモニターに映る飛翔する大型宇宙船を見守っていた。

クウラはこの日を見越していたのだ。

いや、待っていたという方が正解かもしれない。

 

サウザーがやや緊張した面持ちで主へ言った。

 

「…いよいよ、弟君が…フリーザ様が地球に…!

この時が来たのですね、クウラ様」

 

ドーレとネイズもそれに続き口々に言う。

 

「宇宙最強のご兄弟…どちらが真の最強か決まるってことか」

 

「クウラ様とフリーザ様が戦う日が来ちまうなんて…」

 

部下達はどうも複雑な思いのようだ。

それも当然だろう。

コルド大王が総帥として君臨していた時代には、仲良しとは口が裂けても言えない仲であったが、敵対まではせずに兄弟が私設部隊を率いて同じ星系を攻めた事もある。

当たり前だがクウラ機甲戦隊も、フリーザ麾下の部隊と共同戦線を張ったし、そしてフリーザとも面識があった。

時には、

 

「兄さんなんかの部下など辞めて私の所に来ませんか?そちらより優遇しますよ?ホッホッホ…」

 

とスカウトされた事もある。

勿論丁重に断ったサウザー達だったが、それでも凄まじいまでの力を有しているフリーザに対しては、クウラの実弟である事もあり一定の尊敬の念は抱いていた。

同じ一族であるクウラとフリーザが争うのは、やはり悲しい気持ちの方が強い機甲戦隊であった。

 

サウザー達の心配をよそに、クウラはただ黙って懐かしき弟の船をジッと見、そして肩のザンギャの手を優しく払うとやがてゆっくりと席を立ち、そして皆を見渡す。

 

「機甲戦隊、出撃準備!」

 

クウラの命が下れば、サウザー達は素早く跪く。

 

「ハハッ!」

 

主の命を受ければ、兄弟相争う杞憂も何のその。

サウザーは不敵に笑い、ただ主の敵だけを排除する事に喜びを感じる狂信者と化す。

 

「ハッ!」

 

巨漢のドーレは眼を血走らせているかというぐらいの興奮を眼球に湛え、やはり主の敵をひたすらに砕きたがるクラッシャーに化けた。

 

「お任せを!」

 

ネイズの笑みはサウザーともまた違う。

栄光あるクウラ機甲戦隊が敵と見定めた者をひたすらに甚振り殺す事に至福を覚える猟奇じみた微笑みであった。

 

クウラ機甲戦隊。

その戦闘力は、長年の自己鍛錬と主から賜る至福なる地獄の訓練…そしてクウラの細胞の一部とも言えるナノマシンを授かる事によって驚異の数値を叩き出していた。

サウザー、1700兆。

ドーレ、1850兆。

ネイズ、1630兆。

単純なパワーではもはや現在の魔人ブウすら超える。

もちろん純粋な殺し合いとなれば、様々な異能とほぼ無限の体力、再生能力を持つ魔人ブウとの勝敗は分からないがそれでも凄まじい。

エリート部隊の面目躍如といったところだ。

そして…、

 

「クウラ様、勝ちて帰られますよう」

 

誰よりもクウラの側で跪いた美女、ザンギャ。その戦闘力は彼らをも凌ぎ、2000兆。

他のメンツに比べれば増加率は低いものの(他の機甲戦隊メンバーが異常に強化されただけだが)、ザンギャはクウラ自らの手解きによってとあるポイントを徹底的に鍛えられていた。

それは〝変身〟だ。

ヘラー一族であるザンギャもまた、かつてボージャック達がやっていたように、奥の手として変身を持つ。

もっとも、サイヤ人やコルド一族のように劇的な形態変化をするわけではなく、肌の色がヘラー種特有の気によって変色する程度だ。

そこに、人によっては筋肉の膨張などの現象が起きるが、元々パワータイプではないザンギャの変化は体色の変化に留まる。

 

ザンギャは、その変身による戦闘力の強化倍率を、同じ変身型種族であるクウラによって徹底的に鍛えられ、また超能力にも磨きを掛けた。

かつての変身では増強率は1.5倍程。

それが今ではなんと5倍となっていた。

 

つまり今のザンギャが本気を出し、奥の手の変身を披露すれば最終戦闘力は1京となる。

神々の領域と言われる〝京〟の世界へと手が届く…そういう女戦士へと成長していた。

神の領域を踏み荒らさんとするクウラに相応しき女に。

そういう女の情愛の執念が、ザンギャの元々の潜在能力を存分に花開かせていたのだ。

 

尊崇するクウラに置いていかれぬ為、地獄の特訓を繰り返し続けた機甲戦隊。

全ては、只々クウラと共に覇道を征きたいが為。

もはやクウラ機甲戦隊はこの第7宇宙でも屈指の実力者の仲間入りを果たした。

 

たった5名のクウラ軍団。

だが、その質はまさに宇宙一の戦闘軍団であった。

そこに無限に湧き出る量産型ビッグゲテスターとメタルクウラまでが加われば、天使と破壊神さえも恐れぬというクウラの大言はあながち強がりでもなかった。

 

クウラの口角が不敵に上がると、次の瞬間には5人の戦士は皆姿を消す。

今、地球に宇宙最強級のとびっきりの戦士達が集おうとしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

突如、地球を襲った宇宙人軍団。

この世界の地球では割とよくあることであるが、今回の襲撃は規模が大きい。

1000名の兵士を引き連れたフリーザは、孫悟空に復讐する一環として彼の仲間達に集中して攻撃命令を出していた。

 

「ホッホッホッ!孫悟空の仲間共…苦しみなさい!

あなた達が苦しむと私も実に気分が良いですよぉ!ホッホッホッホッ!」

 

愛用の浮遊ポッドに乗り、高笑いをしつつ悠々と構えるフリーザは、己の手をくださずにただ笑っていた。

ボロ雑巾のように叩きのめされたヤムチャとチャオズ。

亀仙人ももはや老齢の為に体力が続かず、クリリンとピッコロ、天津飯ももはや肩で息をし、体中傷だらけだった。

その中で奮戦し、この場を支えていたのはゴテンクスと、そしてアルティメット化した悟飯である。

 

「…こいつら、ただの数合わせかと思ったら…なかなかやるじゃないか」

 

磨き抜いたアルティメット化によって、悟飯はフリーザ軍兵士の一人に延髄蹴りを決め一撃で戦闘不能に陥れる。

殺しはしていない。

昂ぶる戦闘本能を何とか抑えて、せいぜい一生戦えぬ体に追い込む程度にしているのが、悟飯という心優しい青年の特徴だろう。

やられた兵士の中には、いっそ一思いに殺してくれ、と懇願する者もいるかもしれないが、死にたいのなら一人で死ねと悟飯は切り捨てる。

優しい悟飯とて、無慈悲な侵略者に対してまで慈悲をかけてはやらない。

 

この場に悟空もベジータもブロリーも、そしてクウラもいない今、最強にして最後の柱は悟飯であった。

ゴテンクスの中の二人(トランクスと悟天)は、年齢も年齢で遊びたい盛り且つ勉強も大事な時期…修行不足なのはやむを得ず、しかももうじき合体時間は限界を迎える。

 

「に、兄ちゃん…こいつら結構強いよ!しかも数が多くて、時間が足りない!」

 

「ゴテンクス、休んでていいぞ。後は…オレがやる!」

 

気が迸り、悟飯が宙を駆けた。

フリーザ軍兵士達の視界から悟飯が消える。

 

「消えた!」

 

「なんだ!どこへ行った!」

 

「スカウターを…!」

 

右往左往し始めた兵士達。

彼らの包囲網の外に、既に悟飯の姿はある。

 

「ウスノロ共が…」

 

ニヤリと悟飯は笑い、そして溜め無しの抜き打ちでかめはめ波を放ってやれば、それだけで大半のフリーザ軍兵士達は叫び声を上げながら光の渦の中に四散していく。

 

「すっげー!」

 

既に合体が解除されてしまったトランクスと悟天がキャッキャと喜んでいた。

その様を見てフリーザも不気味に笑う。

 

「ふふ…あの男、ナメック星のガキの面影がありますね。

なるほど、孫悟空の息子…なかなか良い戦士に成長したようだ。容赦が無くて素晴らしい。

あの不快な猿の子でなければスカウトする所ですがねぇ…実に惜しい。ホッホッホ…」

 

称賛しつつ、しかし不愉快なまでの余裕は保持したまま。

つまりまだ自分が圧倒的強者であると理解しているからだ。

まだポッドで寛いでいる様子のフリーザに、悟飯は殺気籠もる視線を向けて大声で言う。

 

「いいのかフリーザ。せっかく掻き集めた部下どもじゃないか。

このまま皆殺しになる前にさっさと自分の星に帰ったらどうだ。

オレも無駄な殺しはしたくない」

 

悟飯の手刀でまた一人、兵士の首がもげる。

そんな愛弟子の様子をピッコロは頼もしく思っていた。

 

「悟飯のやつ…アルティメット化をさらに進化させているな…いいぞ!

全く甘さがない…油断もしていない」

 

傷つく体を庇いながらも、隣で倒れているクリリンの口に仙豆を捩じ込みながら、手を貸し支えてやるとクリリンもまたボロボロの顔で笑う。

 

「へ、へへ…さすが悟飯だぜ。

あいつ、昔からやる時はやる奴だからな…」

 

「あぁ、ある意味で孫よりも、悟飯は敵に冷酷になれる。

このオレが鍛えたのだから当然だ」

 

ピッコロの微笑みには強いプライドが滲む。

悟飯は相手を敵と見定めるまでに時間がかかるサイヤ人だった。

心優しく戦いを好まない気弱な心は、どんな人とも出来るなら戦いたくないと悟飯に思わせる。

だが、一度〝敵〟と相手を認識すれば、悟飯は悟空と違って敵に「死んじゃえ!」と叫びつつ殺意の一撃を見舞える少年であった。

一時期は恋愛と結婚、学者への転身が重なり、ピッコロを始めクリリンにさえ腑抜けっぷりを危惧されたが、どうもあの様子では鍛錬を人知れず続けていたらしいとピッコロは悟る。

 

(さすが孫の息子。オレの弟子。…立派な戦士になったな、悟飯)

 

このまま悟空とベジータ達がいなくても何とかなるかもしれない。

地球の戦士が皆そう思い始めていた時だった。

 

「…なるほど。どうもこのままでは()()()()()()()ねぇ」

 

今までニタニタ笑って観戦しているだけだったフリーザが、眩い紫紺の光を放ったと思うとその姿を変じた。

 

「!?」

 

「なっ!」

 

「い、一瞬であの姿に!」

 

ピッコロもクリリンも、そして悟飯の記憶にもこびりついている強烈な姿。

恐怖の代名詞とも言えるあの小男の姿は、悪夢が如き思い出の中の姿と寸分違わない。

先程の姿とは比べ物にならないその姿。

悪夢の体現者、フリーザの真なる形態(最終形態)

もはや観戦者となっているピッコロやクリリンの脳裏にも、あの恐怖が思い出されてしまう。

 

「あ、あぁあ…!な、なんて気だ…、こ、この気……や、やっぱり化物だぜ…、か、叶わない…!

オレたちだって、あの時から比べ物にならない程強くなったはずなのに…!」

 

特にクリリンがフリーザに対して抱く恐怖は他者の何倍もあるだろう。

体内から念動爆破されて、粉微塵に爆殺されているのだからその恐怖も一入(ひとしお)だ。

 

フリーザの小型ポッドが、彼の発した気に耐えきれずにパラパラと砕けて散る。

白い尻尾を振るい、ポッドの破片を煩わしそうに払いながらフリーザは微笑んだ。

 

「サービス期間は終わった。

サイヤ人…今からはボクが相手したげるよ」

 

フリーザ軍兵士達から歓声が上がる。

雄叫びが如く声で兵達は口々に「フリーザ様!」と叫びたてれば、戦場の空気はそれだけで揺れ、そして悟飯に怯えつつあった兵達の獰猛な心が再び猛る。

 

「他の人達は、あの死にぞこないの地球人とナメック星人を殺しておいで。

ボクは…この猿を躾けておくからね」

 

「…そう上手くいくかな?」

 

悟飯は矢のような視線で見返しつつ言った。

だが、彼の頬には一筋の冷や汗が流れる。

 

「フフ…ムカつく目だ。

惑星ベジータを花火にしてやった時も、そんな目を向けてきたサイヤ人がいた。

まったく親子三代揃って不愉快な猿だ。嫌になっちゃうよ」

 

フリーザの顔から笑顔が消える。

悟飯は、かつてセルにも向けた物に似た殺気漲る瞳で帝王を射抜いた。

悟飯の気が弾ける。

風を裂くよりも速く悟飯は跳んだ。

 

「っ!?」

 

驚愕の顔のフリーザ。

その腹を悟飯の拳が貫いた…と思われたが、その幻影はふっと消える。

 

「ホホホホホ…」

 

「チッ…」

 

舌を打った悟飯からかなり距離を取り、原野のど真ん中で一際大きく目立つ岩山の上にフリーザは立っていた。

 

「今のは少し驚いたな。

フフフ…当たっていたら少しは痛かったかもね」

 

「そのまま殺してやろうと思ったんだがな…」

 

「ふぅん…随分言うようになったじゃないか…あの時のガキと同じとは思えないよ。

前座の割には少し楽しめそうかな」

 

「…っ!ぐぁ!?」

 

フリーザが指を向けた刹那、悟飯の脇腹を鋭い熱が襲う。

道着と皮膚が焼け、肉が焦げる。

 

(フリーザの…気のビーム!は、速い…!今のオレなら見抜けると思ったが…!)

 

幼少の悟飯も見たことのある、フリーザのかつて全く同じ技(デスビーム)

だが威力と速度は段違いに洗練されていた。

フリーザもまた成長している。

 

(く…そんな事は分かっていた事だ…!今のオレならば、やれる!!)

「はぁぁぁぁぁ!!!」

 

「へぇ?」

 

黒髪のままの悟飯の気がより鋭くなり、びりびりとフリーザの皮膚を震わせ、そして弾丸のように突っ込む。

フリーザはニタリと笑う。

 

「肉弾戦か。親子揃って好きだよねぇ、それ」

 

「はっ!」

 

「ふふっ」

 

悟飯が繰り出した拳は、今度はフリーザを捉えた。

だがフリーザはほくそ笑みながらそれを悠々と受け切る。

フリーザを逃さないとばかりに取り付いた悟飯が、ひたすらに拳の弾幕で攻め立てればフリーザも関心した様子を見せた。

 

「ぬ…、く…、やはり…大した奴だ。さすがはあのサイヤ人の息子。…だがっ!」

 

「っ!」

 

フリーザが拳の弾幕を捌きつつ、尻尾の突きを悟飯の顔目掛けて仕掛ければ、悟飯は咄嗟に頭を横にズラす。

 

「避けたか、やるね!だけどこれはどうかな!」

 

「ぐぁ!!?」

 

フリーザの連撃。

尻尾はブラフ、本命は蹴り。

デスビームによって焦げ付いた悟飯の脇腹に、フリーザの白い足がめり込んでいた。

 

「そら!」

 

「がっ!!?」

 

そしてそのまま悟飯の脳天に拳を振り下ろす。

地が爆裂したかのように砕けて悟飯がめり込む。

 

「ふっふっふ…まさかこの程度で終わらないよな?サイヤ人…――っ!?なに!?」

 

めり込んだ先をとっぷり眺めてやろうかとした矢先、フリーザの頬をエネルギー弾が掠めた。

と同時に飛び出してきた悟飯が、

 

「はぁぁ!!」

 

鋭い蹴りをフリーザの腹に突き刺した。

 

「ぐぅ!?」

 

フリーザの体がややくの字に曲がる。

だが、悟飯にはそれが大したダメージでない事がわかった。

 

(ダメだ、浅い!)

「はっ!」

 

続けてもう一撃。

 

「っ!」

 

フリーザの顎にぶち当たった悟飯の拳。

フリーザは声なき声を上げて仰け反った。

 

悟飯はフリーザと対等に戦っている。戦えていた。

フリーザの手下達と戦っているピッコロ達も、それを横目に見ながら大いに喜び、そしてクリリン等はもう「し、信じられねぇ!いいぞ悟飯!そのままやっちまえ!!」と感激しきり。

だが、この戦いの様子に違和感を抱いている者が一人いる。

誰であろう、それは悟飯その人だ。

 

(おかしい…妙な手応えだ)

 

何かは分からない。

だが、悟飯はこういった妙な反応…そう、やられているのにまだまだ余裕を感じさせる相手の妙な態度というものを知っている。

 

(まさか、フリーザの奴…何か奥の手を!)

「…ならば、それを使う前に殺す!」

 

悟飯のギアがまた一段上がる。

肉体も気も温まりきった悟飯が猛然とフリーザに迫り、そしてまたフリーザの首筋に強烈な蹴りを見舞ってやれば、フリーザは高速で吹っ飛び大地を刳りながら地平の彼方に消えていった。

 

「かめはめ――」

 

悟飯は間髪入れず即座に腰を落とし、構える。

由緒正しき亀仙流奥義にして、孫家がもっとも頼る技。

 

「――波ァァァァァ!!!」

 

青白い生命の波動エネルギーが破壊の熱光線となって敵に突き進む。

目指すは地平に倒れる宇宙の帝王。

 

「真価を見せず、そのまま死んでしまえ、フリーザッ!!」

 

構える悟飯の両掌にさらに気が込められて、確実に敵を屠らんとしたが、しかし…。

 

「っ!なっ!?」

 

悟飯の目が、軌道を変えて天へと跳ね返されていくかめはめ波を追っていた。

全力のかめはめ波だったはずだ。

ピッコロも、クリリンも悟飯が勝ったと思ったに違いない。

悟飯と同じようにその目は驚愕に染まり、そしてかめはめ波が軌道を反れた事実に戦慄する。

 

「驚きましたよ」

 

その声は静かに響いた。

何故か、地平に吹き飛び、そしてそこでかめはめ波を弾いた筈のフリーザの声が、悟飯の背後からするのだ。

悟飯の頬にも額にも、そして背中にも、イヤな汗がジトリと滲んだ。

 

「この〝変身〟は、孫悟空とクウラの為に取っておくつもりだったのですがねぇ」

 

穏やかな口調。

まるで第1形態の時のような、慇懃無礼なその言葉遣い。

悟飯は歯を悔しそうに食いしばり、そして振り向きざまに裏拳を叩き込んだ。

 

「お前は私の想像以上に遥かに強かった。

誇っていいですよ、孫悟飯」

 

悟飯の裏拳は空を切り、そしてまたも彼の背後からフリーザの声。

 

「っ!」

 

諦めず、また悟飯は振り向きざまの蹴撃を繰り出そうとして、そして今度は己が吹き飛んだ。

 

(なん、だ!?殴られた!?ほ、ほとんど、み、見えなかった!)

 

超高速のパンチ。

そのたった一発が悟飯の脳を激しく揺らし、全身を痺れさす。

 

「ホホホホホ!!」

 

高笑うフリーザを、悟飯はぶっ飛びながらもかすれた目で睨んでやると、そこには先程までの白い小男はいない。

そこにいたのは全身を黄金に輝かせた小さな男。

そいつが指先に死の予感を匂わせる光を収束させていた。

 

「黄金、の…フリーザ…!?っ!ぐああああああ!!!」

 

悟飯の体を無数の光の矢が貫いていく。

まるで甚振るかのように致命傷を避けつつ、フリーザの指から放たれたデスビームは横殴りの雨となって悟飯を貫き続ける。

 

「ホッホッホッホッ!そのまま穴だらけにして殺してあげましょう!

孫悟空が気付いてやって来た時には、対面するのは穴だらけの酷い息子の死体、というわけです!」

 

いっそ美しい紫の光の雨に飲まれる悟飯。

それを見てピッコロとクリリンは叫び、そして何とか助けようと試みるものの、彼らも無数のフリーザ軍兵士の相手をしているのだ。

救援など無理な話。

 

「悟飯っ!!!」

 

それでもピッコロがその光の雨に何とか飛び込もうとした、まさにその時。

空から一条の光が降り、まるで孫悟飯とフリーザの間を断ち切るように降り注いだ。

 

「な、なに!?」

 

ピッコロは叫んでいた。

なぜなら、降り注いだ光はまるでフリーザのデスビームと同じだったからだ。

 

「悟飯を…守ったというのか!」

 

驚きながらも、ピッコロにはその光を放つ男に一人心当たりがある。

フリーザのビームの雨霰を、空から一発たりとも撃ち漏らす事なく、相殺していく針の穴を通すが如き神業。

超精密な機械のようなその技量。

 

「へ…ま、まさか…あんたがそこまでしてくれるとはな!クウラ!」

 

眩い太陽を背に、まるでフリーザのようなシルエットが浮かんでいた。

そのシルエットに、この戦場にいる誰もが眼を惹かれていく。

フリーザ軍も、そして兵達の猛攻い息も絶え絶えになっていたクリリン達も…そしてフリーザも。

太陽を背負っていたシルエットがゆっくりと滑り落ちてき、そしてギュチッという音とともに逞しい脚の三本指で大地を掴んだ。

 

「っ…、ク、クウラ…!」

 

フリーザが忌々しげにその者の名を告げる。

 

「久しいな、弟よ」

 

フリーザに良く似た声が、静まり返った戦場に響いた。

 

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