「あー。疲れたぜー!」
「そうだな。相変わらずあの熱血具合は耐えられそうにない」
マツオカ先生はいつもそうだ。
常に真面目で熱血漢、おまけにテニスを学生時代にやっていたか何かで、服の上からでもある程度分かるぐらいに筋肉がついている。
近づいても遠ざかっても暑苦しいと話題で、クラスでは『太陽神』とかいうあだ名をつけられていた。
「『太陽神』の授業受けた後に、アツヤの近くにいたら涼しくなるからな」
「・・・ん?なんでだよ?」
「だって、アツヤ、名前の割にクールだし」
「お前なぁ・・・。あっ・・・」
おっと、そのまま会話を続けそうになってしまった。
授業終了後、いつもは隣にいるワタルと他愛もない会話をするのだが、今日はその会話に華を咲かせるわけにはいかない。
「悪ぃ、今日ちょっと図書室で調べたいことがあるから、また後でな」
「えー。昼休みでいいじゃん、次の授業までそんなに時間空いてねぇぞ」
「昼休みが埋まったら嫌だから今行くんだよ」
あ、そっか。頭良いな。と言っているワタルを無視して、僕は図書室へと急いだ。
この学校の図書室は、利用する人がほとんどいないという無残な場所だった。
それもそのはず。僕がいるクラスにしか人がいないし、男子のほとんどは本に興味を持たない。
本を読むとしたら、一部の文学少年少女ぐらいだし、そいつらの母数も多くはない。
従って、この図書室にいる人などほとんどいないのである。
相変わらず図書室には人がいる気配がしない。
いつものように、机の上に本を積み重ね、分厚い本を恐ろしい速度で読み続けている司書の先生しか、見当たらなかった。
「すみません」
「・・・」
「あのー・・・」
「・・・」
この学校に関する本が置いてある場所を聞こうと思ったのだが、司書の先生は読書に没頭しているらしく、僕の言葉に一切反応しない。
「・・・。はぁ・・・」
図書室で大声を出すわけにもいかないし、読書中の相手の気を削ぐのも憚られる。
仕方がないが、自分で探すことにしよう。
「それにしても無駄に広いよなぁ、この図書室」
実はこの図書室、蔵書も大量にあるし、僕の背丈では全く届かないくらいに棚が高かったりする。
生徒が全く利用しそうもないのに、ここまでだだっ広いと、どうしてこうなったのか理解に苦しむ。
永遠に続きそうだった棚の道を漸く抜けると
現れた光景に息を呑んだ。
そこは大窓がある、開けた読書スペースだった
大窓からは樹木の間から光が差し、読書スペースを淡く照らしている
その窓の近く、壁に寄りかかって、文庫本を読んでいる一人の少女がいた
長い髪を腰まで垂らし、日本人離れしているように見えるほど凛々しい顔立ち
その表情はどこか愁いを帯びつつも、力強さを感じさせるものだった
それらが合わさった景色は、まるで絵画のようだった
「・・・そんなにじっと見つめられても困るのだけれど」
「あ、ああ、悪い」
少女は本を読みつつも、僕の存在に気付いていたらしく、簡潔に文句を述べる。
他に人の気配もないし、読書の邪魔をして悪いが、彼女に聞くことにしよう
「読書の邪魔をして悪いけど、この学校に関連した書籍はどこに置いてあるか分からないか?」
そう問いかけると、少女は静かに本を閉じる。
と、ともに僕に急に近づいてきた。
「なるほど。あなたは、私の仲間ね」
「・・・は?」
「私以外この図書室に来ることなんて珍しいし、ましてや話しかけようとする人なんてもっと珍しい。さらに学校の関連書籍を探しているとなると、私と同類の人以外いないはず」
「んん・・・?」
「因みに学校の関連書籍はどこにも置いてないわよ。司書の先生に聞いたけど置いてないって言われたし」
「そうか・・・。いや、ちょっと待て」
僕が目を白黒させているうちに、少女は饒舌に語る。
てか、関連書籍は存在しないとか言ったか。
「どうして無いと言い切れる?司書の先生が嘘をついている可能性は?」
「ほかの先生たちにも聞いたから。みんな答えは同じ『卒業アルバムがない・・・?そりゃあそうだよ。だって、この学校まだ卒業生がいないのだから。なにせこの学校3年前に作られたばかりだもの』ってね。」
「全員が口裏を合わせているってことはないのか?」
「あり得るけど、私が図書室を何週かしても見つけられなかったから、実際に存在しないんだと思う」
「そうか・・・」
人づてに聞くだけでは信憑性に欠けるが、自らの足で幾度もこの図書室を回っているのであれば話は別だ。
「疑って済まなかった。だが、一つ聞きたい」
「どうぞ」
「同類ってなんだ?」
そう、先ほどから目の前の少女は僕の事を同類と呼んでいた。図書室を一度も利用したこともない僕に、だ。
「なんだ、そんなことも分からないの?」
やけに乾いた口調で彼女は答えた。
「この世界に違和感を抱いた同類のことよ」
「・・・!」
「驚くことないでしょ?違和感を感じるのにはそう時間はかからなかったし。恐らくほかの人たちは集団催眠かなんかに掛けられているんじゃない?もしくは私達の方かもね」
そうか、彼女も違和感に気付いた人物だったのか。
なるほど。だから、同類か。
「ところで、あなたの名前は?」
「僕はアツヤだ」
「そう、私はシオリ。アツヤは同類だから、好きなように呼んでいいわ」
「呼び捨てかよ」
「悪いかしら?」
急に呼び捨てされ僕はムッとして言葉を繋げようとした途端、チャイムが鳴り始めた
「やべっ、授業始まる!」
「じゃあ、また今度ここで会いましょう」
「ああ!また今度な!」
そう言って僕は図書室から急いで出る。
教室ではすでに授業が始まっており、僕は遅れたことをみんなに笑われた。
恥ずかしいったらありゃしない。
授業に遅れて参加した以上、必死に授業内容を頭に叩き込まないといけないのだが、僕は授業に中々集中できなかった。
図書室で会ったシオリという少女、彼女はいったい何者なのだろう?
相当推理力は有りそうだったが、ドライな口調であまり気に食わない奴だった。
そして、また今度ってどういうことだ?
ふと教室を見回してみてもシオリの姿は見当たらなかった。
*
「彼らが上手く遭遇してくれたのは、こちらとしては嬉しい誤算ですね」
「彼らを共に行動させて、情報の拡散を防ぐためですよね?」
「それもありますが、共に行動することによって二度手間を防ぐこともできますし、嘘も信じやすくなるでしょう」
「なるほど・・・その通りですね」
「しかし、ここからが本番ですよ。秘密を守るために彼らがどれほど協力しても、彼らが抱いている違和感の正体について、何も手がかりが得られないように動かねばなりませんから」
「はい。我々一同、より一層尽力できるように務めさせていただきます」
彼らはあの二人の手ごわさを、この時はまだ知る由もなかった