ギルモア・レポート 黒い幽霊団の実態   作:ヤン・ヒューリック

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第四章 ガモ・ウイスキー 後編

ミュータント計画は元々ブラックゴースト内部でも賛否両論の計画であったとされている。

 

いわゆる超能力、それが果たして実際の戦場、極限状態においてどこまで役に立つのか、それがあまりにも不明瞭であり先行きが見えなかった。

 

何よりも超能力を発現させるという目的そのものが、彼らにとってのビジネスに合うだけの商材となり得るのかが疑問視されていた。

 

だがそれでもミュータント計画にはサイボーグ計画と並行して行われており、人員も予算もサイボーグ計画に引けを取らない規模であったという。

 

理由としてはまず、機械的な手段による人体改造と同時に、生物的、医学的な手段による人体改造を行うことで相互作用を計ったという見方が出来る。

 

00ナンバーサイボーグは機械的なサイボーグとは違う、生物と機械が巧みに融合したバランスの取れたサイボーグと言ってもいい。彼らには自己修復機能という機械には存在しない生物的な機能が搭載されている。

 

身体能力をメカニズムで強化し、ダメージに対しては自己修復することで単体での兵器として機能することを前提に作られており、彼ら以上に強力な0010~0013ら後期改造体、ミュートス・サイボーグらと渡り合えたのはこうした部分によるところが大きい。

 

話はそれたが、ミュータント計画を行うことで生命そのものを解明し、なおかつ従来の人間には無い超常的な力を具現化することをブラックゴーストは計画していた。

 

ここで、ブラックゴーストが武器商人というカテゴリーから、もう一つの側面に付いて解説する。それは「科学のアウトソーシング業」という要素である。

 

世界中から集めた人間を利用し、彼らはさまざまな人体実験を行った。中には吐き気を催すような残忍な実験もあったが、通常ならばマウスやモルモットを使った実験を、生きた人間で、リアルタイムに倫理観に一切問われることなく行える。

 

ブラックゴーストが当時の科学の最先端を担えたのはこうした要素によるところが大きい。特に、ソ連や中国、北朝鮮などではそれぞれヤロビ農法、文化大革命、主体運動などの退廃的な政治運動により実学的な科学が一気に衰退してしまったケースがある。

 

こうした国々を顧客に、ブラックゴーストは武器だけではなく医療技術なども売り渡していたのではないかという事実が、近年ソ連崩壊と同時に判明してきた。

 

通常ならば行えないような危険な実験を行い、そしてそこから得たデータからさまざまな治療法や薬を作り出す。時には自らパンデミックすら起こすことで、巨万の富を得る。

 

まさしく悪魔の錬金術とも言うべき方法であろう。そのための実験材料は顧客から貰えばいい。収容所で殺すのと、実験体として殺すことに何ら違いは無い。それどころか技術すら提供するのだ。そしてそれを西側でも売りつけることで彼らは巨万の富を得ることが出来る。

 

ミュータント計画の過程の中で、こうした悪魔の錬金術を生み出した張本人こそが、ガモ・ウイスキーであった。彼は極度の人間不信に陥っており、当時自ら進化した人間を生み出すことに執心していた。

 

だが彼の研究とは裏腹に、ミュータント計画は早々に暗礁へと乗り上げることとなる。

 

それは、ミュータントは兵士たり得ないという結果が実証されたからであった。


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