【完結】テニスこそはセクニス以上のコミュニケーションだ(魔法先生ネギま×テニスの王子様)   作:アニッキーブラッザー

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第19話『機械になりきれぬがゆえ』

 ハルナは止まらなかった。

 

「現役世界最強選手! アンドー・マレイ!」

「バ、バカな! マレイまで!」

 

 ストローク一つ一つが、中学生の彼らにとっては一撃必殺より重く、速く、鋭く、そして圧倒的に強い。

 見せかけの虚仮脅しではない。

 間違いなく、本物のショットだった。

 

「は、反則にチケー! ニシキオリやマレイ! ナンダルやヘデラー! さらに、サンポラスやアガジのような往年の名選手まで!」

 

 そう、反則である。これはもはや、テニスの試合などではない。

 言い換えれば、テニス史上のオールスターたちの公開イジメに他ならない。

 

「ゲーム! 2—1。早乙女、絡繰ペアリード。チェンジコート」

 

 ゲームはまだ序盤。しかし、内容は既に圧倒的と言ってもいい。

 

「ほ〜う、やるではないか、小娘。あのアーティファクトにあんな使い方があったとはな。今度、私とテニスさせてみるかな」

「いや、ずリーだろ! つか、もうメチャクチャだ!」

「このままやったら、ネギ君がオコジョにされてまう!」

「こういうとき、アスナが居たら問答無用で止めてくれるのに・・・・・・」

「う、うう、うう〜・・・・・・辞表の書き方・・・タカミチに教えてもらわないと・・・」

「どうしたんや、ネギ君! はやまったら、あかん! まだ、まだごまかせる! 今なら、まだCGで!」

 

 このゲーム展開に御満悦な唯我独尊ロリのエヴァンジェリンは、余裕の表情だ。

 

「ふん、この試合はもう心配はいらんだろう。あの二人は、真田や仁王という小僧たちよりも遥かに劣る。茶々丸の正確無比な読みと精度、早乙女ハルナの一撃必殺の能力を使えば、このゲームはあと数分足らずで終わる。あっけなかったな」

「で、エヴァンジェリンさんは何を冷静に分析してんだよ!」

 

 相手に聞こえようが聞こえなかろうが、何の気にもせずケラケラと笑うエヴァンジェリン。

 その様子に生徒たちは「おい、ちょっと聞こえてるぞ」「かわいそうだ」と嗜めようとするが、事実は事実。

 正直、この対決だけは安パイだろうと誰もが思っていた。

 

「ふう、どうですか? 柳くん」

「想像以上だ…………」

 

 ただし、唯一エヴァの言葉には訂正する箇所があった。

 この二人が「真田と仁王より遥かに劣る」という点である。

 

「ふふ、羨ましいな二人とも」

 

 それは、この場で言うには不適当な言葉であった。

 しかし、この男は涼しい顔でそう言った。

 それは、立海テニス部部長の幸村だった。

 

「精市」

「幸村くん」

 

 ベンチに座る二人に告げた幸村の言葉。

 その真意は、純粋なものだった。

 

「プロの世界に行かなければ手合わせできない名選手との勝負。的確に自分の全てを読みとって弱点を教えてくれるコンピューターの分析。その両方を一度に相手するんだからね」

 

 悪夢のような時間? とんでもない。ある意味で、夢が叶った。

 世界の頂点に辿り着かなければ打ち合うことのできない選手。

 自分以上に自分の能力を分析するコンピューター。

 

「その通りだ」

「我々も童心に返ってはしゃいでしまいましたね」

 

 その時、柳と柳生は小さく笑みを浮かべた。

 

「では、礼を言わねばならんな」

「ええ。夢を叶えてくれたセニョールたちにね」

 

 それは強がりやハッタリなどではない。

 何故なら、この二人は虚勢を張らない。常に現実しか見ない。

 そんな二人だからこそのこの態度。それは自信でもあった。

 

「おっ、なんだなんだ〜? ねえ、茶々丸ちゃん」

「彼らの心拍数が非常に落ち着いています。どうやら動揺が収まったようですね」

「ん? じゃあ、油断大敵ってやつ?」

「どうでしょうか。既に彼らの勝てる可能性はゼロに近いです」

 

 やけに落ち着いている立海メンバーに少し警戒心を高める茶々丸。

 だが、それでも挽回はないだろうという結論にしかならず、更には会場の応援も緊迫した様子はなかった。

 

「いっけー、早乙女、茶々丸さん!」

「勝てる勝てる! がんばれ!」

「あ〜、この試合はテニスコート壊れる心配がなさそうで安心だぜ」

「あははは、千雨ちゃん、心配するとこズレとるえ」

 

 だが、そんなギャラリーの期待を裏切るような展開が次のゲームに繰り広げられるのだった。

 

「いっくよー! 私のサーブ・アンド・ボレー! サンポラス!」

 

 世界の歴史に名を刻んだサーブアンドボレー。

 二百キロを超えるサーブ。中学生にはこれだけで手に負えるものではない。

 だが、

 

「データを取るまでもない。たとえ、サンポラスの筋力やスピードを真似したところで、戦術はサンポラスのものではない。単調で単純なコースだ」

 最速サーブだけでは世界を取れない。

ワザと回転をつけてスピードに緩急をつけることや、コーナーを突いて相手の態勢を崩して次のプレーに備える、戦略が必要になる。

 だが、そんなことも考えていない早乙女は、ただ二百キロ越えのサーブを打ち込んでネットに出ることしかやらない。

 一方で、トッププロの試合からフォームまでテレビや雑誌でこと細かく公開されている現代において、全国クラスの立海メ

ンバーが知らないはずがない。

 それこそ、子供の頃はかぶりつくようにテレビを見たり、試合を見に行ったり、更にはフォームを研究してマネしてみたり

してきたはずだ。

 

「相手の動作やフォームだけでなく、思考や戦略まで再現した仁王とは違う。所詮、偽物だ」

 

 コースさえ丸分かりなら対応する。それが、一流選手の証。

 柳は難なく、返球。

 

「うそ! かえし、いっ!」

 

 ギョッとした瞬間には、早乙女の足元をボールが抜けた。

 

「更に、高速サーブはそれだけ返球されると次の動作に間に合わない。覚えておくことだ」

 

 テニスは理屈だけではできない。

 ただし、理屈抜きには語れない。

 茶々丸だけならまだしも、ハルナにそれを強いるのは酷というものだった。

 だが、

 

「くひ〜、まいったね。トッププロのショットならコースとかバレても簡単に勝てると思ったのに」

「敵もそれほど甘くはないということでしょう。単調なショットだけでは押しきれないということですね」

「いや、そ〜んなこと言われても〜、私のゴーレムができるのは単純な命令だけだし」

「大丈夫です。とりあえず、このゲームはサービスである以上、ハルナさん有利には変わりありません。だから、こういうのはどうでしょう?」

「ん? ほうほう、ふんふん、なるほど」

 

 表情を引きつらせるハルナに対して、茶々丸は冷静だった。

 すると、何か秘策があるのか、ハルナに耳打ちする。

 単調な攻めではだめだが、単純なプレーしか出せないハルナに与えられる作戦は一つしかない。

 

「おっしゃー、まかせろい!」

 

 ハルナのメガネが怪しく光った。

 

「何か来るようだな」

「ノープロブレムです」

 

 腰を落として柳生もまたメガネを光らせる。

 互いに怪しく光らせたメガネは、どちらに軍配が上がるか?

 

「落書帝国! マラド・サーフィン!」

 

 また、新たなるトッププレイヤーを召喚。

 

「あれは! 元世界ランクトップのサーフィン!」

「サーフィンでサーブをするということは、ただの高速サーブではないだろい」

 

 日本人ではありえぬ体格と筋力、バネから全身を使って繰り出されるキレのあるサーブ。

 それは、まっすぐ突き進まずに変化した。

 

「トップスピンサーブ!」

 

 ただ速いだけではない。ただ変化するだけではない。

 世界のトッププロたちをキリキリ舞いにしてきた、キレのあるショット。

 それは、ハードコートに着弾した瞬間、コートに焦げ跡が出るほどの摩擦を起こして柳生の顔面めがけて跳ね上がった。

 だが、

 

「哀れなり、早乙女ハルナ。例え変化したとしても、最初から変化すると分かっていれば対応できぬ我々ではない。サーフィンの戦い方も強靭なフラット、スライス、スピンを使い分けていたからこそ成立したのだ」

 

 柳が小さく呟いた瞬間、柳生がラケットを両手持ちで横向きにスタンスを取った。

 それはテニスではない構えだ。

 

「ん? ちょ、なにあれ!」

「何をする気ですか? あれは、ゴルフですか?」

 

 完全にテニス脳に思考回路が切り替わっていた茶々丸の動きが止まった。

 テニスにはない柳生の繰り出すフォーム。

 そして、テイクバックでラケットを頭上まで持ち上げて、そこから円運動でスイング。

 

「見てみんしゃい。柳生の必殺技。『ゴルフ打ち』ぜよ」

 

 ゴルフ打ち。名前は単純だが、誰もが目ではなく、耳を疑った。

 

「えっ、い、今……ボール、打ったよね?」

「インパクトの音が、ない?」

 

 ハルナの繰り出したトップスピンサーブを、ゴルフを真似たショットで撃ち返した柳生。

 そのショットはインパクトの音もせず、ただボールだけが伸びるように空高く打ち上げられた。

 

「た、た、高ッ!」

「まるでゴルフのロブショット! ですが、見逃しませ………、ッ、なんという回転力! テニスではありえないほどのスピンが!」

 

 ゴルフではボールを遠くに飛ばすと同時に、アプローチでは狙った箇所にピンポイントに落とし、さらにグリーンではボー

ルを転がさない、弾ませない、バックスピンで戻すなどの技術がある。

 その回転力はテニス競技の比ではない。

 茶々丸の分析力がそれを瞬時に読みとった。

 

「あれを地上に落としてはダメです! コートに落ちた瞬間、ボールがコートにめり込むか、まったく弾まずにバックスピンでボールが戻ります。では、ノーバウンドで? しかし、やるしかありませんね」

 

 茶々丸は判断した。ボールを落下させたらダメだ。ならば、落下する前に撃ち落とす。真上から叩き込む。

 だから、茶々丸は飛んだ。

 

「んな! と、飛んだ! あの女、背中からロケットみたいなのを噴射させやがった!」

「そんなのありか!」

「しかし、あれなら、どんなハイボールも目測を誤らずに追いつけるぜよ」

 

 高く上がったボールめがけて飛ぶ茶々丸。

 ボールを捉え、そして撃ち落とすように相手コートに叩き込む。

 

「茶々丸ミサイルです!」

 

 二重の回転を加えたボールを叩き込む。正に、弾丸ショット。

 究極のカウンターショットが、爆音を立てて立海コートに亀裂を作ってめり込んだ。

 正に大技同士のぶつかり合い。

 しかし、それを制したのは茶々丸。

 見事に戦略で相手を打ち破った。

 

「ちゃ、茶々丸さんすげーーーーー!」

「いや、ズッリー!」

「いやいやいや、ありえないっしょ!」

「そうじゃなくて、お前ら一日に何回テニスコート破壊すればいいんだよ! もう、ギネスに載るぞ!」

 

 悲鳴と歓声がテニスコートを包み込み、もはや呆れるを通り越してハシャグしかなかった。

 だが、何故か立海メンバーは、落ち込むどころか、ほくそ笑んでいた。

 そして、

 

「オーバーネット!」

 

 歓声騒ぐ中、審判の冷静なジャッジが場を沈黙させた。

 

「な・・・・・・えっ?」

「ちょ、どうなってんのよ! 何で向こうのポイントなんだよ!」

「今のは茶々丸さんのスーパーショットじゃん! インチキインチキ!」

 

 そんなバカな! 審判のジャッジに反論する麻帆良メンバーだが、茶々丸はハッとなった。

 そして、エヴァも難しい顔でベンチに背中を預けた。

 

「気付かなかったな。あのハイボールは上空に高く上がったがゆえに、風に流されて戻ってきていたのだ。気付かれないように徐々にな。本来そのままにしておけばネット手前ギリギリに落ちるところを、茶々丸はスイングで振りぬいてしまったために、ネットの上をラケットが通過した。今のは、茶々丸のミスだ」

 

 爪を噛んで、淡々とした表情の柳生を睨むエヴァ。

 

「本来なら、チョイとラケットをボレーのような形で前に押し出しさえすればポイントを取れただろうに。しかし、あの二人、まるでこうなることが分かっていたかのような表情だな」

 

 まさか狙ったのか? だが、すぐに考えを捨てた。

 それは、茶々丸も同じだった。

 

「狙ってやったということはないでしょう。何故なら――――」

「何故なら、私の装備は初めて見せたので、空を飛べることも知らなかったはずですから………か?」

「ッ!?」

 

 その時、閉じた瞳が開眼したかのように、柳がクールな言葉を呟いた。

 

「ふっ、この柳蓮二が集めるデータが、競技の中だけだと思ったら大間違いだ」

「えっ……?」

「お前の学生生活はよほど有名らしい。試合前の空き時間やチェンジコートの際にお前をこの学園の『まほねっと』というもので検索したら、お前はよく、公衆の面前で空を飛んだり、ロケットパンチをしたりするらしいな」

 

 柳蓮二の戦い方。それは試合開始と同時に試合が始まるのではない。

 柳蓮二は、試合をする前から既に試合を始めているのである。

 徹底的に相手を調べて攻略する。

 今回、全くのデータのない麻帆良学園女子中等部相手ということで、チームメイトの試合には間に合わなかった。

 しかし、自分の対戦相手のデータだけは間に合った。

 早乙女ハルナの能力だけは見落としていたが、茶々丸の性能だけは理解していたのだった。

 まるで手のひらで踊らされたかのような感覚の茶々丸は悔しそうに唇を噛みしめる。

 

「ですが、同じ手は二度と通用しません。この手は、今回限りしか通用しないものです」

 

 同じ失態は二度としない。それが茶々丸だ。

 だが、

 

「この柳蓮二が一度見せたことを何度も繰り返すような愚かな男だと思ったか?」

 

 柳の頭の中には、既にシナリオが出来上がっていた。

 

「と、とにかく、挽回するよ! 茶々丸さん、ドンマイドンマイ! スペックはこっちが勝ってるんだから、押し切るよ!」

「分かっています、ハルナさん!」

「おっしゃー! 落書帝国! レイドン・ヒュービット!」

 

 またもやトッププロを召喚したハルナ。

 高速サーブを叩き込む。しかし、既に単調と指摘されたサーブは柳に楽々と返される。

 

「ダメだな。後に続かん。まったく組み立てができておらん。能力は面白いが、あれではな」

 

 エヴァは舌打ちする。歯がゆいと。

 世界最強の性能を持ちながらも、それを使いこなせていないハルナに。

 

「私がフォローします」

 

 高速サーブに対する高速サーブがハルナの足元を抜けた瞬間、茶々丸が背後に回り込んで打ち返した。

 しかし、それすらもまるで読んでいたかのように柳はネットに詰めて待ち構えていた。

 

「ッ、柳さんがここからドロップショットの『空蝉』をやる確率は―――」

「茶々丸が俺の空蝉を読む確率は―――」

「しかし、柳さんが、私が柳さんの空蝉を読んでいると読む確率は――――」

「俺の空蝉と見せたアングルボレーを茶々丸が読み、茶々丸が反応すると俺が読んで逆を突くことを茶々丸が読んでいる確率は―――」

 

 繰り広げられる二人の読み合い。

 データ同士の予測。

 だが、そのとき、茶々丸のデータを上回る出来事が起こった。

 

「しかし・・・いいのか? 俺の動きばかりに気を取られて。これはダブルスだ」

「え、・・・・・・っ!?」

「ちょお、茶々丸さん! もうひとりの兄さんが動いた!」

 

 思考の読み合いを繰り広げる二人の間に、サラッと割って入る一人の男。

 

「これにて遊びは終わりです。アデュー!」

 

 柳生がなんの前触れもなく二人の攻防に割って入った。

 

「大丈夫です、ハルナさん! この事態も・・・・・」

「この事態もある程度想定していたとお前は言う」

「ッ!?」

「僅かに遅れてもお前の性能なら柳生のレーザービームに追いつけるから・・・・・と、お前は計算していた。哀れなり絡繰茶々丸。取ったと思いこんだデータにより、お前は自分が縛られていることに気づいていない」

「ッ!? 柳生さんの、この僅かなフォームの違い・・・これは、レーザービームではありません!」

 

 その時、直線に進むはずのボールが変化した。

 直線の動きに備えていた茶々丸には反応できなかった。

 

「こ、これは・・・・・・」

「青学の海堂くんほどのキレはまだ出せませんが、私もいつまでも直線の動きだけで上に行けるとは思っていません」

 

 柳生のレーザービームは直線ではなく、まるでバギーホイップショットのように弧を描いた軌道のアングルショットだった。

 完全に見落としていたデータと、裏をかかれたことから、機械である茶々丸が明らかにガタガタと震えだした。

 

「デ、データが・・・・・・上書きされていく・・・・どうやら、分析が甘かったようですね」

 

 データは取った。相手の技。得意プレー。得意なゲーム展開や、思考は分析した。

 そう思い込んでいた。

 だが、

 

「お前の情報収集能力や分析力には舌を巻く。その許容量は人間を遥かに上回る。だが、お前はその能力を使いこなしていない」

「えっ・・・・・・」

「確かにお前自身の能力は機械的だ。だが、お前自身が機械になりきれていない。ただ、それだけだ」

 

柳の言葉に呆然とする茶々丸は、その言葉の意味を理解できていなかった。

 機械なのに、機械になりきれていない?

 その意味不明な言葉にクラスメートたちも困惑していた。

 

「おいおい、どういうことだよ。どう見てもロボ娘はロボ娘だろうが」

「せやな、うちにもよう分からん」

 

 だが、その意味を一人だけ理解できたものが居た。

 

「いや、あの細目の言うとおりだ」

「エヴァちゃん!?」

 

 それは、エヴァンジェリンだ。

 

「茶々丸は確かにロボットだ。しかし、ある日を境にやつはただのロボではなくなった。友情を知り、恋を知り、自我を持つようになった。本来ならコンピューターで自動に導き出される最善の解すらも、やつは己で熟考し、悩み、そして自身の解を出すようになった。それはいい意味で人間的になったとも言える」

 

 そう言われてクラスメートたちは深く納得した。

 今の茶々丸はただの普通の女子中学生と同じ、色ボケロボ娘だと。

 

「しかし、データを駆使した戦闘においてそれは良いことではない。自我を持つようになったということは、余計な感情に囚われることになる。本来であれば淡々と仕事を遂行し、不測の事態すらも自動で軌道修正する感情のないマシーンでなければならない。好きな男の前でカッコつけたいとか、パートーナーのフォローをしなければとか、やられたからやり返すとか、そういう感情は異物でしかない」

 

 自我を持った茶々丸は、感情豊かになり、笑い、怒り、泣き、照れる。

 しかし、そんな感情豊かであるということは、同時にデータテニスで最も重要なことを失ってしまうことになる。

 

「絡繰茶々丸。お前は、俺のカマイタチすら、既に見切ったと思っているかもしれないが・・・・・・」

「えっ・・・・?」

「本物のカマイタチは・・・・先ほどの三倍のキレと威力がある」

 

 データテニスで最も重要なこと。

 それは、想定外の事態すらも動揺せずに状況分析して、データを上書きして恒久対策を導き出すこと。

 しかし、感情豊かである茶々丸は冷静に分析する前に、まず、自分のデータが狂わされたことに動揺してしまう。

 

「きゃああああ!」

「くっ、この威力は! ハルナさん!?」

 

 激しいラリーの中、突如巻き起り、カマイタチが茶々丸とハルナに襲いかかる。

 その風の化物に押されて、ハルナのゴーレムは切り裂かれて消滅してしまった。

 

「そんな・・・まさか・・・私がこれまで取ってきたデータが全て・・・・・」

 

 そして、茶々丸もまた風の刃からの防御とハルナを気遣って、ボールの返球まですることが出来なかった。

 

「信じたデータを信じられなくなったお前に、勝ちはない」

 

 鋭いキレと共にコートを駆け抜けたカマイタチとボールの威力に歯噛みしながら、茶々丸は茫然自失していた。

 歯車を狂わされたコンピューターは、なかなか再起動できぬほどのショックを受けていた。

 




普通のテニスって無駄な破壊が少なくて落ち着きます。


さて、私事ですが、この度私のオリジナル作品「異世界転生-君との再会まで長いこと長いこと」の三巻が書籍になりました。ネギまの小説書いてて鍛えられたおかげです。また、皆様の反応やアドバイスで小説の書き方を学びました。改めてありがとうございます。今後ともよろしくお願い致します。

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