【完結】テニスこそはセクニス以上のコミュニケーションだ(魔法先生ネギま×テニスの王子様) 作:アニッキーブラッザー
第8話『俺様たちも殴り込みだ』
ダブルスの勝敗が決した頃、別の場所でも意外な出来事が起こっていた。
食堂塔の一階フロアは、吹き抜けになっており、室内だけでなく天気がいい時は外で食事もできる、広々とした環境。
しかし今は、
「わったー、久しぶりさー」
「はいでー!」
汗臭く、色黒で、どこか妙な雰囲気の男たちが食堂塔の一階フロアで動き回っていた。
「君たち! 皿の片付けやオーダーを取りに行くスピードが速いのは感心するけど、ところどころにゴーヤを入れたり、ラフテーとか郷土料理を入れるのはやめてくれないかな!」
彼らの働きぶりは見事であり、微妙でもあった。
混雑時ゆえに人手はいくらあっても足りないが、彼らがオーダーを取りに行ったりテーブルに残った皿などを取りに行くのに、『縮地法』という高度な歩法を利用することにより、店内の回転率は非常に早かった。
だが、たまに勝手に沖縄特有の料理を食堂の料理にも混ぜるという行為を行うことが唯一の悩みだった。
そんな彼らの正体は、今年中学テニスにおいて九州ナンバーワンとなり、全国へ殴りこんだ、沖縄県代表の比嘉中学校のレギュラー。
木手英四郎
田仁志慧
甲斐裕次郎
平古場凛
知念寛
五人はボーイのネクタイ着用の制服姿で、麻帆良で働いていたのだった
予想外の人物との再会に真田も少し驚いた。
「どうして、お前たちがここに居る。全国大会の後、全国や世界を放浪。イギリスで別れて以来、また行方不明になったと聞いたが」
「真田クン。よくぞ、聞いてくれました。そう、この夏休みは我々にとって非常に長い旅路でした」
木手は眼鏡の位置を直す。そのレンズの奥の瞳には、うっすらと涙が浮かんでいた。
「全国大会終了後、我々は全国を放浪し、その後に中国へ。中国で厳しい武道の修業を修め、奥義を会得した我々は、アカプルコでは捕らわれの身となった姫を助けるために、死地へと向かいました。山賊を蹴散らし秘法を手に、森の大魔王を倒した我々は、見事姫を救い出しました。・・・ああ、そして、私は姫の熱い口づけを」
「そのくだりはイギリスで聞いた。その後、巡り巡ってイギリスにたどり着き、沖縄に帰れなくなり、ボートレンタルのバイトで旅費を稼いでいたはず。日本には帰ってきたが、沖縄まではまだ帰っていないのか? それとも、まだ旅を続けているのか?」
「いえ。我々もイギリスで皆さんと別れたあと、またトラブルに巻き込まれましてね〜、そのトラブルを解決して日本の麻帆良までようやく帰ってこれたのです。今は、沖縄に帰るための旅費を稼ぐ最後のバイトです」
「トラブルだと?」
木手の説明を、実は真田はあまり真剣に聞いていなかった。
なぜなら、森の大魔王や山賊のくだりで、既に胡散臭いからだ。
同席しているアスナとあやかも同じだった。
この怪しい男が真田と同じ、全国クラスのテニス選手というのは驚いたが、真面目人間の真田と比べて実に嘘くさいと感じたからだ。
だが・・・
「そう、イギリスで皆さんと別れたあと、我々はウェールズに流れ着きました。そこで、妙なストーンヘンジのような場所にたどり着き、突如巻き起こった大発光と巨大な紋章に包まれて、目を覚ましたら魔法世界という未知の世界にたどり着きました!」
「・・・真面目に聞いた俺がバカだっ―――」
「「ぶふううううううううううううううううううううううう!!」」
「・・・どうした、神楽坂、雪広」
あまりにもバカげた話しすぎて、真田はため息ついてあきれた。
だが、同席していたアスナとあやかは急に口から水を吐き出して、テーブルに頭を強打した。
(ちょっ、いいんちょ! こ、このメガネ、まさか!)
(えっ、まさかこの人、まさか!?)
汗をダラダラ流して小声で話し合うアスナとあやか。
だが、木手は三人の反応を気にせず、壮大な物語を語った。
「魔法世界にたどり着いた我々は未知の世界、未知の種族、未知の力と出会い、これまでの価値観が根底から覆されました。ですが、ある日突然、地球と魔法世界をつなぐゲートがなぜか破壊されて地球に帰れないという事態になりました。とにかく生き残るために我々は日々、命がけで過ごしました!」
(アスナさんやはり・・・)
(この人、私たちが魔法世界に行ってた時、向こうに居たんだ!?)
「大森林で魔物や魔獣と戦い、ようやくたどり着いた辺境の伯爵の城では軍人崩れの盗賊と領内の人間の守城戦に遭遇。住民の抵抗むなしく伯爵家の若く美しい娘が悪漢たちに連れ出されるところを、我ら五人が飛び込んで見事救出! その後、領内の住民に歓迎され、彼らに沖縄武術を伝授。しかし、別れはつきもの。戦がひと段落した段階で、我らは首都を目指すために立ち去ることに」
「ううう〜・・・子供たち、いっぱい泣いてたさー」
「ジジイとババアがいっぱい飯食わしてくれたど!」
「お嬢様・・・かわいかったさー・・・一生ここに住んでいいって言われたさ〜」
「ううう・・・ううう〜!」
「その後も、傭兵結社・黒い猟犬との砂漠での戦闘。奴隷商人たちとの心理戦。ヘラス帝国で開いた臨時のテニススクール・・・その後、ヘラス帝国で傭兵兼テオドラ殿下のテニスコーチとして職を得て、気づいたら・・・」
木手が語れば語るほど、五人は大粒の涙を流した。
しかし、真田は仏頂面のままだった。
「もういい! そんな子供すら騙せぬ、下らん与太話にいつまでも付き合う気は毛頭ない。さっさと、普通のモンブランを持ってこんか!」
「相変わらず、ゆとりがないですねー、君は」
木手は少しブスっとした表情のまま、厨房へと向かった。
真田は振り返りもせず、ただ不愉快そうな顔を浮かべてグラスの水を飲み干す。
だが、アスナとあやかに関しては驚きのあまりにテーブルに顔面を突っ伏したままだった。
「どうしたのだ、二人とも」
「別に〜、ただ、あんたといい、あの木手くんってのといい、今のテニス界ってすごいやつばっかなの?」
「今の話でどうしてそうなるかは分らぬが、確かに木手もテニスプレイヤーとしては一流。特に、今年の我らが死闘を繰り広げた全国大会は10年に1度の逸材集いし群雄割拠の戦場だった」
「そうなんだ・・・そうよねー、だって、ゲンイチローたちで準優勝なんでしょ? やっぱほかにもすごい化けものとか怪物みたいのとか居たの?」
一般人。その言葉が、当初、立海テニス部の力をアスナたちは軽んじていた。
だが、実際に対峙してみて彼らはとてつもない力と技術を秘めた、アスリートたちだった。
今の木手も魔法世界を生き延びた実力者。
そんな連中が集うテニスという世界に、アスナたちが興味を惹かれるのも無理はなかった。
また、真田もアスナに言われて今年の全国大会を思い出す。
立海全国三連覇を掲げて、優勝を逃すなど微塵も考えていなかった。
だが、自分たちは負けた。10年に1度の才能集う全国大会を勝ち進み、もっとも進化した学校に負けた。
悔いはないが、それでも今でも鮮明に思い出せる。
「ああ、そのとおりだ。過酷な道のりだった」
決して甘い世界ではない。それだけは自信を持って言える。
真田はどこか誇らしげに、そう頷いたのだった。
そんな風に感慨にふけっていたのだが、その時だった。
「キャー、ひったくりよー!」
食堂内に大きな悲鳴が響いた。
「へへ、油断大敵ってやつだぜ!」
食堂中の視線が悲鳴の方向に向けられる。
そこには、食堂の入り口近くの路上で転んでいる女性と、バッグを抱えて走り出すローラースケートの男。
建物の中に居たアスナたちだが、食堂は全面開放されているために、その様子がよく見えた。
「まあ、なんてひどい!」
「ったく、こんな天下の往来で!」
「けしからん!」
アスナとあやかと真田は憤慨し、急いで捕まえてとっちめてやろうとした。
「ビッグバン!」
するとその時、彼らの真横をテニスボールが通り過ぎた。
「「「っ!?」」」
「おいたはやめなさい」
そのボールは轟音とともに真っすぐ突き進み、客たちの間を通り抜け、開放されている窓の外まで飛び、そのまま走り去ろうとする犯人に向かって飛んで行った。
さらに・・・
「ちょうどいい。刹那とのダブルス前に練習をする必要があったからな。確か、こうやって、こうだな」
「おいおいおい、ひったくりはいけねーっすよ!」
別々の場所から声が聞こえ、気づけば犯人の真後ろ、そして左右からテニスボールが飛んできた。
「な、なんだこ、はぶわあああ!?」
強烈な打球を三球まとめてくらった犯人は、悲鳴を上げてぶったおれた。
その際、犯人が盗んだバッグを手放し、バッグが宙を舞い、そのまま外で食事をしている一人の男性の後頭部に直撃し、男性はそのまま食べていた料理に顔から突っ込んでしまった。
しかし、犯人取り押さえばかりを考えていたアスナたちはそのことを知らずに、ただ、テニスボールでひったくり犯を捕まえた者たちに注目する。
「木手くん、すご!」
「一発で命中ですわ」
「このぐらい、誰にでもできますよ。それにひったくり犯をサーブで捕まえることなど、我々テニス部には日常茶飯事ですので」
「腕は鈍っとらんようだな、木手。しかし、なぜバイト中にテニスラケットを?」
「しかし、私だけではありません。ボールはあと二球ありました」
そう、木手以外に誰かが犯人にボールをぶつけた。
それは一体・・・
「ふーん、思いのほかうまくいったようだね」
褐色肌の長身長髪でスタイル抜群の美人。
しかしどこかワイルドさを兼ね備えていながらも、今はポロシャツにテニスの白いスカートというどこか可愛らしい服装の女性。
「龍宮さん!?」
「おっ、神楽坂に委員長か」
「えっ、なんで龍宮さんが!?」
「私の試合までまだ当分時間がかかりそうなんでね。ちょっと喉が渇いたから来てみたんだが・・・ふむ、テニスか。やはり狙撃をするならライフルに限るな」
女の名は龍宮真名。
アスナとあやかのクラスメートであり、麻帆良が誇る最強の戦闘集団の一人。
幼少のころより幾多の戦場を潜り抜け、美しい容姿の裏には常に血と硝煙の匂いを漂わせる裏の人間。
今日は息抜きも兼ねていつもの拳銃をテニスラケットに持ち替えて試合にも出るようだが・・・
「おや、真名さんではないですか」
「やあ、英四郎。ちょっと、お邪魔するよ」
なんか、普通に挨拶する木手と龍宮だった。
「おー、真名ちゃんさー!」
「真名の姐さん!」
「いらっしゃいさー」
そして、当たり前のように真名に挨拶する比嘉中面々だった。
「えっ、龍宮さん知り合い!?」
「ん・・・ああ・・・私がお前たちを救出するために魔法世界に行った時、途中で立ち寄った場所で色々とな・・・こいつら、実は事故で魔法世界に飛ばされたことがあってな。まあ、結局私が連れて帰ってきてやったが、今は沖縄に帰るためのバイト中で・・・」
アスナとあやかにだけ聞こえるように小声で話す龍宮だが、意外なところで木手の空想話の裏付けが取れたのだった。
((やっぱり、さっきの話は全部本当だったの!?))
知らないのは真田だけだった。
そして・・・
「ボールはもう一球あった。それにあの声は・・・」
真田がもう一球とんできたボールの方向を見る。
するとそこには、
「まあ、赤也くんはテニスがお上手ですわね。でも、ボールで人を傷つけてはいけませんわ」
「え〜っ、これぐらい勘弁してくださいよ。緊急事態だったじゃないっすか」
切原赤也と、切原の頭を撫でながらも注意する千鶴だった。
「赤也! 貴様、こんなところで何をしておるかー! 試合はどうしたー!」
「うおっ、真田副部長、これは色々ありまして・・・」
「ちょっ、千鶴さん、何で!?」
「そうですわ、今日は少し遅れて夏美さんと小太郎君と一緒に応援に来てくださると」
「ええ、夏美ちゃんと小太郎君は先に言ってますわ。私はただ、糖分が足りずにイライラしている赤也くんに試合前に甘いものをごちそうするだけですわ」
それは、実に妙な組み合わせだった。
まるでやんちゃな弟にかまいつくそうとしているお姉さんの図だった。
しかし、状況はそれだけでは収まらなかった。
「テメエら・・・ドタマかち割るぞ・・・」
それは、不運にも犯人が盗んだバッグが投げ出されて後頭部を強打した男だった。
顔面をテーブルに強打した際に顔からつっこんだのか、モンブランのクリームがべったりだった。
今になって不運な男性が居たことに気付いたアスナたち。
だが、その男を見た瞬間、ギョッとした。
(うわっ、・・・なにこの人・・・・超ヤンキーじゃん!?)
そう、男は一目で分るぐらいの不良だった。
全身白一色の制服に、逆立った白銀の頭に、鋭い眼。
だが、真田はその男を見て、目を見開いた。
「貴様は・・・」
「お、俺のモンブランをよくもやりやがったな!」
「貴様は、山吹中テニス部の亜久津仁!?」
そう、男の名は、亜久津。
怪物という異名とともに、その名を轟かせた、喧嘩では全国クラスの実力者。
アスナたちは驚いた。こんな不良が真田の知り合いだからか? いや、違う。
「ねえ、ゲンイチロー・・・・・・今、なんて言ったの?」
「私、耳がおかしくなっていたようですわ。真田さん、この方のご紹介をもう一度・・・」
「関東でも名門のテニス部、山吹中学の三年、亜久津だ。『怪物』と呼ばれた男。俺もこうして対面するのは初めてだが・・・」
やはり間違いなかった。アスナとあやかは卒倒しそうになった。
「こ、こいつもこんなのでテニス部なの!?」
「し、信じられませんわ!?」
そう、こんな凶暴で凶悪な容姿をした男が、実はテニス部などどうして信じることができるか。
一体、中学テニス界はどうなっているのか、アスナとあやかは頭が痛くなった。
「おい、カチ割るって言ってんだろ?」
「うおっ!?」
騒ぐアスナに容赦なくガン飛ばす亜久津。
これまで戦闘においては多くの修羅場を乗り越えてきたアスナだったが、亜久津の異常なまでの凶暴なガンに委縮してしまった。
「よさんか、亜久津仁。その女はなにもしておらん」
「・・・テメエは・・・確か立海の・・・そうだ、関東大会で青学の小僧に負けた野郎じゃねえか」
「それは、貴様も同じであろう。都大会で越前に負けてテニスはやめたそうだがな」
「けっ」
何だか一触即発の空気が流れた。二人から漂う雰囲気が重く、空間がギスギスしていた。
「申し訳ないですねー、今、代わりのゴーヤモンブランをお持ちしますよ」
「おお、あんたが亜久津さんっすか。・・・へ〜・・・なんか、潰し甲斐のありそうな人っすね」
「お前、誰に喧嘩売ってんの?」
「やめんか! 天下の往来でモメ事など、恥を知れ!」
そう、今ここに、実に殺伐とした組み合わせが完成した。
「あらあら、赤也くん、やんちゃは駄目ですわ」
「ほう、英四郎が魔法世界でも言っていたが、確かにテニスの世界も面白そうなやつらがいるな」
「アスナさん・・・真田さんが一番まともそうでよかったではないですの」
「ってか、テニス界ってこんな奴らしかいないの? 大丈夫?」
それぞれの思惑で目の前の男たちに率直な意見を口にする四人の少女たちだった。
だが、アスナたちは知らない。
テニス界にはこんな奴らばかりなのか?
その疑問の答えをすぐに知ることになる。
この光景を物陰から見ていた少年によって・・・
「たたたた、大変です。亜久津先輩が・・・なにを話しているか聞こえないですが、男性四人に女性四人で・・・だだだだーん! これは、河村さんに報告する必要があるです!」
この光景を見ていたのは、亜久津と同じ山吹中テニス部一年の、壇太一。
彼は急いで携帯電話を取り出して、勢い良くボタンをプッシュしだした。
一体誰に?
それは・・・
東京都・青春学園中等部テニス部。
古くからテニスの名門校と呼ばれ、今年の全国中学生大会団体戦を制覇した、現在日本最強のテニス部。
既に大きな大会を終えたために、三年生などは引退間近。
近々新しい世代にバトンを受け渡す時が来る。
そんな彼らが、レギュラー陣のみで一つの店に集まっていた。
そこは「かわむらすし」と書かれた寿司屋。
「では、みんな、今日の合同練習の打ち上げをさせてもらう」
店内は貸切。
だが、そこに居るのは、青春学園テニス部レギュラーだけではなかった。
「今日は非常に効果的で尚且つ有意義な練習だった。来年からまた、青学も氷帝学園も都大会から全国制覇を目指す、熱き日々が始まるだろう。だが、当然、上を目指すのは我らだけではない。昨年、全国に旋風を巻き起こした不動峰のように、未知の強豪が出てくるかもしれない。それは、高校でもこれからもテニスを続けていく三年生にも言えること。みんな、油断せずに―――」
「「「「「かんぱーーーーーーい!! おつかれしたー!!」」」」」
「―――行こッ・・・」
青春学園三年生テニス部部長・手塚国光。
打ち上げの乾杯前の挨拶で話をしていたが、どうも話が長かったのか、途中でいきなり部員たちが勝手に乾杯をしだした。
「・・・・・・・・・・・・・」
手塚は表情を変えないものの、微妙にショックを受けていた。
「あーん、手塚。お前の演説はダラダラと長いんだよ。上に立つものは口数なんざ少なくていいんだよ。行動で示してこそだ」
そんな手塚を冷やかすように、カウンター席で足を組んでからかう男。
氷帝学園三年テニス部部長・跡部景吾。
そう、今この店内には青春学園と氷帝学園。
関東でも全国でも対戦して死闘を繰り広げたライバル同士が、互を労いながら打ち上げをしていた。
「河村〜、俺様はこの味が気にいった。テメエが店を継いで味が落ちるなんてことはねえだろうな。あ〜ん?」
「青学、ズッリーよな! なんかあるたんびに、こんなウメーの食ってたなんてよ! こんなご褒美がありゃあ、俺のムーンサルトだって、もっとキレが良かったのによ」
「ほんまやで。跡部とおったら、洋食ばっかやからな〜・・・ほんで、ジロー、さっさと起きんかい」
「ん〜・・ZZZ〜・・・」
「おい、長太郎、もっと食っとけ! 来年の氷帝の優勝はお前の力にかかってるんだからよ!」
「はい、任せてください、宍戸さん!」
「おい、海堂。来年の都大会は覚悟しておけよ。跡部部長から部長を引き継いだ俺が、テメェら青学を叩きのめす」
「フシュー。上等だ、日吉。俺たちが連覇するからよ」
「おっ、マムシー、気合入ってるな〜」
「人ごとじゃないよん、桃! なっ、大石〜」
「エージの言うとおりだ、桃。越前がアメリカに行っている今、次世代の青学を支えるのはお前たち二人なんだからな」
「我々の抜けた穴は大きい。今の戦力で全国2連覇を達成する確率は・・・」
「乾、二人は確率だけでは測れないよ。それに、彼らなら大丈夫だよ。僕はそう信じているよ。君もだろ? 手塚」
「・・・無論だ・・・」
当然、両校はコートに立てばライバル関係であり、容赦なく相手を叩きのめすのである。
しかし、都大会、関東大会、そして全国大会や選抜なども含めて、既に互を知らない仲ではない彼らは、もはや戦友のような雰囲気を醸し出し、打ち上げも和気あいあいとして盛り上がりを見せた。
「榊先生今日はありがとうございました。おかげでいい練習になりました」
「いえ、我々の方こそ、大変良い刺激となりました。また、こうして合同練習を企画させてください」
青学監督の竜崎スミレと氷帝監督の榊太郎は彼らの若さを眺めながら、隅でチマチマと飲んでいた。
そんな打ち上げの中で、この後とんでもない展開になるなど誰も予想していなかった。
それは、突如鳴り響いた河村の携帯から始まった。
「あれ、誰だろう?」
ひとしきりの寿司を出し終えて一息つこうとしたところにタイミングよくかかってきたので、河村は不意に携帯に手を伸ばした。
すると、
「あれ? 山吹中の壇からのメールじゃないか」
「えっ、タカさん、山吹中の壇と連絡取り合ってるんすか?」
「ああ。ほら、亜久津のことでたまにな」
「へ〜。で、ちなみに亜久津さん、何かあったんすか?」
「えっ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・えっ?」
その時、河村は硬直した。
その反応に、店内の注目が河村に注がれる。
「タカさん、どうしたんすか?」
河村はどこか変な顔で硬直している。何かあったのか桃城が尋ねると・・・
「亜久津が女の子たちと合コンしてるって!?」
「「「「「・・・・・・・・・・・・・・」」」」」
どう反応していいのか分らず、全員寿司を持ったまま固まった。
あの、不良が合コン? しかし・・・
「別にええんやないか? むしろ、不良の亜久津が女といても、それほど違和感ないでえ?」
「確かに、ユーシの言うとおりだぜ。あの不良のことだ。頭悪そうなギャルとでも合コンしてるんじゃないか?」
亜久津なら、ワル仲間と一緒に薄暗い場所で女と居ても違和感無いように思えるが・・・
「それが、全員、すごい美人の女の子たちだって!」
「ほう、そいつは聞き捨てならねえな。あ〜ん? ちなみに、亜久津は誰と行ってるんだ? 山吹の千石あたりか?」
すごい美人という言葉に跡部も興味を持った。
そして、そんな美人を相手に、亜久津はどんなメンバーで赴いているのか・・・
「それが・・・亜久津と・・・比嘉中の木手に、立海の真田と切原だって・・・」
「「「「「「「「「「ぶほおおおおおおおおおおおおおおおおだhhdfぴおqwんf;qw!!??」」」」」」」」」
こればかりは、全員口から茶を吹き出した。
跡部も、そして、あの手塚ですら、むせてしまった。
「なな、なんだそのメンバーは!? 何で比嘉中の木手が居るんだよ!」
「つうか、切原に・・・・あの・・・真田が?」
「へ〜、ねえ、手塚。あの真田が合コンだって。どう思う?」
「・・・何とも言えんな・・・」
「しかし、その四人にどんな接点があったんや。切原と真田は同じ学校やけど・・・」
この場に居る者たちは、その四人の男たちを良く知っていた。
その四人がいかに意外な組み合わせか。それがどれほどのことか。
それは、真田、切原、亜久津、木手の四人の異名からも分ることだった。
「真田に切原に亜久津に木手・・・『皇帝』に『悪魔』に『怪物』に『殺し屋』って、どんな組み合わせで合コンやねん」
そう、テニス界でおよそテニス選手とは思えぬ異名で呼ばれる彼らが作り出すカルテットがどのような化学反応を起こすかなど、誰も想像できないし、むしろ想像したくもない。
もはや、相手の女の方が気の毒かもしれない。
だが、同時に気になる。
「これはいいデータが取れそうだ。河村よ、彼らはどこで合コンしているのだ?」
「えっと、麻帆良学園ってとこらしいけど、乾、知ってるか?」
「ほう、あの日本有数の学園都市か。確か、場所は埼玉県にあったようだが・・・」
中学テニス界で、柳蓮二と同じデータを信条とする乾貞治。
彼は、突如ノートを脇に抱えて、店から出ようとする。
「乾先輩!?」
「あの四人が合コンしている場面など、今後絶対に手に入らない貴重なデータ」
「まさか、今から行く気っすか!?」
当たり前だ。そんな態度で、乾のメガネが光った。
「えー、乾〜、行くの? 行っちゃうの!? ねー、大石〜、俺たちも行こうよ〜」
「なにを言ってるんだ、エージ。いくらなんでも、それは人のプライバシーの侵害だぞ。乾もやめろ」
「またまた〜、大石先輩も気になるでしょ? 行きましょうよ〜」
「桃城、バカかテメエは。んなもんに行ってる暇があったら練習しろ」
「あんだとマムシー、テメエは気になんねえのかよ!」
「フシュー」
「面白そうじゃないか。手塚、あの真田が合コンしているところなんてめったに見れないんじゃないかな?」
「不二、お前もそんな下らんことをする気か?」
乾が立ち上がった瞬間、真面目な手塚と大石を除いて、みんな行く気満々である。
「おいおい、ユーシ、俺たちも行ってみねえ? あの、真田の女の趣味が分るかもしんねえぞ?」
「せやなー、たしかにごっつ気になるわ」
「自分は興味ないっす」
「俺は・・・気になるかな」
「長太郎、岳人も忍足も、日吉を見習いな。激ダサだぜ」
「ふわ〜あ、ねみ〜」
氷帝メンバーも一部は乗り気ではないが、行きたがりなのも何名か出てきた。
「まったく、バカたれどもが。そう思わんかね、榊くん」
「いいのではないですか? 竜崎先生。彼らはまだ中学生。テニス漬けばかりで気ばかり張っても仕方ないでしょう」
そして、どうするのだ? 行くのか? 行かないのか?
全ての決定権は部長に・・・
「やめろお前たち。無粋だ」
却下を出す手塚に対して・・・
「樺地」
「うす」
跡部は指を鳴らして樺地に何かを指示する。
すると、樺地はどこかに電話を始め・・・・
「今、この近辺の道を封鎖した」
「「「「「は?」」」」」
突如変なことをドヤ顔で言いだす跡部。
すると、店の外からうるさいジェット音が聞こえてきた。
「ちょっ、何の音すかこれー!?」
「跡部、テメエなにをしやがった!」
一体何事かと皆が店の外へ飛び出すと、目の前には封鎖された道路に着陸している小型のジェット機があった。
これは一体・・・・
「行くぜ、野郎ども! 俺様が麻帆良へ一気に連れて行ってやるぜ」
「「「「「プライベートジェット機ッ!?」」」」」
青学と違って、こっちの部長は行く気満々だった。
「跡部!」
「手塚〜、お前は行かねえのか? 小学生とはいえ、彼女がいる奴は違うな、あ〜ん?」
「・・・・・・なんのことだ?」
「あ〜ん? お前、千歳の妹とデキてるって聞いたが?」
「今・・・・初めて聞いたが」
「くっくっく、まあいい。とにかく俺たちはいくぜ、テメエも来いよ」
「・・・やれやれだな」
手塚とは正反対に、むしろ自分から仕切りだす跡部に、手塚も呆れてものも言えない。
だが、部員だけで行かせるのも心配のため、結局同行することになった。
跡部は、腕を天まで伸ばし、指を鳴らして一言。
「俺様の空の旅に酔いな!」
「そら、飛行機酔いやろ、アカンやろ」
的確なツッコミも入ったことで、跡部は榊に振り返る。
「では、監督行ってきます」
すると、榊はクールな表情のまま、指をビシッと伸ばして一言。
「行ってよし!」
意外と話の分る榊監督だった。