【完結】テニスこそはセクニス以上のコミュニケーションだ(魔法先生ネギま×テニスの王子様)   作:アニッキーブラッザー

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第26話『無限の可能性』

 中学日本最強ダブルス。

 そう期待されて送り出された手塚と跡部のダブルスが、今、未来と魔界を打ち砕こうとしていた。

 

「これならばどうです! ボールと共にあらゆる魔獣の幻を纏わせることで相手を惑わす、悪夢魔幻獣ショット!」

「無駄だア! どのような幻にも惑わされず、本物のボールをこの俺様のインサイトで見極める!」

「わ、私の幻術魔法が砕かれた!」

「ふはははははは! 俺様が、その幻想をぶち壊す!」

 

 未知なる魔界の魔獣の幻術を重ね合わせたショットをザジが放つも、その幻に惑わされることなく跡部はリターン。

 

「ちょ、直死の魔眼持ちの幻想殺しは反則だろうが! つうか、お前らもうこれ以上ツッコミ入れさせんなー!」

 

 その現実に、ザジ・レイニーデイどころか、千雨のツッコミすら追いつかなくなっていく。

 

 

「はあああっ! タイムマジックドロップ!」

「そのドロップショット。アウトだ」

「ならば、連続時飛ばし!」

 

 時を止め、回転を殺すように慎重に丁寧に打った超のドロップショット。更に、一度で0コンマ数秒飛ばす超鈴音の時飛ばしを、この瞬間のみ、超鈴音は連続で使用し、手塚の感覚と手塚パラドックスを封じようとした。

 しかし……

 

「無駄だ。それももう予知している」

「ッ!」

「今の俺が立っているのは、お前の時飛ばしの遥か先だ」

 

 全ての未来を見透かす手塚。超は想定をはるかに上回る回転量が加わったボールの回転を殺すことはできず、ドロップショットがコートの外へと引き寄せられてアウトになった。

 

「だから、何で生身の人間がスーパーサイヤ人ブルー界王拳の時飛ばし破りが使えるんだよ! もう、あの無我の境地って戦闘民族のことなのか!」

 

 もはやあの二人を止めることは誰にも不可能。このツッコミすらも止められない。千雨の絶望と共に、ついにゲームは終わりに近づいていた。

 

 

「ゲーム、5-2で俺様たちのリードだ」

 

 ゲームカウント5-2。

 完全なる覚醒進化を遂げた手塚と跡部は、超とザジの二人を突き放しにかかった。

 その結果、サービスゲームのキープとブレークを続け、気づけばスコアの差は開いていた。

 

「つ、強すぎる……な、なんなんですか、このお二人は! これじゃあ、魔力のない魔法じゃないですか!」

 

 ネギが思わずそう叫ぶのは仕方がなった。

 魔力があるから魔法と呼ぶ。しかし、今の手塚と跡部の力のほうが魔法といえるかもしれない。

 

「いけえ、手塚部長! 跡部さん、あと一ゲームだ!」

「跡部、氷帝魂を見せてやれ!」

「手塚……お前はどこまで……ぐっ、あ、あと一ゲームだ! 手塚、油断せずに行こう!」

「跡部さん!」

 

 命を削るほどの力を使う、手塚。だが、もう青学も氷帝も止めなかった。

 もはや、意地を超越した男たちの魂に、同じ男として心を打たれ、ただ後押しの声援を送った。

 

「いけー、超リン、ザジさん、負けんなーっ!」

「もっとビックリ技出して驚かせちゃえー!」

「フレッフレッザジさん! 超りん!」

 

 男たちの応援に対して、麻帆良も自分たちのクラスメートたちにも負けぬようにとエールを送る。

 再び回りの歓声が最高潮になり、世界樹前広場のテニスコートが熱く滾っていた。

 そんな中、人智を越えたダブルスを眺めながら、エヴァが呟いた。

 

「おい、小僧……貴様らは……何のためにテニスをする?」

 

 エヴァが問いかけたのは、その傍らに居る幸村だった。

 

「この学園には、星の数ほどの部活がある。無論レベル差はある。私のクラスメートたちのようにお気楽に部活に励むものも居るし、力を入れている部活は学生生活を捧げて懸命に打ち込んだりしている。しかし……一生懸命ではあるが、命を賭してまではいかない……」

 

 たかが学校の部活と言えばそれまでである。

 しかし、立海も青学も、そして氷帝も、学生生活を捧げるとか一生懸命とかそういうレベルではないというのが、今日一日で分かった。

 なら、お前たちは何なのだ?

 テニス歴600年のエヴァは、今日出会った男たちを理解できなかった。

 

「学校を背負い、そしてチームスポーツではないテニスにおける団体戦というものは……色々な想いが芽生えるんだよ、お嬢ちゃん」

 

 その時、幸村が優しく語りかけた。

 

「テニスは、ダブルスを除けば本来は個人競技。ジュニアやプロの試合も基本は個人戦。だからこそ、そんな個人戦の競技を戦う者たちにとって、団体戦というものには特別なものがある」

 

 600年もテニスをやっていたというエヴァが、生まれて一度も経験したことがなかったもの。

 

「手塚も跡部も、そしてウチの真田も、どんな個人戦のトーナメントに出ても間違いなく優勝候補だ。でも、あの三人がここまで強くなれたのも、熱い想いを抱けるようになったのも、間違いなく団体戦で培われたものがあるからだよ」

 

 それは、学校で同じ釜の飯を食い、共に同じ目標に向かって戦う、『団体戦』というもの。

 今日が初めての団体戦というエヴァには分からないもの。

 

 

「そう言えば、君たちのところの桜咲さんと戦っていた仁王も言っていたね。一人ならば……個人戦ならばあそこまで無理はしない。でも……一人じゃないから……自分一人で戦っているわけじゃないから戦うんだ」

 

「………そうか……」

 

「理屈じゃないんだ。それを知ってしまった者たちは……そうせざるをえないんだ」

 

「ふん。理屈ではなく動いてしまうか……青臭い小僧め。まあ、それに関しては分からなくもないな。そういう運動部ではないが……そういう理屈ではなく動くガキ共は身近にいるからな」

 

 

 幸村の言葉を聞いて、エヴァは自然に笑顔を浮かべていた。

 それは、幸村の言葉は、正に自分のクラスメートたちにも言えた事。

 父親を探したいという男を手助けしたい、好きな男に近づきたい、もっと強くなりたい、そんな想いを抱いて魔法世界を命がけで戦い抜いた自分のクラスメートと同じ。

 自分一人で戦っているわけではないから、無理をしてしまう。

 その理屈だけは分かった。

 

「はあ、はあ、はあ…………マッチポイント……ですか。超さん、ちなみにどんな感じですか?」

「無理ネ。時飛ばしを使いすぎたネ。もう、この試合では……」

 

 そして、ゲームも最後の大詰めを迎えた。

 まともな『戦闘』をすればあっさりと瞬殺出来る男たちに手も足も出ずに追い詰められる超鈴音とザジ・レイニーデイ。

 しかしその表情は、絶望よりも、もはや笑うしかないという様子で表情も柔らかかった。

 

 

「全く、恐ろしいものですね。まさか魔法も使えないただの中学生が、魔界の姫たる私をここまで追い詰めるとは……」

 

「本当にそうネ。時代の最先端とも言うべき技術をも、アナログの力でねじ伏せる……もはや脱帽ネ」

 

 

 人間を、人智を、あらゆるものを超越した二人。しかしそれでも勝てない。

 未来の科学技術や魔法の力も持たない、ただの生身の中学生を相手にだ。

 しかしだからこそ……

 

「しかし、だからこそ」

「ウム。人間は……面白いネ。無限の可能性を秘めている」

「こんな人たちも居る。だから、ネギ先生の目指す未来も……」

「そうネ。魔法世界を救うため、魔法世界と地球を巻き込んだ一大プロジェクト。当然、魔法という異形の力を知ることによる混乱や争いはさけられないかもしれない。しかし……」

「彼らのような人間が居る。ならば、きっと―――――」

 

 それは、この場に居るテニス部員たちにとっては、正直意味の分からぬ関係のない話かもしれない。

 しかし、未来の世界から今を、そして地球とは異なる世界から地球と魔法世界を、共に観察者のような立場で見守る超鈴音とザジ・レイニーデイは、魔法使いではない人間たちの可能性を感じることが出来た。

 それだけでもう満足だと、彼女たちの表情は告げていた。

 そして……

 

「手塚ァ! 最後だ、合わせろ! 何をやるか分かっているな?」

「無論だ。その未来は既に見えている」

 

 最後の時が訪れた。

 

「いくぞ、最後だ! 最後まで油断せずに行くぞ」

「当たり前だ!」

 

 手塚がフォアハンドストローク。

 既に時飛ばしが使えぬ超のグリップにボールが直撃する。

 その衝撃により超はラケットを落としてしまい、ボールはフラフラと上がってしまった。

 そして、浮いたボールに跡部が舞う。

 

「これは! 跡部と手塚のコンビネーション!」

「正に、二人がかりでの破滅への――――」

「いけー! 跡部ッ!」

 

 舞い上がった跡部から繰り出されるスマッシュ。

 超はラケットを落とし、時飛ばしを使えない以上、ザジがカバーするしかない。

 しかし、ザジのナイトメアゾーンは、既に跡部に攻略されている。

 ならば、素の力で返すしかない。が……

 

「ほうら、凍れ!」

「ッ!」

 

 素の力で跡部の氷の世界を攻略することはザジにもできなかった。

 ゆえに……

 

 

「時飛ばしだとか、空間どうたらとか、そういう力を磨く前に、もっとテニスの腕を磨くんだったな! これでフィナーレだぜ!」

 

 

 凍りついたように身動き取れないザジは跡部のスマッシュに反応することすらできなかった。

 コートに降り立った跡部は、不敵な笑みを浮かべて告げる。

 

 

「破滅へのタンゴだ。俺様たちの美技に酔いな」

 

 

 それは、全ての決着をつけた最後の締めの言葉であった。

 

「うおおおおおおおおおおおおおおお! 手塚部長と跡部さんが勝ったー!」

「ゲームは6-2だが、本当にすごい戦いだった!」

「感動した! 手塚ァ! 跡部! 本当にすごいよーっ!」

「すっご! もう、テニスでこんなの見られるなんて、全員すごいよ!」

 

 終わってみれば、スコアの差は歴然であった。

 しかし、スコアだけでは分からぬ、命を懸けた死闘を、今この場に居た者たちは心に刻み込んだ。

 

「ぐっ、……つッ」

「手塚ァ!」

 

 その時、全てを出しつくし、青い青学ジャージを赤く染め上げるほど瀕死の手塚がついに力を失って倒れそうになる。

 だが、その体を跡部は正面から受け止めて、手塚を支えた。

 

「……跡部……」

「何も言うな、手塚」

 

 跡部は手塚の腕を自分の肩に回した。手塚から流れる血が跡部に付くものの、跡部はそんなことなど一切気にせず、傷ついた友の体を支えながらネット前で待つ、超鈴音とザジ・レイニーデイへ向かう。

 跡部に支えられる手塚は思わず口を開いた。

 

「跡部……」

「何も言うなと言ったはずだ、手塚」

「いや……それでも……」

「アーン?」

「……いいゲームだった……色々と発見のあるものだった」

「……ふん……。お前もさっさとドイツに行っちまいな。青学という看板を背負ってお前が戦うのは今日で最後だ。お前の意思は……後輩どもに受け継がれている。氷帝と同じようにな」

「……ああ……そうだな」

 

 コートサイドに居る海堂や日吉の姿を眺め、ようやく自分の役目も終わったのだと実感した手塚は、口元に小さな笑みを浮かべて、跡部に拳を突き出した。

 その拳に跡部もコツンと軽く拳をぶつけた。

 共に一年生の頃からチームを引っ張り、支え、戦い続けた二人の男。

 その役目がようやく終わったのだと、互いを称えあった。

 

「きっ、きっ……キマしたわーーーっ! うあはああああ! なに、あのイケメン二人でイチャイチャ! もうこれ、冬コミがどうとかってレベルを超えて、長年にわたってBL界で伝説になるCPに――――――」

「「「「「今、感動の最中だから、黙れパル!」」」」」

 

 ……何故か鼻血を出して興奮する早乙女ハルナだったが、クラスメートたちにボコられたので、手塚たちは気にしないことにした。

 

「とても素晴らしいプレーヤーと戦えて光栄だたヨ。手塚さん。跡部さん」

「あなたたちのプレーはとても深く、そして美しかったです。人間の……テニスの……無限の可能性を見せていただきました」

 

 ネット前までたどり着くと、既に待ち構えていた超鈴音とザジ・レイニーデイは悔いのない笑顔で待ち構え、そして最後に握手の手を差し出していた。

 

「3セットマッチや、プロのように5セットマッチならば、また結果は違っていただろう。いつの日か、互いに成長した姿でまた再戦を」

「ふん。色々とあったが、有意義な時間だった。褒めてやるぜ。またいつでも挑戦して来い。俺様が相手をしてやる」

 

 手塚と跡部も、最後は超とザジを称え、四人は互いに握手を交わして死闘の幕を降ろしたのだった。

 その瞬間、男も女も学校も関係なく四人には惜しみない拍手と歓声が送られたのだった。

 

「お疲れ様っす! 手塚部長! 跡部さん!」

「跡部っ、流石だぜ!」

「来年は俺たちも必ず!」

「後は任せてください!」

「ナイスファイトだよ、お兄さんたち!」

「なんで超りんたちとテニスやってたか知らないけど、アッパレ!」

 

 そんな歓声が送られる中、立海の幸村も拍手をしながら前へ出た。

 

「いい動きだったね、二人とも。流石だよ。いつか二人と戦う日が楽しみだよ」

 

 幸村の登場に、跡部も笑みを浮かべていた。

 

「ふん、テメエら立海が女子共との団体戦で苦戦したって聞いてな。興味本位でじゃれ合ってやっただけだ」

「そうか。でも、まだまだテニスの世界は広いと実感できたんじゃないかな?」

「まあ……暇つぶしにはなったな」

 

 憎まれ口は相変わらずだが、跡部の表情はとても満足そうなものであった。

 それが目に見えて分かるから、幸村も笑って返した。

 しかし、そこで一つ疑問が生まれた。

 

 

「ん? じゃあ、青学も氷帝も、俺たちが練習試合をするのを聞いて偵察に来たのかい?」

 

 そう。なりゆきで彼らのダブルスに見入っていたが、そもそも何で青学と氷帝がここに来ているのかという疑問。

 年中練習試合をしている立海を、ワザワザ両校揃って今日偵察に来るというのはおかしかった。

 

「「「「「…………あっ………」」」」」

 

 その問いかけに、青学、氷帝、そして手塚と跡部も何かを思い出したかのように言葉を失った。

 

「跡部? 手塚?」

 

 首を傾げる幸村。そして場も段々と静かになり、立海メンバーも麻帆良生徒たちも黙って答えを待った。

 すると……

 

 

「とある筋から……あの真田が合コンをしているという情報を聞いて、冷やかしにきた……」

 

 

 跡部が物凄く言いにくそうな顔で、真実を語った。

 

 

「「「「「……………………………………はいっ?」」」」」

 

 

 立海、麻帆良一斉にハモった。

 

「跡部? その……俺ともあろうものが、少々五感が狂ったようだけど、もう一度いいかな?」

「だから、そのとおりだ! 麻帆良で真田、切原、沖縄の木手、山吹の亜久津が合コンしているという情報を入手して、全員でかけつけた!」

 

 そして、跡部の言葉は冗談ではない。事実なのである。

 つまり、彼らは、堅物なライバルが女子と合コンをしているという情報を聞きつけて面白半分で現れて、そして成り行きで試合をして、その流れで手塚は危うく死に掛けた……そういうことなのだ。

 この常識を超えた死闘を繰り広げた彼らの、あまりにもくだらなすぎる理由に呆れた顔を浮かべざるを得ない一同。

 青学も氷帝も、今になって「俺らはなにやってんだ?」という恥ずかしさがこみ上げてきたのだった。

 

「っていうか、真田くんが合コンって、ようするにアスナたちとモンブラン食べにいったやつでしょ? それを合コンって勘違い?」

「あははははははは! なんか、あの人たちも中学生っぽいこと気にするんじゃん! なんだか急に親近感沸いた!」

「でもさ~、そういえばアスナと真田君遅くない?」

「だよねー、何だかんだでデートしてたりして。つか、うまくいってたりして!」

「いやいやいやいや、あの真田がそれはないだろい」

「ああ。あの堅物な真田が女とイチャついているところは想像できねえ」

「弦一郎と神楽坂アスナがうまくいく確率は……」

 

 そして、急におかしくなったのと、そういえばまだ真田とアスナが帰ってきてないことに気づいた両校生徒たちからは冗談交じりの笑いが上がっていた。

 しかし、どれだけキャーキャー騒いだところで、「あの二人がどうこうなることはないだろ?」という感じで、ほとんどが冗談であった。

 そう、冗談であったのに……

 

 

「ねえ、ゲンイチロー、ケータイ教えてよ。でさ、部活っていつ休みなの?」

「休みか……基本的に部活は毎日ある」

 

 

 その時、聞きなれた声が彼ら彼女らの耳に届いた。

 

「うわあ~、やっぱ強豪だから毎日部活あんのね。祝日とかも?」

「無論だ、土日祝日などは練習試合にうってつけだからな。しかし、第一、第三の日曜等はOFFにしているために、比較的融通が利く」

「ほんと! じゃあ、今度の日曜はいいじゃん! 今度またテニスしようよ! この学園でも案内してあげたい場所あるしさ」

「ほう、いい度胸だ。この俺が戦いを挑まれて断るわけにはゆかん! 存分に相手をしてやろう」

 

 その時、聞きなれた男女の声が聞こえてきた。

 隣で並んで携帯の番号を教え合い、さらには次の休みを取り付ける帽子の男とツインテールの女。

 

「うっはー! 真田副部長、デートっすか! あの堅物の真田副部長がデートなんてビッグニュースっすね! しかもテニスデート! うらやましいっすね!」

「まあ! それなら赤也くんも一緒に麻帆良に来て、私にテニスを教えてくれない? 約束だったでしょう?」

「アン? ちょっと待ってくださいな、赤也はん。それよりも、今度ミックスダブルスの大会がありますえ。ウチと一緒にエントリーしてみませんかえ?」

 

 先輩を冷やかすワカメ男。そんな彼の両隣にはチャッカリと聖母のごとき微笑みを見せる巨乳女と、ぽわぽわした京都弁を喋るメガネ娘。

 

「ふふふふ、恋愛にうつつを抜かす立海……これで怠けてもらえれば、来年は沖縄の時代が来ますね~」

「こらこら、永四郎。あんたもスポーツマンなんだからセコイことは言うもんじゃないよ」

 

 自然に歩き会話する、色黒男と色黒女。

 

「亜久津先輩、このあと時間あるですか? 新しいラケット選びに一緒に来て欲しいです」

「ああん? 何で俺がんなメンドクセーことに付き合うんだよ!」

「まあっ! 太一君! それならば! それならばこの雪広あやかがお手伝いしますわ! なんでしたら、すべてのラケットメーカーに私が交渉して全て試打できるようにしますわ!」

 

 何だかよくわからん、ショタ坊やと不良とお嬢様。

 ただ、とりあえずは何だか仲の良さそうな男女の組み合わせを見た誰もが思った。

 

 

「「「「「……ご……合コンがうまくいってるッ!!??」」」」」

 

 

 合コンが成功した後の光景にしか見えなかった。

 その声に真田たちは反応して、ようやく世界樹前の光景に気づいた。

 いつの間にか集っている仲間たち。何故かあるテニスコート。

 そして、何故か青学と氷帝のライバルたちまでここに居ることを。

 まるで状況が理解できない真田たちに、一斉に詰める者たち。

 死闘が一変して、実に平和な光景が繰り広げられたのだった。

 

 

 しかし……

 

 

 この平和な光景がこの数分後に一変することになる。

 

 

「ふん……どいつもこいつも恋愛にキャーキャー騒ぎおって、ガキどもが。あれほどのテニスを目の当たりにして、なぜソッチに感心がいく」

 

 

 その時、いつものバカ騒ぎに戻ったことに、エヴァンジェリンは小さく愚痴を零していた。

 だが、すぐにその表情には邪悪な笑みを浮かべ、彼女はラケットを携えて、コートの中に入った。

 

「おっ……久しぶりネ、エヴァンジェリンさん」

「こんにちは」

「アーン? なんだ、この幼稚園児は?」

「……?」

 

 まだコートに残っていた超鈴音たちがエヴァの登場に反応する。

 しかしエヴァは彼らを睨みつけて――――

 

 

「試合が終わったのなら、勝者も敗者もさっさとコートから立ち去れ」

 

「「「「ッ!?」」」」

 

 

 その尋常ならざる殺気を持って彼らを睨みつけた。

 自分の背丈の半分にも満たない少女から発せられる、未だかつて味わったことのないプレッシャーに、思わず跡部と手塚も言葉を失った。

 だが、エヴァはすぐに機嫌よさそうな笑みを浮かべて……

 

 

「ふふふふふ、しかし、使っていたテニスコートの整備に時間がかかるために間が空いたと思っていたが……ここにも新しいテニスコートがあるのならば、もう構わぬだろう」

 

 

 今、自分たちが団体戦をしていたコートは破損が激しく修復活動を行っている。

 その間のインターバルとしてジュースを飲もうとかそういう流れではあったが、今、ここにもテニスコートがあるのならば問題ないと、エヴァは笑った。

 そして……

 

 

「さあ、最後の試合だ。ヤルぞ、幸村とやら」

 

 

 ラケットを幸村に向けて、エヴァンジェリンが挑戦状を叩き付けた。

 その瞬間、キャーキャー騒いでいた一同が言葉を失って、一気に場が静寂に包まれた。

 すると、その状況下で指名された幸村はラケットを取り出して。

 

 

「いいよ。やろうか、お嬢ちゃん」

 

 

 今、この場で決着を着けることを了承したのであった。

 そう、今ここに、神の子と闇の福音の戦いが始まる。

 




おまけのエキジビションが、一番長く、そして激しいテニスになってしまいました。

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