提督(笑)、頑張ります。 外伝   作:ピロシキィ

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ayasakiさんから寄稿いただきました。

ありがとうございます。



~この人だからこそ~ 

~この人だからこそ~

 

 

「お腹いっぱいに飯を食べられることが、どれだけ幸せになれるか知っているか?」

 子供の頃、いつもお腹を空かせて、腹の虫が鳴り続けていたことを思い出す。

 でも、いつのころからか父が毎日笑顔になりながら、働きに行きだし、そして毎食一汁三菜となり、家族全員の顔が前向きになっていった。

 今思えばそれが長野司令のおかげだって気づいたのは、軍人になってからだった。

 そして、そこから偶然長野司令の指揮下の船員になったことが、俺にとって恩返しの始まりだった。

 いや、指揮下に入れたことも、恩を受けているも同然だった。

 違う者も言い方は違えども、その想いは同じ。

「長野司令の下で戦うことこそ、おいの本懐よ!」

 その言葉に現場で戦う将兵は、誰もが肯定する。

 長野司令の背中はいつも語っていた。この国を守る、国民を守る事こそ軍人の務め。

 どこまでも真っ直ぐに戦い、勝利を手に入れる。

 男として、人間として憧れを抱かずにはいられない。そんな人の一助になれれば嬉しいと、自分の命さえも躊躇なく捧げられる。

 この人ならば、このどうしようもない状況となった日本を救ってくれるんだと。

 だからこそ、この場に俺達はたどり着けたのだ。

 尋常でない台風の中を航行し、沖縄へ辿り着くことが出来て、特攻先である沖縄の制海権を奪ったアメリカ海軍の元へ。

 

 

 そしてアメリカ海軍を発見し、攻撃を開始する時。長野司令は演説する。

『全将兵達に告ぐ。

 この一戦こそがこの国の未来を決める。

 この一戦こそが我ら大日本帝国の誇り。

 この戦争を終わらせるために、我等は此処へ来た。

 たった一つだけの命を懸けてでも、守りたいものを守るために我が艦隊は嵐の中を航行した。

 私の傲慢ともいえる策に、命を懸けてくれる皆に感謝する。

 そのおかげでここにたどり着けた。

 既に体力の限界になっているものもいよう。既に気を失いそうなものもいよう。

 だが、私はそんな状況でも私は言わせてもらおう。

 腹に力を籠めろ! 歯を食いしばれ! 己が気炎を放て!

 これより沖縄を、同郷の人間を救いにいく』

 聞こえてくる長野司令の声。

 聞こえてくる声が、自分の口の中にある胃液の酸っぱさを忘れていく。

 周りの戦友達の中には、自分の頬を殴って気合を入れなおしている。

 他にも壁に拳をぶつけて、活を入れなおすもの。

 長野司令の言葉でなければ、誰もここまでにはならない。

 長野司令がいるからこそ、この特攻に俺達は付いてきた!

『我が艦隊は一億特攻の先駆けなれど、この一戦にて決着をつけんとす。勝利せよ!』

【おおおおおおおおおおお!!!】

 全軍が雄たけびを上げる。

 この海戦が歴史に刻まれると確信した。

ならば後世の、世界中の人間に見せてやる。大和魂を!

『主砲、撃て!』

 

 

 深夜の奇襲によっての大戦果。

 空母を・戦艦を・巡洋艦を・駆逐艦を数十隻と撃破した。

 しかし、それでもアメリカ海軍の軍艦は、わが軍の倍以上。

 そして夜が明けたことで、アメリカ海軍が組織だった艦隊運用を行って反撃を繰り広げる。しかし、俺達は歓喜の声をあげる。

 何故なら、もう時代遅れとなりながらも憧れた艦隊決戦をしているからだ。

 航空機が戦場を飛び回ることで、戦艦は最早時代に取り残されていく中で、大日本帝国海軍の誇りとなっていた艦隊決戦なのだ。

 砲雷撃でこそ、この戦いを決める最大の攻撃を、俺達は触れているのだ!

 そして何発か数えるのも馬鹿らしいほどに、幾度も放たれた徹甲弾が、またもや敵艦に着弾する。

 その一撃は敵巡洋艦にとって致命的で、火災を発生させながら沈んでいく。

「敵巡洋艦撃沈!」

発射した主砲の再装填を急ぎながら、誰かが叫ぶその戦果に心が震える。

「ぐずぐずするな! 長野司令が思う時にすぐに主砲を発射できるように急げ!」

 そうだ、例え長野司令が主砲を発射したくても、俺達が装填完了させていなければ、敵艦を撃沈する機会が失われてしまう。

 なればこそ、一秒でも速く再装填を急がなければならない。

「了解であります!」

 だが、この大嵐の中を航行してきての大海戦。

その上でとてつもなく重い主砲の弾を装填するには時間が掛かってしまう。

 それでも誰もが必死になって戦っている。

 この一戦がまさしく日本を救う海戦と理解している。この一戦こそ長野司令の一世一代の最大の戦だと。

「第四主砲発射準備完了!」

 その言葉と共に、再装填するための徹甲弾を取りに行く兵士達がいる。同時に数秒後に装填された徹甲弾が発射された後、敵巡洋艦への命中が伝えられる。

 また歓喜に沸きそうになるその時、

「総員衝撃に備えろ!」

 その瞬間、発射音と衝撃に備えるべく、戦友達が構える。

 そして次の瞬間、金剛にとてつもない衝撃がひた走る。

 同時に、俺も含めて幾人かの兵士が壁に叩き付けられた。

 血を流しながらも意識があるものもいる。だが意識をそちらに割くわけにはいかない、俺の仕事は主砲の再装填という重要な役割だ。

 例え、この身がどうなろうとも自分の意思で体が動く限り、この役割を譲る気は無い。

「状況を報告せよ! 主砲は撃てるのか!?」

 砲台長である上官が、壁に叩き付けられたせいで頭から血を流している。しかし、役割を果たすべく声を張り上げて確認を促す。

 だが第四主砲を見上げれば、

「第四砲塔が歪みによって発射不能! 装填兵員が意識不明!」

「第四砲塔発射不能! 繰り返す! 第四砲塔発射不能」

「くそお! アメ公があ!」

「嘆いている場合か! 負傷兵は連れていけ! 他人員は他の無事な主砲に行け! 急げ! この程度で長野司令の命令を遅らせるな!」

『っは!』

 だが、深夜の頃よりましになったとはいえ未だ嵐は収まりきっていない、尚且つ戦闘中であるため、下半身に力を入れておかねば、容易に転んでしまう現状。

 どれだけ急ぎたくても、そう簡単には移動することが難しい。

「榛名! 着弾により速度低下!」

 移動する間にも、船員全員に伝わるほどの声が響き渡る。

 そして、

「榛名、轟沈!」

 これで金剛・夕立だけになってしまった。

 そして第二主砲まで到着するも、榛名が轟沈したことにより、本格的に敵戦力の目標が金剛・夕立に集中する。

 だが、あの長野司令旗下で戦ってきた自分達の戦意が落ちることはない。

 幾度となく、味方を逃がすために殿を務めて、帰還を果たしてきた長野司令が此処にいる。

 幾度となく、ひっくり返すことが出来ないと思われた海戦で勝利を得た長野司令が此処にいる。

 その背中に憧れて、片道切符の特攻と分かっているのに、自分たちは志願して付いてきたのだ。

「時雨・時津風が見えます!」

 その報告に盛り上がりそうになるが、

『北進し、大和を援護せよ』

 長野司令が伝える内容に驚く。だが同時に納得もする。榛名も大淀も長波も浦風も沈んでしまった。

 だが、敵艦は未だ十数隻が健在であり、この敵艦が大和に向かえば、大和が沖縄にたどり着けなくなってしまう。

 それだけは断じて許す訳にはいかない。その為に自分達はここにいるのだから。

『時雨・時津風の離脱を援護する』

 長野司令の言葉が全船員に伝えられる。

その声はそこまで大きいわけではない。

その声はそこまで響き渡るわけではない。

だが、

たったそれだけで自分達の意志は一つになる。

たったそれだけで、長野司令旗下の戦意は向上する。

その言葉を信じて来たからこそ、自分達はここにいるのだから。

「敵艦、戦線離脱しようとする時雨・時津風に接近!」

「第二主砲発射準備! 総員掴まれ!」

 その言葉の通りにしようとするが、捕まるものが無い自分は、地べたに這いつくばるようにした。

 そして、

『主砲発射の反動を利用して、敵進路を防ぐ』

 無茶苦茶に聞こえる長野司令の指示に対して、旗下の人間は戸惑うことは無い。

 疑うことも、迷うことなく、即座に行動を行い、長野司令の指示を完璧に遂行する。

「撃て」

 その言葉の直後に、反動で金剛は強引な進路妨害をする。

 自分が敵巡洋艦の立場であれば、目をむくほど驚くだろう。

 だが、そんなことを考える暇があれば、次の徹甲弾を装填しなければならない。

 これだけの戦果を挙げても、敵には戦艦も巡洋艦も駆逐艦も戦闘可能な敵戦が倍では足りないほどいるのだから。

 歯がゆい気持ちでいっぱいになる。

 徹甲弾の装填くらいしか役に立ててない自分に。もっと早く装填することが出来ない自分に。

「っぐ!」

 またもや金剛に被弾する。

 残っている夕立が必死になって、金剛の盾となってくれている。

 それでも、多数の敵艦の攻撃を全て受けきれるわけではない。長野司令の指揮でさえ被弾は避けきれず、金剛は既に小破どころか中破に近い。

 夕立など、既に大破の状況でありながらも、反撃することで敵艦を引き付けてくれる。

 本来ならば戦線離脱するべきであろう。

 浦風・長波・大淀・榛名も夜明けとともに離脱すれば沈むことは無かったであろう。実際長野司令は離脱命令を何度も行った。

 しかし、そんな命令など誰が従う?

 長野司令と共にいることこそ至上。そんな貴方を見捨てるような命令など従えるわけがない。

 長野司令の一助となって死ねるなら本望だ。

 既に自分の周囲は戦死した戦友が何人もいる。自分も流血しているが、たかがその程度。

 長野司令が諦めない限り、意識があるなら、体が動くなら、戦い続ける。

「夕立! 轟沈!」

 これで金剛だけになってしまった。

 そして本格的に金剛に集中攻撃をされて、更に被弾が増えていく。

「舐めんなアメ公! この程度でおいが、おい達の戦意が衰えるわけがなか!」

「そんとおり。まだまだこれからじゃ。首だけになってもアメ公に噛みついたらあ!」

「ほおじゃほおじゃ。わしらがこの程度で殺されるわけがあるかい!」

 疲労困憊で、血まみれになりながらも皆が気炎を吐く。

 ならば、

「足らんわ! まだまだ徹甲弾はあるぞ! 主砲も撃てる! もっと長野司令に戦果をあげてもらうために働くぞ!」

【応!】

 そしてまさしく孤軍奮闘になったというのに、最早ぼろぼろの金剛であるのに、その機能に陰りは見えない。

 まるで金剛自身が気炎を吐いているかのように。

 そうして更に何時間戦っていただろう?

 長野司令の指揮でなければ、とうに轟沈させられていたとしか言いようが無いほどの集中砲火でありながら、敵艦に的確な攻撃を与えていた。

 だが、多勢に無勢。

 これ以上耐えきれないのは目に見えていたその時、

「駆逐艦五隻! 味方です!」

『……あいつら!』

 報告したものは喜んだのだろう。

 だが長野司令は違う。何故死にに来たのだと。

 しかし、それは違う。

 長野司令だからこそ。長野司令がそこで戦っているからこそ。ここに来たんだ。

「時津風轟沈!」

「時雨、敵軽巡洋艦と共に轟沈!」

 援軍に来てくれた駆逐艦二隻はまさしく特攻だった。

 強引に突破しての命中と体当たりによる玉砕。

 そして、他の三隻も同様に特攻をするであろうことは目に見えていた。

『……これ以上時間はかけられない。決着をつける』

 それを一番実感しているのは長野司令。

 だからこその言葉であったんだろう。

 しかし、味方が来たおかげで敵の狙いは分散している。

 そのおかげで金剛は敵艦ニュージャージーに狙いを付けて、反航戦をしようとしたその時、

『錨を下ろせ』

【錨?】

 この状況で船を停める? 長野司令の命令に疑問を持つ必要は無いのに、意味が分からなかった。だが長野司令が言ったのなら従うのが俺達だ。

「了解であります。錨下ろせ!」

 訳が分からない。この状況で錨を下ろしてどうするのだと思ったが、その瞬間

『総員備え! 一番、三番発射準備!』

 船体が大きく揺れる。

 その瞬間に理解した。長野司令は錨を使って、まるで振り子のように金剛を強引に方向転換させたのだ。

『一番、三番撃て!』

 それにより金剛をニュージャージーの前に移動させて、主砲を撃つという考えられないようなやり方で、敵戦艦を撃沈させる。

「お、お、おおおおおお!」

 理解が追い付いた他の船員も、その無茶苦茶でありながらも戦果を叩き出したことに震える。

 そして、

「敵軍、撤退に入りました!

【おっしゃああああああああ!】

『追撃戦に移行する』

 勝利だ。しかし長野司令はそれでも冷静に次の命令を告げた。

「ううう」

 既に歓喜で泣いている戦友がいるが、その気持ちはとても理解できる。

 そして追撃戦で駆逐艦三隻を討ち取り、敵戦艦アイオワを損傷させた時、それは起こった。

 最後の反撃とばかりに放たれたアイオワの攻撃が、金剛に命中。その衝撃はぎりぎりで耐えきっていた金剛の全ての場所にまで響き、そこら中で崩壊を起こす。

 それこそが金剛の戦船としての命を絶つ一撃だった。

『……総員退艦だ』

 長野司令の金剛における最後の命令。

 既にそこら中が崩壊しかけている船内の中。鉄骨が当たって戦死した戦友達もそれまでの戦闘で死んでいった戦友達もいた。気持ちだけでいえば戦友達の遺品を持ち帰りたい。

 だが最早一刻の猶予も無く、生存者は最後の力を振り絞って、甲板への道を急ぐ。

 そこからは急いで金剛から脱出し、味方からの救助を待つ。

 だが、

「長野司令は? 長野司令はどこですか!?」

 その中に長野司令はおられなかった。

 代わりにいつも長野司令が持たれていた刀を、詠主計が持っているのを見て、俺達は察した。

「……司令は金剛と共に逝かれた」

「な、何故ですか!」

「最後のアイオワからの一撃により、一部の鉄骨が司令の腹部を貫通したのだ。

 それにより司令は自分が助からないということが分かってしまった。そして私にこの刀とお守りを託して……」

「う、嘘だと言ってください! 俺達が生き残ったのに何故長野司令が!」

「このような事を、嘘だと言えると思うか!?」

 信じたくない。長野司令が死んだなど。

「う、うあああああ!」

 生き残った皆が慟哭の声で染まる。

 沖縄を救えた。敵に勝利した。この戦はこの国の誇りとなれた。

 だが一番生き残ってほしかった人が逝ってしまった。

 その事実が全てを押しつぶす。

長野司令がいたからこそ俺達は戦えたのだから……。 

 

 


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