ギルモア・レポート 黒い幽霊団の実態   作:ヤン・ヒューリック

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第七章 非営利団体論

前回まではミュータント計画についてのあらましについて述べたが、今回はミュータント計画が頓挫し、ブラックゴーストが計画した新たな計画「未来戦計画」に焦点を当てていこうと思う。

 

未来戦計画の大まかな概要だが、それは人類が生活出来ない深海、地中、あるいは宇宙などの深海、そして核戦争の果てに訪れるであろう放射能に満ちた世界であっても戦える兵士を生み出すというコンセプトの元に生まれた計画である。

 

米ソ冷戦期においては、果て無き軍拡と同時に核戦争による「核の冬」に対する警鐘が飛び交っていた。

 

だがそうした極限状態であっても戦いが無くなることはない。むしろ、そうした状況下の中であっても機能する兵器、兵士が存在すれば仮に核戦争になったとしても対応が可能である。

 

そして、人類未踏の深海や成層圏でも戦闘が行えるならば、さらに先手が取れる。全く予知していなかった場所からの攻撃が可能となる。

 

過熱化する宇宙開発と核開発競争に対して、ブラックゴーストは想定される未来に向けて動き出していた。

 

というのが未来戦計画の大まかな内容であるが、我々は無論のこと、ギルモア博士もこの未来戦計画に関しては少々疑問を抱いている。

 

「極限状態における戦争にというのが、当時の未来戦計画の構想であったが極限状態になってしまえばそれこそ、取引をする相手がいなくなる。あの当時の熱狂的な核開発競争から抜けてみると、この計画には正直、武器商人というカテゴリーに当てはめるには誇大妄想にしかならない」

 

最終戦争に備えた兵器とそれを使いこなし、戦う兵士の開発。確かにそれは魅力的ではあるが、そんな状態になれば通常の経済が破綻することは間違いなく、彼らの顧客となりえる国家や組織もまた生存することは出来なくなるだろう。

 

だが当時はむしろこの発想はそこまで荒唐無稽ではなかった。様々なメディアにて最終戦争論、核の冬などが大まじめに取り上げられていた中で、このような状況に成り得ることはそこまで絵空自事ではなかったからであろう。

 

現在でも核兵器は廃絶されてはいない。故に、彼らが唱えた未来戦計画はいつどんなときに必要とされるのか分かったものではない。

 

故にブラックゴーストは言ってしまえばスポンサーを騙した上で、この未来戦計画を提唱し、金と人員を集めたのではないか、それがギルモア博士の見解である。

 

「彼らは一応営利集団だ。そして、その利益を得るためにはどんな手段をも辞さない。故にスポンサーを騙すことすら厭わないはずだ」

 

確かにその通りではあるが、我々はギルモア博士の見解に対しても疑問を抱いている。その通りではあるが、果たして彼らはそもそも営利集団なのかという要素である。

 

単なる営利を目的とするならば、相場をすればいい。むしろその方が合法的に金が稼げる。尤も、これは現在のように金融が発達し、デリバディブなどの商取引が行える時代だからこそ出来る手段ではあるが、それならばいっそのことアフリカや中東などの国家を支配した上で資源を売ればいい。

 

だが、彼らは資源を手に入れてもそうした営利的な商売は行っていない。ブラックゴーストという組織の収入源は、大きく分けて三つにカテゴリーされる。

 

一つが武器やテクノロジーの販売、そして傭兵業、情報の提供、さらにガモ・ウイスキーが作り上げた「非合法な科学のアウトソーシング業」である。

 

むしろ、相場、株取引などの商取引に対して彼らはあまり関与していない。理由としては彼らが非合法な組織であり、商取引の記録、あるいはそこから生まれる税金などの記録は簡単に消すことは出来ない。

 

だが、利益を追求する集団とは思えないこの相反する矛盾に我々は一つの答えを出した。

 

それはブラックゴーストとは「営利集団ではない」という結論である。


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