【完結】テニスこそはセクニス以上のコミュニケーションだ(魔法先生ネギま×テニスの王子様) 作:アニッキーブラッザー
「いやあ、ワリーね、みんな。負けちったよ~。いけると思ったんだけどね~」
「申し訳ありません。データや計算では図れぬ力に負けました」
早乙女ハルナのアーティファクトにより出現した孫悟空が巻き起こした芭蕉扇の風により、本日何度目か分からないテニスコートの修復のために再びインターバルの時間を与えられた麻帆良及び立海の生徒たちは、休憩のために一旦コートから離れた場所に居た。
敗北をハニカミながら謝罪するハルナと、申し訳無さそうに頭を下げる茶々丸。
その二人を取り囲むように、クラスメートの娘たちは二人の戦いを労っていた。
「ううん。パル、マジで凄かったよ!」
「本当よ。世界の名選手たちの召喚だけでなく、孫悟空まで呼び出しちゃうんだもん!」
「茶々丸さんだって、すごい頭脳プレーだったよ。ベイビーステップのエーちゃんも真っ青だよ」
負けたけど凄かった。
正直なところ、彼女たちの活躍は、それで済んでしまうほどすさまじいものであった。
「確かに、どの試合も全て負けてもおかしくなかっただろい」
「ああ。実際、仁王は負けてるしな」
「弦一郎も、神楽坂アスナが途中棄権しなければ、どうなっていたかは分からない」
「ですが、実際に試合してみて彼女たちの凄さは分かりましたが、とてもではありませんが、青学や他の学校の人たちには教えられるものではありませんね」
コートの修繕の間、ジュースでも飲もう。
気の抜けたような誘いではあったが、既に団体戦の決着が済んでいる以上、別に固くなる必要も無い。
確かにまだ一試合あるものの、それは本人同士が希望する、エキジビションのような親睦を兼ねた特別試合だ。
だったらこれまで、試合しているものも見ているものも非常に疲れたので、お誘いを受けてもいいだろうというのが、立海メンバーたちの考えだった。
実際、試合を一人終えている真田については、デートに行ったまま帰ってこないわけなのだから……
「それにしても、隠れた実力者たちの存在もそうだが、単純にこの学園は驚くほど大きいね。俺も知らなかったよ」
麻帆良の中を歩きながら、改めてその広大な学園都市に感慨深くなる幸村。
そんな彼の隣で、邪悪な笑みを浮かべたエヴァンジェリンが口を開いた。
「随分と余裕だな。貴様、そんなにのほほんとしているが、もう少し自分の身を心配したらどうだ? 病院送り程度では済まぬかもしれぬぞ?」
「それは困るな。俺はつい最近まで病気で入院していたばかりだから、また入院は部長としてチームに迷惑をかけてしまう」
「くくくく、ならば泣いて懇願して試合を拒否するか?」
エヴァンジェリンの挑発。一部殺気も織り交ぜて、相手を威圧するようにプレッシャーを発する。
しかし、幸村はどこ吹く風。決して乱れることは無い。
その反応を見るだけで、エヴァンジェリンは気持ちが高ぶった。
たかが中学生のテニス選手に、自分の威圧を受け流せる者が存在したのかと。
だからこそ、早く血の沸き立つような試合をしたいと心が躍っていた。
すると、その時だった。
「あっ、立海のおにーさんたち。こっちこっちー! こっちの世界樹前の広場を抜けた先にある食堂塔がもうすごくて……あれ?」
ネギの生徒たちの案内で世界樹広場までたどり着いた一同。
すると、そこにいつもと違う光景があった。
「あ、れ? えっ……なんで?」
「おいおい、……なんで世界樹広場にテニスコートがあるんだよ!」
学園名所のひとつでもある世界樹広場。ロマンチックな告白場所だったり待ち合わせだったり、とにかく学園のイベントが絡んだものには欠かせぬ麻帆良きっての名所。
だが、今日はいつもと違う光景がそこにあった。
なんと、昨日まで無かった、ライン、そしてネット、すなわちテニスコートがあったからだ。
しかも……
「な、なあ、ネギ君、しかもあすこで試合しとるん……」
「は、はい、木乃香さん……間違いないです……」
そこではダブルスの試合が繰り広げられていた。
そして、その片方のペアは、ネギと生徒たちにとってはよく知る二人。
「「「「「ざ、ザジさん! しかも、転校した超りんまで! しかもイケメン二人と試合している」」」」」
そう、二人は紛れもない、クラスメートの二人であった。
そして……
「おいおい、どうなってんだよ! しかも、あそこで試合しているのは……」
「これはどういうことぜよ!」
立海メンバーも目を大きく見開く。
何故なら、今、ダブルスの試合をしている片方のペア。
それは彼らにとって、日本中学テニス界において知らぬものは居ない二人の天才。
「青学の手塚!」
「しかも、あちらは、氷帝の跡部くん」
「おいおい、コートサイドに、青学と氷帝のレギュラーたちも居るぞ! 何がどうなってんだ!」
「試合をしている? しかも、相手は……女子?」
しかも、ただ居るだけではない。試合をしている。
「ブン太くんたち、あのお兄さんたち知ってるの? 高校……ううん、大学生?」
「いや、お前ら……あれ、みんなと同じ中学三年生……ああ見えて、同い歳だろい」
「「「「「「………………えっ!? ど、同学年!?」」」」」」
フケた中学生に驚く生徒たち。
それは、驚愕の事実。
そして、柳蓮二が僅かに補足する。
「ちなみに、手塚と跡部の誕生日はともに10月だ。つまり……あの二人はまだ14歳なのだ!」
「「「「「なっ、なんだってーっ!?」」」」」
その声に反応して、青学、そして氷帝のメンバーたちも立海の存在に気づいた。
互いに気づきあった者たちが声をかけようとした、その時だった。
「貴様らの知り合いか? ……しかし、あのメガネの男……ほう」
エヴァが突如目の前に現れたストリートテニスのコートに居る手塚の姿を見て何かに気付いた。
それは、手塚から溢れるオーラが左腕に集中しているからである。
「ほう。あの小僧、真田とかいう帽子小僧と同じ、百錬自得の極みを使っているな」
そう、手塚国光の究極奥義。百錬の力を使っているのである。
それは、手塚国光が本気を出していることを意味する。
「あの手塚が……」
その姿に幸村も驚き、そして一瞬で察した。
手塚が百錬を発動させている。
つまり、それほどの相手と戦っているのだと。
「この打球、決めてみせる」
百錬のオーラを纏った手塚がフォアハンドの構え。
強力無比な一撃がコートに突き刺さると、立海のメンバーは誰もが確信した。
しかし、その対戦相手の少女は笑みを浮かべた。
「この超鈴音の前では、何者だろうとその『動き』は無意味となるネ」
「ッ!」
超鈴音の打った打球は、決して速すぎるわけでも剛球過ぎるわけでもない。
普通のストローク。
打ち返すどころか、倍返しにしてポイントを奪うことなど、手塚にとっては朝飯前のはず。
だが……
「ッ!?」
打ち返そうとした瞬間、ボールは消え、気付けばポイントを取られているという結果しかそこにはなかった。
「い、今のは……」
「……おい、今、何が起こった? ボールが、なんか、気付いたら手塚の後ろに……」
「い、いや、すまない。俺もまばたきをしてしまったのか、見失った」
「……これは……」
目の前で起こった一瞬の出来事に目をこすって首を傾げる立海メンバー。
思わずボールを見失ってしまった。今、この瞬間にコートに現れた彼らにとっては、その程度までしかまだ分からなかった。
だが……
「あが。あががががががががが……」
「あ、あの、ネギ先生……ネギ先生、い、今のは……って、ネギ先生、驚愕し過ぎて顎が外れてます!」
「ま、まさか、超殿は……あの手を使ったでござるか?」
「どうして、超がここに居るアル!」
「いや、そうじゃねえだろ! 今、素人の私でも分かるぐらいボールが消えて……んで、あの女、ディアボロと同じセリフを言ったぞ! まさかっ! お、おい、ウソだろ? まさか、アレをやったのか!」
「ち、千雨ちゃん、ど、どういうことなん? 超さん、何したん? ディアボロって誰なん?」
麻帆良勢は何が起こったのかは分かっているようだ。そのうえで驚いた顔をしている。
「くくくく、なるほどな……そういうプレーもできるわけか。面白いではないか」
唯一、エヴァンジェリンだけが機嫌良さそうに笑っていた。
そして……
「ゲーム! これで、私たちが1-0でリードネ」
「「「「「ッ!?」」」」」
それは、立海にこれ以上ないほどの衝撃を与えた。
何故ならば、メンバー全員が全国トップクラスの実力を誇る立海メンバーといえども、この二人の実力だけは自分たちと同等以上の全国区選手と認めていた。
青学の手塚。
氷帝の跡部。
どうして、二校がここにいて、そして何故この二人がペアを組んでダブルスをしているのかは分からないが、それでもこの二人がリードされるなど、この二人を知る者たちからすればありえないこと。
だが一方で、自分たちを苦戦させた麻帆良女子中の生徒たちの関係者と思われる対戦相手の二人の女生徒。
彼女たちの知り合いであるのならば、ひょっとしたらそんなことがありえるのか? とも思ってしまった。
「立海……」
「ああん? 随分とワラワラと愚民どもが集りやがって……随分と楽しそうじゃねえか、立海……ああん? 人の屈辱の場面に現れやがって」
手塚と跡部も集った生徒たちや立海の存在に気づく。
その瞬間、テニスコートの回りが一斉に騒がしくなった。
「ちょ、な、なんで超さんがここに居るんですか! しかも、ザジさんとダブルスで……っていうかその人たちは?」
「おお、久しぶりだな、ネギ坊主。まあ、でも話は後ネ。今日は謀など何もなしネ。純粋にテニスをしに来ただけヨ」
「じゅ、純粋に? 純粋……ほ、本当に『純粋なテニス』ですよね! 余計なものを足したりするテニスじゃないですよね!」
「うむ、『純粋なスーパーテニス』ネ」
「すっ、すーぱー……な、なんなんですか、それは!」
軽口叩いて笑顔を見せる超に、ネギたちは衝撃を隠せない。
その態度は余裕。
その姿は跡部の琴線に触れた。
「ああん? テメエ、何を試合中にゴチャゴチャやってやがる」
「ん? どうかしたカ? 跡部さん」
「どんな手品か知らねーが、俺様たち相手にいつまでも余裕でいられると思うな」
コートに落ちているボールを拾い上げ、今度は自分のサービスゲームだと鋭い眼光を光らせる跡部。
麻帆良の女生徒たちも、立海も関係ない。
今は、自分のゲームに集中して、この生意気な娘たちを蹴散らしてやると、跡部の闘志に火がついた。
「まったく、この俺様を誰だと思っていやがる。なあ、樺地!」
「ウス」
高いトスを上げる跡部。リターンを構えるのは、ザジ・レイニーデイ。
ザジは腰を落とし、跡部のサーブを待ち構える。
そして……
「くらえっ! タンホイザーサーブだッ!」
その瞬間、そのサーブの力を知る男たちから声が上がる。
「跡部のタンホイザーサーブだ!」
「意図的にイレギュラーバウンドを起こす、跡部の必殺サーブだぜ!」
その目を見開いて、跡部の力を思い知れと沸き立つ男たち。
だが、待ち構えるザジは冷静だった。
「これは……意図的にイレギュラーバウンドを起こすサーブですね。僅かでも弾むのであればライジングで……いえ、このキレならば全くボールは弾まない……ならば」
ザジが左手を前にやり、右手のフォアショットのテイクバック。
無理だ。何をやろうと、弾まぬボールをリターンできるはずが無い。
男たちは、跡部のサービスエースだと確信していた。だが、
「引力操作により、ボールを浮かせれば問題ありません」
「「「「「……………………………………はっ?」」」」」
その時だった。
サービスラインに叩き込まれた跡部のサーブ。
本来なら、ここからボールが全く弾まずにサービスエースを取れる。……はずだった、
しかし次の瞬間、跡部のサーブは不自然なバウンドをして、絶対浮くはずの無いボールが跳ねたのだった。
「な、なにいっ!」
まさかボールが弾むとは思わなかった跡部の驚きは隠せない。
だが、事実は事実。そしてザジは冷静にフォアハンドのクロスでリターンに成功。
「跡部ッ!」
「ッ!」
打ったサーブの感触から、失敗したとは思えない。
しかしボールがバウンドした。
その事実に衝撃を隠せない跡部の反応は遅れたが、手塚の声で慌てて返されたボールを追いかける。
しかし……
「いきます。ナイトメアボール、発動です」
「ッ!」
打ち返されたボールを自分も打ち返そうとした跡部。
だが、次の瞬間、コートに小さな黒い渦上の何かが発生。
その渦にボールがバウンドと同時に飲み込まれたかと思ったら……
「ッ、手塚ァ!」
「……ッ!? これは……」
跡部の目の前で発生した小さな黒い渦が、手塚の真後ろでも同時に発生。
気付いたときには、手塚の真後ろに発生した黒い渦からテニスボールが飛び出した。
「なっ……ちょ……い、今の、み、見たか?」
「跡部の目の前まで迫っていたボールがバウンドした箇所で、突如コートに発生した黒い渦にボールが飲み込まれ……」
「隣に居た手塚の真後ろでもその渦が発生して……そこからボールが飛び出した……?」
いま、一体何が起こったのかが誰にも分からない。
これは、夢か、幻か、それとも現実なのか誰にも理解できない。
弾むはずのない跡部のサーブが弾み、目の前にあったはずのボールが違う個所から飛び出してきた。
これには、跡部も手塚も絶句せざるを得ない。
それは、麻帆良勢も同じ。
そして、ネギなど失神寸前である。
「ほう……引力に空間転移か……こちらもまたやるではないか。正に、悪夢だろうな、あの小僧どもには……」
およそ、テニスの試合では絶対に出てこないと思われる単語を機嫌良さそうに呟くエヴァ。
「どうなっていやがる……」
コートに転がるボール。
恐る恐る跡部が手を伸ばしたが、そのボールはやはり何の変哲も無い普通のテニスボールだった。
ならば、今の現象はどういうことだ?
「重力や引力など、私の力の一つにすぎません。空間干渉、ボールの生物化、幻術、気候すらも自分に都合よく操作できます。ちなみに、サーカス団も営む私の素の身体能力も侮らないでくださいね?」
困惑する跡部と手塚に対して、ザジが語りだす。
ついに、魔界のプリンセスがそのベールを脱ぐ。
「これが私のテニスです。テニスのお姫様とまで呼ばれた、私のプレースタイル。あらゆる魔を極め、テニスと融合させた。その名も―――――」
すると、ラケットを振りぬいた体勢のまま、今度はザジ・レイニーデイが告げる。
「
それは、魔の深淵の世界。
「「「「「ザジさんのキャラがーーーーーっ!?」」」」」
日本の全国区のプレーヤー? それがどうしたとばかりに告げられる、魔の深淵の力が、キングとカリスマに襲い掛かる。そして同時に……
「お、おいおい、マジかよ、あいつら……って、ん? 先生、どこいくんだよ?」
世界樹前広場で繰り広げられる、トンデモテニスにもう頭が痛くなる長谷川千雨。
そして、その時、フラフラとしたネギの姿に気づき、訪ねてみると、ネギは爽やかな微笑みで……
「あっ、千雨さん。すみません、僕……ちょっと辞表書いてきます」
「んなっ、ちょ、先生!」
「僕がオコジョになっても、皆さん、僕のことを忘れないでくださいね。あと、カモくん。オコジョライフについて色々と教えてね?」
「せんせええええっ!」
不可避な未来を諦めて、受け入れることにしたネギだった。
ザジさんなら、なんでもできる。だって、ザジさんだもん