※ピクシブに投稿していた作品です。http://touch.pixiv.net/novel/show.php?id=6997668
※実験的に縦で読むことを考えて作ってありますので縦読みを推奨します。
月が、暗い夜の中で綺麗にうるさくなく輝いている。
月の輝きはかつて大きな街があった砂漠を薄く照らしている。
砂漠には街があった跡がある。
倒壊したビル群。砂に埋もれた道路。砂を被った道路標識と廃車。
それらが、街があった痕跡だ。
風が吹く。
荒立ちのない穏やかな風の吹く音が鳴った。
『アーマードコア(通称AC)』の上に寝そべった彼はその音を静かに聞く。
そんな心地のよい音を聞きながら、彼は月とその周りを取り巻く星々を眺めた。
眺めていると、彼の顔はいつもの仏頂面から穏やかな顔に変わっていた。
風が吹く。
穏やかな風が彼に触れる。
穏やかな風は彼の傷を優しく撫でる。
彼はとても穏やかだった。
だが、彼はここに来るまで穏やかではなかった。
幾度も他人を殺し、他人の愛機を殺した男。クライアントに頼まれて汚い任務も生存率の低い任務も引き受け、ただ生き抜くだけの金が欲しかった彼はいつの間にか立派な傭兵になっていた。
彼は立派な傭兵になりはした。
しかし彼の心は穏やかさがなく、ただ生きるのに必死になり、他人を殺して、心はひどく荒れていた。
過去の彼はそういう人物であった。
風が吹く。
穏やかな風が彼の愛機に触れる。
穏やかな風は彼の愛機に付いた無数の傷を優しく撫でた。
撫でられた彼の愛機もとても穏やかだった。
いつものうるさい駆動音を発さず、他人に死を与える強力無比な武器を手から離し、ただ砂漠の上に倒れている。
愛機は、過去に彼と共に戦場を駆けた存在。
戦場に捨てられ、彼に拾われたのが運命の出会いだった。
最初こそジャンクパーツで出来た粗製のACであったが、彼と共に生きる内にその身体はより強固になっていき、武器は最強のものに変わっていく。
愛機は次第に伝説上の存在に近しい存在になっていった。
風が吹く。
彼らは静かに風に触れる。
触れることに十分満足した彼は静かに目を閉じた。
彼の視界から輝く月と周りを取り巻く星々が消える。
愛機は彼が寝込んだ姿を見て、稼働することをやめる。
愛機も彼と同様に眠りについた。
朝日が地平線の向こうから顔を出し始める。
反対側の地平線に月が沈み、それまで月が照らしていた砂漠を代わりに朝日が照らした。
風が吹く。
穏やかな風は彼らを運び、ここから去っていく。
爆音が遠くに響く。
発射音が遠くに響く。
鉄と鉄がぶつかり合う音が遠くに響く。
砂を巻き上げる音が遠くに響く。
朝日が砂漠を照らす。
しかしどんなに騒音がしても彼らは眠り続ける。
ギリギリ千文字だった。