これは便利屋を営む「縁想真」が、様々な依頼を解決する話である。

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縁想真という男

この宇宙には五つの世界がある。

 

黒の世界、ダークネス・エンブレイス。

 

赤の世界、テラ・ルビリ・アウロラ。

 

白の世界、システム=ホワイト=エグマ。

 

緑の世界、グリューネシルト。

 

そして青の世界、この地球。

 

ある日突然、その五つの世界が繋がり、色々あって、エクシードを持つプログレス、それを強化するαドライバーが青蘭島に集結した。

 

世界を崩壊から救うために。

 

「その依頼、この縁想(えんそう)(まこと)が引き受けた!」

 

そんな事はどうでもよく、縁想真は便利屋を営んでいた。

 

――――――――――――――――――――

 

「いや~、本当に良かった~!」

 

依頼人の名は彩城(あやしろ)天音(あまね)。茶髪のサイドテールの少女で、唯一αドライバーからプログレスになった。

天音は今、縁想の一緒に目的地へ歩いていた。

 

「風紀委員さん達が忙しくて頼めなかったんです。ありがとうございます!」

 

「そうですかそうですか、ご安心ください。私にお任せさえすれば、貴女の悩みは必ず解決します!」

 

縁想の言葉を聞いて盛り上がる天音に対し、不安そうな顔をする青髪の少女。

蒼月(そうげつ)紗夜(さや)。彼女もまたプログレスであり、光を操るエクシードを持つ。

 

「……天音」

 

「どうしたの? 紗夜ちゃん」

 

「やっぱり風紀委員さん達に任せた方がいいんじゃない? 今回の件、プログレスじゃなきゃ……」

 

「聞き捨てならないな。私では無理だと言うのかね?」

 

縁想に睨まれ、紗夜はたじろく。

 

「いいか君。この縁想真が解決できなかった依頼は一件もない! 成功率100%! 宝探しだろうとモンスター退治だろうと常に達成してきた! それを肝に銘じておけ!」

 

「えぇ? ……はい」

 

迫力に押される紗夜だが、やはり納得する事はできなかった。

 

「ここです! ここ!」

 

三人が着いた場所。それは青蘭学園にある庭園だった。

見ると、いつもは咲き誇るはずの花々は残らず萎れていた。

 

「成る程、これは大変だ……発見したのはいつですか?」

 

「はい、放課後にここに来てみたら花が枯れていて……エクシードを使っても元気にならないんです」

 

「昼間は一つも枯れていなかったんです。風紀委員さんに頼もうとしたんですが、別件で忙しそうで……」

 

天音と紗夜の詳言を聞き、縁想は頷く。

しばらく庭園を見た後、二人に声をかける。

 

「よし、さっそく調査開始だ。着いてこい」

 

「……えっ、私達もですか?」

 

「当たり前だジミー君。調査は人手が多い方が捗る物なのだよ」

 

「紗夜です、蒼月紗夜」

 

訂正しつつ、紗夜は二人と共に庭園に入る。

 

――――――――――――――――――――

 

「う~ん……何もないね」

 

数分後。庭園を隅々まで調べたものの、特に怪しい物は見つからなかった。

紗夜と天音は何も手がかりがない事を知り、途方に暮れる。

 

「調べてから言うのは難だけど、そう簡単に手がかりとか見つからないよね……縁想さん、他の場所に行って手がかりを――」

 

振り向くと縁想は軍手を嵌めていた。

両手が自由に動くか確認し、柵を越えて花壇の中に入る。そして――

 

「ホオゥーー!」

 

甲高い奇声を上げ、穴を掘り始めた。

勢いよく土を掻き分ける縁想。周囲には沢山の土が飛び散る。

その突拍子もない行動に二人は愕然した。

 

「えっ、何? 何でいきなり掘り始めたの!? うわ、土が飛んできた!」

 

「縁想さん、もぐらさんだったんだ!」

 

「違う天音! 違うからね!? 縁想さん、何してるんですか!」

 

紗夜の声を聞いた縁想は手を止め、二人を見る。

 

「花は土の中から栄養を得る物なのだよ、ジミー君」

 

その一言だけ言うと、縁想は穴掘りを再開する。

 

「紗夜です! 何なんですか、ジミー君って」

 

「そうですよ! 紗夜ちゃんは地味じゃないです!」

「地味!?」

 

友達のために憤る天音。だが、紗夜はそれによってジミーの由来を知り、逆にショックを受けた。

 

「オォーーーー……むっ」

 

穴掘りをしていた縁想が再び手を止める。何かを発見した様であり、穴の中を覗き込んだ。

 

「彩城天音さん、それとジミー君。見つけました」

 

「その名前で呼ぶのやめて、傷つきます」

 

二人は縁想の所へ行き、掘られた穴を覗く。

中には太く黒い、根の様な物が埋まっていた。

 

「わぁ~、こんなのが土の中に埋まってたんだ!」

 

「…………」

 

土中にあるソレを見た紗夜は黙って考え込む。

 

(木の根……にしては変。無機質な感じがする。もしかして――)

 

「ウオオォリャアアアアア!」

 

紗夜の思考をよそに、縁想は迷いなくソレを掴む。力いっぱいに引っ張り、土中から外に引きずり出した。

 

(なに、この人……?)

 

恐れを知らない縁想に紗夜は呆然とした。

 

一方、引きずり出されたソレは縁想の手を逃れる。うねうねを動くソレは、根というよりは触手の様だった。

 

「そんな……あれって!?」

 

「……ウロボロス!」

 

紗夜と天音は目の前のソレに見覚えがあった。

 

ウロボロス。それは世界の敵。

正体や出自は不明。明らかにされているのは一点のみ。世界を破滅に導こうとしている事だった。

 

ウロボロスを見て身構える二人。だが縁想は目の前にいるのがウロボロスである事を知らなかった。

 

「でけぇヘビだな……しかしまぁ、この縁想の手に掛かればこんなヘビ――――」

 

「縁想さん、逃げて!」

 

余裕ぶってウロボロスに近づく縁想だったが、触手で叩かれ、返り討ちに遭ってしまう。

触手を食らった縁想は後ろへ吹き飛び、二人の間を通り越した。

 

『縁想さん!!』

 

縁想を払ったウロボロスは、次に二人を標的に触手を繰り出してきた。

 

「危ない!」

 

攻撃が来る事を察知した紗夜。自分のエクシードで光の剣を出し、飛んでくる触手を斬って天音を守った。

 

「逃げて天音! ここは私が食い止めるから!」

 

「でも紗夜ちゃんは!?」

 

「構わないで! それよりもこの事をみんなに知らせて!」

 

紗夜は天音に逃げるよう促す。

しかし、二人の背後から触手が現れ、天音を捕らえた。

 

「きゃああああ!!」

 

「天音!?」

 

驚く紗夜にまた別の触手が襲いかかる。

紗夜は触手をかわし、反撃に光の刃を飛ばす。それは天音を捕らえる触手を刺し、天音を解放した。

 

「天音、大丈夫!?」

 

「いてて……うん!」

 

ウロボロスの触手が地中に潜り始める。反撃を受け、分が悪いと判断したのだろう。

 

「逃がさない!」

 

地中の音を頼りに追跡しようとする紗夜。それより先に紗夜の横を誰かが通り、猛スピードでウロボロスを追いかける。

 

「待てや巨大ヘビィーーーー!!」

 

一発でノックアウトされた縁想だった。負傷した様子はまるでなく、ピンピンの状態で疾走していた。

 

「縁想さん……待ってください!」

 

「あっ、紗夜ちゃん!」

 

プログレスではない縁想がウロボロスを追うのは危険だ。

紗夜は縁想を止めようと走り出し、天音も後を着いていった。

 

――――――――――――――――――――

 

学園近くの森林。三人はウロボロスを追っている内に、森の中へ足を踏み入れた。

 

「もう無理、疲れたぁ~……」

 

「速い……あの脚力は何なの?」

 

紗夜と天音は体力を消耗し、息を切らす。縁想は速かった。プログレスでないはずが二人と同等、それ以上のスピードで走っていたのだ。それ故に二人は縁想に追い付けず、先に疲れてしまっていた。

 

「……むむっ!」

 

縁想の足が止まった。そこでやっと二人は追い付き、縁想の背中を見る。その様子は何かを見ている様だった。

 

「天音さん、ジミー君、見つけました……これが原因です」

 

縁想が前を指して示す。そこには他から突出した大樹――に模したウロボロスだった。

 

「わぁ~凄くおっきい……」

 

「どうやら木に化けた様だな……だが、それでこの縁想の目を欺く事はできん!」

 

勘違い甚だしく、紗夜はツッコむ気が起こらなかった。

気を取り直すと地面から触手が次々と現れ、ウロボロスの周囲に集う。

 

「下がってください縁想さん。後は私がやります!」

 

「そうはいかん。さっきは油断したが、今の私なら――」

 

目の前の縁想を無視し、触手が紗夜と天音に襲い掛かる。

 

「っておい巨大ヘビ! テメェらの相手は俺だぞ!」

 

縁想が怒鳴るもまったく意に介されなかった。

 

「天音、こっちに来て!」

 

「えっ? ああっ!」

 

紗夜が天音の手を掴み、襲いかかる触手から逃げる。何が何でも天音を守らないと。とある事件で天音が封印された事を思い浮かべ、紗夜は決意を固めた。

 

「手を出すなぁ!」

 

光の剣を振るい、ウロボロスを拒絶する。渡すものか、絶対に。

紗夜は天音の盾になって返り討ちにするが、触手は絶えない。それどころか、徐々に触手の数が増えていた。

 

「紗夜ちゃん、そっち!」

 

「えっ……!」

 

天音の注意も空しく、紗夜は不意討ちを受けてしまった。

触手に叩き落とされ、地に倒れる紗夜。痛みに耐えて立ち上がるが、その時既に触手が紗夜の元に伸びていた。

 

ここまでなの、私?

紗夜は悔しさで唇を噛んだ。

 

「ブラッドシールド!」

 

輸血パックが落ちてくる。中から吹き出た血が凝固し、紗夜を守る防壁となった。

血の防壁は硬く、襲いかかる触手を全て弾いたのだった。

 

「全く……無茶し過ぎです。紗夜はやっぱり、私がいないと駄目ですね~」

 

空に佇む少女。紫色の髪に肌は白く、その容姿は優雅な雰囲気を醸し出していた。

 

真祖の吸血鬼、アルマリア。

エクシードは血を操る能力。

 

「お姉さんに任せてください♪」

 

取り出した輸血パックから血を出し、真紅の大剣を作り出す。アルマリアはそれを手に飛び出し、迫りくる触手を断ち斬っていく。

 

「ブラッドスピア!」

 

紗夜を守った防壁が分裂し、その一つ一つが槍に変わる。槍は一斉に発射して触手を貫き、ウロボロスにもダメージを与えた。

 

「エールフレンド!」

 

紗夜と天音の元に光り輝く鎖が舞い落ちる。優しく温かく二人を包み、空へと連れ出した。

 

「紗夜ちゃん、天音ちゃん! 怪我は無い!?」

 

「エルエル!」

 

赤の世界の天使、エルエル。淡いピンク髪のツインテールに赤を基調とした服。頭に光の輪がついており、背中に羽が生えている。

エクシードは友達の能力を借りられる、エールフレンド。

 

「友達のピンチはアタシのピンチ! だからアタシも戦うよ!」

 

エールフレンドで紗夜の能力を借り、光の剣を手にするエルエル。空へ伸びる触手達を斬って、二人を守る。

 

「空からも来る!」

 

天音が空中に、何体ものビットがいる事に気づく。

ビットは砲身を出すと、それを三人に向けてチャージし始めた。

 

ピュゥゥゥゥウン!

 

何かビット達をが高速で通過した。するとビットは一斉に爆発し、跡形もなく消滅する。

天音はその何かが金髪でユニットを装着した少女という事に気づき、笑みを浮かべた。

 

「ステラ!」

 

「ウロボロス確認、これより殲滅する!」

 

コードΩ77ステラ。白の世界のアンドロイドであり、エクシードは加速。

それ故か、速さに関して異常なこだわりを持っている。

 

「何だありゃあ……ラジコンか?」

 

縦横無尽に空を飛び、ビットを撃墜するステラ。その様子を縁想は見当違いな事を言って呆然と見つめる。

完全に蚊帳の外だった。

 

「本丸が~ガラ空きだ!」

 

アルマリア、エルエル、ステラに戦力を総動員し、無防備になったウロボロスに銀髪の少女が飛び込む。緑を基調とした服装で、片手には籠手を着けていた。

 

彼女はナイア・ラピュセア。緑の世界の軍人であり、エクシードは籠手型の武器アヴェンジェリア。

 

アヴェンジェリアで殴られたウロボロスは大ダメージを受け、爆発を起こす。触手はすぐに主の元へ戻り、ナイアに攻撃を仕掛けた。

 

「あらよっと!」

 

ナイアは軽々と触手をかわし、紗夜と天音を見上げる。

 

「騒がしいから来てみれば、随分とめんどくさい事になってるじゃないか~。お前らだけじゃ心もとないし、アタシも来てやったぞ」

 

「ナイア……!」

 

皆が来てくれた事に安堵する紗夜。そうだ、自分は一人なんかじゃない。皆がいるんだった。

天音を抱えて下へ降りると、呆然と突っ立っている縁想に言う。

 

「私行きます、縁想さん。天音をお願いします」

 

「……任せてください。行きますよ、天音さん!」

 

しばらくの沈黙の後、縁想は応えた。天音の手を掴むとすぐに駆け出し、ウロボロスから離れる。

紗夜は二人を見届けるとウロボロスを見て剣を構えた。

 

「それじゃあ、皆行くよ!」

 

『10-4、了解!』

 

紗夜は一直線に飛び出し、ウロボロスに斬りかかった。

 

――――――――――――――――――――

 

「ウロボロス反応、無し。全滅を確認」

 

ステラがウロボロスが消えた事を確認し、空中から降下した。

ウロボロスを倒し、剣を収めた紗夜の元にステラだけでなく、他の三人も集まった。

 

「やったね紗夜ちゃん! アタシ達でウロボロスを倒したよ!」

 

エルエルが明るい笑顔で紗夜に言う。

 

「うん、皆のおかげだよ。ありがとう」

 

「ですが紗夜、無暗に突っ走らないでください!」

 

アルマリアがふくれっ面で怒る。

 

「一生懸命なのは紗夜の良い所ですが、一人だけで何とかしようとするのはいけません! 私達もいるんですから、もっと頼ってください!」

 

「あはは……ごめん、アルマ」

 

紗夜が謝るとアルマリアはフフッと微笑む。

 

「謝らなくてもいいですよ~。紗夜のそういう所、とっても好きですから」

 

「アルマ……」

 

「……その代わり♪」

 

何を思ったのか、アルマリアはうっとりとした目で紗夜に近づく。口をゆっくりと開け、唾液を垂らして首筋に迫った。

そう――吸血しようとしていた。

 

「危ない!」

 

紗夜の危険を察知したステラは一瞬で二人の間に割り込み、アルマリアの吸血を阻止した。

 

「なっ……何ですかステラ! 邪魔しないでください!」

 

「吸血はさせない。紗夜は私の大切な存在」

 

ステラだけでなく、エルエルもアルマに怒る。

 

「また血を吸おうをしてる~! 駄目だよアルマ!」

 

「いいじゃありませんか、少しだけなんですから! 後、私をアルマと呼んでいいのは紗夜と天音だけです!」

 

「……やれやれだ」

 

紗夜を巡っていがみ合う三人。

それに見てただ一人、ナイアは呆れたような笑みを浮かべる。

 

「皆~~!!」

 

遠くで見ていた天音が五人に手を振って駆け寄る。その声を聞いた五人は振り向き、天音の元気な姿を見て微笑んだ。

 

私や皆がここにいるのは天音のおかげだ。

紗夜は今までを思い返し、天音を嬉しそうに見つめた。

 

「……報酬の件ですが」

 

空気を読まず、縁想が声をかけた。

思いふけていた紗夜はハッと我に返り、彼を見た。

 

「あら? 誰ですか貴方は?」

 

「私は縁想真。今回、天音さんの依頼を受けてここに来ました」

 

軽く自己紹介した後、縁想は話し始める。

 

「それで今回の料金ですが、本来は5000円の所……内容が余りに危険だった事、それより私の手を煩わせた事を考慮しまして、15000円とさせていただきます」

 

『……えっ?』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

彼の名は縁想真。青蘭学園に在籍する高校三年生。

こうして便利屋を営み、金を稼いでいた。



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