スーパーメタルクウラ伝【本編完結】 作:走れ軟骨
彼らは格上強者、雑魚、ギャグ、変態、何をやらせても似合う万能選手だと思います。
地球は平和だった。
死んだ悟空も、これまでの功績からあの世でも肉体を貰い日々修行に明け暮れていたし、
地球ではZ戦士達はそれぞれ安穏な日常を送っていた。
ある者は自分を高めるために修行し、
ある者は愛する人と家庭を築き子を授かる。
レッドリボン軍やピッコロ大魔王、謎の宇宙人にセルの脅威を乗り越えた人々は、
そんな当たり前だが尊い日常を思い思いに楽しんでいた。
孫悟空の息子、孫悟飯はオレンジスターハイスクールに通う高校生となり、
初めて出来た学友達と学生生活を謳歌し、
陰ではグレートサイヤマンとして平和を守っていた。
なんやかんやで学友の一人、サタンの娘ビーデルに正体を知られ、
舞空術を教える羽目になったり、ずっと歳下の弟があっさり超サイヤ人になったり……
故・孫悟空が近々開催される天下一武道会に一日限定復活で出場すると言い出したり……
色々あるがやっぱり基本的には平和そのものだった。
彼らが来る、その時までは。
▽
その日…………………、
一隻の大型宇宙船が太陽圏に到達した。
地球目掛けて、ゆっくりとだが進路をブレさせること無く確実に近づいてきている。
「……このまま順調にいきますと、後6日程で地球に到着いたします」
青色の肌にオレンジ色の髪の美女…………ではなく、
クリーム色の短髪色男、クウラ機甲戦隊の隊長サウザーがいつも通りに報告する。
少し時は遡り、北の界王が死んで直ぐのこと。
ゴクアに瞬殺されたがギリギリ生きていた彼ら機甲戦隊は、
クウラの命を受けたザンギャによって回収されていた。
単身で瞬間移動を行い地球に行っても良かったが、
それでは瀕死の部下をこの寂れた惑星に置いていくことになる。
当初はそれも厭わないつもりのクウラだったが、
32年間の空白と地球の情勢を調査するにつれその気が失せた。
悟空は死んでいた。
自分を二度も完膚なきまでに破ったあのサイヤ人が殺されていたという事実は
クウラに少なからぬ衝撃を与えた。
(時間を跳躍し、また過去に行くか)
一瞬そう考えたクウラ。
封印直前にビッグゲテスターに語っていた通り
『それしかないとなれば時間移動も厭わない』つもりのクウラだが、
安易にその結論に行き着くのは、さすがに短慮に過ぎると自分でも思っている。
時間の移動は自分とビッグゲテスターを持ってしても世界崩壊の危険が伴うし、
また、制御も一筋縄にはいかず望む通りの時代に行けるとも限らない。
辿り着いた先が『目当ての人物がいない世界』という可能性もあるかもしれない。
かつて自分がいた世界には『破壊神』も『全王』も存在していなかったのだから。
それらを考えると、孫悟空を始めサイヤ人達がほぼ前の世界通りにいる今生は実に良い。
ある意味クウラの理想の世界と言える。
復讐対象と、目指すべき明確な高みが存在する世界なのだ。
ここを去るのは惜しいと思えた。
(ならば……孫悟空を蘇らす方が色々と都合がいいかもしれん)
何としても殺してやりたいと思っていた相手を殺すために蘇らす……我ながら度し難い。
本末転倒な自分の思考と感情に、思わず口元に笑みが浮かぶ。
失われた命を蘇らすという神々の世界の奇跡の術を、何とかして自分も行えないか。
それを考えた時、クウラの記憶に弟の姿がフッ、とよぎる。
彼の弟が命を落とした理由は、『何でも願いが叶うドラゴンボール』を狙ったから。
そう、何でも願いが叶う………奇跡の玉。
「ドラゴンボール……それがあれば、最高の貴様を叩きのめすことが出来る……」
そうと決まれば、後は焦る必要もない。
それに、ビッグゲテスターの時空観測による未来視では、
そう遠くない未来に孫悟空が現世に戻るという予測もある。
希望的観測に過ぎないとクウラは一笑に付すが、
それでも可能性があるならそれも視野に入れるべきだろう。
自分は元々長命であるし今はマシーンの補助で不老に近く、
サイヤ人も全盛期の期間は長い。 破壊神は言わずもがな。
(……そうだ…焦ることはない。 事態は、俺の願いからそう逸脱はしていない。
孫悟飯、孫悟天、トランクス………そして孫悟空とベジータ。
貴様らが一同に集う日がサイヤ人最後の時だ………)
『孫悟空の死』を打開する方策と方針が定まった今、
急いで地球に行くよりも優先すべき事があるとクウラは考える。
クウラ機甲戦隊のレベルの底上げである。
ビッグゲテスターが残骸と化した宇宙船を修理するまでの間、
気の操作も出来ない直属の部下達を鍛え上げることにした。
しかし、
「はぁ…! はぁ…! はぁ…!」
「ち、ちくしょう…化け物だぜ、あの女!」
「俺達が…新人一人に手も足も出ねぇなんて!」
もはや完全に次元が違うのであった。
ザンギャ一人に軽くあしらわれる始末で、
サウザーの戦闘力は17万。
ドーレ、18万5000。
ネイズ、16万3000。
一方のザンギャは250億で、ついでに言えば彼らの主、クウラの現戦闘力は1900億である。
当然、訓練相手のザンギャは指先一つで相手をしてやってる状態だ。
「……不甲斐ない。 それでも俺の名を冠する機甲戦隊か!
お前達のレベルではこの先の戦いにはついて来られん。
この数日の訓練で戦闘力が上昇する気配も無い……。
クウラ機甲戦隊は、ザンギャ一人に任せるしかないようだな」
衝撃がサウザーらに走る。
クウラ直属の親衛隊であったことは、彼らの何よりの誇りだったのだ。
「お、お待ち下さい!! このサウザー、必ずや強くなってみせます!!
ですから、その儀だけはご容赦下さいっ!!!」
ボロボロで倒れていた体を無理矢理起こすと、
フラフラのまま跪いたサウザー達は必死に懇願する。
サウザーの言葉にドーレとネイズも続き、もう二度と醜態は晒さないと必死に懇願し、
その必死さは見ているザンギャが哀れに思うほどであった。
(…そんなにクウラ様が好きなのか? ボージャックに負けず劣らず冷酷に見えるけどね)
機甲戦隊の忠誠心の高さに首を傾げる彼女なのであった。
とは言え、今の自分の待遇は同族と宇宙海賊をやっていた時よりも格段に良い。
そもそも自分は彼に殺されかけて助命の為に降ったに過ぎないが、
最優先で修復された大型宇宙船の生活ブロックは…
冷暖房完備・シャワー浴室水洗トイレ完備・ベッドはふかふか・オマケに全部清潔で、
これが生活の平均的な水準だとすると海賊時代とは比べ物にならない。
海賊時代には野宿や風呂に入らないのは当たり前。
酷いときには1ヶ月も2ヶ月も水浴びすら無い時もあった。
周りがむさい男だけで、しかも皆そういうことが平気な者達だったから女性としては辛かった。
しかも、機甲戦隊らと初対面の時に
「入隊、歓迎する。 クウラ様に目をつけてもらえるとは貴様は本当に運がいい。
クウラ様はフリーザ様と違って余り多くの部下を持つのを好まない。
例え、クウラ様の気紛れで貴様の入隊が許されたのだとしても、
その気紛れを引き当てた自分の運の強さを誇るといい。
クウラ機甲戦隊は実力主義だが、それでも先輩を敬うことを忘れてはいけないぞ。
まぁ、少しぐらいお前が強かろうが、我々は皆スペシャルエリートだ。
最初は凹むぐらい訓練でボコボコにされるだろうが、なに、安心しろ。 程々にしてやる。
さて、では入隊にあたってこの書類に目を通してほしいのだが……
ああ、ハンコはいい。 どうせ持っていないだろう。
スペースパイレーツなどやっていたのだ。 わかっている。 後で拇印しておいてくれ。
第一項にある通り我らクウラ機甲戦隊は
有給、産休、育休、どれも男女種族の区別なく保証されている。
ふふふ、ギニュー特戦隊のジースは
『俺の隊は休みもバッチリで雰囲気も抜群』などとほざいていたが、
我らクウラ機甲戦隊も当然バッチリなのだ!
決してギニュー特戦隊に対抗してこれらを充実させたわけじゃないぞ!
いいか!
休みバッチリ、給料はイッパイ、老後も安心、雰囲気ニジュウマルは
我らクウラ機甲戦隊こそが先にやっていたことだ!
なぁ、ドーレ? そうだろ、ネイズ!」
「おおともよ!」
「その通りだぜ!」
「フッ、そういうことだ。
いいか、新入り。
クウラ様は実にストイックな御方で、女を御自身のお側に置くのは非常に珍しい。
我らは忠実なる部下として、
クウラ様がその栄光の血筋を後世に残さないのは非常に勿体無いと常々心配していた。
勿論、コルド様やフリーザ様が一族にはおられるが、
それとこれとは話が別だ。
クウラ様に御子が生まれ、そのお世話をし、親子二代に渡ってお仕えするは臣の誉。
お前は希望だ!
クウラ機甲戦隊にとっても初めての後輩だが、なによりも!!
クウラ様が初めてお側に常駐させる女だ!
クウラ様の女っ気はお前だけだ! 希望の星なのだ!!
頼む!
クウラ様を何としても口説き落としてくれ!!
私もドーレもネイズも全力でサポートする!
安心して色仕掛けをするがいい!
だが…く、くそ……!
俺が女だったら、貴様なんぞにこの役目を譲りはしないぜ!! 羨ましい!!
あ………………………………うむ、いや私は普通の性的嗜好だがな?
ご、ごほん。
まぁ、とにかく……歓迎する!」
長ったらしい歓迎の言葉を一部スルーしつつ、(主に口説き落とせだの羨ましいだのの部分)
公用語の入隊書類を良く読んでみると……。
そこにはかなりの好待遇っぷりが羅列されていて、
「こ、これは本当なのか!?」
と、サウザーに何度も確かめてしまったほどだ。
いきなりそれらを鵜呑みにするほどザンギャはバカではないが、
少なくともボージャックの元にいるよりは余程良さそうな予感はしたのだった。
(この好待遇を逃したくない……っていう風でもない)
地に頭を擦り付けて願う機甲戦隊を見ながら、ザンギャはクウラが何と言うかが気になった。
クウラは、端から見てまったく感情が伺えぬ瞳で部下達を見ている。
しばらくして、
「…………ならば、5年待ってやろう。
5年で戦闘力を100億以上にすることが出来たら…お前達をそのまま側近として使う。
だが、5年経っても結果が出ぬ時はこの星に貴様らを置いていく」
そう言った。
(5年で、20万以下の奴らを100億!? 幾ら何でも無理だ)
ザンギャは、お喋りなセンパイ達とは5年後にオサラバか…と既に確信した。
だが、
「ザンギャ」
いきなり自分も名を呼ばれて、油断していた彼女はびっくりしてしまう。
「は、ははっ」
「貴様もだ。 5年で戦闘力を1000億以上にしろ」
「せ、せん……え? せ、せんおく!!?」
しかしそれは! とか、5年で4倍の強さなんて不可能です! とか抗弁してみるが、
「貴様の場合は…1000億以上にならぬ時は殺す」
絶対零度の視線で射抜かれながらそう言われてはザンギャの抵抗も終わりだった。
機甲戦隊達もことの重大さに、俯いた顔を上げられない。
実質的なクビ宣告と、死刑宣告。
サウザー、ドーレ、ネイズ、ザンギャはそう受け取った。
しかし、クウラの、続けて放たれた言葉に絶望以外の感情が生まれることになる。
「当然だろう。 この俺が貴様ら部下の訓練に付き合ってやるというのだ。
5年で結果を出せて当たり前だ」
「ク、クウラ様自らが!!!」
「俺達に特訓を!!!」
「ま、前みたいな、クウラ様の身体の慣らしに付き合え、とかでは無くてですか!?」
目を輝かせ出した機甲戦隊先輩組。
ザンギャも、意外な言葉に切れ長の目をキョトンと大きくしていた。
「サウザー、貴様らはまず………
この木偶共の言葉に従い、機械相手にトレーニングを繰り返せ。
それが終われば俺が相手をしてやる」
クウラが言い終わった途端にロボット兵が6体土中から飛び出し、
(どっかで見た嫌な光景だね)
デジャヴを感じたザンギャの眉が少し歪む。
「ザンギャ……貴様の戦闘力は250億。 木偶人形では相手にならんだろう。
光栄に思うがいい…お前の組手相手は、この俺だ」
主の言葉にさらにザンギャの眉が歪んで、彼女の頬を冷や汗が一筋伝った。
機甲戦隊の地獄の特訓が始まったのだった。
▽
というのが7年前の顛末である。
修行に5年、クウラの自己強化の為の星喰に2年を費やし、
時空観測の予測結果が『悟空の復活が近い』ことを報せたのを契機に、
「舞台は整ったようだな…」
というクウラの言葉と共に新生クウラ軍団はいよいよ地球に向けて進発したのだった。
クウラ機甲戦隊・隊長サウザー、戦闘力370億。
ドーレ、戦闘力385億。
ネイズ、戦闘力363億。
ザンギャ、戦闘力1100億。
そして、その首領、クウラ…戦闘力2000億。
機甲戦隊の伸び率が凄まじく、それはつまり5年の訓練の地獄っぷりを物語っている。
しかし彼らのこの異常な強化は、当然幾らかのドーピング故である。
過酷なトレーニングはそれに耐える下地作りでもあったのだ。
「ふふ……俺の中に、クウラ様の細胞と一体化したナノマシンが!
あぁ、素晴らしい…俺の中にクウラ様がいるぞ! クウラ様万歳! クウラ様万歳!」
というわけなのだが、ナノマシン注入の影響か、
サウザーのテンションが少々おかしなことになったのだった。
今のクウラもそうだが、ビッグゲテスター・ナノマシンが体内にあるからといって
彼らの肉体は銀色に輝くメタリックボディではない。
肉体の深奥から様々なメディカルチェックと強化を行う為、体表に金属が現れることは無い。
また、体表まで覆い隠す程のナノマシン量は、クウラ以外では寧ろ害悪となる。
細胞がナノマシンに負けて喰われてしまい、生物として崩壊してしまうのだ。
過剰注入の後には不出来な流体金属ロボットが出来上がるだけだった。
完全メタルボディ化はナノマシンに完全適合しているクウラだけが使える秘技だと言える。
「……クウラ様、ナノマシンにそういう効果でも?」
奇人サウザーを見ながらザンギャが怪訝な顔で質問する。
自分でも知らぬ間に思考と精神を操られるのでは…という心配が暗に感じられるが…
しかし、
「心を操るナノマシンを造るほど俺は暇ではない。
それに、そのようなことをする理由もない……俺に跪きたい奴だけ跪けばいい。
俺が気に入らぬ時はいつでも構わん……反乱でも起こすのだな」
歯向かいたい奴は歯向かえ。
そう嘯くクウラの不敵で、獰猛で、冷たい…孤高の覇王の笑みに、
ゾクリ、
とザンギャの奥深くを恐怖以外の何かが駆け巡る。
「ザンギャ…貴様も、俺を殺したくなった時はいつでも構わんぞ……クククッ。
………サウザーは想像以上のパワーアップに一時的な興奮状態に陥っているのだろう。
放っておけ。 俺はトレーニングルームに入る……後は任すぞ」
ザンギャを一瞥もせずに、そう言ってメインルームを後にするクウラの背に注がれる視線。
ドクンっ、ドクンっ、と妙な高鳴りがザンギャの心臓を襲い、
また、自分を少しも見なかった主に何故か不満が溜まる。
(男が何人も言い寄ってくるくらいには顔に自信はあったんだけど…クウラ様は全く――
って、私は何を考えてるんだ……らしくもない)
クウラの背を見つめるザンギャは、自分でもそれが何故なのか分からなかった。