提督(笑)、頑張ります。 外伝   作:ピロシキィ

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ayasaklさんより寄稿いただきました。

ありがとうございます。



~愚直に、心のままに~

 

~愚直に、心のままに~

 

「ひいばあのお兄ちゃんって、どんな人だったの?」

 新緑の季節、心地の良い風を体で感じるために、縁側でお茶を飲んでいる時。

 今年10歳になった曾孫の百合恵が、唐突に聞いてきた。

「百合恵、突然どうしたんだい?」

「漫画でね、ひいばあのお兄ちゃんが出てたの。とってもかっこよかったんだけど、お兄ちゃんのこと良く知らないから」

 ……故人とはいえ、兄様を題材にするなど言語道断と思ってしまうこともあった。

 しかし、異性から見れば兄様に対して憧れの感情を抱いてしまうのは、理解できるので、よほど酷い解釈をされていない限りは、黙認している。

「そうさねえ、一言では言い表せないほどあるけど、本当に一言だけで言うなら」

 百合恵が私の言葉を聞き漏らさないように、少し身を寄せてくる。

「真っ直ぐな人……だよ」

 あの先の見えない時代の中で、一生懸命に戦った兄様の事を。

 これからの時代を生きていく百合恵に、兄様がまだ見ぬ未来に生まれる子供たちの為に戦ったということを少しでも覚えてほしいから、私は百合恵に語ろう。

 

 

 私と兄様は親子ほど歳の離れた兄弟だった。

 物心ついた時には、既に兄様は平凡だった実家の豆腐屋を、どんどん発展させて大企業を超える勢いで成長させていた。

 そして父様は経営に関しては兄様の提案をいつも無条件に受け入れるほどで、その実現の為に必死になって働いていたものさ。

 その時は父様より兄様のほうが偉いのか? と考えてしまったこともあったけど、父様は兄様の事を本当に誇りに思っていたよ。

 当時は食べ物さえ碌に手に入らなくて、生きるために娘を売らなければ死んでしまう家庭も多かった。

 そんな故郷を救うために、兄様は儲けた利益を惜しげもなく、故郷に投資していた。違うか、経済を活性化させるために儲けようとしていたというのが正解かね。

 貧困で苦しむのは、食べ物・お金・働く場所が無いからだ。

 そのために投資をして、働ける場所を増やすことが故郷を豊かにすることに繋がり、結果として人が優しくなれるんだ。

 父様も兄様の根っこにあるものを理解していたからこそ、その実現の為に奔走していたんだろうね。

 そんな兄様も常に様々な事を考えては、その実現のために寝る間も惜しんで動いていたけど、いかに兄様でも体は一つだからね。

 当時はいつ倒れるかわからないから、休めって父様に何度も言われていたよ。

 まあ、私にとってはその時が一番幸せな時間だったよ。何せ兄様が私だけをかまってくれる唯一の時間で、兄様と遊ぶのが何よりも楽しかった。

 それに兄様は普段から親しい人でも緊張させるほどの雰囲気があったけど、私と接するその間は雰囲気が和らいでいたから、子供心に特別扱いされている気分だったよ。

 でも、時が経つほど兄様の行動範囲はどんどん広がっていった。海外から生活に困窮している技術者を雇い、共感できる政治家と関わり、足並みを揃えてくれる企業と接する。

 今思えば、兄様は軍人なんて階級が低ければ、発言権も無く大局を動かすことも出来ないと若いころから理解していたからこそ、お金の力を正しい方向に使うことで、日本を動かそうとしていたのさ。

 そのおかげでどれだけの人が救われたか……。

 勿論、兄様の考えに賛同してくれた人達の力もあったからこそだけど。

 そうして……あの戦争が始まった。

 その頃の新聞は余りにも酷かった。

 都合のいい事ばかりを並べ立てて、痛い腹は常に隠していたのさ。まあ、時代といえば時代のせいさ。

 今と比べれば、個人の意志や命の重さなんて、日本の為なら命を捨てるのは当たり前というのが思想だったから……。

 でもね、心の奥底では家族が無事に帰ってきますように。兵士となった父様・兄様・弟・息子が五体満足で笑って帰ってきますようにと。

 そんな気持ちで家族は送り出していたんだ。

 だけど戦争が長引けば長引くほど、察するものさ。物資が減って配給制に、赤紙による徴兵・新聞の情報は抽象的に書かれていく。

 ただ、その中でも兄様が新聞に載った時はお祭り騒ぎだった。

 アメリカの軍艦を何隻も沈めて、策略を見抜き、味方を助けて、功績を重ねていく。

 その頃の兄様は日本の誉れとして、憧れどころか本当に拝まれていたよ。とはいっても兄様は自分の功績なんて、自慢するような人じゃなかったから、いつも通りにしていたよ。

 そんな中、休暇で帰ってきたときにはね。私にビーフシチューを食べさせてくれたことがあったんだ。

 その時の味はずっと覚えているよ。兄様が私に食べさせたくて、料亭で教わってまでして振舞ってくれたんだからね。

 男子厨房に入らずという言葉が当たり前の時代で、家事は女の仕事・男は外に出れば七人の敵がいるというのに、兄様にとっては男女のそういった垣根なんて関係なかったのさ。

 でも私にとっては兄様が私の事を想って、自分の大切な時間を使ってくれたことが嬉しかった。海軍少将だとか大企業を動かす人物とかじゃない、私の大事な大好きな兄様と一緒の時間を過ごせることが幸せだったんだ。

 それとね、兄様は感情を顔に出すことはなかったけど、本当は感情豊かで家族にしかわからない変化もあった。いつだったか父様と結託して私を嫁には行かせない協定を結んでいたって聞いたときは、笑うと同時に、心の底から愛してくれていたことが嬉しくて泣いてしまったよ。

 そして家族だからこそ兄様が数か月に一度帰ってくるたびに、憔悴していくのが悔しかった。

 兄様は日本を守るために、散っていった戦友たちの為に、ここにいる私たちを守るために、全身全霊を賭けて戦っていた。

 同時に誰よりも先を見ていたからこそ、巷で長野文書と呼ばれるものも書き上げていた。

 自分が亡くなった後も、日本の将来を案じて、日本に住む人達を少しでも救うために。

 あの戦後復興基金も戦災孤児基金も、兄様がいたからこそ出来たこと……。

 百合恵、今のお前には全部一度に理解しなくてもいい。兄様の人生は人間として誇らしく生きていけるということだけでも覚えておいてほしい。

 故郷を愛し、家族を愛し、隣人を愛し、国を愛し、お天道様に恥じることなく真っ直ぐに生きていく。それを兄様はどんな窮地に陥っても貫いて、生きてきたってことを。

 

 

 そう言って笑いながら、ひいばあが私の頭を優しく撫でてくれたことを思い出す。

 幼い頃、縁側で語ってくれた長野壱業さんのこと。

 久しぶりの休暇で実家に帰った私は、壱業さんが書き記した本などがある書斎に、少しでも現状を打開できる方法が無いかと思って入室した。

 あれから私は壱業さんに憧れ、海軍へ入隊する道を選んだのだ。

 そして同時に、真っ直ぐに生きていくことの難しさを学んだのだ。

 自分の利益・地位・欲望のためなら、人をどれだけ傷つけることさえも平気で行える人がいた。

儘ならない現状に疲れて、頑張ることをやめていった人たちもいた。

他人から見れば報われているのに、自ら不幸になる道を選んでしまう人もいた。

大人になって、独立して、海軍に入隊して現実を知ったからこそ、私は実感できた。

現実で生きていくためには、真っ直ぐに生きていくことは、簡単なはずなのに貫き通すことが難しいんだってことを。

 そして、そんな中で深海棲艦は現れた。

 当時は本当に日本中がどうすればいいのかわからない状況になる。時の政権は碌に動けず、深海棲艦と対話は通じず、兵器も殆ど通じない。

 しかし、時間が経てば経つほど被害は増大していくのに、当時の政権はまともな対応も出来なかったのだ。

 だからこそ海軍大将の柳本大将は決断して、深海棲艦に立ち向かった。それはまさしく壱業さんのように、日本を守るために独自の判断で海軍を動かした。

 例え、後に糾弾されると分かっていても、誰かの為に戦うという決断は間違っていないということを、私はその姿を見て実感することが出来たのだ。

 だけど、既存の兵器が殆ど効かず、一方的に敗北を重ねていく日本。諸外国も軒並み酷い状況で、情報共有も出来なくなってくる。

 海洋国家である日本としても、戦線維持も出来ない以上、満足な輸入も出来なくなってくると、本格的な国家存亡の危機が迫ってきていた。

 そんな時に艦娘達が現れて、深海棲艦を撃退し、国家存亡の危機は一時的に回避された。

 無論、日本だけでなく他国にも艦娘は現れたが、日本が一番多く顕現したのだ。

 そしてそれからは色々なことがあって、私は艦娘に認められて提督となる。

 陸奥・白露・村雨・春雨・五月雨。

 私を見ながら、時に壱業さんの事を思い出すこともあるようだが、皆好意的に接してくれる。但し、五十鈴さんに会うと、おどおどするみたいだけど。

 壱業さんと関わった船は、どうやら史実補正というのがあるようで、軒並み理論で語れない性能を誇る。

 しかし、あくまでも戦線維持が出来るだけで、海域を開放できるわけでもなく現状維持が精いっぱいの状況だった。

 なのに、そんな苦しい状況だというのに、人々の意志が纏まることは無い。

 後先考えずに実行できるならば、長野グループの力を使って、海軍を丸ごとひっくり返したいと思ったこともあった。

 でも、そんな事をしても本当の意味で解決への道になるとは思えないのも事実。

 幾つかのアイデアは思いつくのだが、実現性・将来性・確実性などを考えれば、行動に移すほどのアイデアでもない。

 こんな時、壱業さんならどんな方法を思いつくのだろう? 子供の頃から聞いてきた偉業や戦歴は思い返すたびに、憧れも抱くが同時に……人間? と思ってしまうこともあったが。

 実際、お祖父ちゃんもお父さんも壱業さんのことが話題になると、何とも言えない表情をしていたけど、尊敬はしていた。

 何が基準となっての考え方となったのか? どうやってアイデアを思いついたのか? 結論ありきでもそこに結び付く過程も見えない。情報をどうやって仕入れたのか? などなど、当時の資料をどれだけひっくり返しても誰一人として理解できなかったけど……。仮説は幾つもあるが、発表してきた研究者自身が納得していないようだが。

 付き合いの長かった同期の人達でさえ、あいつの頭の中は理解できなかったし、記録を見直しても思いつくことも出来なかったと言っていた。

 ただ、あいつがいたからこそ今の日本はあるんだ。と口を揃えていた。

 そして、今の日本の現状を壱業さんが見たらどう思うのだろうか?

 ただ只管に真っ直ぐに、全てを捧げて日本を守ってくれた人を、戦犯として死後の名誉さえも踏みにじったこの国を……。

 書斎の本を手に取れば、この人がどれほど日本に尽くしてきたかわかる。どれほど日本に住む人達を幸せにしてきたかわかる。

 どうすれば、これほどまで真っ直ぐに生きていき、故郷を愛することが出来るんだろう?

 その気持ちを知りたくて、私は曾祖伯父が書いた本を、また読んでみることにした。

 




ありがてぇありがてぇ

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