スーパーメタルクウラ伝【本編完結】 作:走れ軟骨
夜が明けた。
あの身の毛のよだつボージャックの断末魔を聞いた時から、
彼女は生きた心地がせず一睡もできなかった。
ザンギャの切れ長の瞳の下には薄っすらと隈ができていて彼女の疲労を伺える。
「みんな…みんな死んだ……」
ガタガタと震えて、祈ったこともない神様へ助命を乞う。
このまま見つかりませんように、と。
だが。
ギュピ、ギュピ、ギュピ
砂と石とが強く擦れる音が規則的なリズムを刻んで近づいてくる。
「あ…、あ、あぁ…」
何故バレたの。
どうして私の居場所が分かったの!
逃げなければ、殺される…!
ザンギャは足の震えを抑え込んで地を蹴って空を飛び駆けた。
疲れも忘れて気を全開にして只々逃げた。
(大丈夫…! 追ってきていない!)
彼女の後ろには何の気も感じられない。
ひょっとしたらスピードは自分のほうが上なのかもしれない。
自分より素早いブージンがやられたのは、あの未知の気弾による奇襲のせいで、
まともに戦っていればブージンや自分がスピードで翻弄できたのではないか。
そうだ、実戦では持ち味を活かせず命を落とすことは多々ある。
(あの時は、アイツのペースに嵌ってしまっただけだ!)
自分に言い聞かせるようにして鼓舞する。
屁理屈を捏ねて自分の心を勇気づけなければ、まともに逃げることも出来なくなりそうだった。
ぐんぐんと景色が後ろに流れ、超が付くほどの速度で空を行くザンギャだったが、
ガシッ、
と自分の足首を掴んでくる感触。
血が凍り心臓が口から飛び出しそうな程に驚嘆し恐怖する。
何かの間違いであって欲しいと思いながら自分の足を見れば、
「ひっ」
あの異星人がしっかりと足首を掴んで離さない。
グンッ、とザンギャの体が引っ張られ一気に惑星の重力に絡み取られた。
いや、重力による自由落下ではない。
「いやっ、やだ、離し、あ、いやあああああっっ!!!」
足首を掴んだまま猛スピードで異星人は大地へと突っ込んでいき、
そのままザンギャを掴んだ腕を振りかぶり……地面へと振り抜いた。
大地が、大地震でも起きたのか、というぐらいに揺れに揺れバリバリと裂けていき、
落下点を中心に大きな亀裂が縦横に刻まれていた。
「あ、う……やだ…た、助け、て…お願い……お願い…」
乱れきった気では防御力もガタ落ちのようで、
その一撃でザンギャの綺麗な皮膚は所々擦れ、裂け、打撃によって内出血している。
カチカチと歯を鳴らして震え、地べたに尻もちをつきながら必死に後ずさった。
「光栄に思うがいい……貴様はこのクウラの餌となり、血肉となって永遠に生き続ける」
異星人、クウラが喋り終わると同時に、
「や、やめろ…来るな……やだ……こないで…」
ザンギャの周囲の土中から鋼色の何かが6体、飛び出てくると、
それらはジリジリとザンギャに躙り寄って両腕を様々な刃物に変形させる。
高速回転する刃のモーター音が、ザンギャには死刑宣告に聞こえていた。
そうか、仲間たちはこうやって殺されたのか。
恐怖で埋め尽くされた思考の片隅で、漠然と殺され方を理解していた。
「ヘラー人は不思議な術を使うと聞いて用意しておいた木偶どもだが……、
結局、貴様らの
『切って、刻ンデ、磨リ潰ス! 切って、刻ンデ、磨リ潰ス!』
『切って、刻ンデ、磨リ潰ス! 切って、刻ンデ、磨リ潰ス!』
『切って、刻ンデ、磨リ潰ス! 切って、刻ンデ、磨リ潰ス!』
包囲網を狭めるロボットが口々にアナウンスをかき鳴らす。
気のせいか、マシーンの癖にどこか楽しそうな…そんな感情を匂わせていた。
――もう終わりだ――
恐怖で全身の筋肉が竦み、涙腺が緩み瞳に涙が滲む。
自らの惨たらしい死を予感した、その時である。
空がグニャリと、水に色とりどりの油絵の具をぶち撒けたように不気味に歪みだす。
ロボット兵が調理を開始するのを腕を組みながら待っていたクウラも、
「っ! なんだ………?」
ザンギャを気にも留めず異常な空を凝視した。
もはや彼女には逃げる気力も無いとの判断だが、
仮に逃げられても再び瞬間移動で捕らえるのは容易い。
クウラの脳内では膨大な量のデータが処理され空間の解析が行われている。
「………これは空間が歪んでいるのか。
時の流れが成層圏の向こうと地上側でズレが生じてきている…?」
『クウラ様。この現象を見た途端、このヘラー人の雌の鼓動と脈拍が急上昇シマシタ。
何か知ッテイルノデハナイデショウカ』
ザンギャを見張り続けていたロボット兵が主へ告げると、
「………女……これを知っているのか?」
地へと視線を落としてザンギャを見つめた。
身が竦む彼女は、何とか首を縦にブンブンと振って必死に肯定。
それを見て彼は、指先をガリッ、と噛み
僅かに滴りだした血をナノマシンによって操作・変形させる。
何本もの細いケーブルを構築すると、
「ならば貴様の記憶を頂くとしよう」
ザンギャの脳へケーブルを直結し情報を引き出そうとする。
何をされるのかザンギャは知らない。
だが、本能的にさっきとは異なる危険を感じ取り、
またここが自分が助かる最後の可能性なのでは…と天啓のような閃きがあった。
「あ、あれは!! あれは、ふ、封印だ……!
私達ヘラー一族が300年前にくらったもの!!
あれはどれだけ戦闘力があろうと脱出は出来ない……!
お前と、いや、あ、貴方と同じくらい強かったボージャックですら
何も出来ず一方的に封じられた……あれは強さなど関係無しに全てを封印する!」
震える声で必死に言葉を紡ぐ。
ここが正念場だと、自分は生きていた方が貴方の役に立つと…
自分から全てを捧げ、証明せねばならない。
うねうねと伸縮するクウラの触手ケーブルの動きもピタリと止まり、
何やらザンギャの様子を観察しているようだった。
「………阻止する方法は」
「完成したらもうどうしようもない…だ、だから、封印が完成する前に、術者を殺すしか無い!
私達ヘラー一族は超能力に長けていて、一度同じものをくらっているから! だから!」
だから分かる。信じて欲しい。ザンギャの心からの訴えであった。
「なるほど…緊急事態のようだな。 貴様の頭を割って脳を漁る暇はなさそうだ。
………それに、今のお前に嘘を言う余裕も無かろう。 …女…名は?」
「あ…ザ、ザンギャ!」
「ザンギャ! 貴様は木偶共を連れてふざけた真似をする術者を見つけ出し、殺せ!」
「……っっ!!! は、はいっ! お任せ下さい!!」
「俺はこの封印を解析し、突破方法を見出す……。 行け! 何をグズグズしている!」
「ははっ!」
跪いたザンギャの顔はクウラからは見えないが……
その顔は歓喜と安堵に満たされていた。
生命の喜び。生きているというだけでなんと幸福なのか。
自分はあの絶体絶命の危機から、生を掴み取った!
ボージャックにもブージンにも出来なかった偉業を成し遂げたのだ。
生き抜くという偉業を。
まだ助かるという保証は全く無い。
だが、流れは先程とは一転したのをザンギャは確信していた。
直ぐ様立ち上がり、気を漲らせ術者を探る。
ザンギャとしても、300年前に自分を封印してくれた存在に対して一矢報いたい気持ちがある。
そして残ったクウラはというと、
「時間のズレがどんどん大きくなっている………ビッグゲテスター、どうだ。
ここら一帯が時間の本流から切り離された場合、俺達の脱出は可能か」
「イエ、既にコノ段階で瞬間移動すら不可能デス。 コレハかなり高度な封印と思ワレマス」
ビッグゲテスターと共に本格的な分析を行う。
しかし、どうも芳しくない。 状況はかなり悪いらしい。
「瞬間移動での脱出も出来んだと? 空間が切り取られ、時の流れを止めるというのか。
チッ………何者だ…………このような封印を!」
「タダの超能力デハ到底不可能な所業。 また、一惑星の下級神にも不可能。
80%の確率で界王の力であると推測………20%の確率で界王神デス」
「……………………界王、か。
だが所詮は封印……その場しのぎに過ぎん。
いつかは解ける。 ヘラー一族が這い出てきたようにな。
いつか……そう、いつか…礼をせねばならんが、今は大人しく眠ってやろう…!
界王……………………待っているがいい……このクウラの復活を!」
ビッグゲテスターと自分の見立てによって既に封印の妨害と脱出は諦めた。
何時になく随分と殊勝なクウラだが、
もともと彼は長命な種であるし封とはいつか必ず切られるものと知っている。
ザンギャとロボット兵にサーチ・アンド・デストロイを命じたのも只の悪足掻きだ。
自分の広範囲探知に未だ引っかからぬ推定主犯・界王を、
精神状態が不安定になっているザンギャと
低能の量産型メカ達で見つけることは難しいだろうと見立てている。
では、何故役に立たぬと知りつつザンギャを助命し手駒に加えたのか……?
それは、1%でも封印を逃れる可能性を高めるために使えそうなモノを使っただけであり、
また、ボージャックを喰ったことで急成長を遂げて、
クウラ自身やや高揚し良い気分になって気紛れが働いたから…と言える。
事態の急変とクウラの急激なパワーアップが、ザンギャに『生存』という奇跡を招いたのだ。
「オヤ、大人しく封印を受け入れるようデスネ。
良イノデスカ? 長期に渡って封じられれば……
破壊神はともかく、孫悟空達は寿命で死ニマスガ」
「その時は時間を跳躍するだけだ」
「時間逆行はオススメしないと言イイマシタガ」
「世界が増えようが、崩壊する危険があろうが……その程度どうでもいいことだ。
俺の願いに比べれば……全ては下らんことなのだ……!」
超サイヤ人への復讐。
破壊神の抹殺。
全宇宙で最強となること。
それがクウラの願い。
それを成すためには、世界の何もかもを生贄に捧げてやる。 クウラの決意は固い。
勝つことに執着し、そして強さにも妥協しない。
誰よりも『最強』に拘る男……それがクウラであった。
この日、星喰のクウラが北の銀河のとある星に封印された。
彼の復活は、32年後……
エイジ767年に起きるセルの自爆に伴う北の界王の死を待たねばならないのであった。
▽
そして、時は流れ……。
――エイジ767年――
「わ、わりい界王様。 ここしかなかったんだ…」
「……………!!」
「くっそぉ~~~~~~~っ!!!!」
その日、小さな小さな界王星が汚い花火となって弾けて消えた。
だが、セルはその自爆を生き延びていて悟空と界王らの死はちょっとだけ無駄だったが、
悟飯が完全に超サイヤ人2として覚醒したのでまるきり無駄でもない。
あの世からの悟空の応援もあって、結局セルは敗北し消滅したのだった。
強敵は死んだ。
だが、それは結局新たな強敵の出現の呼び水になったに過ぎない。
サイヤ人達に安息は来ないのだろう。
彼らのDNAと魂に深く刻まれた闘争の二文字が、
次から次へと難敵を呼び寄せているのかもしれない。
ドクン…
と、北の銀河の辺鄙な星が心臓のように鼓動した。
それは4人の界王が力を合わせた時にだけ使える超封印が崩壊した証。
どんな大敵も有無も言わさず封じる程に超強力だが、
4人の力が崩れた時、封印もまた脆くも破れてしまうのが欠点だ。
あの時のまま……封印が発動した時、そのままの姿、状況で彼らは目覚めた。
瞼と思考だけが鉛のように重く鈍いが、それ以外はあの日のままであった。
紫紺色のクウラの瞼がゆっくりと開かれ、紅い瞳がギラリ、と光る。
地球の平和が後どれだけ持つのか……それを知る者はいない。