Lostlife,Lastlife   作:影斗朔

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三章 皆、一つの教室の中で

いつものように、授業が終わった後の教室は煩いものだった。

男子はスポーツの試合結果や芸人のネタについての話題を、女子はモデルが来ていた服や化粧、アイドルグループの容姿の話題を、楽しそうに語り合っていた。

「相変わらず、アツヤはつまらなさそうだな」

「・・・ん?ああ、そうだな」

これからどうしようかと考えていると、ワタルに声をかけられた。

相変わらず、ワタルは変わっている。傍から見たら明らかに近づくなオーラを漂わせている男子に平然と声をかけていき、何事もなく会話をし始める。

まあ、近づくなオーラを放っている不愛想な男子は僕のことだが。

「考え事ばっかしてると馬鹿になるぞ」

「・・・そう言うワタルは、この前あった算数のテストの点数は何点だったんだっけな」

「う、うるせえ。それは別だ、別!」

狼狽するその姿に思わず口元が緩んだ。

「おっ、久々に笑ったな」

「ん?久々か?いつも笑っている気はしないけどな」

「んなことねぇよ。アツヤは普段から表情筋死んでるけど、喜怒哀楽程度は俺にかかればすぐさまわかんだよ」

そういえば、なんだかんだでワタルとは付き合いが長いんだったな。

「「表情筋が死んでいる。」は余計なお世話だ。」

「現にそうだって。鏡を見たらすぐわかると思うぜ?」

「はいはい。考え事しているから、その話はまた後でな」

「相変わらずクールだなぁ・・・」

「つまらない話をしに来たからだ」

「いやいや、そんな話をしに来たんじゃねぇよ」

じゃあ何の話だよ・・・。

「アツヤ、最近図書室に籠ってばっかだから、あらぬ噂立ってんぞ」

「噂?」

「図書室には幽霊がいるらしい」

「春真っ盛りの昼間から幽霊ねぇ・・・」

なんだその変な噂は、何度も通っているが一回も遭遇したことないぞ?

「そして、その幽霊とアツヤが付き合っているんじゃねぇか・・・っていう噂だ」

「思っていた以上に根も葉もなく、つまらない噂だな」

きっと女子の誰かが流した噂だな。男子は恋愛沙汰に興味ないだろうし。

「しかし、厄介なことに目撃者が多数いるらしい」

「目撃者、ねぇ・・・」

「しかも、全員の証言が一致してんだよ、「アツヤと長い髪の幽霊が向かい合って話をしている」って」

「・・・あぁ、そういうことか」

どうやら僕とシオリが話し合っているところを見て勘違いしたのだろう。

シオリが感じていた、見られているような感覚はこれのことだったのか。

・・・しかし、どう見たら僕たちが付き合っているように見えるのだろうか?

僕とシオリが唯一同じ部分である、基本的に無表情な所に加え、違和感の原因について真剣に且つ、厳かに語り合っている姿は、どう見ても付き合っている恋人同士というよりかは、将棋の試合を集中して行っているようにしか見えないものだが・・・

「で、結局のところ・・・付き合ってんの?」

「お前もそっち側かよ・・・」

まあ知ってたけど。

ワタルは大体面白いものがあったら突っ込んでいきたがる奴だってのは、初めて会った時から察していたし。

いや・・・まてよ。

「・・・そうか、僕だけじゃなくてもいいのか」

「は?」

みんなが彼女のことを認知してくれれば、シオリが一人で過ごしている、この現状は変わるのではないか・・・?

「なあ、ワタル。もしも、その幽霊が人間だったならどうする?」

「・・・そりゃあ、幽霊って元は人間だし、さっき女の子だって言ったじゃんか」

何を勘違いしてやがる・・・

「違う。幽霊ではなくて人間だったら、という意味でだ」

「・・・あ、ああそっちか。それだったら、ぜひ会ってみたいな。すげー美人らしいから」

「会うか?」

「いいのか?恋人なんd・・・」

「恋人じゃない。代わりに条件がある」

戯言を宣うワタルの声を遮り、条件を掲示する。

それは、彼女の存在をクラス中に知らしめ、あわよくば、彼女のお見舞いに行くように行動させることだ。

 

本来、シオリと関係を持っているのは僕以外に誰もいないため、僕が全員にそのことを告げるべきなのだろうと思うのだが、生憎、僕ではクラスのみんなにシオリの存在を知らしめても、きっと話を聞いてくれないだろう。

結果によるが最悪の場合、シオリの存在そのものを否定されかねない。

そこで、何かと顔を突っ込みたがるこいつの出番である。

一番最初に会わせる代わりに、シオリのことを教え、同情を誘う。

そして、みんなにシオリのことを、噂程度でいいから流すように言っておく。

みんなから顔が利くワタルならば、最悪の事態には絶対にならないはずだ。

少なくとも僕がシオリの存在を皆に語り、誘導するよりも、ワタルが噂程度に流した方が、時間はかかるが、まだみんなと、クラスの一員として、一人ぼっちでなくなる可能性がある。

 

病弱だから、教室に来ることができないらしい。

どのように伝えてもいいから、寂しがりで強がりな友人のことをみんなに知らしめて欲しい。

などと言って、どうにかワタルを説得した。

「いいぜ、任せとけ・・・!何せ、アツヤの恋人だからな!」

「だから、恋人じゃないって・・・」

ワタルは、恋人じゃないと言っている、僕話を聞かず、ニヤニヤしながら去っていった

嫌な予感しかしないが、きっと、僕がやるよりもいい結果を出してくれるだろう。

 

実は、皆にシオリを会せるのは、シオリを一人ぼっちから脱却させるだけではない。

シオリのことだ、きっとすぐには馴染めなくとも、ある程度経てば、仲がいい女子の友達ができるだろう。

そして、彼女から今の生活で違和感を感じるところはないかを聞くことができる。

情報をさらに拡散させ、得られるものが多くなる。

そのための布石でもあった。

 

・・・本当は自分で何かしらの行動を起こしたかった。

だが、クラスで浮いている僕が、急に皆に話しかけようものなら、怪訝に思われ、邪険にされ、話を聞いてくれるかすらわからない。

こんなことになろうものなら、もう少し皆と親睦を深めておくべきだったと、いまさらながらに深く後悔した。

 

後日、僕が教室に入った、その時だった

「はいはい、みんな、ちょっと注目!」

その瞬間、僕はやらかしたことに気づいた。

僕はワタルに『どのように伝えてもいいから』とは言っていたが、まさか、クラス全員に向けて発表するように伝えるとは思ってもみなかったのだ。

「図書室に女子の幽霊が出るって噂あっただろ?」

唐突な図書室に出る幽霊の発言に皆は戸惑いつつも、話を聞く体制を取り始めた

「実は彼女、アツヤの友達なんだ」

「え?あいつ、いつから幽霊と友達だったんだ?」「友達・・・?恋人の間違いじゃないの?」「そもそもあいつ、その幽霊以外に友達いるのか?」

ワタルの発言でざわざわと急に教室が沸き立った。やはり想定していた通りだった。ワタルはこんな時に限って表現の仕方が悪い。

「その言い方じゃ、僕が幽霊と友達だと言っているようなものじゃねぇか。あと、幽霊以外に友達いるのかと言った奴、後で覚悟しとけよ」

仕方がなく、僕もクラス中から注目を浴びることにする。

ワタルは「悪ぃ」と言いたげな表情で、片手を軽く胸元まで上げた

仕方がなく、ワタルの代わりに言葉を繋ぐ。

「いや、幽霊と友達ってわけじゃなくてだな、幽霊とみんなが思っている女子は普通に生きている人間だ。」

「でも、このクラスの中に、その女の子はいないけど?」

「女子・・・シオリちゃんって名前なんだけど、結構病弱で、保健室通いしかできていなかったみたいなんだ」

これはワタルにあらかじめ言っているから大丈夫だろう。

僕はワタルが知らないことを、彼の代わりに言えばいい。

「じゃあ、なんで図書室にいるんだ?」

「シオリは図書室までの移動許可をもらっていたみたいだ。保健室で授業を受けるわけにもいかないからだと思う」

「ふぅん・・・。で、その子がどうかしたのか?」

その質問を待っていた

・・・のだが、ワタルは何も言わない。

疑問に思い、ワタルの方へと振り返ろうとしたら、背中をたたかれた。

僕が言えってか・・・

結局、作戦を立てた意味がないじゃないか。

頭の中でワタルに向かって怨嗟の声を吐きつつも、次の言葉を続けるために、僕は一息吐いた。

「シオリに会ってほしい。彼女はさばさばとしていて、とっつきにくい部分も多いけど、勤勉な努力家で、寂しがりやのわりにそのことを隠そうとする、強がりな普通の女の子なんだ。さっき僕に友達がいないんじゃないかと言っていたけど、この教室にいる僕よりも、同い年の子が一人もいない、何もない保健室や本しかない図書室に取り残されたシオリの方がよっぽど孤独だと思う。だから彼女に会いに行ってほしい。そして、できたら友達になってあげてほしい」

そう言って、僕は深々と頭を下げた。

まさか自分がこんなことを言うことになるとは思わなかった。

正直、むず痒くてこっ恥ずかしい。

だけど、僕とシオリだけが気づいた違和感、それは僕たちだけでは解決しきれない問題だ。

だから、クラスの皆をこちら側に少しづつでもいいから引き込んでおきたい。

そして、シオリにあんな表情をさせたくない。

そのためだったら、この程度の羞恥心など、どうってことはない。

問題は、皆の反応だが・・・

「・・・なあ、アツヤ・・・だっけか」

一人の男子生徒が僕に声を掛けてきた。確か彼はクラスのリーダー格の人物だったはずだ。

「ああ、どうした?」

僕が返事を返すと、少し悩むような仕草をしたのち口を開いた。

「・・・シオリって女の子は、可愛いのか?」

「・・・は?」

思っていた質問とは違って、少し焦る僕を制し、ワタルが神妙な顔つきでその返事を返す

「そりゃあもう・・・、絶世の美女だったね。俺が言うんだから間違いない」

おい、何偉そうに語ってんだ。お前まだ一回しかシオリに会ってないだろ。

てか、そんなことを言ったら・・・

「そうなのか。って、おま、ワタル!抜け駆けしやがったな!」

「何?ワタル君が言う絶世の美女って、私たちは含まれていないってことなの!?」

「ちょ、まっ、そんなつもりじゃ・・・、や、そ、そんなことないよ!」

案の定ワタルは皆に質問攻めにあっていた。

偉そうにシオリのことを語るからそうなるんだって・・・

仕方がないから騒ぎが収まるまで、自分の席で待っておくかと、みんなに囲まれ助けを呼ぶワタルを無視し、席に移動しようとしたところで、皆の視線を集めていることに気づいた。

「ど、どうした・・・?」

「「「「「「「「「「「そのシオリって少女、どこにいる!?」」」」」」」」」」

「ひっ・・・」

皆から一斉に声を掛けられた。怖いものなど特にないと思っていた僕でも、流石にこの光景は恐怖を感じた。

「ほ、保健室だと思うけど・・・」

「じゃあ、保健室に行けば会えるってことだよな」

「あたしよりも可愛いなんて、一体どんな子なのか凄く楽しみ!」

「おいおい、女王様気質でツンデレとか・・・最高かよ!やべぇ、超会いてぇ、会話してぇ!」

「図書室で本を読んでいるなら、わたしが好きな本の話題も、一緒にできるかな・・・?」

「おーし、善は急げだ!みんなでシオリちゃんに会いに行くぞ!」

「「「「「「「「「「おーっ‼」」」」」」」」」」

リーダー格の少年が声高に叫ぶと共に、皆がどたどたと教室から駆け出していく。

静かになった教室には唖然として固まっていた僕と、もみくちゃにされて床に突っ伏しているワタルが取り残されていた。

 

それから、学校は一時的に騒然とした状態となった

クラス中の生徒が一気に保健室に流れ込み、看護教員と静かに話し合っていたシオリは彼らの渦中に飲み込まれたのだ

「君がシオリちゃん?」

「うわ、肌白っ!いいなー、うらやまー」

「いやぁ、想像以上だな!何がとは言わないが」

「ねえねえ、保健室での授業ってどんな感じなの?」

「えっと・・・その・・・」

(一体全体何なの・・・!?)

急に入ってきた大勢の生徒にシオリは困惑する

シオリのそんな様子に看護教員が助け舟に入った

「みなさん、ここはどこだかわかってますよね・・・?」

「「「「あ」」」」

「わかったなら静かにしましょうね・・・!」

「すみませんでした」

「ごめんなさい」

「あっ、はい」

「あぅ・・・」

普段は優しい看護教員の、有無を言わせぬ威圧によって、生徒たちは途端に黙った

シオリは、誰がこのようなことをしでかしたのか予想はついていたが、少し彼らに聞きたいことがあった

「・・・どうして、私のことを?」

「あぁ、アツヤの奴から聞いたんだよ。図書室の幽霊、その正体がここにいるって」

「やっぱり、あいつか。・・・図書室の幽霊?」

ここにシオリがいることを知っているのはアツヤぐらいだ。彼がクラスメートに何らかのアクションを起こしたことに間違いはないだろう

しかし、図書室の幽霊などということは初めて聞いた

「図書室の幽霊って私のこと?」

「そうよ。だってあたしたちあなたに会ったことないし、教室にもいないでしょ?」

「でも、図書室の窓際でよく読書しているのが見えていたから、図書室の幽霊さ。」

「みんな結構見かけてたんだけど、気づいたらいなくなってたし、神出鬼没だったから本物なんじゃないかとみんな怖くて見に行けなかったの」

「そんな最中に、アツヤと話している姿が目撃されたってわけね」

アツヤのクラスメートたちは一斉に頷く

「君は病弱だから教室まで行けないんだってアツヤから聞いたよ」

「さばさばしてるって言われてたな」

「でも、努力家だとも言っていたぞ」

「やっぱり保健室に先生と二人きりじゃ寂しいよね」

シオリは理解した。アツヤはきっと、私が図書室で、読書をしているふりをして、窓の外に見える教室の風景を食い入るように見ていたことに、いつからか気づいていたのだろう。

「・・・あのおせっかい野郎が。今度会ったらどうしてくれようか」

フフフ・・・と口を歪ませるシオリを見て、不穏な気配を感じた周囲のクラスメートはその場から後ずさる

「あ、それと、あなたたちアツヤのクラスメートなのよね?」

「は、はい。そうです」

「・・・来てくれてありがとう」

恥ずかしそうに顔を逸らしながらシオリは呟くいた

「アツヤが言っていたことは事実よ。わたしが窓際に立って本を読んでいたのは、教室の風景を見たかったから。私もみんなのように、教室で授業を受けたり、他愛のない話がしたかったの」

「そうだったんだ・・・」

「これはアツヤに内緒ね。したり顔でいい気になってもらっちゃ癪だから」

「え?彼の恋人じゃないの?」

その言葉を聞いて女子の一人がシオリに問いかけた

「え、何それ?私たちはただの話し相手でしかないけど」

「そ、そうか?ならいいんだが」

生徒の一部は、シオリとアツヤが付き合っているように見えるみたいだ。

カップルだと勘違いしている奴らは、先ほどの言葉で、アツヤはシオリの彼氏として認知されていないのではないかと思っていそうだなとシオリは思った

「はいはい、みんなもうすぐ授業が始まるから教室に戻りなさい」

「「「「「「「「「「「「はーい」」」」」」」」」」」

看護教員の注意喚起を受けて、アツヤのクラスメートたちは教室へと帰ろうとする

「ちょっと待って!」

シオリは咄嗟に出た自分の声に驚きつつ、自分の本心を改めて察した

「あ、その・・・」

「ん、どうかした?」

「また、会いに来てくれてもいいかな・・・?」

「もちろん!」「また後でね」「当たり前だぜ」「うん!」

消え入りそうな声で言った言葉は確かに彼らに伝わったようだ

皆から暖かい言葉をもらったシオリは、イマイチ慣れない笑顔を見せた

 

一時はどうなることかと思ったが、シオリと皆をうまく引き合わせることができた。

皆はよくシオリの元へと向かい、皆と話すことが増えたからか、シオリの体調も少しずつ良くなっていき、つい最近まで保健室のみしかいられなかった状態から、教室に来れるくらいにまで回復していた。

そして、いつの間にかシオリはクラスの中心人物へとなっていた。

確かに、シオリは誰とでも話せる節があったが、まさかワタル並みのコミュニケーション能力を持ち合わせているとは思わなかった。

そして、僕は相変わらずクラスでは比較的浮いている存在のままだった。

く、悔しくなんかない。と思うが、ほんの少しうらやましく感じるようになった。

「相変わらず仏頂面だな、また考え事か?」

「うるせえ、お前は逆にいつも笑顔だから悩みなんてないんだろうな」

「そんなことないぞ?俺にだって悩みはあるさ」

ほう、珍しい。喜怒哀楽がはっきりしているワタルだからこそ、悩みがあったら顔に出るものだろうが、そういった素振りを見せずに悩みを抱えているとは思わなかった。

「そうなのか?どういった悩みなんだ?」

「実はな・・・」

ワタルは神妙な顔つきになって、僕の耳に口を近づけた

あれ、この感じどこかで・・・

「ハルナちゃんとシオリちゃんのどちらと付き合おうか悩んでいるんだよ」

「心配して損したわ」

「聞いておいてなんだよそれぇ!」

いや、おそらく不真面目なことだろうとは思っていたけどな。まさかの色恋沙汰だとは思ってもみなかった。しかも、そのうち一人はシオリかよ。

「考えてもみろよ。ハルナちゃんはふんわりとしたおしとやか系で、シオリちゃんはさばさばとした知的系だぜ?どちらか選べって言われて片方を選びきれるかよ!」

「そうだな」

「・・・返事が適当過ぎないか?モテないからってふて腐れているんだろ?」

「そうだな」

「くそぅ・・・相変わらず冷てぇな・・・」

「興味ないからな」

「あら、私は興味あるけど?」

いつの間にか僕の後ろにシオリが立っていた。

「し、シオリちゃん。い、いつから居たんだ?」

「話の最初からだけど?」

「あっ・・・」

察した。ワタル、ご愁傷さまだな。

「私の名前出したところで、アツヤは微動だにしないと思うわよ。そもそも、ワタル君のタイプってハルナちゃんでしょ?構掛けるにしても、もう少しまともな話にした方がいいと思う」

「・・・参ったなぁ、バレバレだったか」

「ん?何のことだ?」

「相変わらず私たちのことを恋人同士だと疑っている人たちがいるらしいわよ」

「あぁ、そういうことか。だからさっきの話に繋がるのか」

おそらく、僕にどちらか選ばせるつもりだったのだろう。

ハルナさんを選んだら、シオリとは恋人ではないと判断する。

シオリを選んだら、やはり僕たちは恋人同士なのだと判断する。

そういったコイバナに花を咲かせたがる輩がまだいるようだ。

「・・・それにしても、お前ら本当に暇人だな。僕にかまう暇があるほどに」

そう、こいつらは相変わらず、授業終了後に僕へと話しかけてくる。

ワタルは何度聞いても同じことしか言わないから別にどうだっていいが・・・。

シオリに至っては、クラスの人気者になったにも関わらず、図書室にいた頃、話し相手が僕以外に存在しなかった時と同じように、僕の方へと話しかけてくる。

だから、恋人同士だと勘違いされるのだ。

「そりゃあ、いつまでたっても一人ぼっちだと可哀想だからな。シオリちゃんもそうだろ?」

「私はアツヤの同類だから、そうでなくならない限りはアツヤから離れることはないわ。確かに、ワタル君の言う通り、もう少し協調性を持った方がいいと思うけど。」

「余計なお世話だ」

「あら、余計なお節介をやったのは、どこのどなただったかしら?」

「・・・」

何か言い返すと大体こう切り返される。

こう言われると非常に面倒なのだが、なぜかほんの少しの喜びを感じて、言い返せなくなってしまう。

「やっぱり、マツオカ先生の授業の後にお前らと話すと涼むわー」

「いつもそう言ってるよね」

「他に話す相手がいないんじゃないか?」

「ちょっと!そんな言い方なくないか~!」

なぜかワタルが焦りだした

こいつ、本当はコミュ障なんじゃないか・・・?

「そういやさ、シオリちゃんってなんでアツヤは呼び捨てなの?

あと、アツヤはなんでシオリちゃんを呼び捨てるんだ?

もしかしてぇー・・・?」

「過疎状態の図書館に入ってくる私と同じようなもの好きだったから、同族扱いで呼び捨てているけど?」

「名前聞かれたと思ったら呼び捨てられたからついカッとして、以降そのままだな。あと、呼び捨てで構わないって言われたし」

「お前ら恥じらいとかないのか・・・?」

ワタルは訝しげに僕たちの顔を覗き込む

「何を言っても冷静にサラッと返す・・・。うーん、やっぱり『ドライアイス』だなぁ。・・・はっ!」

ドライアイス?

いつの間にか変な名前をつけられてやがる。

・・・って僕も含められているのか。

「まるで売れない芸人のコンビ名みたいだな」

「え、それは嫌。私脱退するからアツヤ一人で頑張ってね」

「いやいや・・・、コンビ名じゃないから。あだ名だから」

そう言ってワタルは語りだす

「アツヤはいつも通りクールで冷たい感じで、シオリちゃんはどこか乾いた感じだなぁ・・・って。だから『ドライアイス』」

「誰が言っているんだ?そんなコンビ名」

「え?みんな言ってるぜ?」

みんな言ってるのか・・・?

『太陽神』並みにダサいぞ?

「誰がそんなコンビ名を付けたの?」

「いや、付けたのは俺だけどさ」

「・・・お前かよ!」

ワタルのネーミングセンスが皆無だということがこれでハッキリとした。

『太陽神』もきっとこいつが名付けたな。

「いやいや、結構よさげなあだ名だと思うんだけどな」

「「どのあたりがそう思うんだよ・・・」」

「ほら、ドライアイスって触ったら冷たすぎて火傷するじゃん?お前らもなんかそんな感じがするんだよ。共通の話題?っていうか、共に何かを背負っている・・・みたいな?とにかく、その何かに近づいたら痛い目に合いそうだから・・・って、何言ってんだろうな俺?」

「「!」」

驚いた。

ワタルは無意識に、僕たちのやっていることが危険だとわかっていたのか。

確かに僕たちは違和感の正体を突き止めるために共同戦線を張っている関係だ。

様々な違和感を見つけたし、未だにその違和感の正体を掴めてはいない。

けれども、こうして、クラスメートたちの輪に入ることができたから、必然的に少しずつでも情報が入ってくると思っていた。

だが、ワタルが言っていたように、僕たちがやっていることが危険な事ならば、違和感に気づいていない皆を巻き込むわけにはいかない。

僕たちの胸の内にざわざわと焦りと不安が立ち込め始めていた。

 

 

                        *

 

 

「・・・本気ですか!?」

「彼女が教室へ行けるようになり、しかも、クラスメートたちとも仲が良くなってしまった以上、我々の秘密が漏れる可能性が高くなっていますからね」

「それならば、俺がどうにか・・・!」

「それはできません。もし、クラスメート全員が違和感に気づいてしまったら、私はもっと非道な真似をしなければならない。彼らにこれ以上の不利益をもたらさないためにも、ここで手を打たねばならんのですよ」

「・・・」

「理解していただきたい。私は彼らをこの秘密から守るためならば、彼らから嫌われても構わないのですよ」

「しかし、それでは・・・」

「・・・失礼、電話だ」

「・・・どうぞ」

「すまない・・・。もしもし・・・そうですか・・・、えっ!」

「・・・?校長?」

「・・・運命というものは、かくも我々の望まない方向へ物事を進めたがるようだ」

「それは、どういう・・・」

 

「・・・もうじき引越しの日が来るそうだ」

 

 

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