【完結】テニスこそはセクニス以上のコミュニケーションだ(魔法先生ネギま×テニスの王子様)   作:アニッキーブラッザー

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第23話『微妙な戦績』

 時間を操作するテニスプレーヤーと、引力や空間を操作するテニスプレーヤー。

 テニスの前提を根本から破壊するかのような二人のプレーヤーは、この場に集ったテニスにおける全国トップクラスの学校の者たちの度肝を抜いた。

「そ、そんな、手塚部長と跡部さんが、一ポイントも取れずにゲームを取られるなんて……うそだろおっ!」

「うるせえぞ、桃城! 部長と跡部さんがこのまま終わるわけねえだろうが。ビビッてねえで最後まで黙って見てろ」

「あんだと、マムシ! 誰がビビッてるだ!」

「ああん、やんのかコラァ!」

 目の前の信じられない現実から目を背けるかのようにいがみ合う二人。だが、この現実を直視できないのは彼らだけではない。

「し、信じられない。一体どういう原理で……こんなテニス、データにもない」

「データどころじゃないよ、乾。むしろテニスの長い歴史の中でも、こんなものはありえないよ」

「ば、バカ言うな、不二。に、人間に、時間や重力を操作することなんてできるはずが・・・」

 そうだ。こんなことありえるはずがないのだ。

 しかし、この事実はどう説明すればいい?

「ちっ、どいつもこいつもビビりやがって。時間や重力を操作? ああん? そんな非現実的な力より、俺様の力を信じやがれ! 俺様を誰だと思ってやがる!」

 気落ちする面々に対して、自分を鼓舞して前を向く跡部。

 再びトスを高く上げ、必殺のサーブを解き放つ。

「くらえ、タンホイザーサーブだッ!」

 再び意図的にイレギュラーバウンドを起こすサーブ。

 今この瞬間に辿りついた麻帆良の生徒たちも目を見開いた。

「エヴァンジェリンさん、あのボールの回転。私の試合で仁王さんが使っていた……」

「ああ。ドライブCとかいう、ボールを意図的にイレギュラーバウンドさせるショットだ。あれをサーブだけでやるとは、あの濃い顔の小僧、なかなかやるな」

 一球打つだけでそのプレーヤーがどれほどの高度な技術を駆使しているのかがエヴァたちには分かった。

 だが、相手が悪かった。

「無駄ヨ! ザジさん、頼むネ!」

 レシーブの体勢に入る超は、ザジに一声かける。するとザジが再び未知の力を発動させたことで、本来弾まないはずのタンホイザーサーブが浮き上がった。

「ッ、やはりか! こいつ、本当に俺様のボールの重力を操っているのか?」

 弾みさえすればただのボール。超は余裕でフォアハンドクロスにボールを打つ。

 しかしその時、手塚が動いた。

「ならば、俺も試そう」

「ぬっ!」

 超のリターンと同時に横に走って、ポーチに出る手塚。

 そしてボレーと同時に、手塚もまた伝家の宝刀を抜く。

「捉えた」

 ネット際ギリギリに落とすドロップショットだ。

「出たでー、手塚の十八番!」

「零式ドロップッ!」

 コートに落ちればボールは全く弾まずにバックスピンで転がるほどの威力。

 全国の猛者たちに畏怖されてきた手塚国光の必殺ショット。

 青学、氷帝、立海のメンバーもその力を知るからこそ歓声が沸き立つ。

 そして、手塚はさらにもう一つ行動を起こした。

 

「そして……どういう原理かは知らないが、本当に時が操作されているか、これで見極めよう」

 

 その時、手塚が自分で右手の親指を歯で僅かに咬み、次の瞬間指から血が溢れてコートにポタポタと血が垂れる。

 この攻防の中でソレに何の意味があるかは、ほんのわずかな人間にしか分からない。

 

「手塚部長、まさか!」

「ちょ、あのメガネのお兄さん、何やってんの?」

「ッ! あれは! ま、まさか、ポルナレフが使っていた……」

「いや、千雨ちゃん、ポルナレフて誰なん?」

 

 ドロップショットを打った後、手塚は自分の指からコートに滴り落ちる血をジッと見ていた。

 そして、手塚のドロップに対して、超とザジは……

 

「ザジさんっ!」

「了解です」

 コートに落ちれば全く弾まない手塚の零式ドロップ。

 だが、全く弾まないボールだとしても、ここにはザジが居る。

 ザジの能力により、全く浮かないはずの手塚のドロップショットが、バウンドしたのだ。

「ッ!」

「ちい、手塚のドロップまで。だが……これなら!」

 確かにボールは弾んだ。

 だが、たとえ弾んだとしてもそれを返球できるかはまた別の話。

 完全に虚をついたドロップショットゆえに、ベースライン上に居る超は、今から走っても間に合わない。

 ならば……

「だから無意味ネ。時空を司るテニスの前には無意味ヨ」

 その瞬間、先ほどまでベースライン上に居たはずの超鈴音が、気づけばネットギリギリにつめていた。

 それはスピードなどというものではない。

「な、ななな、どういうこと! あの子、瞬間移動?」

「まさか……また時を止めたのかッ!」

 そう。ドロップショットに追いつかないのなら、時間を止めればいい。

 時間さえとめれば、ドロップショットなどただのチャンスボールだ。

 そして、今、超鈴音とザジのやらかしたことを瞬時に察知したネギと生徒たちは一斉に叫ぶ。

 

「「「「「ふ、ふ……二人ともそれはズル過ぎるッ!」」」」」

 

 魔法と超科学を駆使したテニスを使う二人に、魔法の事情や超鈴音の力を知る者たちは顔を青ざめて思わず叫んでしまった。

 しかし、超鈴音はどこ吹く風。

「おやおや、みんなもつれないネ。これが今後百年後の世界において常識となる、スーパーテニスヨ!」

 時間を止めて手塚のドロップショットを鼻歌交じりで打ち返す超鈴音。

 その瞬間、テニスを根本から破壊されたかのような現実に、男たちが絶望の顔を浮かべた。

 だが、その時だった!

「……へっ?」

 超はショットを叩き込んだと思っていたが、そのボールは途中で変化し、アウトになってしまったのだった。

 予想外のミスに超鈴音も目を丸くした。

 一方で手塚は……

「最後の一ポイントを取るまで、油断しないことだ」

 

 

 まるでこうなることが分かっていたかのような表情。

 それを見て、超鈴音はハッとなって気づいた。

「ッ、そうカ! 今のはただの零式ドロップショットではないネ! ……これが噂の……手塚ファントム……」

 手塚ファントム。その言葉が発せられた瞬間、絶望の淵にいた男たちの表情が、僅かな希望を見つけたかのように晴れた。

「で、出たーッ! 手塚部長の手塚ファントム! ボールの回転を操って、どんなボールもアウトにしちまう、手塚部長の究極奥義!」

「そうか! いかに時間を止めようと、相手のボールを全部アウトにしちまえば!」

「さすが、手塚だ! このまま黙ってやられるあいつじゃない!」

 時を止め、重力を操作する相手に対抗するための手塚の奥義。超鈴音とザジはこの試合初めて、ポイントを失った。

「そうカ。時を止めた瞬間は全ての回転が止まって見えるものの、再び時を動かせば回転はよみがえる。私がいかに時を止めてボールを返球しようとも、全てアウトにされれば無意味……ということネ」

 油断もあったかもしれない。しかし、魔法と超科学の力を駆使した自分たちが、テニスの技でポイントを失った。

 

「え、エヴァちゃん、い、今の何なの? 超りんの打ったボールがいきなり曲がってコートの外に……」

「ほほう。日本人で……アレを使えるか……何者だ? あのメガネ」

 

 エヴァですら感嘆の声を上げる光景。

 この事実は、超とザジに大きな衝撃を与え、同時にメラメラと闘争心が湧き上がった。

 そして、更に手塚は、嚙み切った自分の指を掲げて告げる。

 

「しかし、どういう原理かは知らないが、どうやら錯覚や催眠などではなく、本当に時が飛んでいるようだな」

「……ん?」

「コートに滴り落ちていた血の量が、一瞬で増えた」

「ッ!」

 

 時が飛んでいるかのような現象。その現象が現実かどうかを手塚は確かめたのである。

 

「ちょ、本当っすか! と、時が飛んでるって、そんな馬鹿な! 一体、どんなことをやったらそんなことが出来るって言うんすか!」

「わ、分からん。しかし、手塚はそれを確かめるために血を流したのか……」

「恐ろしいね。今、僕たちは何を見ているんだろう」

 

 時が飛んでいることを確かめた。しかし、確かめたことにより、今、目の前で起こっているこの事態をどう頭の中で解釈すればいいのかを誰もが理解できないでいた。

 蹲っているネギを始め、もう呆然としている刹那たちを除いて……

 そして……

 

「いや、問題はそれだけやないやろ……」

 

 問題はそれだけではない。そう口にするのは、氷帝の忍足。

 そう、彼の言うように、奇怪な出来事は時が飛ぶだけではない。

 あの、ザジが使った、重力操作についても――――

 

 

「手塚のやつ…………JOJO読んどるんやな……」

 

「「「「「たっ、確かにッ!?」」」」」

 

 

 ……重力操作や時飛ばしの前に、そっちの方がテニス界にとっては衝撃だった。

 

「なあ、千雨ちゃん、どういうことなん?」

「ほんと、JOJOって確かあれでしょ? 今度実写映画化するやつ!」

 

 ちなみに、元ネタを知らない麻帆良女子中の生徒たちからはそんな声が漏れた。

 その声に対し、長谷川千雨は突如堪忍袋の緒が切れたかのように怒鳴り散らした。

 

「この、ゆとり共が! JOJO知らねーとか、なめてんのか! つうか、実写化の話題を出すんじゃねえ! そもそもキャスティングだけで既に怒号が飛び交うぐれーなんだからよ! つうか、実写版から入るな! JOJOは原作から入れ! つうか、原作だけ読め! んで、好きなキャラでDIOとかいうのはにわかだからな、ちゃんと読みこめ! そうすりゃ、今目の前で起こったディアボロとポルナレフのシーンを理解できる! つうか、ディアボロ知らねえなんて、まずはアバッキオに謝れ! そして断じて、アバッキオが命がけで残したディアボロのデスマスクが本人と全然似てないとかツッコミ入れんなよな!」

 

 とまあ、回りがドン引きするように熱弁する千雨。本来なら、時飛ばしサーブとか、重力操作ショットとか、そして今の手塚ファントムとか、ツッコミどころ満載な出来事が山ほどあったにもかかわらず、彼女のツッコミも全然別の方へと向かってしまったのだった。

 ちなみに、その千雨の熱弁を見ていたJOJOファンの男たちは密かに「語り合いたい」と思ったのは、また別の話。

 

「ふふふ、外野も盛り上がっているネ。なかなか、いいネ。それでこそ、過去まで来た甲斐があるというものヨ」

「ええ。楽しいゲームになりそうですね」

 気づけば二人とも好戦的な笑みを浮かべている。

 それは、「本当の戦いはこれから始まるのだ」とワクワクしているかのような表情だ。

「あ、あのマスター……ちなみに、今、あのお兄さんは何をやったんですか?」

「……あのメガネの若造……驚いたな。立海の小僧共が特別かと思ったら、あの二人も傑物だな」

「ちょっ、あのエヴァちゃんが驚いてる……っていうことは、やっぱ今、すごいことがあったんだ!」

「うん。私たちには超りんが下手で勝手にアウトしたようにしか見えなかったけど」

「よーし、イケメン兄ちゃんたちも頑張れーッ!」

 一矢報いた男たちにギャラリーたちも沸きあがり、歓声が上がる。

 そして、歓声が上がったのならば、この男だって黙っていない。

 

「フハハハハハ、随分と盛り上がってきているじゃねえか、アーン? 手塚ァ」

「跡部。言ったように、どうやら本当に『時』が動いているようだ」

「ふん。まさか、貴様の口からそんな言葉が真面目に出てくるとはな。だが、それがどうした?」

 

 強気な笑みを浮かべる跡部。

 彼は、右手を掲げた。

 

「手塚ァ、時が動こうと、重力が変化しようと、この場に俺様が居るのならば関係ねえ。俺様を誰だと思っている。アーン?」

 

 最初はギャラリーが部員たちだけだったためにいつものルーチンが出来なかったが、これだけ集れば十分だ。

「おっ、跡部のやつ、俺らにアレをやれって言ってんだな?」

「やれやれ。まあ、逆に跡部がアレをやらないと、こっちも調子が狂うからな」

「しゃーない。手伝ってやるか」

 

 跡部はギャラリーたちに次々と指を指していくと、それを察した、青学、氷帝、そして立海の面々がそれに応える。

 

「ねえ、ジャッカルくん、どうしたの? それに、あのイケメン兄ちゃん、何をしようとしているの?」

「ふふ、黙って見てな、女ども。ちょっと、面白いのが見れるぜ?」

 

 そう、アレだ。

 

 

「勝つのは氷帝――――ッ! 勝つのは跡部!」

 

 

 それは突如、麻帆良世界樹前広場で起こった。

 

 

「えっ、な、なに?」

「何が始まろうとしているの?」

 

 思わずビクッとなる麻帆良生徒たち。

 そんな生徒たちにお構いなく、男たちは叫んだ。

 

 

「「「「「勝つのは氷帝! 負けるの麻帆良! 勝つのは氷帝! 負けるの麻帆良! 勝つのは氷帝! 負けるの麻帆良! 勝つのは氷帝! 負けるの麻帆良! 勝つのは氷帝! 負けるの麻帆良! 勝つのは氷帝! 負けるの麻帆良! 勝つのは氷帝! 負けるの麻帆良! 勝つのは氷帝! 負けるの麻帆良! 勝つのは氷帝! 負けるの麻帆良!勝つのは氷帝! 負けるの麻帆良!」」」」」

「「「「「勝者は跡部! 勝者は跡部! 勝者は跡部! 勝者は跡部! 勝者は跡部! 勝者は跡部! 勝者は跡部!  勝者は跡部!  勝者は跡部! 勝者は跡部! 勝者は跡部! 勝者は跡部! 勝者は跡部! 勝者は跡部! 勝者は跡部! 勝者は跡部! 勝者は跡部! 勝者は跡部!  勝者は跡部!  勝者は跡部! 勝者は跡部! 勝者は跡部!」」」」」

「「「「「キング! キング! キング! キング! キング! キング! キング! キング! キング! キング! キング! キング! キング! キング! キング! キング! キング! キング! キング! キング! キング! キング! キング! キング!「キング! キング! キング! キング! キング! キング! キング! キング!」」」」」

 

 それは、氷帝コール、跡部コール、キングコールというオンパレード。

 もはや何が起こっているのか分からない麻帆良の生徒たちはポカンとした表情しか出来ない中、跡部の表情はエクスタシーを感じているのかのように悦に入り、そして最後に手を天にかざして、指をパチンと鳴らす。

 

「勝者は……俺だ!」

「「「「「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおッ!」」」」」

 

 それはカリスマなのか、宗教団体なのか、もはや何がどうなっているのか分からない麻帆良の生徒たちは、顔を引きつらせながら呟いた。

「ねえ、これって応援なの? なんかむしろ、イジメじゃない? 私、キングとか言われたら恥ずかしくて耐えらんないよ」

「ってか、マナー違反とかになんないの?」

「わ、私は恥ずかしくてあんな応援絶対に無理……でも、あの人、すごい嬉しそう」

「千雨ちゃん、大丈夫?」

「くそ、立海の超人たちが、人間的にまともに見えて来た……もう、勘弁しろ」

「ふん。随分と偉そうだな、あの小僧。おい、茶々丸。あの濃い顔の男は何者だ? 調べろ。あんなエラそうにできるほどの実力があるのか?」

 とまあ、散々な評価であった。

 

 

「マスター、今、検索終わりました。まず、彼らは青春学園テニス部と、氷帝学園テニス部、共に全国で名の知れたテニスの名門校。ちなみに、青学は今年の全国大会で立海を倒して優勝しております」

 

「ほう。こいつらを倒したのか……」

 

「まず、氷帝学園についてですが、東京都に存在する幼稚舎から大学までの一貫教育を行うマンモス校。中等部テニス部は毎年都大会・関東でも優勝候補です。そして、今コートに居るのは、二百名のテニス部員の頂点に立つ、部長の跡部景吾。全国に名の知れた選手です」

 

「ふむ」

 

 

 茶々丸の短時間の調査での跡部の情報が語られ、麻帆良生徒たちはその情報に全員が耳を傾けた。

 だが……

 

 

「そして、歴代最強とも呼ばれた今年の氷帝学園の戦績ですが…………都大会五位」

 

「「「「…………? 五位?」」」」

 

「関東大会は、一回戦負け」

 

「「「「「い、一回戦負け?」」」」」

 

「そして、開催地枠というもので全国大会にも出場しましたが、準々決勝で敗退……以上です」

 

 

 これだけド派手なパフォーマンスをやらかす、キングと呼ばれた男の所属する氷帝学園。

 その戦績に、麻帆良生徒たちは……

 

「えっ、な、なんか微妙……」

「ねえ、まき絵……あんたさ、新体操で夏の県大会でさ……」

「うん、私、県大会四位……」

「まき絵の方がスゲーじゃん。なのに、あの人って、そんな微妙な成績であんなにえばってんの?」

 

 あまりにも正直すぎる女子たちの反応。

 

「ぷっく、くくくく」

「おい、ブン太、笑うな」

「だっ、だってよ~、あの跡部にこんなことを言う奴らがいるとはよ」

「ぷりっ」

 

 ちなみに、立海勢は間近でその女子たちの会話を聞いてしまい、物凄く笑いを堪えるので必死だった。

 

「う~む……たたずまいは、只者ではないと思ったが……県大会五位か……。で。茶々丸。隣の優勝した学校は?」

 

 エヴァもまた顔をしかめて跡部に対して微妙な顔をしている。

 そして、その興味はすぐに隣の手塚に。

 茶々丸も言われた通り、すぐに青学についても語り始めた。

 

 

「はい、青春学園も氷帝学園と同じように関東にあるテニスの名門校です。昔は中学最強の学校でもありましたが年々力が落ちており、都大会や関東での優勝は遠ざかっていました。しかし、一昨年より再び力をつけ、ついには今年、都大会、関東大会、そして全国大会を制覇しました。そのチームを率いるのは、一年の頃より全国に名を轟かせていた、あの、手塚国光とよばれし、中学テニス界の至宝とも言われた選手です」

 

「ほほう。つまり、スーパーエリートというわけか。なるほどな」

 

「「「「「おおおお、イケメンで更に強くて実績もある……キングってむしろ、こっちじゃない?」」」」」

 

 

 青春学園の輝かしい戦績には、エヴァやクラスメートたちも感嘆の声を上げる。

 そう、そもそも、全国優勝ということは、今ここに居る立海大を倒したということなのだ。

 それはつまり、本物の――――

 

 

「ちなみに、マスター……」

 

「ん? どうした、茶々丸」

 

「その……手塚国光の個人的な戦績ですが……大将に回ることが多いために試合数は多くありませんが……関東大会の一回戦で、その一回戦負けをした跡部景吾に敗退しています」

 

「……な、なに? えっ? あのメガネ、中学最強じゃないのか?」

 

「さらに……立海との全国大会決勝でも……立海の真田さんに負けています……」

 

「なな、え、なにい? あのメガネ、帽子小僧に負けてるのか?」

 

 

 エヴァの反応、そしてクラスメートたちも同じように目を丸くした。

 何だか、知れば知るほど微妙な選手なのではないかと誰もが思い始めていた。

 

「……ぷっ……」

「あ、ゆ、幸村すら笑ってる……」

「そ、そりゃあ、あの手塚と跡部をこんな評価するとはな……」

「ま、まあ、このまま黙って見てりゃ、あいつらが戦績だけで分かるような奴らじゃねえって知ることになるが、それにしても……」

「哀れなり。跡部、手塚」

 

 立海は、もう笑うしかなかったのだった。

 

「アーン? 何だか、騒がしいが、とにかくこれで俺様も満足だ」

 

 

 とりあえず、麻帆良生徒たちの会話は聞かれていなかったためか、一応は跡部も満足そうに笑っていた。

 そう、跡部にとっては必要不可欠な儀式が完了したのだ。

 跡部は、自信に満ち溢れた表情を浮かべて、さらに宣言する。

 

「ふん。お姫様だか、時空王だか知らねーが、それがどうした、アーン? 俺がキングだ!」

 

 麻帆良生徒たちからは「微妙」と呼ばれた、キングの反撃開始であった。

 

「いくぞ、愚民どもッ! ハアアアアッ!」

 

 跡部は「15-15」のコールと同時に唸るようなサーブを放つ。

「ザジさん! 今度はタンホイザーじゃないヨ!」

「分かっています」

 小細工無しの、洗練されたフラットサーブだ。

 コースも速度も申し分ない。

 だが、それだけならば、異形の力を使うまでも無く、ザジの技術で問題なくリターンできた。

 こちらもまた、急速や高さなども申し分の無い球筋だった。

 すると跡部は……

 

「どんなに時を止めようと、どれだけ重力を操ろうと、目に見えないものに反応できるか?」

「「ッ!」」

「ほうら、凍れ」

 

 その瞬間、まるで凍りついたかのように、超とザジの動きが止まった。

「出たーッ! 跡部さんの必殺!」

「相手の死角を突く、氷の世界だ!」

 それは相手の眼の死角を突くなどというレベルのものではない。

 時を止める超鈴音ですら、一瞬、時が止まったかと勘違いしてしまうほど、気づけば跡部のストロークが、超とザジの間を抜かれてしまったのだった。

「ッ、ほう……あの小僧……」

 先ほどまで、跡部の態度に不愉快そうな顔を浮かべていたエヴァだったが、この瞬間、目を大きく見開いて身を乗り出した。

「え、い、今、な、何があったの?」

「なんか、超りんとザジさんが一歩も動けないで普通にポイント取られたけど……」

 そう、傍目から見れば、今のは超とザジが簡単にポイントを取られただけにしか見えない。

 しかし、今のポイントにはもっと深いものがあった。

「あの、解説者エヴァちゃん、御願いします」

 何が起こったのか分からない生徒たちは、もはやおなじみとなったエヴァの解説に頼る。

 エヴァもその問いには、文句一つ言わずに答えた。

 

「テニスにおいて……絶対に返せない球……というものがある。それは……思考の死角。人間は、自分の意識が想定していない箇所に想定外の速度で打ち込まれたものには、反応することすらできない」

「思考の……死角?」

「あれでは、魔法の発動のタイミングも、時を止めるタイミングも図れない。正に相手の姿、佇まい、そして思考すらも見抜いてしまう、常人離れした眼力……インサイト能力が無ければ不可能」

 

 手塚に続き、このまま終われるはずが無いキングが、ついに本領を発揮した。

 

「俺様の美技に酔いな」

 

 今こそ、キングによる国家創生の物語が始まるのであった…………

 

 

 

 

 

 

 ……かに見えた。しかし……

 

「ふふ、狙い通りネ、ザジさん」

「ええ、想定の範囲内です」

 

 内心では、超鈴音とザジはほくそ笑んでいた。

 

 

「古今東西、今も未来も魔界も変わらない。調子に乗った者を精神的に叩きのめす方法……それは……上げて落とすネ」

 

 

 跡部を見る二人の女の瞳には、何かの企みが見えた。

 


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