ファンタシースターポータブル オリジナルストーリーズ   作:きりの
<< 前の話

11 / 11
10話 獣人

「……ねぇ、本当にこっちで合ってるの?」

「さっき見回りしてたときに一つ見つけたんだ。方向は合ってるから、もう少し頑張って。」

疑問の声を上げたエミリアをなだめたのは列の先頭に立つリィナだ。まぁ他に頼れるものも無いし、とエミリアもそれ以上は黙ってついていく。

 

草木が擦れ合う音や独特の青い匂いに囲まれる熱帯雨林、その中にエミリア達はいた。時折響く獰猛な原生生物達の声がエミリアをなじる。おまけに不快な蒸し暑さに支配されており、エミリアの体力はまだ10分程しか歩いていないが、着実に奪われていた。大体、こんな中では、目印も何もないのではないかとエミリアは止めどない不安に溜め息をつく。そんなエミリアを見かねたように、

「水飲む?エミリア?」

「うー、のむ……ありがと、ネロ。」

「モノメイトもあるよ。」

「うぇ。それはいらない……ってか、あんたもよくそんなの食べる気になるよね……」

モノメイトは、いわゆる携帯食料の一種で、『飲むゼリー』のような食べ物だ。傭兵などが現場で手軽に摂取する為に生まれたもので、当然栄養などは豊富に含まれているようだが、何分エミリアは味が好みではない。何とも言い難い薬品臭さが苦手なのだ。しかしこれは稀な例なようで、

「おいおい、それでも傭兵か?モノメイト食えねぇ奴なんて聞いたことねぇぞ。」

というトニオの非難も珍しくない。というか、一応でも傭兵なエミリアで言えばもっともである。とは言え、言われっぱなしも癪だ。

「だってまずいじゃん!もっと色んな味でつくってくれればいいのに。」

「好き嫌いは激しいし、体力はねぇし、ネロも苦労するよなー。」

「え?あぁ、いや、僕は別に…」

「何よ。こいつだってさっき宇宙船で…」

「そういやネロ、さっきから思ってたんだが……お前どっかで会ったことないか?」

トニオが軽い調子で話を変える。エミリアも軽く抗議してみたが聞いてくれる気配は無い。

 

と、一方ネロはこれが一大事だったようで、

「え!?今なんて!?」

珍しく取り乱して、素っ頓狂な声を上げるネロにエミリアも驚く。

「僕にあっ、会ったことが、……見覚えがあるんですか!?」

「お、おい、落ち着けよ。どうしたんだ、急に。」

「ごめんなさい、でも、いやそんなことより!あるんですか!?僕の顔に見覚えが!?」

「いや、だから俺が質問したんだが……思い出せねぇんだよな。見た覚えがあるような…そのオッドアイ、コンタクトレンズで色を変えてるのか?取ればわかるかもしれねぇ。」

「…これは、裸眼らしいんです。珍しいけど、天然の目の色素だそうで…」

「マジかよ!?……いやわりぃ。それなら多分、俺の知り合いじゃねぇな。」

「そんなっ……もっとよく見てください!!ちょっと見かけた程度でもいいんです!!」

「いや、だからわからねぇよ。さすがにそんな珍しい目の奴がいたら覚えてるさ。少なくとも俺の知り合いにはいない。」

「ですからっ!……いや、そうですよね……急にすみませんでした。」

トニオにきっぱりと言われ、肩を落とすネロ。無理もない、とエミリアも思う。だってネロは……

「ハァ……一体なんだってんだ?尋常じゃねぇ雰囲気だったが……ワケありか?」

「実は……ネロ、記憶喪失なの……半年前より以前のことが全然思い出せないんだって。」

意気消沈してしまったネロに代わってエミリアが答える。答えながらエミリアは思い知らされた。ピンと来ていなかったが、ネロは自分が何者なのかすらわからないほど記憶が無い。それなのに一人で半年程も生きて来たのだ。その孤独は、そしてエミリアはそれを突き付けられてなお、寂しいと思った。あたしは、こいつのこと、何も知らないんだ。

「記憶、喪失……そうか。いや、悪かった。そんなつもりはなかったんだ。でも…」

 

「お取込み中のところ悪いんだけどね……ちょっと、加勢してもらえるかい…?」

おずおずと割って入って来たのはリィナだ。エミリアもハッとして辺りを見回す。そういえば、やけに周りが静かになった…?

「う、嘘でしょ……?この、まわりでにらみをきかせてるの、全部ここの原生生物……?」

妙に丸っこい影がいくつも周囲に並び、それぞれが黄色い目を覗かせている。そしてその奥にはもっと巨大な何かが潜んでいるようだ。獲物に狙いを定めて息を殺すその様が、エミリアに嫌な汗を吹きださせる。

「あたいも気づくのが遅れたよ……どうもヴァンダの群れに目をつけられたみたいだね。しかも、あの奥の方で睨みをきかせてるでかいのはドルァ・ゴーラだ。二人とも、戦える?」

「う、うん。多分、どうにか…」

「僕も、大丈夫です。」

ネロも、先程かなりショックを受けたようだったが、打って変わってはっきりと答えた。いつの間にやら既に彼の長剣(ソード)が握られている。エミリアも慌てて長杖(ロッド)、クラーリタ・ヴィサスを取り出す。

「状況が悪ぃな……ヴァンダくらい大したことはねぇが、数が多い。しかも囲まれてるときた…俺が切り込むから、3人はそのサポートを頼む。」

自分の鋼爪(クロー)を取り出しながらトニオが指示を出すと、リィナが黙って頷き、ネロが首を鳴らしながらはっきり返事を返し、そしてエミリアは(そんなつもりはなかったが)蚊の鳴くような声で「はい…」と返事をした。

鋼爪(クロー)は腕に装着する手甲のような武器で、先端から腕と平行にフォトンの刃でつくられた鉤爪が伸びている近接武器だ。動きを阻害しづらいため、機動力が自慢の肉体派には好む者が一定数いるという話だったが、当然使ったことはおろか触ったことすらないエミリアには、長剣(ソード)の類と何が違うやらさっぱりである。結局「腕を振り回し」て「切る」武器だ。トニオはそれを右手に装着すると、一度それを水平に振り抜き、

「じゃあ……始めるぜ!!」

と鼓舞するように言い放つと群れの中に飛び込んだ。待ってましたと潜んでいたヴァンダ達が一斉に飛び出し、吠える。さらに応じるようにトニオの後ろから飛び込んだのはリィナだ。

現れたヴァンダは(エミリアも初めて実物を見た)二本足で立つ平たい顔の猪のような姿の生き物だ。天を突く下顎の立派な牙と、手の甲から伸びるこれまた太い角が特徴である。

「エミリアは僕の後ろに!」

続いてネロがそう叫んでエミリアをトニオ達と自分で挟むように押しやって、背を向けて立つ。四人の背後から迫るヴァンダを迎撃する構えだ。パッと見で数えられないほどのヴァンダが飛び出すが、しかしやはりネロの方が速く、その実体剣が数回閃いたかと思うと、一斉に細切れの肉片になってしまった。

突っ込んでいったトニオの方はと言えば、こちらも身軽に立ち回ってヴァンダ達を翻弄し、襲い掛かるその角を的確に躱し、切り裂いていく。その背を狙うものをこれまた的確に捌いていくのは、片手剣(セイバー)を手にしたリィナ。そして戦場の中央で完全に置いてけぼりになったのがエミリアである。そもそも戦況は圧倒的で、エミリアは自分が手を出す必要性をあまり感じていなかった。そうは言っても戦闘は戦闘。本人たちは命がけだ。指を咥えて見ているのはあまり虫の居所がいいものではない。たっぷり数十回『戦わなくっちゃ』と自分に言い聞かせ、汗でじっとりしてきた手で長杖(ロッド)を握り締め、構えた。幸い今回はその構えに根拠がある。一つだけとは言え魔法(テクニック)を覚えた今、この長杖(ロッド)も鈍器などではないのだ。頑張れあたし!見よ、世紀の大魔法!!

炎よ(フォイエ)!!」

振り抜いた長杖(ロッド)が通過した目の前の空間が熱を帯び、炎が飛び出す。

「いっけー!!」

しかし、生まれた炎は、かの巨大自立起動兵器(スタティリア)の頭を吹き飛ばしたものとは比べ物にならないほど小さく、衝突した一匹のヴァンダが「ぐぎゃっ!」と声を上げ、転んだだけであった。やったぜ世紀の大魔法。

「下がってて、エミリア!」

足手まといと言わんばかりに声をあげたのは、その転んだヴァンダごと周りの個体まで一振り(に見えた)でズタズタにしたネロである。エミリアの心も一緒にズタズタだ。

 

エミリアがいじけている間にも、前で荒らしにかかったトニオ達のおかげでヴァンダの方はあらかた片付いたようである。その奥で、静観していたドルァ・ゴーラが一頭。

ドルァ・ゴーラは巨体だ。竜の頭を持つワニといった見た目をしており、硬い皮膚とズラリと並んだ鋭い歯が特徴である。だが本当に危険なのはその顎ではなく…

「危ないトニオ!」

青ざめて叫ぶリィナ。

「ドルァ・ゴーラの口から火が!!」

しかしそれも時すでに遅し。ヴァンダの乱戦からじっくりと狙いを定めていたドルァ・ゴーラは、口に大量の炎を蓄え、丁度小獣人(リトルビースト)一人を飲み込む程の巨大な灼熱を吐き出した。振り返るトニオ、手を伸ばすリィナ。

「エミリアァ!!!」

ネロが目を配せて叫ぶと、真っ白だったエミリアの頭が働き出す。が、あたしに止めろっての!?

否、考えている暇は無い。もとよりあたしには……!!

「ええい、これしかない!!炎よ(フォイエ)!!!」

無我夢中で杖を振る。あたしの貧弱な火の玉でも、ぶつけて少しでもあの炎を弱めることができれば……!

が、杖の通過した目の前の空気から、ゴォッ!!と生まれたのは爆炎だった。先程のヴァンダを転ばせた火の礫などとは比べ物にならない。巨大自立起動兵器(スタティリア)に放った火球よりも更に大きい。小さな太陽が目の前に現れたように、エミリアは自分の肌がひりひりするのを感じた。

「いける……!!お願い、トニオ達を守って!!」

呼びかけに応じるように爆炎はドルァ・ゴーラの火炎と衝突し、相殺してみせた。爆音が轟き、ドルァ・ゴーラがひっくり返る。

 

「す、すげぇ……今の、本当にエミリアがやったのかよ…?……っと!」

自分が命の危機に曝されていたことも忘れ、目をまん丸く見開いて立ちすくんでいたトニオだったが、ドルァ・ゴーラが元の姿勢に戻って一度吠えたのを合図に我に返って構え直す。しかし、ドルァ・ゴーラがその目で睨んでいるのは……

「えっ…?あっ、あたし!?」

言うが早いか、標敵を変えたドルァ・ゴーラはもう一度吠えると土煙を上げ、エミリアめがけ突進を始めた。あっという間に心臓が早鐘を打ち始める。エミリアはもう一度長杖(ロッド)を握り締め、

「や、やってやろうじゃん……みてなさい、フ……」

と、するっ、と手元が狂い、エミリアの長杖(ロッド)が地に落ち、カランカラン、と音を立てた。迫るドルァ・ゴーラ。う、そ……あたし、死んだ……?―――――

「俺を無視とはいい度胸だ。」

そして、ドスッ、と、

 

突進が止まった。否、止められた。

間に割って入った、トニオによって。

「う、受け止めた!?」

トニオは小柄である。なんならエミリアよりも小さい。その彼が、巨体ドルァ・ゴーラの鼻っ柱に食らいつくように組み付いている。異様としか言いようのない光景だったが、実際にドルァ・ゴーラはそれ以上トニオを押し潰すことも、振り払うことも出来ずにいた。両者に一層、ぐぐぐっと力が入る。ドルァ・ゴーラが唸る。そして、

獣人(ビースト)を……舐めるんじゃねぇぇぇぇ!!!」

ぐりんっ、と巨体が捻られ転がる。鱗の少ない腹を曝したその姿は、もはや抵抗のできないことを意味している。

「今だ、リィナァ!!」

「はぁぁぁぁぁっ!!!」

気づけばトニオの背後に控えていたリィナが、すかさずその手の片手剣(セイバー)で切りかかり、その首を落とす。そのコンビネーションももちろん大したものだが、分厚い皮膚を貫いての一振りである。自らより一回りも大きい巨体をも平然と転がし、切り飛ばす怪力。今なおこの惑星モトゥブに多くが住まう人種。

「これが……獣人(ビースト)…」

それは、エミリアの口から自然と漏れた呟きだった。

「大丈夫か、エミリア?」

「う、うん。ありがとう。…でもまさか、あんな大きいのを一人で投げ飛ばしちゃうなんて…」

「ちょっと小さいからって舐めるなよな。あのくらいなら屁でもねぇぜ。」

「何言ってんだか。エミリアがフォイエで助けてくれなきゃ危なかったじゃないか。」

胸を張るトニオをやれやれ、とたしなめるリィナ。なんとなく、エミリアは羨ましいと感じていた。

「けど、獣人(ビースト)って本当にすごいんですね。あんな力比べは僕にはできませんよ。」

後方で戦っていたネロも戻って来た。

「お前だって、記憶が無いってわりには中々の戦いっぷりだったんじゃねぇか?…エミリアもありがとうな。リィナの言う通りだ。フォイエ、助かったぜ。」

照れたように笑うトニオ。…そうは言っても無我夢中だったし、その後のトニオとリィナがすごすぎて全くお礼を言われる実感がないのだけど。

「しかし、ドルァ・ゴーラはともかく、あのヴァンダって生き物はあんなに好戦的なのでしょうか……あまり戦闘馴れしたようには見えなかったのですが……」

ネロが口に手を当て、呟くように言う。

「言ったでしょ。原生生物がやたら凶暴だったって。……早く奥へ行って原因を……あ、ほら見て!」

そう言ってリィナが指さしたのは、何の変哲もない……否、何か文字のようなものが刻んである岩だった。

「……なにこれ?何か刻んである……?」

「カーシュ族の目印だよ。刻んであるのは彼らの文字。ちょっと癖のある文法をしてるけど、あたいは一通り勉強してきたから、一応読めるはず……えー、『我らが一族に道を示す』……?これだけ?」

首を傾げるリィナ。トニオが後ろから声をかける。

「わかりづらいけど、この岩の向こう、道になってるな……こっちへ行けってことじゃねぇか?」

 

しかしながら、エミリアはリィナが読んだ目印の方が気になっていた。…これがカーシュ族ってヒト達の文字。恐らくそれぞれが意味を持っていて、でも象形文字っぽくはないんだよなー……だったら…いや、なんにせよ、これだけじゃ短過ぎてわからな…

「エミリア?」

「へっ!?…な、なによネロ?急に話しかけないでよね!!」

「いや、だから先へ進もうって…」

集中すると周りが見えなくなるのは、全くもって、あたしの悪い癖である。

 


感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に
感想を投稿する際のガイドライン
に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
一言
0文字 一言(任意:500文字まで)
※目安 0:10の真逆 5:普通 10:(このサイトで)これ以上素晴らしい作品とは出会えない。
※評価値0,10は一言の入力が必須です。また、それぞれ11個以上は投票できません。
評価する前に
評価する際のガイドライン
に違反していないか確認して下さい。