Lostlife,Lastlife   作:影斗朔

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四章 多大なる損失を、たった一人で被る

シオリとクラスメートたちの仲が深まったことで、必然的に僕たちの元へ情報が集まってきた。

違和感を抱かせるようにせず、それとなく、日常生活で疑問に思っていることはないか聞いてみたところ、皆の回答はどれも「特に疑問はない」だった。

また、昨夜何していたか聞いたら、覚えていない、わからないなどといった返事しかなかった。

以上のことから、クラスメートたちは違和感を抱かせないよう、何かしらの影響を受けているのではないかという結論に達した。

そして、多くの人物に記憶介入、改竄が起こっている現状から、この事態は恐らく人為的に引き起こされているものだという結論に至った。

しかし、肝心の誰が、いつから、何の目的で、この閉鎖的に感じるような空間を作ったのだろうかは未だに分からないままだった。

「・・・人為的で且つ、大規模な洗脳を行うとするなら、やっぱり怪しいのは教職員たちかな」

シオリが教室まで来れるようになったので、教室で話してもいいのだが、ほかの生徒に聞かれたりしたら面倒なため、僕らは今まで通り、図書室で話し合っていた。

時間も、十分の休み時間では、明らかに時間が足りないので、放課後に行うことになっていた。

ついでに、最近気づいたことなのだが、夕方の六時を過ぎても校内にいると、強制的に翌日へと日付が変わり、校門へと移動させられるようだった。お陰で最初にその現象に遭遇した時は非常に混乱する羽目となり、次はこういった目に合わないように、『下校時間』までには図書室から退室することにしたのだった。

・・・話を戻そう。

シオリ曰く、教師たちは偶に怪しげな行動をしていることがあり、その時はいつも生徒から見えない位置で、携帯機器を教員同士で見せ合い、話をしているそうだ。

図書室の先生や『太陽神』マツオカ先生、看護教員もそんな時があったらしい。

「だけど、今は情報技術が発達してるだろ?携帯機器で授業内容とか確認しているんじゃないか?」

「こんな田舎にあるおんぼろな学校よ?しかも、生徒に隠れて触ったり見せ合ったりする必要あるかしら?」

「た、確かに・・・」

シオリの意見に納得しつつ、そういえばシオリは僕の意見を、違うと言って跳ね返したことがないのではないかと思った。

僕の意見の大半はシオリに説き伏せられてしまっているのだが、一度も否定的な言葉を返された覚えがない。

これも人柄の差といったところだろうか。

少なくとも、僕には彼女のように、相手が言った言葉に対して、否定的な意見を言わず的確な返事を返し、相手に気兼ねなく発言させるといった話術を使える気がしない。

「そうなると、やはり親玉は校長先生になるわけか・・・?」

「恐らくそうだと思う。・・・でも、校長は私たちの前に現れたことなんてないし、校長室も探しても見つからなかったわ。もしかしたら、校長はこの学校に存在しないのかも・・・」

「存在しない校長か・・・」

仮にそうだったとしたら、教員全体がこの催眠状態をかけているのだろうか?

常に暑苦しく、生徒思いのマツオカ先生も、倒れたシオリに適切な処理を施し、慌てる僕を落ち着かせてくれた司書の先生も、シオリを長い間見守ってきた看護教員の人も・・・それらの表情は全て、表向きだったというのか?

「・・・アツヤ?」

「・・・っ!ああ、悪い。なんか最近耳が遠くてな」

嫌な考えを悟られないよう冷静に努めた返事を返した。

「そう、それなら・・・え?」

僕へと返していた返事がピタリと止んだ。

「シオリ・・・?どうかしたか?」

「まさか・・・!ちょっと待って!・・・今、なんて言った!?」

「え?」

急に切羽詰まったような顔でシオリが問いかけてきた。一体どうしたのだろうか・・・?

「さっき言った言葉・・・?耳が遠いって・・・」

「それよ‼」

「は?え?」

「ちょっと待ってて!」

そう言うと共にシオリは駆け足で本棚をすり抜けていく

「お、おい!走っちゃダメだろ!」

シオリは教室に来れるようになったものの、まだ、完全に健康体でいるわけではないのだ。そんな状態で走ったりしたら、また倒れかねない。

・・・まあ、普通に図書室で走ったりしてはいけないのだが、シオリはそんなことお構いなしに駆け出して行ってしまった。

彼女の後を追いたくても、こんな迷路のような図書室へ考えなしに突っ込んでしまった時には、二度と出て来れなくなってしまいそうだ。

そんなことを考えて尻込みしている間に、駆け出した足音が戻って来た。

「ご、ごめん。いても、たっても、いられなく、なって・・・」

「話さなくていい!とりあえず落ち着け・・・!」

戻って来たシオリはぐったりとしつつも、目的のものを手に入れたようだ。右手には白い装丁の本が握られていた。

「これが、この学校の真実よ・・・!」

シオリが右手の本を僕に差し出した。

その本は、表紙に黒い文字で・・・

 

・・・?

おかしい、僕は本を見たはずなのに、なぜ地面を見ているんだ・・・?

「・・・あ!そうか!」

昨日は時計をしっかりと確認していなかったためだろう、『下校時間』になってしまい、強制的に校門へと戻されてしまったようだ。

・・・だが、それにしてはおかしい。

一つは一緒にいたシオリが近くにいないことだ。

『下校時間』になってしまった場合、強制的に校門へと飛ばされるのだが、前回飛ばされた時には、二人とも一緒に飛ばされていたのだ。

しかし、今回はシオリがどこにもいない。一体どこに行ったのだろうか・・・?

もう一つは登校中のクラスメートが一人もいないことである。

前回飛ばされたときには登校中のクラスメートたちに声を掛けられ、鬱陶しい目に遭ったことを覚えている。

だが、今回は誰もいない。僕一人だけが校門にポツリとおいていかれているような感じだった。

・・・なんだかすごく嫌な予感がする。

「・・・とにかく、教室ヘ向かうか」

 

いつものように下駄箱から教室へと向かう。それだけのはずなのに、嫌な予感をがしたせいか、いつも以上に違和感や不快感、そして孤独感を感じてしまう。

週末の教室からはいつも以上に煩い喋り声が聞こえてくるのに、だ。

下駄箱から教室までの距離が酷く長く感じる。

そんなに遠くない距離が嫌に長く感じてしまう。

下駄箱まで聞こえていた、教室からの喋り声がどんどん騒がしくなっていく。

その騒ぎ声はどこか悲痛な叫びも混ざっているように感じた。

何よりも、誰もいないはずなのに、あらゆる角度から僕を観察するかのように、興味心がある視線を感じる・・・。

そして、クラスメートの一人が発したその言葉が、ついに僕の耳に入った。

 

「ねえ、本当に引っ越しちゃうの?・・・シオリちゃん」

 

「えっ・・・!」

僕の元へと突如届いたその声は、この嫌な予感を最悪の事態へと導く、死神からの宣告のようだった。

「シオリ!それは、どういうことだ!」

その場から教室へと駆け出し、その勢いのまま教室の扉を開くと、そこには、クラスメートたちが一か所を囲みつつ僕を見て驚いていた。

そして、彼らの隙間から見えたシオリは、いつものような平然とした表情のままだった。

周りのクラスメートたちを押しのけ、ワタルの制止を振り切ってシオリの前に立つ。

「どうもこうもないわ。家の事情で引っ越すことになったの。仕方がないでしょ?」

「家の事情ってなんだよ・・・!」

まさか、引っ越しが起こる原因って・・・!

「私の病気のことよ」

「・・・えっ、病気?」

「そう、病気。今は調子がいいけれど、また、悪くなるとも限らないじゃない?だから大きな病院に行って治してもらうことになったの。だから、昨日の出来事とは何の関係もないわ」

「治しに行くって・・・、じゃあ、なんで今まで・・・!」

違和感だらけのこの学校に、ストレスが溜まるであろうこの環境に身を置き、僕のことを同類と呼び、共に違和感の正体を掴もうと奔走する必要があったんだよ・・・‼

「ようやく私の病気を治すことができそうな病院が見つかったの。お金もどうにか用意できたみたいだし、いつまでもこんな貧弱な体のままではいられないから・・・」

そう言ったシオリは僕へ睨み付けるような視線を送った。

それは僕が見たことがない決意の表情だった。

「・・・そうか、じゃあ、昨日の事とは何の関係もないんだな?」

「ええ、迷惑をかけてごめんなさいね」

「気にしてないと言ったら嘘になるけど、水に流すことにするさ」

そう言って僕はその場から離れ、自分の席へと着く。

シオリは再度、クラスメートたちに囲まれ、昨日の事について詳しく話すよう催促されていた。

時より、僕のことを睨む視線が目に入るが、気にせず読みかけの文庫本を広げた。

あの時見たシオリの表情は、この学校の子供の中で一番関わったことがある僕ですら見たことがない表情だった。

つまり、相当の覚悟をし、尚且つ、僕にすら全てを語ることができない秘め事を抱えているのではなかろうか?

・・・それについて深く追及するほど、僕は身勝手ではないし、無神経な愚か者でもない。

 

少ししたら前の机の椅子が引かれ、男子生徒が寄りかかるように座った。

視界の端で見える背中でワタルだとすぐにわかった。

クラスメートたちに直接絡みに行くワタルにしては珍しいと、本を読んでいるふりをしながら驚いた。

「・・・アツヤ、そのままの体勢で聞いてくれ。返事もいらない」

「・・・」

ワタルらしくない会話の仕方だ。どういった風の吹き回しだろうか・・・?

「シオリちゃんに言われたんだ。話がある、放課後、いつもの場所にいるから、その事を誰にも伝わらないようにアツヤに伝えてくれって」

「・・・」

・・・やはり、昨日の出来事に関係しているのか。

直接話しかけてくるシオリにしては、伝言といった珍しい伝達方法を用いたということは、よっぽど切羽詰まっていたのだろうか?

それとも・・・

「お前らが何を隠しているのかはすげー気になるけど、それを聞くのは野暮ってもんだろ?だから俺は、放課後どこで何があるのかは一切知らないままでいい」

「・・・すまない」

結局、僕はワタルを僕らの問題に深く関わらせてしまった。

そのせいで、ワタルに要らぬ気を使わせてしまっている。

「・・・ま、プロポーズだと俺は踏んでいるけどな」

「・・・は?」

いやちょっと待ていくら何でもプロポーズなわけないだろ第一僕らは同じ問題を抱えている同類なだけであって互いにそんな目で見ていた時なんて一度も・・・

「・・・って、居ないし!」

気づけばワタルはクラスメートたちと共に再度シオリの周りを取り巻いていた。

要らぬ考えで動揺してしまい、恥ずかしくてつい頭を抱える。

・・・とにかく、放課後になったら引っ越しの真相も分かるはず、それまで、待っていればいいだけの話だ。

・・・そう考えていたのだが、どうしても、もやもやとした感覚が体を覆い、授業に全く集中できず、長い一日に苛立ちを抱えているうちに、ようやく授業終了のチャイムが鳴った。

 

「・・・それで、話ってなんだ?」

シオリが引っ越すとのことで、クラスメートの皆は『下校時間』の三十分前まで、クラスでシオリのお別れ会を行っていた。

そのため、図書室へ行くまで相当の時間を要し、『下校時間』まで、残り十分ぐらいとなってしまっていた。

いつものように図書室の奥で二人対峙する。

・・・今日でそれが最後だということは除いて。

「そうね・・・」

シオリは目を伏せ、口を噤む

本当に今日は、シオリの見たことがない一面ばかりを見ている気がする。

若しくは、それが素の表情だったりするのだろうか・・・?

やがて覚悟を決めたように、ゆっくりと口を開いた。

 

「まず初めに、今から話すことはアツヤにとって利益になるものではないし、どちらかと言ったら不利益を被るし、ますます混乱を招くことかもしれない。その事を覚悟して聞いてほしい」

「・・・わかった」

わかっていないが、わかった振りをした。そうでもしないとシオリが僕へ伝えたいことを伝えられないから。

・・・彼女の覚悟を無駄にしてしまうから。

「昨日の本を渡すタイミングで『下校時間』になってしまったことで、きっとアツヤは、私が誰かに排除される可能性があるから逃げるのだと思っているんでしょ?」

「っ!・・・ああ、そうだ。だが・・・」

流石シオリだ、僕の思考を読んでいる。

しかし、それではおかしい・・・!

「違和感の正体を知ったから、学校から居られなくなったんじゃないのか!?」

「それは違う。でも、引っ越す本当の理由を教えることはできない」

やはり、病気の治療は嘘だったか。

では、なぜ僕に引っ越す理由を教えられないのか・・・まさか・・・。

「・・・シオリも、あちら側の人間なのか?」

「・・・!違う!私は騙されていた!でも、それを教えられない!」

シオリは懸命に身の潔白を証明しようとするも、言いたいことを言えず戸惑っている

・・・ように見える。

だが、それを僕は信じることができない。

「じゃあ、なぜ教えられない!僕を裏切るのかシオリ!」

「違う!これは必然的なことなの!」

「意味が分かんねぇよ!」

シオリはいつも僕を対等に見てくれていた。

それは、僕がシオリを対等に見ていたからだし、同類と呼んだ時の彼女は、表情の変化がほとんどなかったものの、嬉しそうに見えた。

・・・正直な話、僕はシオリを信じたい。

一つも嘘をついていないと思いたい。

でも、答えに一人たどり着いたと思ったら、何も告げずに去ろうとしている。

それが、憎くて悔しくて・・・悲しかった。

気づけば僕は、その場にへたり込んでいた。女々しいったらありゃしない。

こんな様子じゃ、嘲笑されても仕方がないな・・・。

そんな僕を哀れに思ったのか。シオリは僕に言葉を続けた。

「・・・実は、教えられないわけではないの。教えたいけど、私が教えていいものなのかわからない。そもそも、私じゃうまく伝えられないと思う。」

「あの時、私がやろうとしていたことは迂闊だった。この事実は、聞く人によっては引っ越しどころじゃすまない、深刻な事態に陥るようなものだったの。」

「だから、この違和感の正体を、私の本音を学校のある場所に隠した。誰かに聞かれるわけにもいかないから・・・真実が皆に伝わってはいけないものだから、話して教えることはできない。そして、全てを受け入れる覚悟をしないと、きっと違和感の正体を知っても否定してしまうから・・・。」

「だから、私は何も教えられない。でも、アツヤならきっと見つけ出せる!だから・・・!」

シオリの言葉が途中で止まった。

続きを言わないのかと頭を上げたら・・・

シオリは再度口を噤んでいた。

その瞳には大粒の涙が浮かび、ぽろぽろと頬を伝い、足元へと落ちていく。

「だから、笑って!喧嘩別れ、なんて、嫌だっ!」

「シオリ・・・」

・・・僕は馬鹿だ。

例え今までシオリに騙されていたとしたら、わざわざ僕を呼び出したりしない。

話の前置きで僕に不利益になると言っていたし、言葉で伝えられないことを必死に説明しようとしない。

そして、利用してきたどうでもいい相手に対して、泣きじゃくる必要なんてない。

「・・・悪かった。覚悟していなかった僕が悪い」

「ううん。きっと、こうなるとは、思っていたから・・・」

「・・・本当に、これが最後なんだよな・・・?」

「うん。今日でお別れ。クラスメートの人たちも、ワタル君も、もちろんアツヤにも感謝してる。一人だった私に優しくしてくれて、仲良くなってくれて、ありがとう。」

「僕もシオリには感謝してる。きっと、シオリに会ってなかったら、僕もずっと一人だったから。だから、ありがとう」

ようやくシオリの心からの本音を聞けた気がする。

思わず顔に笑みが浮かんだ。

シオリの顔にも悲しみは消え、笑顔が浮かんでいた。

仲直りをどうにかできたが、『下校時間』まで、残り一分を切っていた。

 

「それじゃ、さよなら、だね・・・」

「いや、違うな」

「?」

「またいつか。だろ?」

くすりとシオリは笑う。

「ええ、そうね。またいつかね、アツヤ」

「ああ、またいつか、シオリ」

 

そうして、笑顔を浮かべていたシオリが目の前からゆっくりと消えていった。

 

『下校時間』が訪れた。

もう今日から、学校にはシオリはいない。

 

 

                     *

 

 

「・・・実に残念だ。わたしは彼らにもう少し幸せな日々を送ってもらいたかったものなのだが・・・、運命は残酷だ」

「・・・校長、本当にそう思っていますか?俺は校長が心からそう思っているのか、疑問に思います・・・!あの電話も仕組んでいたことじゃ・・・!」

「あれは、悪魔からの電話でした。強硬手段に出ようとした直後にあの電話です。余計な真似をせず、心配が杞憂に留まったことで安心してしまっていた自分がいるのも事実ですね」

「それでは、やはり・・・!」

「それは違います。私のことをしっかりと見てくれていた人が・・・この場合は誰と言った方がいいんですかね?」

「・・・!シオリちゃん!?」

「よく来てくれたね。断っても良かったんだよ?」

「いえ・・・、せっかく真実にたどり着いたし、記憶も戻ったので、あなた方と少しだけ話してみたいと思っただけです」

「・・・君は、真実を知って、全てを取り戻してどう思ったんだい?」

「私は・・・、最後に素敵な経験ができたものだと、自分が幸せ者だと、そう、思いました。だから、貴方が泣く必要はありませんよ」

「そう、か・・・。それなら、いいんだ」

「話の途中すみませんが、家族がお迎えに来たみたいですよ」

「あれ、もうそんな時間でしたか。それでは、今まで、ありがとうございました」

 

少女は静かに、しかし思い切りよく扉を開け、笑顔で外へと駆け出して行った

 

「これが、我々の仕事ですよ。いつまでも貴方のように悲しみに暮れているわけにはいかないのです。」

「・・・わかり、ました。もう、大丈夫、です」

「とはいえ、実のところ私も、いつになってもこの仕事は慣れませんけどね」

 

窓の外を見ながら寂しげに、悲しげに、そっと呟いた

 

 

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