Fate/GrandOrder ~憎悪と慈愛と復讐の救済を~   作:三枝 月季

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 感想、及び評価を下さった方、ありがとうございました。

 ※今話には第一部のネタバレと言える描写が含まれています。一部クリア前でネタバレを踏みたくない。というマスターにつきましては、ブラウザバックを推奨いたします。(陳謝)



運命の夜 裏

To the virgins, to make much of time

 

Gather ye rosebuds while ye may,

Old time is still a-flying;

And this same flower that smiles today,

Tomorrow will be dying.

 

Robert Herrick

 

 

 

 

 

 

 

 ***

 

 

 

 

 

 

 

「おや?獣の幼体(・・・・)に出迎えを受けるとは思ってもいなかった。これは歓迎なのか、はたまた警告なのか。どちらにせよ、あのご老人(・・・・・)のことですから、ハッピーエンドをご所望なのでしょうね?」

 

 カルデア一行が奔走しているのと時を同じくして、炎にのまれた都市部の一角には、毬の様に軽やかな響きで言の葉を並べる者の姿があった。

 

「フォーウ?」

「いえ、申し訳ありません。独り言です。君も大概、振り回されているようですね」

 

 やれやれと、しゃがみ込んで獣の背を撫ぜたその人物の容貌は、目深に被られた純白のフードによって判然とはしなかったが、声色の幼さと体躯の小さから、一見すると年端もいかない子供のように感じられる。ただ、それにしては、妙に語り口が老成していた。

 

「――……おっと、既に戦局は動いているようですね。それと、これは困りました」

 

 瞬間、遥か上空を嘶きと共に奔った眩い軌跡に感嘆の呟きがこぼれる。そして――

 

「私が喚んだサーヴァントは、いったい、何処に行ってしまったのやら」

「フォウ?」

 

 憂いを帯びた嘆息に獣の戸惑いが重なった。

 

 

 

 

 

 

 ***

 

 

 

 

 

 

 燃え盛る炎の街を見下ろすように、その洋館は様式美を保っていた。いや、正しくは城と言い表した方が的確かもしれないが、兎も角、その豪邸を目掛け暗い森林を駆ける赤い騎影の姿があった。深紅の外套は木々の間を俊敏に跳び回り、時折、目には見えない障害を排除するかのように、ナイフを投擲しては進路を変更していく、そうして、あっと言う間に城の外観を捉えた。

 

 目標捕捉。と自身を鼓舞するように呟かれた低い声が、顔の下半分を覆う包帯の隙間から漏れ聞こえた。

 

 すぐさま彼は、城壁にほど近い木の枝に上ると、静かに城を俯瞰し観察してから、熟練の早業で複数のナイフを一直線に放った。凄まじい技巧を孕んだ凶器が、飛距離を伸ばしながら、第一刀である凶刃の後押しをする。研鑽され計算づくされた一陣の煌めきはけれど、大詰めというところで少しだけ浮き足立った。

 

 その様子に溜め息によく似た吐息を一つ、何処からか小銃を取り出した男は、手慣れた動作でそれを構えると、深紅のフードと包帯の間で暗い瞳を細めた。刹那、放たれた銃弾は正確無比な軌道を描いてナイフの柄へとめり込み――

 

神秘轢断(ファンタズム・パニッシュメント)

 

 無機質な呪文と共に、弾丸によって加速したナイフの切っ先が、城を覆う透明な膜へと突き刺さる。硬質な高音を伴って結界が割れるや否や、深紅の外套は城内へと滑り込んでいた。

 

「――……ここは」

 

 そうして、降り立った庭園では、一面の薄紅の薔薇が華やかな香りを振り撒いていた。無論、硝煙の匂いをさせるような男には縁遠い景色である。なのに、何処か郷愁に似た切なさを覚えている自分があった。

 

「……僕らしくもない」

 

 理由の判然としない不可解さに苦い述懐がこぼれ、衝動的にここを目指した己を嗤う。そしてハタと気付く、抑止力の命での現界ならば、このような脱線は起きないはずだと。

 

 ただ、仮にそうであるのなら、何処かに自分のマスターにあたる人物がいなければ道理が合わない。だと言うのに、この世界は既に破綻し過ぎている。魔術師にせよ、サーヴァントにせよ。聖杯戦争とは表沙汰にならぬように、密やかに行われる戦闘であらねばならない。それが基本且つ共通認識であろうに、一体、何処の馬鹿が暴走したのかはしれないが、救いようのない奴は何処にでも居るようだった。故にこそ、自分のような者が存在しているわけだが――

 

 なんにせよ、情報が足りない。と踵を返そうとした男の視界に、大岩の如き巨漢が映る。しまった。と思ったものの一足遅く、狂気に濁った双眸は、ジロリと侵入者をねめつけた。

 

 

 

 

 

 

 ***

 

 

 

 

 

 

 

「一つ、聞いておきたいのですが……、獣の幼体。あなたは単独顕現を有していますよね?」

「フォウ」

 

 ところ変わって、二つの小さな白は、燃える街並みを抜け、郊外を進みながら、淀みない対話を展開していた。

 

「……ならば直ちに、あなたのあるべき所へ戻りなさい」

「フォーウ?」

 

 やおら、森の入口を探し当てた白装束の矮躯は、柔く小さな手で虚空に触れる。波紋のように空気が波立って、指先が見えない壁へと沈みゆく――

 

「私は狂乱の英雄の忠節に、一つの区切りを示さねばなりません。でなければ、あまりに彼が救われない。何より、今、かの女怪と彼を相対させたくはないのです。それに折角、喚んだサーヴァントを、こうも簡単に喪うのは寝覚めが悪いと言うもの」

「……フォウ」

「さようなら、キャスパリーグ。君が君である為にも、汚れは私が引き受けよう」

 

 優しい拒絶と共に、小さな背は境界線の向こうへと吸い込まれる。残された白い獣は高く鳴くと、その場で跳躍し、光と共に姿を消した。

 

 そうして、辺りには濃い闇と静寂だけが返ったのであった。

 

 

 

 

 

 

 ***

 

 

 

 

 

 

「■■■■■■■■――――!!!!」

 

 猛りのままに野獣が吼える。鈍重な見た目に反して巨躯の動きは素早く、凄まじい膂力を以て振り上げられた、剣と言うには余りに無骨な得物は、庭園の石畳と煉瓦の壁を、バターを切るかのように容易く切り刻む。

 

 風圧に舞い上がった花弁が、血しぶきの如くに辺りを彩る中、侵入者である男は、俊足を遺憾なく発揮することで暴虐を躱しながら、城の番人の規格外の脅威に、ジャイアントキリングなどガラではない。と心の中で毒づいた。

 

 しかしながら、撤退という選択肢を選べる状況でも、立場でもなかった。相手の精神からは、捕捉した敵を逃がすような余裕や温情は、とうに失われているだろうし、同じように、何某かの意思によって召されて、使い捨てられる救済装置(殺戮機構)である自分も、何かを切り捨てる事には慣れきっている。たとえそれが己の生命であったとしても、価値が変動することはない。と、男は非情なほどの冷静さで以て、咆哮する標的を見据えて駆けた。が――

 

「――……令呪を以て命じます。両者共に矛を収めなさい」

 

 刹那、戦場に似合わない鈴の音が唱えた言の葉に、鈍色の巨人と深紅の騎影は瞠目と共に静止する。但し、それは強制を受けたからではなく、突然の衝撃に対する反射としての挙動だった。

 

「――……!!」

 

 途端、息を呑む気配と我に返るような銃声が轟き、闖入者に迫った銃弾は、巨人の鋼の肉体によって阻まれる。一瞬の硬直からの立ち直りは、両者共に迅速且つ意外性に富んでいた。

 

「――……可哀想に、本来の主と私の区別もつかなくなっているのですね」

「……どういう意味だ?君がそのデカブツの主なんじゃないのか?」

 

 銃を構えたままの男の問いに、巨人が威嚇も露わに低く唸る。その巨体に庇われる形となった、白い小さなフードからは、幼い悲嘆の声がこぼれた。

 

「……離れていて下さい。如何に抑止の守護者であろうと、貴方に大英雄の相手は荷が重いでしょう」

「……まるで、自分ならば務まると言うような口ぶりだな。君は何処のお嬢さんだい?」

 

 荷が重い。という事実を指摘されたからではなく、抑止の守護者と呼ばれた事に、男は警戒を強めて相手を注視した。

 

「貴方と同じ、世界の奴隷ですよ」

「――……なんだって?」

 

 幼すぎる少女の返答に、男は意外にも鼻白んだが、少女はさして気にも止めず、巨人へ向かって言霊を紡いだ。

 

ヘラクレス(・・・・・)。これより私は貴方の狂気を剥奪します」

 

 歴然とした身長差ゆえに、巨躯を見上げる形となったそのフードが落ちる。

 

「■■■■」

 

 瞬間、現れた幼子の面立ちに巨人は虚を突かれたかのようにたじろいだ。

 

仁恤(じんじゅつ)を以て殺します(救います)

 

 少女の色素のない髪が風に舞い、血潮の色をした眼が見開かれる。

 

水鏡の愛(ナルキッソス・レメディ)

 

 静かな吐息がさざ波のように鼓膜を震わすと同時、辺りは眩い光に包まれた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……なるほど、凄まじい癒し手があったものだ。狂戦士から(・・・・・)狂気を除く事で(・・・・・・・)存在意義を奪う(・・・・・・・)。などとは考えもつかない。このような激烈な(すべ)をその齢で如何にして身につけたのか……」

「目に見える形がすべてではありません。私は貴方の忠義を利用した卑怯者に過ぎない」

 

 ぬるま湯に浸る微睡みのような、温かな安息を覚える光が収束するや、狂気に濁っていた双眸を、正気に澄んだものへと変えて、バーサーカー、否、大英雄ヘラクレスは感嘆の呟きを漏らした。だのに、そんな彼に讃えられた少女はと言えば、苦汁を飲んだかの様に整った容貌を歪ませている。

 

「……だとしても礼を言おう。優しい介錯を有難う。小さなレディ」

 

 半ば、粒子となって霞む巌のような巨躯を、精一杯に縮こませながら、少女へと答えた神代の英雄は、晴れやかな面持ちで風に溶けるように消え去った。その風に舞った薔薇の花弁と香りが、少女の尼削ぎの頭に引っかかる。薄紅のそれは彼女の白髪にはよく映えた。しかし――

 

「あんたは、いったいなんだ?狂戦士殺しに特化した英霊など聞いたことがない」

 

 ささやかな寂然のひとときは数瞬で、銃器を構える微かな音と男の詰問によって乱される。それに柔順に向き直る少女の頬を銃弾が一つ掠めた。

 

「動くな、それと質問に答えろ」

「……丸腰相手に随分な事をなさるのですね」

「よく言う。それと、幼児の姿を取るのなら、もう少し、それらしく振舞ったらどうだ?」

 

 改めて相対してみれば、少女の見目は想像以上に幼く、外見年齢だけならば、丁度、片手に収まるぐらいだった。ただ、それにしては中身が余りに達観しているようで、薄気味が悪い。尤も、内と外の整合性が取れていたとしても、それはそれで、この狂った世界には能わず、不気味だったであろうが。

 

「……先も申し上げましたが、私も貴方と同じ代行者です」

「ならば、僕が喚ばれた意味はなんだ?狂戦士をどうにかするのが目的ならば、君一人でこと足りたはずだ」

 

 隙の無い指摘と共に、男の暗い双眸が予断なく少女を見据える。けれど、隠そうともしない警戒心と殺気を受けて尚、少女は動じるそぶり一つ見せなかった。

 

「……困ったなぁ、優秀なのもここまで来ると些かやり辛い。でも、そうですね。正直にお話しいたしましょう」

 

 降参だと言うように、少女は苦笑を浮かべて、小さく可憐な唇を開いた。

 

「……まず、狂戦士は行きがけの駄賃のようなものです。それと、貴方を喚んだのは私です」

「――……何を言っている?」

「ええ、困惑するのも分かりますが事実です。令呪ならばこちらに」

 

 そう言うと、少女は前方に片腕を伸ばし、顔に重なるような位置で右手の平を開く。そこには確かに、蝶を思わせる。朱の紋様が浮かんでいた。

 

「代行者同士での主従契約だと!?そんな事があり得るはずが――」

 

 途端、男が驚愕に顔色を変える。それはフードと包帯でほとんどの表情を隠していながらにして、如実なものだった。

 

「ええ、常ならばまずありえません。ですが、私は代行者としては、かなり限定的な力しか持ち得ていないので、どうしても協力者が必要なのです」

「……解せないな、仮に君の力が限定的な代物だとしても、問題に対処できるだけのバックアップは抑止力が行っている筈だ」

「それも常ならばそうだったでしょう。ですが状況は余りに混沌としてしまっている。故に私は貴方という保険をかけたのです。状況が混沌としているが故に成功した保険というのも皮肉ではありますが……」

 

 自嘲の色を乗せた少女の顔つきに、男は逡巡するように押し黙る。沈黙の中で薄紅の花吹雪だけが雄弁だった。

 

「…………正直、理解が追いつかないというのが本音ではあるが、取り敢えずは君の目的を聞こう。君は何を阻止するためにこの世界に赴いた」

 

 三度目の花の嵐がやんだころ、男は観念したかのように銃器を下げると、重い口を開いた。対する少女は少しだけ迷いを見せながら答える。

 

「……有り体な言い方をしてしまえば、災厄が振り撒かれるのを防ぎたいのです」

「方法は?」

 

 その淀んだ言い回しに、気付いているのか、いないのか。男は然したる感動を覚えるでもなく、淡々と相槌を打つ、当然を相手にしているかのように。

 

「…………私には殺さなければならない(・・・・・・・・・・)(ひと)がいるんです。なんとしても、それこそ私の全てを犠牲にしても……」

 

 少女の柔和な面立ちが翳る。蝋人形のように生気を失くした顔色と、磨り硝子の様に曇った眼に、男は漸く少女が自分と同類であるという事の実感を得た。

 

「……そうか、細かい事は分からないが、明瞭な目標があるのはいい事だ。そうと決まれば、とっととその標的を仕留めに行こう。それで君の役目も僕の拘束も解かれるというのなら万々歳じゃないか」

「それが出来ていれば、私は貴方を喚んではいませんよ」

 

 突き放すような男の言動に、呆れの交じる毅然とした声が返る。

 

「目的に変わりはありません。ただ、彼女の代わりを務める者も居ないんです」

 

 相も変わらず釈然としない展開に、男の眉間の皺が深くなる。

 

「今の彼女はこの世界に起こった異変を探り、解明する事の出来る唯一の探索者です。故に、我々は彼女が世界を救うまでは、彼女に助力する側でいなくてはなりません」

「つまりは陰から支え、しまいに陰に葬るのが僕等の役目だと?」

「……そうです。きちんと殺す為にも生かす(・・・・・・・・)のです」

「難儀な仕事だ」

 

 辟易とした男の声音に、少女は切実な声色で告げる。

 

「これも同業者のよしみということで、協力してください」

「……元より拒否権はないんだろう?」

 

 棘を含んだ肯定の言葉に、少女は親睦を深める為か手を差し出すも、男は軽蔑するような一瞥をくれただけで、彼女の脇をすり抜けた。無視される形となった少女は、行き場を失くした己の手の平に浮かぶ紋様を見つめて、もの憂うように肩を竦めてから、男の後に続く。そうして数歩、並び歩いた紅白は、言葉少なに何事かを交わし合うと、示し合わせたかのように姿を消した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………………フー、フォーウ」

 

 そうして、人知れず誕生した。世界を巡るもう一つの主従のあらましを、唯一と見届けていた白き獣は、城の屋根の上で意味深な鳴き声をこぼしたのであった。

 




 ※ん?フォウ君?となった方は、キャスニキのスパルタ指導の前後辺りを読み返して頂ければと思うのですが、彼はマシュが宝具を習得した回を最後に描写が無くなっているはずです。詳しく描写してしまうと今話でのインパクトを出せないと判断したので、詳細は記してはいませんが、マシュは宝具習得後もキャスニキに指導を願い出ているので、それを隠れ蓑に別行動に移ったと認識頂ければと思っております。(とはいえ、いくら戦闘とその後の召喚劇に気をやっていたとしても、誰も彼がいなくなった事に気付かないのは酷いし、気付かれないフォウ君は可哀想だと思います←)

 とまぁ、凄まじい時間を要してしまいましたが、この序章エピローグ(ある意味ではプロローグ)を書いた事により、本格的に後戻りはできなくなった感があります。定められた結末に向けて伏線?等をちゃんと張ってきちんと回収していけるのか、不安で致し方ないですが、慎重に(出来れば迅速に)彼女達の物語を編んでいけたらと思います。

 次話はカルデアに舞台が戻ります。帰還後の諸々のお話と、未定ではありますが、カルデア職員にスポットを当てたお話を書ければと思っているところです。その後は、アヴェンジャー以外のサーヴァントの召喚も行う予定です。クラスと数は弓2、術1、殺1で、ここにマシュとアヴェンジャーを含めた総勢6名が初期の鯖メンバーとなります。更には、主人公の走狗を務める新キャラも登場致します。誰が喚ばれるのか予想を立てるなりしつつ、更新をお待ちいただければ幸いです。

 ※最後に、アインツベルンの結界は気配遮断で突破できるとは思ったのですが、どうしても、彼にはこうして欲しかったので、このように描写しました。悪しからず。(陳謝)

 
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