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外伝 榛名の憂鬱
-榛名 艦橋
呉鎮守府を出港してどのくらい経っただろうか。出港してから延々とこの作戦について考えるが一向にまとまらない。
長野の奴が立案したとはいえ、天祐に縋るとはどういうことか。否、奴を持ってしてもこれが限界ということか。
台風と北上し、艦隊決戦に臨む。だがよしんばそう出来たとして何になるというのだ。この戦争の行く末はもう...
っと、弱気になっていかんな。指揮官が弱気になってどうする、なにか気を紛らわさねば。
「~~~~~♪」
歌でも口ずさんでみる、気が合うて離れられぬか...
確かに気は合ったが、奴の考えの半分も分からなかったな。
何時如何なる時も眼前の現実を見通し続けた男は今、何を見ているというのだ。
ふと意識を戻して見れば乗組員たちと目が合う。
静けさに猛々しさが入り混じった精強な顔つき。ここまで生き残ってきた男たち。
この部下たちを犬死させてはならんのだ。上の都合など言い訳にもならんのだ。
私の心が熱く燃え滾る。
「すまんが諸君、君たちの命を私にくれ」
そして脳裏に浮かぶのは、奴が私と格に言い放ったあの言葉。
私と長野、格は連合艦隊参謀長に呼び出された。どうも挺身部隊の腹が収まらんから説得してくれということらしい。
「司令部に籠るだけの連中が何を偉そうに!」
格が吠えている。
当たり前だ、やってどうなると言うんだ。大元帥陛下に動かせる艦はないのかと言われたのが、よほど尾を引いたと見える。
だがもうどうにもならんだろう...どうにか出来る時は過ぎたのだ。
「一億総特攻のさきがけになって頂きたい」
だが参謀長も一歩も引かない。国を亡ぼすつもりか?
正気とは思えないが、眼光の鋭さが増していくのは見て取れる。これだから上層部は嫌いなんだ。
「なら、連合艦隊司令部も出てくるのが筋だろう!」
格と参謀長が一歩も譲らずにいる。
だというのに私には何の感慨もないのだ、どうとでもなればいい。
そんなことを考えながら隣を見やると、一度も発言をしていなかったあの男がついに口を開き始めたのが分かった。
「説得は引き受ける、ただし作戦立案の一部は私の案でやって頂く」
何を言っているのだ、この男は?
「俺の死に場所が決まったようだ...」
格が唖然としている。
私はそうだな...
久しぶりに心に火が灯ったように感じている。
柳本大将に呼び出されていた金剛姉様が戻ってきました。ただなにか違和感が...
「提督ぅこの国は守る価値があるの...」
長野提督が零した言葉、姉様がよく繰り返す言葉。
いつもならこの国は提督のResultデス...守らなきゃ、そんなことを零しながら傷だらけの心で前を向くんですが...
「もう分からないデース...」
「姉様はいつもおっしゃってるじゃないですか、長野提督の残したものを守らなきゃって」
これは不味いです。表情が抜け落ちていきます...
姉様、榛名がいます。絶対に一人にしませんから、どうかその顔を曇らせないでくださいませんか。
「提督は永遠に水に浸かってまで、国のために...but!でもこの国は提督を否定するデース...why?」
今日は一段とひどく落ち込んでいます。近く、休暇を与えられるせいでしょうか。
何か話を変えないと...
「姉様?榛名は今日、F&Mの紅茶を」
「Don't Look Back in Anger...ヴァルハラの提督の御足元に」
「姉様!それ以上はいけません!」
海ゆかばをなぞらえて虚空を見つめる姉さま。
姉様はもう限界です。
艦長、いったい榛名はどうすればいいのですか...
長野提督、見ていらっしゃるのなら姉様を助けてください...
私たちは今この時も、あの南の空の夕焼け雲に囚われたままでいるのです。
海ゆかば 水漬く屍 大君の 辺にこそ死なめ かえりみはせじ