ギルモア・レポート 黒い幽霊団の実態   作:ヤン・ヒューリック

11 / 23
第十一章 00ナンバーサイボーグ 中編

ブラックゴーストが生み出した最強のサイボーグ戦士達。それが00ナンバーサイボーグである。

 

尤も、彼らよりも優れたサイボーグは存在する。0010から0013までの後期ナンバーズ。そしてミュートス・サイボーグ、大幹部であったバン・ボグート、そして表向きの首領であったスカール。

 

だがスペックでは上であっても勝利を収め、最終的にはブラックゴーストを壊滅にまで追い込んだのは何であったのか。

 

「ブラウンや私以外の開発陣は皆、人間性を廃した、より完璧な兵器としてのサイボーグ開発を推進していた」

 

当時ブラックゴーストに所属し、最終的には脱走したアイザック・ギルモア博士はサイボーグ計画についてこう語っている。

 

「人間性を廃した単純な強化や改造を行うならば何もサイボーグである必要性はない。故に私は人間性を有した上で、より優れた人間を作り上げるというコンセプトの元で彼らを作り上げた」

 

やや苦い表情で語るギルモア博士であったが、結果としてこの判断が00ナンバーサイボーグ達の寿命を高めた。

 

ブラウンら当時の開発陣にとって、サイボーグ計画とは単純に優れた兵器の開発という発想の元に生まれていた。身体能力を高め、あらゆる環境に対応できるように人体を改造する。

 

そして中には武器をも搭載することで戦闘能力を高める。まさしく兵器としての完成度を目指したといえるが、問題なのは人体をどこまで改造するべきかというところだろう。

 

「ブラウンが目指したのはあらゆる局面において活躍できる完璧なるサイボーグであった。そのためにはあらゆる手段を彼は使っていた」

 

 

ガモのミュータント計画を潰したのもそうだが、ブラウンはとりつかれたかのように人体改造に没頭していたとされる。

 

というよりも人体をどこまで機械化出来るのか、どこまで強化できるのかというのがブラウンが構想していたサイボーグ計画の根幹である。

 

どこまで人間は改造できるのか、そして、その軍団で世界を燃やし尽くしてしまう。ブラウンはいつのまにかそのような妄想を抱くようになったという。

 

だがそのブラウンの発想に意を唱えたのがギルモア博士であった。

 

「私は元々はサイボーグ研究をを兵士としてではなく、事故や先天的に手足を無くした人間に対して完璧な手足や臓器を与えられる為に研究を行っていた。しかしブラックゴーストに入った頃にはそんな志は消えていた。だがいくつものサイボーグ達を生み出し、ブラウンや他の研究者達と議論をしていく内に、私は自分が何をするべきか、何をしたいのかを思い出すことが出来た」

 

サイボーグ部門では当時二つの派閥があったという。一つはブラウンを筆頭とする兵器派、そしてもう一つがギルモア博士を筆頭とする医療派である。

 

前者が兵器としてのサイボーグ研究を行っていたのに対して、後者はサイボーグ研究を通じて得られる医学的成果を追求していた。

 

ブラックゴーストが死の商人として活動していたのは散々述べてきたが、同時に彼らは「非合法な科学実験のアウトソーシング」にて実利を得てきた。

 

どちらも正直、モラルや人道に外れた事を行っていたのは間違いないが、医療派の科学者達は元々病気や怪我をしている人々に対する善意の元で研究を行っていた。非合法なモラルに反する研究を行っていく内に、彼らの中には医学や研究を志した心が蘇っていたという。

 

「志を取り戻した時、私はもはやブラックゴーストに何の魅力も感じなかった。私は騙されていた、というよりも研究や成果の為に騙されていたかったのだ。だからこそ、これ以上の悲劇を繰り返させない為にも、そして何よりも誰かがこの悲劇の鎖を断ち切らなければならないと思った」

 

その答えと共にギルモア博士は自らと志を共にした科学者達と共に、九人のサイボーグ戦士を生み出したという。

 

ブラックゴーストという黒き幻影が生み出す、悲劇の鎖を断ち切る為に。

 

 


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。