ギルモア・レポート 黒い幽霊団の実態   作:ヤン・ヒューリック

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第五章 ミュータント計画 前編

ミュータント計画が頓挫したのは、皮肉にもガモ・ウイスキー本人がそれを実証してしまったことにある。

 

それは、彼の息子であるイワン・ウイスキー氏、001の特異的な生活バランスにある。

 

彼は冷戦期に生まれ、現在も存命であるか生まれた当時から肉体が全くといってもいいほど成長していない。

 

尤もこれは00ナンバーサイボーグ達に共通したことではあるが、さらに彼は15日間眠り続け、そして15日間起き続けるという特殊な生活リズムを送っている。

 

尤も、緊急時にはこの周期を破るが、それは彼自身の生命に深刻なダメージを与える危険性がある最後の手段である。

 

実は、ブラックゴーストのミュータント計画そのものは、ガモが入るまでは玉石混淆、というよりもオカルトと超常現象、そして手品を行き来しているだけの研究しか行われておらず、ろくな成果が上げられなかった。

 

そこでガモをスカウトすることでミュータント計画をより科学的なアプローチで前進させ、成功へと導こうとしたのだが、ガモの生み出したこのやり方では、超能力を発現することは可能であっても、人体そのものを強化することは出来ず、兵器としては安定性に欠けるという致命的な欠陥を抱えていた。

 

ブラックゴーストではすでに、脳に関する迷信は払拭されており、ガモ自身も脳の研究に関しては当時のオカルト的な「人間の脳は一部しか使われていない」「脳には隠れた力がある」などという迷信を信じてはいなかった。

 

元々、彼の行ったイワン・ウイスキー方式による手術は脳死に至った人間を蘇らせる為に生み出されたものであり、超能力その他は副次的な産物に過ぎなかったのである。

 

彼の行った手術は脳の隠れた力を利用するなどではなく、単純に身体能力、特に手足を動かす、あるいは運動そのものに振り分けられている要素を思考、知能へと振り分ける為に生み出されている。

 

つまり、脳を全部使うというよりも、脳をあえて思考、そして知能へと振り分けることで脳死に至った脳を活性化させ、蘇らせる。そしてその副産物として超能力、特にサイコキネシスやテレポーテーションなどの能力が発現する。

 

だがこのやり方では兵士としては不十分である。だがこれでミュータント計画が当初のオカルト話から、真面目な研究室レベルの話にまで上がったのは事実である。そこでガモはミュータント計画を成功させていく中で、前述した「悪魔の錬金術」を考案することで予算と人員を確保する事にも成功する。

 

一時期彼は、当時ブラックゴーストの研究部門の中でトップであったサイボーグ部門の長である、ブラウン博士よりも地位が上であったという。少なくともブラウンよりも彼はビジネスマンとして有能であった。

 

ブラウン自身、研究以外に対して関心を持たない人間であったが、この関係に対して忸怩たる思いがあったのか、ミュータント計画に対して多少興味を持つようになる。

 

そこで彼はミュータント計画、というよりもミュータント兵士達が兵士として致命的な欠陥が存在することに気づく。

 

それはイワン・ウイスキー方式による身体能力を犠牲にするという結果ではなく、もっと根幹的な、ミュータント達に見られた兆候である。

 

それは、ミュータント達は協調性が取れず、精神的に不安定な者が多いということである。イワン・ウイスキー方式であれば、ある程度は自我のコントロールが可能であるが、ガモが自ら封印したこの術式以外の手段によって発現したミュータント達は、いずれも強い力と引き替えに命令に背いたり、協調性を欠くなど作戦に支障を来すケースが多かった。

 

その実例として挙げられるのが、CIAの手によるキューバのカストロ政権転覆を謀ったピッグス湾事件であった。

 

この計画を立案していたアレン・ダレスは当時ジョン・F・ケネディ大統領に対して、空軍は不要であるとして亡命キューバ人による部隊だけを上陸させることを公言した。

 

後に彼は空軍を投入するつもりであり、なし崩し的にキューバを攻撃することを目論んでいたのだが、近年はそれも視野に入れつつも空軍投入までは考えていなかったのではないかという見方が強まっている。

 

というのも、亡命キューバ部隊に対してアレン・ダレスは密かにブラックゴーストからミュータント兵士を提供されていたからである。アレン・ダレスは元々弁護士であったが、彼がCIAにて頭角を現していったのは情報収集などではなくこうした破壊工作分野である。

 

イランのモサデク政権を崩壊させたエイジャックス作戦などを実行したのも、彼の手腕におけるところが大きいが、その理由は彼自身がブラックゴーストとの橋渡し役を担っていた為である。

 

彼はブラックゴーストからの情報を得ることで、さまざまな破壊工作を成功へと導いてきた。彼はメンバーではないが重要な顧客であった。

 

そこでブラックゴーストから提供されたミュータント兵士に期待していたのだが、彼らは兵士と呼ぶにはあまりにも能力に欠けていた。

 

超能力者として常人を超える力は保有していたが、彼らは常に傲慢であり、協調性が取れず、作戦の趣旨も全く理解していなかった。

 

どれほど身体能力に優れた人間であっても、軍事的には素人ともいってもいい兵士が戦場に立ったところで何の役に立たない。身体能力とは戦闘能力や、生存能力に必ずしも直結するものではない。

 

彼らは特記戦力としてピッグス湾にて縦横無尽に暴れていたが、友軍を助けることなくただ暴れるだけであった。統率も何もあったものではなく、次第に亡命キューバ人部隊は壊滅していった。

 

そして彼らも散々に抵抗したが、能力の使用限界が来たところで包囲され全滅した。

 

そしてアレン・ダレスもまたこの結果を受けて失脚、ブラックゴーストは有益な顧客を失うこととなった。

 


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