ギルモア・レポート 黒い幽霊団の実態 作:ヤン・ヒューリック
ガイアが目指したのが従来のサイボーグを超えたサイボーグ、神にも等しいサイボーグを作り上げることは前章にて解説した。
今回はミュートス・サイボーグ計画についての全容を解説する。
00ナンバーサイボーグがサイボーグ兵士製造計画による、兵器としてのサイボーグであることはすでに解説したが、ミュートス・サイボーグ計画は00ナンバーサイボーグのような兵器、兵士としてではなく、ある要素が組み込まれている。
まずはミュートス・サイボーグ計画によって生まれたサイボーグ達について簡単に説明していこう。
アポロン
全身から3000度の高熱を放射する能力を持つ。手からは6000度の熱波を放射し、指先から8000度の熱量を持つレーザー光線を発射。加速装置内蔵。
アルテミス
エネルギー弓を装備した遠距離攻撃用型サイボーグ。
ミノタウロス
頭部が牛のサイボーグ。角の間から電撃を放つ放電装置内蔵。
アキレス
黒豹のサイボーグ。加速装置を搭載。熱線を放つシールド、先端から光線を放つ長剣を装備。
ヘラ
エスパーサイボーグ。超能力を使用。
ポセイドン
人魚型の巨大なサイボーグ。水を自由に操る。
アトラス
巨大ロボット型サイボーグ。胸部にミサイルを装備。両手足を分離可能。
ネレウス
二足歩行のカバの姿を象ったサイボーグ。鼻からミサイルを発射可能。全身を特殊ゴムで覆われた超弾性が武器。
ケンタウロス
人間の上半身と馬の胴体を持つサイボーグ。体表は防弾皮膚で覆われ、浮遊による飛行能力を持つ。
パン
子鬼のサイボーグ。高性能レーダー搭載。
以上がミュートス・サイボーグ達の大まかな概要だが、彼らは神話をモチーフにしているが、同時に00ナンバーサイボーグや後期型サイボーグ以上に高度な改造と武装を施されている。
そして最大の特徴は、明らかに人間としての姿を廃しているというところだ。かろうじて人間としての姿を有しているのはアルテミスとヘラ、そしてアポロンであるが、他のメンバー、特にアトラスに関しては完全にロボット化しているといっても過言ではない。
まず、サイボーグ兵士製造計画において、過度な改造は精神面、心理面に対して大きなダメージを与えるという事実はすでに述べてきた。
過度な改造と機械化は人間としてのアイデンティティ、自我を喪失させてしまう。そうなれば兵士としては全く役の立たない個体になってしまうのが、これまでの経験則である。
00ナンバーサイボーグはこうした過度な改造ではなく、肉体と機械化の融合を行うことと、シンクロ率を高めた上で精神面での負担を限りなく0にすることで解決させた。
だがこのノウハウを失ったのもまたすでに解説してきたが、そこで生み出されたのが「人間性の喪失」という技術である。
意図的に人間性を喪失、切り取ることで無理矢理機械とのシンクロ率を上げる手法であるが、ガイアはこの手法から一歩踏み込んだ上で、より効率性の高い融合法を考えていた。
だが彼の専門は機械工学であり、生化学の分野においては素人といってもいい。そこでガイアがパートナーとして選んだのが南ア出身の生化学者であるロア・ウラノス博士である。
ウラノス博士は南アフリカ共和国出身であり、元々は南アにある部族の酋長の息子として生まれた。その後はイギリスに留学し、帰国するも、すでに南アフリカでは悪名高きアパルトヘイトが実施されており、彼の頭脳に見合った地位は一切与えられることは無かった。
同時に彼の部族は大きな迫害を受け、帰国した時には文字通り全滅していたという。
「私が生化学、医学を学んだのは自国の劣悪な衛生環境と医学の改善を行う為であった。だが、祖国はそんなことを望んではいなかった。科学は全て白人だけが利用し、学べるものであり、私のような黒人達は黙って奴隷になっていればいい。そんな状況の中で手をさしのべてきたのがブラックゴーストであった」
これはウラノス博士本人からのインタビューでのコメントである。
ブラックゴーストでは古くから人種に囚われない形で様々な国々から優秀な科学者を集めてきたが、主に彼らはアジア・アフリカ諸国などからスカウトすることが多かったという。
劣悪な自国の環境に愛想を尽かした科学者、もしくはより高度な研究を出来る場所を提供するという餌を振り回すことで彼らはブラックゴーストへと足を踏み入れていった。
そうした中でウラノス博士も組織の中で活躍していったわけだが、この時の彼の立場はやや危うい位置にあった。
それは、裏切り者であるアイザック・ギルモア博士と親友であったということであり、サイボーグ部門において数少ない医療派であったということである。
医療派はギルモア博士の脱走劇の中で壊滅状態に陥っていたが、彼らのノウハウはブラックゴーストにとっても貴重な技術となりつつあった。
そうした背景からガイアはウラノス博士に対してこう言ったという。
「神々を造ってはみないか?」と。