スーパーメタルクウラ伝【本編完結】   作:走れ軟骨

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狂える神と怒れる機械

そこは絶望的な未来だった。

絶望への反抗を試み、仲間達も師匠も失って、母と二人、手を取り合って必死に希望を紡いできた。

タイムマシンを造り上げ、過去時間へと繋がるパラレルワールドへ渡り、そしてそこで彼が本来住み暮らす時空では出会えなかった…過去に失っていた多くの仲間、まだ若い家族、そして元気で幼い頃の師匠と出会って、学び、強くなり、そして掴んだ一縷の希望。

彼は本来の時空に戻り、悪夢の元凶である人造人間を破壊し、セルをも完全体となる前に滅ぼし、世界に平穏を取り戻した。

僅かな物資を巡って奪い合いが起き、野盗賊徒が蔓延るし、誰もが貧しく苦しい生活水準だったが、それでも突如迫りくる人造人間による絶対的な死に怯えなくてよい世の中は幸せだった。野盗の襲撃など自衛できる範疇なのだから。

 

その一時はささやかな平穏と言えた。

 

時を渡った青年は、その平穏を守る為に身を粉にして、陰になり日向になり戦い続ける。

疲れ切り困窮する弱者をその力で守り、襲ってくる野盗を撃退し、時には「人間同士で争っている場合か」と諭し、古の魔神が蘇ると聞けば、神と協力し、それを目論む者達を命を賭けて倒した。

青年と、彼の母の献身によって、少しずつ世界はまとまり、復興し、ボロボロに傷ついた人類は一歩一歩、歩みは遅いものの着実にかつての活気を取り戻していく。

 

人々に笑顔が戻りつつあった。

 

このままいけば、いつか人間はかつての栄光と平和を取り戻せる。人々はそう信じていた。

 

 

 

 

 

だがそれは無情にも消え、潰えようとしていた。

 

世界を、再び災厄が襲ったのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

圧倒的な力を持った謎のサイヤ人の襲来。

今は亡き孫悟空と酷似したその男は、その身を黒衣で包み、宇宙の星々を襲った。

様々な宇宙の、様々な星から知的生命体…即ちニンゲンだけを襲って根絶しようとしていた。

言うまでもなく、そいつは孫悟空の肉体を奪ったザマスだが、未来時空に生きるトランクス達が知る由もない。

 

ブルマ、トランクス親子は、その破壊者をゴクウブラックと呼称し、人造人間の災いの時の経験を活かして、抵抗軍を組織して歯向かった。

だが、バビディ一味さえ倒したトランクスでも、ゴクウブラックには敵わない。

加速度的に強くなるゴクウブラックは、成長率だけはまるで本当の孫悟空のようで、トランクスとの戦力差は広がる一方。

やがて、ブルマとトランクスは、ブラックの単独撃破に見切りをつける。

そしてとった策が、タイムマシンの再利用―――即ち、過去時間の並行世界への再度の渡航であった。

 

だが、あらゆる資源不足に喘ぐ未来社会。

タイムマシンというエネルギーの大食いマシーンの使用は、生半可な努力では出来ない。

人造人間との戦いにおける使用でも、太陽発電を利用しても8ヶ月ものチャージを要した。

戦うための時間も物資も、大いに不足しているのが現状だ。

 

そんな親子は、今は息を殺すようにして旧カプセルコーポレーションの施設の一角にいた。

こそこそと隠れるように行動を続け、ようやくタイムマシンのエネルギー充填は成りそうであった。

 

「このエネルギーを造るために、どれだけの命が犠牲になったか…忘れないでね。……いい?トランクス。あなたには、他の全てを投げ捨てでもやり遂げなきゃいけないことがある。…わかるわね?」

 

「…はい、母さん」

 

シリンダーケースを大切そうに抱えたブルマが、息子に言い聞かせる。

その顔は、苦労に苦労を重ねたのであろう…自慢だった美肌も荒れ、シワは深く、多くなり、さらさらの髪だって、伸びたものを無造作に束ねているだけだ。

それでも、トランクスは母のその凛々しい貌を美しいと思った。

 

青い液体が波打つシリンダーケースは、まさに今の人類の希望だ。

そして、それを受け取ったトランクスもまた、現人類の最後の希望。

 

「あなたは皆の希望なんだから。でも、大丈夫。あの時だって…あなたは立派にやり遂げた。今回だって………諦めなければ、希望は失われない」

 

「はい!」

 

「…イイ返事ね。さっすが、私の息子」

 

完全無欠のイケメン青年になった自慢の息子。その頭を撫でると、トランクスははにかみながらもそれを受け入れていた。

ふふ、と笑ったブルマは、シリンダーケースのスイッチを操作すると、強化ガラスの周りを装甲が覆う。このような所にもブルマの技術力が光っていた。

 

「よし!じゃあ、後はこっそりと…あいつに見つからないように行きましょ。母さんは、ナメック星でも()()フリーザ達に見つからないでいられたのよぉ~。スゴイでしょ?母さんって才能あるのかも――」

 

緊張続きの息子を和ませる為か、少しフザけた様子のブルマの言葉を遮ったのは爆音だった。

突然の爆発が、施設を襲う。

爆風が届くよりも先に、トランクスが母を庇い、襲い来る衝撃と炎から守る。

 

「きゃあ!!?」

 

施設の爆破事故などではない。

爆発はさらに激しく、多くなり、しかも施設のコアブロックを的確で立て続けに起こった。それは明らかに攻撃だ。

 

「し、施設が…!」

 

トランクスの顔が悲痛に歪む。

旧カプセルコーポレーションの、このエネルギー供給施設がなければ、今後、タイムマシンを使用することは格段に困難になる。

ブルマの腕前があれば施設の修理は出来るが、無い無い尽くしのこの世界では、もはや大規模施設の修理は物理的に不可能だ。

 

「っ…トランクス、行きなさい!!これを持って!」

 

ブルマは頭の良い女傑だ。

とうとうここを嗅ぎつけられたという事実が、これから何を齎すかを察して、息子に全てを託す決意をいち早くしたようだった。

 

「母さん!?何を言っているんですか!一緒に…うわっ!!?」

 

エネルギーシリンダーを押し付けられた瞬間、もっと大きな爆発が二人を包む。

咄嗟に気を放出して、母へ迫る衝撃への緩衝材とする事が出来たと思うが、トランクスでさえ吹っ飛んだその爆発では、ただの地球人であるブルマの身が心配だった。

 

「か、母さん!?」

 

身を起こし、必死に母を探す。

しかし、魔手はすでに母に伸びていた。

母の首を掴み上げ、捕えて離さない。

 

「そ、その手を――」

 

その手を離せ、と叫び、背の剣を抜刀しようとした瞬間、母その人がトランクスを止めた。

 

「行きなさい…!行きなさい!!トランクス!!」

 

「母さん!!」

 

締め上げられる母の声が、かすれ、酷く苦しそうだ。

ブラックの腕だ。

怨敵の腕が、最愛の母の、衰えが見え始めた細い首を締め上げている。

トランクスの瞳に怒りが湧く。

苦労を重ねる中でも無限の愛を注いでくれた母の首を捻り上げられ、それに怒らぬ息子などこの世にはいない。

サイヤ人の血統も、その怒りの湧き上がるのを手伝う。

サイヤ人の血が叫ぶのだ。敵を殺せと。

希望など、もうどうでもいいじゃないか。敵わぬ強敵にがむしゃらに挑み、そして全力の戦いの中で散るなら、それもいいではないかと。

無様に生き延びて、愛する人を失い続ける生に何の意味があるのか。

 

(…!俺は…ここで、たとえ勝てなくても…!母さんを守って、死にたい!)

 

そういう衝動に突き動かされかけた瞬間、やはりそれを止めたのは母だった。

 

「行って…!はやくっ!!お願い、トランクスっっ!!」

 

「っ!母さんを置いて行けません!!」

 

母の願いは、希望を守れとか、人類のためにとか、そういう大層な事を言ってはいたものの、その実たった一つだ。

息子に生き延びて欲しい。

たとえ世界が滅びようとも、過酷な世の中に放り出される事になろうとも、ただただ子の無事を祈って、そして寿命が来るまで生き延びて、そしてその中でどんなにささやかでも良いから幸せを見つけて欲しかった。それだけだ。

 

「生きて…トラン、クス…」

 

苦しいだろうに、締め上げられる中で、母は笑ってそう言った。

揺らめく炎の中で、ブルマの首を捻り上げるブラックがニヤリと笑った気がして、そしてその邪悪な笑顔を見た瞬間、トランクスは怒れる感情を制御し、そして何とか咄嗟に身を引けた。

母の呟きが息子の命を救う。今までトランクスがいた場所を殺人的な光が通過し、トランクスの肩を抉る。

 

「っ、ぐ!?」

(母さんの言葉を聞いていなかったら、今のでやられていた!)

 

「逃げるのか?トランクス。…母を捨てて」

 

トランクスにとって、ブルマにとって大切な存在…孫悟空と同じ声で囁かれる冷酷な言葉。

ブラックから、さらなる一撃が放たれ、直撃こそ免れるものの、トランクスは遥か後ろに転がっていく。

 

「…ぅあっ!」

 

このままでは、母の命も失われ、エネルギーシリンダーも、過去時空の母へ渡すタイムマシンの設計図も、そして母から貰ったこの命も、全部が失われてしまう。

トランクスは、非情な決断をせねばならなかった。それが母の願いだと、息子は理解していた。

 

「母さん!!!」

 

また守れない。

一瞬、トランクスの脳裏に、隻腕の師の影と母がダブる。

 

誰でもいい。神様が無理ならば、悪魔でも。

もう僕から、大切な人を奪わないで下さい。

 

祈りなど無意味だ。

この世界を生き抜いてきたトランクスは、それを知っている。

祈る暇があったら戦うのだと、幼い頃からこの身に染みている。

それでも今は祈らずにはいられなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

斯くして祈りは届く。

神は死に絶えても、この世界にはまだ悪魔はいたらしい。

ブルマの首が軋み、今にも胴から千切れ飛びそうになった瞬間、千切れ飛んだのはブラックの腕だった。

 

「っっっ!!!!?なっ!?あ、ぐぁああああああああ!!!?」

 

ブラックの勝ち誇った顔が驚愕に染まり、次いでズタズタに裂けた傷口を抑えて激痛に叫んだ。

 

「えっ!?」

 

トランクスもそれは同じ。

ありえない光景だった。

この世に、もはやブラックと張り合える戦士は曲がりなりにも自分一人だけだ。

宇宙全土、隅々まで神も強戦士も殺し尽くされ、トランクスは名実ともにたった一人の戦士だった。

だが、今、目の前でブラックは致命的なダメージを負って、藻掻き苦しんでいる。

鬼のような形相で、ブラックがギリッと歯を鳴らし、ガクガクと震える。

 

「お、おぉぉ…、わ、私の…う、腕、が…!き、貴様…なんという、だ、大それた事をっっ!尊き神の、私の、腕をっ!!なっ、何者がァァァっ、このような不敬をっっ!この世界唯一の神に対してっ!!!何者があああああああ!!!」

 

左腕からおびただしい血を垂れ流しながら、ブラックは痛みさえ怒りで掻き消して、憎悪のままに気を高め爆発させる。

 

「…っ、くっ!か、母さん!!」

 

猛烈な爆発。トランクスさえ余波で飛ばされ、体中をしとどに打ちながらも受け身をとって施設外に見事に着地する。とは言っても、既に今の爆発で施設など跡形も無いが。

油断せずに爆心地を見るトランクスの目には、警戒心と共に、縋るような色も多分に含まれていた。

 

(ひょっとしたら、母さんは…助かったかもしれない!)

 

何者かが乱入し、しかもそいつはブラックの腕を一撃で跳ね飛ばした。

そんな場面を目撃してしまっては、そういう願望が湧いてくるのも仕方ない。

この絶望だらけの世界で、そんなチープで都合の良い結果は見たことがないが、それでも、今回だけはそれを期待したい。望みたい。

これで、〝結局母が死んでいました〟では、一瞬のあのぬか喜びは余りにも残酷で、ならばいっそ助けなど来ないほうがどれだけ心の苦痛は楽だったか知れない。

だからというわけではないが、どうか母を助けて欲しいと、トランクスは一心に祈る。

 

(そうだ、この際…悪魔でも!悪魔でもいい!どうか、あの神を名乗る悪魔を…本当の悪魔が裁いてしまえばいい!)

 

その本質は悪とされるサイヤ人の血が、そう叫んでいた。

目に殺気を漲らせ、敵ともう一人がいるであろう真紅の炎を睨み、炎へと飛び込んだ。

吹き飛ばされても尚燃え盛る炎を掻き分けて、トランクスは母を呼び叫ぶ。

 

「母さん!母さんっ!どこです!無事ですか!母さん!!」

 

さっきまで見捨てようとした癖に、とも自分で思う。

だが、とにかく今は母が心配だった。

人造人間事件、バビディ襲来、そしてブラック出現。…ずっと母と二人肩を寄せ合って生きてきた。

悟飯を失ってからは、とくにトランクスにとっては唯一の心の支えだった。

その母を、見捨てる切っ掛けが一度でも失われてしまえば、もう二度と母を見捨てる事は出来ない。そういう青年だった。

 

「母さん!かあさ――…っ!あ、あなたは…」

 

「…フン。貴様の母のお守りくらい、貴様がするのだな」

 

炎の海の中でトランクスが見た物は、尾を持つ銀色の戦士が、母を乱雑に片手で持つ姿。

その光景こそ女性への気遣いなどないモノであったが、しかしトランクスには、銀の怪人が母を傷つけないように、一定の丁重さを持っているのが分かった。

でなければ、この猛火の中でただの人であるブルマが生きていられるわけがない。

「ありがとうございます」とそう言いかけた所で、母を抱きかかえる男は無造作に母を放った。

 

「あっ!?」

 

「受け取れ」

 

滑り込むように、慌ててブルマを受け取ると、そこには確かに母の温もりがあった。

気絶しているものの、ブルマは間違いなく生きている。

 

「あぁ…母さん…母さん…!よ、良かった…!生きている…生きて、くれている!……………あ、ありがとうございます!あなたの名前は?」

 

涙を湛えながら母をしっかりと抱きかかえて、トランクスは炎の海に佇む戦士の顔をしっかりと見て、そして――

 

「っ!?」

 

そして僅かに息を飲んだ。

かつて地球に飛来し、細切れにして消滅させたフリーザと、その父コルド。その面影を感じたのだ。

しかも彼らの種と共通するしっかりとした尾もある。だが、逆に種の特有の体色パターンを、眼前の男は持っていない。

銀色一色に染め抜かれたボディは、いっそ芸術品のように美しく磨き抜かれていて、気品さえ感じさせるが、所々に機械的な意匠も見られた。

 

(もしや、ドクターゲロが残した人造人間シリーズか)

 

一瞬、トランクスはそうも思う。

尻尾を翻すあの姿は、セルに通じるものもあるし、本当にあの銀色の肉体が機械ならば、それ程のロボットを造れるのはドクターゲロしかいないだろう。

有機素体のバイオサイボーグの究極がセルならば、恐らくあいつは純粋な機械タイプで至高を目指したロボットサイボーグといった所か。

可能性としては、やはりドクターゲロが関わっている線が濃い。

まさか、(ブルマ)が造った奥の手とも思えない。

第一、もはやブルマにはあんなロボットを造る余裕は、物資的にも時間的にも無かったのは確実だ。全てのリソースはタイムマシンに注がれていたのだから。

 

もし、ブラックを圧倒しているあいつがドクターゲロが残した人造人間ならば、トランクスはこの助力を喜んでなどいられない。

ブラックが死んだら、次は確実にトランクスであり、そして世界は再び人造人間の気まぐれにいたぶられるだろう。

 

(だけど、そんな事はありえない。だったら、ブラックの攻撃を遮って母さんを助ける意味がない。陰から眺めて、ただ僕らとブラックが潰し合うのを見ていれば良かったはずなんだ!)

 

事情も正体もさっぱり見えてこないが、この人は味方だ。

トランクスは、そうハッキリと確信していた。

名を教えて欲しいと言ってから、たっぷりと数秒も口も開かずに、目の前の銀色の怪人は、冷ややかな赤い瞳をトランクスに向けているだけだったが、

 

「俺の名を知ってどうする」

 

拒絶の意志が籠もる冷たい口調でそう言った。

だが、トランクスはそれでも恩人の名を知りたい。

 

「その名を、僕の心に刻みたい…それだけです。恩を受けて、その名も知らないのでは…きっと、死んだ父も怒るでしょうから」

 

「…………ベジータか」

 

その名を呟き、僅かな間、彼は赤い瞳を閉じた。

その瞼の裏には、この時空では既に故人である、二人の強大なサイヤ人の姿が浮かぶ。

あれ程に苦戦し、何度も死闘を繰り広げ、一族同士の因縁で雁字搦めになっていた最強の超サイヤ人が、こんなにもあっさりと死んでしまっている。

そういう事実があるこの時空、歴史は、冷徹なこの男をしてセンチメンタルな感情に心を支配されかけるのだ。

 

「父さんを、知っているんですか?」

 

「……貴様らサイヤ人とは何かと因縁がある。どれだけ踏みつけられても、ゴキブリのようにしつこく生き続ける連中だと思ったが…。そのサイヤ人も、とうとう貴様が最後とはな」

 

赤い目が再びトランクスを見た。

 

「そうです。オレは最後のサイヤ人…最後の戦士。だから、あいつを…ブラックを何としても止めなくてはならない!そのために…オレは、悪魔にでもなってみせる!!」

 

「フッ、ハハハハ。……悪魔か。そいつはいい。なるほど…奴を殺すために、お前は母さえも一度は見捨てようとした。母を抱きしめ、ガキのように涙を流す程の情を持つ貴様が、だ」

 

指摘され、トランクスは大きな羞恥に心を抉られる。

母を愛している。それは間違いないのに、そんな母を捨てようとしたのも事実。

たとえそれが、明日の勝利への布石だとしても。母の願いだったとしても。

 

「甘さを捨てきれず、それでも非情な決断をしようとした貴様は……素晴らしい。この過酷な世界が、貴様を立派な戦士に育てたようだ」

 

意外にも評価されていた。トランクスの目が丸くなる。

 

「いいだろう。俺の名を教えてやる。俺の名は…… ―――メタルクウラ」

 

「メタル、クウラさん」

 

「…………お前はさっさと、その地球人を連れてここから離脱しろ。俺と奴の戦いの邪魔になるだけだ」

 

「オ、オレも一緒に戦います!クウラさんが強いのは分かりますけど、あいつの…ブラックの戦い方ならオレの方が詳しいし、あいつは…傷つけば傷つくほど強くなるんです。危険な奴です!」

 

「今のお前では足手まといだと言っている」

 

「で、でも!」

 

「その地球人を守るのが、今のお前の役割ではないのか?」

 

腕の中の母を指さされ、トランクスはハッとした顔をしてから項垂れる。

 

「…わかりました。でも、充分気をつけてください。母を安全な所に運んだら、オレもすぐに戻ってきます」

 

「……………好きにするがいい」

 

「はい!ご無事で、クウラさん!」

 

気を拭き上げて飛び去っていくトランクス。

その背を僅かに一瞥し、直様メタルクウラは気が千千に乱れている人物…ブラックへと意識を再度傾ける。

もちろん、トランクスと話している最中もメタルクウラのセンサーは常にブラックへと注視されていて、その僅かな挙動すらも見抜いていた。

 

「片腕を失ったぐらいで、あの有様か…情けない。やはり肉体がサイヤ人というだけではな」

 

そう呟くメタルクウラの声は、どこまでも冷ややかだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ブラックの波動が施設の化学燃料も希少金属による建材も何もかもを燃やして、普通ではない燃え方をする炎のベールが視界を奪う。

突如乱入した何者かの姿を隠していて、ブラックの目を持ってしてもハッキリとは見えないし、気を読めるようになった彼にもソイツの気は読みにくかった。

だからこそ、ブラックは致命的な奇襲を許してしまったのだ。

そして今は、負った重傷のせいでさらに気を読む精度は低下していて、ブルマはもちろん、トランクスの気さえも集中力を欠いてろくに読めないし、燃え上がる感情のまま重傷の体で気を爆発させたブラックの消耗は激しく、態勢を立て直すのにも中々の時間がかかっていた。

肩を揺らし荒い呼吸を繰り返すブラックの額には、脂汗が滲む。今も凄まじい痛みが、ブラックを蝕んでいた。

なんとか立て直し、サイヤ人の優れた目を頼って瞳を凝らせば、その猛火のベール越しでも解る事がでてきた。

 

「ぐ、ぅ…ハァ、ハァ…ッ、…ひ、光り?」

 

キラキラと輝く光り。それは気の放出だとか、ライトの光りではない。

薄暗い空に浮かぶ暗い月の光を、そいつは体表で乱反射させていた。

一瞬、炎の隙間から、その者のスカイブルーに輝く銀色の肉体が垣間見え、炎の照り返しがより鮮やかにそいつの体を光り輝かせた。

そして、機械的な重々しい音と共に歩みを開始し、光を乱反射させる黒い人影は猛火を物ともせずに、ゆっくりとブラックへと近づいていく。

 

「…貴様は…」

 

口を開かぬ銀色の怪人…メタルクウラは、戸惑うブラックに向けて徐々に加速し、走り出す。

大地を蹴る、力強い重機のような重い音が、リズムよくビートを刻んだ。

 

「貴様はァァァ!!」

 

冷静になれば、今は逃げの一択だろう。だが、神としての矜持を著しく傷つけられたブラックには、そのような冷静さは消えている。

神にあだなす愚者に、裁きの鉄槌を。ブラックの精神はその文字で埋め尽くされていた。

走り迫るヒューマノイドを殺すためのパワーを、憎悪と怒りと共に片腕に込め、撃つ。

 

「滅べ!」

 

エネルギー弾が、真っ直ぐに銀色の怪人に吸い込まれ、そして命中の瞬間、ブラックをまたも驚愕を襲う。

防御姿勢をとることもなく、ただ走ってくる怪人の体皮が、殺意の一撃を完全に弾いていた。

 

「そ、そんな馬鹿な!?ど、どんなトリックを使った!!」

 

より研ぎ澄ました気を手にまとわせ、そしてエネルギーの矢を連射する。

どんどんと出力を上げた連続弾。しかし、そのどれもが結局、メタル色の肉体には通用しない。

弾かれ、受け止められ、そよ風をかき分けるようにそいつはエネルギー弾の弾幕を押し通ってくるのだ。

 

「…っ!!ば、馬鹿な…!違うっ、これは、違うっ!!こんなのは間違いだ!この腕が、こんな状況でなければ…気を集中できれば貴様程度に、この私の攻撃が……っ、ぐ、ぅぅぅ!ち、近づくなぁぁぁぁ!――ぐおォっ!!?」

 

突如、跳ねて速度を急上昇させた怪人。その銀の拳がブラックの腹に深々とめり込んで、彼の顔を苦悶に歪める。

 

「ごはっ!?」

 

続けて、しなる尻尾が顎を打ち、黒衣のサイヤ人の体を持ち上げ、流れるように3撃目が体を浮かせた彼の頭上から降り注いだ。

三叉の大きな足の裏が、ブラックの脳天を宙で踏みつけた。

 

(…っ!!お、重い!!そして、こ、この感触…っ、こ、こいつ…機械だと!!!?ま、まるでメタルマン族のようなパワーと硬度…!)

 

締まったボディからは想像もつかぬ程の重量感。

その重量が、スピードを味方につけてブラックを襲う。

一直線に大地に縫い付けられ、彼の顔面でもって大地を割った。

 

「が、はっ…!き、機械風情が…っ!っ、――ぐぁあああああ!!!」

 

機械仕掛けの魔人は、そのまま何度も何度も執拗に後頭部を踏みつけ、その度に大地が震える。

表情一つ変えず、冷たく輝く赤い瞳が、ただ静かにブラックの倒れざまを眺めていた。

 

(う、嘘だ、嘘だ嘘だ嘘だ!こ、この私がっ、罪深きサイヤ人の、孫悟空の最強の肉体を得て至高の神となったこの私がっ!たかが、ニンゲンが作り出した機械人形風情にっ!!?)

 

――足蹴にされている!

 

踏まれるという、この攻撃。

これはプライドの高いブラックの、ザマスの心を、肉体ダメージ以上に深く抉っていた。

ドンッドンッドンッ、と地が揺れ続ける。

ブラックの後頭部に、背に、容赦ない踏みつけは今も続く。

 

「っ…!がっっ!が、ああああああっ…!」

 

サイヤ人の屈強な体が悲鳴を上げている。

骨が砕けつつある。

 

(い、傷みが私を強くする…!だが、こ、これでは…回復も強化も間に合わん!!)

 

鋼鉄の脚による超高速のスタンピング。

それを、しかも今ではブラックの首に尻尾を巻きつけ、固定させた上で行っている。

これ程の容赦なき殺意は、ブラックですら体験するのは初めてだ。

 

(このまま、人間0計画は終わりを迎えるのか…!いや、そんな事はあってはならない!こ、こんなイレギュラーで、私の、絶対の計画が!!正義の計画が、頓挫するわけがないのだ!!!)

「うおぉおおおおおおおおおーーーーーーっ!!!」

 

「…む」

 

またも一気に全気力をエネルギーに変えて放出したブラック。そこで初めて機械仕掛けの怪人は声を発した。

莫大な気の奔流が爆発を起こし、その衝撃を利用して彼は素早く拘束を解いた……と、思いきや、それは出来ていない。

 

「が…あ…っ、っ!く、ぐ…!」

(か、硬すぎる…!!)

 

「虚仮威しだな…サイヤ人。いや、貴様をそう呼ぶのも忌々しい」

 

寡黙であり続けたそいつは、一度堰を切って幾らか流暢に喋りだし、無表情だった顔にも表情が生まれた。その顔は、酷く不愉快そうに見えた。

ブラックは得意の手刀で尻尾を切断してやろうとしたが、尻尾の装甲には薄っすらと傷が刻まれただけで、とても切断などできない。

逆に、その抵抗によって更なる締め上げにあい、ミシミシと首の骨が悲鳴を上げる。

ブラックの瞳の焦点がぼやけ、黒目が正気を失って白く染まりつつあった。

 

「あ゛…っ、あ、あ゛、が……っ、~~~っ、……っ…!!」

 

首を尻尾で持ち上げられ、宙ぶらりんになった彼をサンドバッグに、殴り、蹴る。

呼吸も阻害され、ブラックの命はあっという間に風前の灯火に追い込まれたが、次の瞬間、ようやく彼の()()が到来した。

 

「っ!」

 

延髄蹴りが、サイボーグ戦士を数m吹き飛ばし、意図せぬ角度からの攻撃は、要塞のような堅牢さで全ての攻撃を弾いてきたこの男を初めて揺さぶった。それも、ほんの少しだが。

尻尾で地を蹴って体を回転させ、素早く態勢を整えて、敵の援軍を見据える。

銀色の戦士と、黒衣のサイヤ人が向き合う。そしてサイヤ人に肩を貸しながら、彼の傷をみるみる間に癒やしていく者が一人。

端正なマスクに、薄い黄緑の肌。

芯人特有のモヒカンのような髪。

界王神候補・ザマス。

 

「手酷くやられたようだな」

 

「ごほっ…来るのが遅いぞ…!私が死ねば、我らの計画はそこで終わるのだぞ!」

 

「すまない、時空の調査には、時の指輪を使っても時間がかかるからな。とにかく今は…――」

 

ザマスが、銀色の戦士を睨みつけた。

 

「――あいつを除かねば」

 

ブラックの負っていた瀕死の傷は既に癒え、千切れた腕は、まるでナメック星人のようにじゅるじゅると伸びて両腕が生え揃う。

ブラックは再び余裕を取り戻したようで、嫌らしく口を弧にして笑う。

 

「貴様のおかげでまた私は強くなった。……さっきは不意をつかれて変身する間も無かったが…力を増し、そして変身した私には、貴様は勝てん」

 

「傷つけば傷つくほど力が増す。…フッ。()()()()力だ。別段、誇る事でもあるまい」

 

「なに?」

 

ピキリッ、とブラックの額に血管が浮き出る。

 

「この力は、私だけの特性!!サイヤ人には出来ぬ力の精緻を、神の私だからこそ引き出せたのだ!どの並行世界を見渡しても、私のこの尊い能力を備えている者などいない!」

 

「そう思っているのは貴様だけだ。愚かなる神よ」

 

「っっ!!!かっ、神をっっ侮辱するか!!!!機械風情がぁぁぁぁ!!!!この超サイヤ人ロゼのパワーを見せてやる!!!」

 

怒りのままに気を高め、紫紺のオーラをまとって髪の色をも紫に変えたブラック。

それを迎え撃つ銀色の戦士は、嘲るような笑みを絶やさず向け続けて、そして吐き捨てるように言った。

 

「神風情が」

 

その言葉を確かに聞いたブラックの目がより大きな怒りに血走った。

怒りのままに叫び、猛烈な速度で体全体で殴りぬくように、手刀を銀色のボディに叩き込む。

メタルクウラは両腕をクロスさせ、ブラックの渾身の一撃を真正面から受け止める。

 

漲る気の刃と、メタルクウラの装甲が競り合って、キィィィィンという高周波が辺りに広がり、そしてブラックの刃がメタルクウラの防御を貫いた。

 

「っ」

 

「クッ、クククク!!勝った!」

 

勝利を予感し、すれ違いざまに笑ったブラックは、勢いのついた己を地面に擦らせ、そのまま転がり跳ね上がってメタルクウラを睨んだ。

微動だにせぬメタルクウラの背が、ブラックの目に飛び込む。

 

「…さっきの礼だ…機械め!」

 

メタルクウラの後ろ姿。

そのシルエットには、左腕が無い。

今度はメタルクウラの左腕が、根本から切断されていた。

 

「もはや片腕では戦えまい。見るが良い…人間。これが神と人間の差だ」

 

勝ち誇り、勝利の宣誓をする神。

しかし、メタルクウラは静かに笑い、そしていつか孫悟空に言ってやったセリフを、同じ肉体を持つこいつに言い放ってやる。

 

「俺の弱点は、ビッグゲテスターのメインコンピューターによって直ぐに補強され修復される。お前が死にものぐるいで俺を倒したところで、俺は何度でも蘇るのだ……さらに強くなってな」

 

「…なに?――っ!?」

 

メタルクウラの傷口…破損断面からメインフレームが液体金属のように伸び、その周囲を無数のコードが這い伸びる。

体表装甲も、光の粒子が煌めき集って、またたく間に剥き出しの機械構造を覆い隠す。

キュィィ…という駆動音と共に、メタルクウラの完全復元された左手が、その修復具合を確かめるように握られて開く。

 

「言ったろう?強化修復など、芸のないよくある能力だと。知的生命体…ニンゲンが生み出した科学力は、既に神を超えているのだ」

 

「き、貴様…!貴様は…一体何者だ!もはやこの世界には、これほどの使い手は存在しない!どの時空からやって来たのだ!」

 

「フフフフフ…どうした?神なのだろう?俺の正体ぐらい分からぬのか?」

 

嘲るメタルクウラを前に、ブラックとザマスは小さく舌を打つ。

彼らはゴワスから奪った時の指輪で、現存する並行世界を幾つも調査してきたが、その中に該当する者はいないのだ。

これ程の強戦士ならば絶対にザマスは要警戒とマークする筈だが、不思議とザマスは眼前のメタルクウラを知らない。

憎らしいと睨んでくる二柱の狂神に、メタルクウラは口角の端を上げる。

 

「貴様らが知らぬのも無理はない。俺は神共の目をくらますジャミングが得意だからな。それに……他の並行世界では、俺はどうやら孫悟空に二度殺されて以降…歴史の表舞台からは消えているらしい」

 

「…やはり、他の時間から来た者か…人間という奴らは、やはり救えぬ罪人だ。時間移動を繰り返し、世界の美しい調律を乱していく」

 

歯ぎしりするブラックの横で、ザマスもまた驚きと、そして怒りと憎しみに眉をひそめる。

 

「まさに罪の具現…森羅万象に唾吐く愚物!神の領域を汚すロボットなどと!これだから人間を生み出すべきではなかったのだ!人間の技術力が…こうまで神の領域を侵しているとは!!」

 

「あぁ。やはり、早急に人間0計画は遂行せねばならないようだな…」

 

「うむ、人の過ちの極限たる()()…完全に、跡形も残さず抹消せねばならない!」

 

二柱の神が機械を睨み、そして機械は笑った。

 

「出来るものなら…やってみろ」

 

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