提督(笑)、頑張ります。 外伝   作:ピロシキィ

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嘘みたいだろ、マグロと戦ってんだぜ? この男…。


提督(笑)VSビッグアイ・ツナ

 

 

そこは何処までも広がる闇を彷彿させる。

 

天から差す一筋の光が辛うじて、男の視界を保っていた。

 

息を潜め、一瞬であろう好機の瞬間を待つ。

 

男は軍人である。

ただ今回は分の悪い戦いである。そんな事は百も承知だ。

相手は生まれてから今まで、この過酷な環境を生き抜いてきた猛者。

対する男は常にこの環境に身を置くことに制限時間という枷がかけられる。

 

男は種族の中なら間違いなく強者に分類される。

ここが陸上であるのならば、男の勝利は揺るがないだろう。

 

だが、この環境、地球を青い星と言わしめる所以である海。その中である海中。

 

圧倒的なアドバンテージは相手側にある。

 

相手の名はメバチマグロ、英名ビッグアイ・ツナ。

赤道から南北に緯度35度程度までの海域に多く生息する回遊魚。

名前の通り、大きな目が特徴でマグロ種の中では中型でずんぐりとしている。

日本では食卓に並ぶ機会も多いマグロだ。

日中は深い海域にいるが、夜になると浅いところまで上って来る。

陸上生物である男が海中で唯一勝負できる時間帯なのだ。

 

そうして訪れる邂逅の瞬間。

 

闇を切り裂くように現れるメバチマグロの群れ。

 

反則染みた 魚群探知機(ミック先生 )をもってして、群れの真下につける事に成功。

 

 

男は一瞬で判断した。2m超えは無理。でかい、怖い、速い。と。

 

そして狙いを群れの後方1メートルを超えるくらいのものに切り替えた。

 

男は浮上し、狙いを定めたマグロの真正面に。

 

「ぼっぼぼぼここここぼぼっ!ぼおおおお!(牙突零式! アァーー!)」

 

手に持っていた先端を削っただけの棒切れをマグロの口へと突き入れる…っ!

 

が、掠めるだけであった。

 

高速で吶喊するマグロの衝撃で男の手から棒切れは離れ、深い深い海底へと沈んでいく、

 

男とマグロの視線が暗い海の中で交わる。

 

お互いにギラギラとした光を灯していた。

 

「残念だったな人間」

 

マグロにそう言われている様な気がした。

 

男は闘志を爆発させる。

 

海面から延びるロープを掴み、尾びれに巻き付けた。

 

正に執念の生んだ早業。もう一度同じことをやれと言われても難しいだろう。

だが、男はそれをこの土壇場で成した。

 

暴れ回るマグロ。

 

しかしロープごと引き摺る事は不可能だ。

何故ならば、それを持つのは最大8000馬力を発揮する艦娘である。

男が巻き付けた尾ひれの部分をどうにかするしか生き残る術はない。

 

弱肉強食の過酷な環境、故に最期のその瞬間まで生き抜く為にマグロは力を振り絞り尾ひれを振り回して抵抗する。

 

男も朝餉の献立にすべく、逃がすまいと力を振り絞る。

 

力と力のぶつかり合い。

 

生と死をかけた壮絶な戦いである。

 

拮抗が崩れた。一瞬だが尾ひれに巻かれたロープの力が緩んだ。

 

そうマグロは感じとったのかもしれない。

 

だが、それは男が最後の勝負に出た故のロープの緩みだった。

 

男はマグロに組み付いたのだ、抱き着くように胴体を締め上げ掴み、エラの部分と口を手で強引に閉ざしてきた。

 

魚というのはエラ呼吸である。

通常、エラを開閉させて酸素を含む水を出し入れして呼吸する。

しかしマグロのエラは開きっぱなしだ。そのために常に前進し、口を開けたまま泳ぎ続ける。

止まれば窒息してしまうのだ。泳ぎ続けねば死ぬ、そういう生き物なのだ。

 

男によって、強引に口を閉ざされ、エラも閉ざされた。

人間でいうなら鼻と口を押えられたという事。

 

つまり。そういう事だ。

 

しかし、男も限界は近い。

 

男は人間、肺呼吸である。魚の様に酸素を含む水から呼吸できるわけではない。

息を止めているのだ、それにも限度がある。

 

お互い死力を尽くす。

 

 

 

 

どれくらいの時間が経ったか…。

 

 

 

 

 

光差す海面へと浮上する影。

 

浮上した影は男で、その男の手には物言わぬマグロの姿があった。

 

 





本編42話でカットした部分。

書き終わって、なんだこれ? ってなったんだ。

本編の方の感想で皆さん、マグロついて言及するもんだから載せておきますね。

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