――君は自分のことを≪人生の主人公≫だと思った事があるか。
この物語は、原作と呼ばれる物語が通り過ぎた地球の話。
主人公がいないこの場所で、新しい主人公が定められた、そんな話。

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転生青年Operations EX-AID

君は自分のことを≪人生の主人公≫だと思った事があるか

 

俺はずっと自分のことを、誰かを引き立てるための脇役だと思っていた

 

市内の私立大学付属病院院長の一人息子で、若いころは神童と讃えられ、ネットの世界では天才ゲーマーと評されたこともあることもあるこの俺――(かがみ)夢羽(ゆめは)

 

明らかな人生の勝ち組でありながらも、俺は自分のことを人生の中心だって思ったことが無かった

 

それはなぜか――だって、こういう立ち位置のキャラクターって大体脇役だしやられやくだし咬ませじゃん

 

あんまり見た眼がさえないとか言われるような奴が主人公として、こういうタイプの奴を負かしていくか、より強大な敵の凄さを見せつけるためだけの踏み台

 

俺は負かされる方、脇役だった――そう、信じていた

 

――――そう、あの日までは

 

 

 

海沿いの爽やかな潮風が吹き抜ける町、海鳴。

陽気な春の日差しに反して、剣呑且つあわただしい雰囲気が俺のいるこの場を支配していた。

 

「救急車が足りない! 近隣の市から救急車をありったけ借りろ!」

「手が空いてるやつは手伝え! 一か所に倒れた人たちを集めろ!」

「各教室の被害状況はどうなっている!」

「ねぇ! 起きて! しっかりして!」

 

――どうなってるんだ

俺の頭は目の前の光景を頭で飲み込むことを拒んでいるが、目の前で起きているのは事実なんだ

 

「おい!もう病室の空きがないらしいぞ!」

「近隣の病院も空いてる病室はそんなにないぞ」

「どうしたらいいんだよ! 大学の方にこのままってわけにはいかないだろ!」

 

目の前に広がるのは、俺が通っている聖祥大学の巨大な校舎。

そして――

 

「おい、鏡! ボサッとしてないでお前も運ぶの手伝え!」

「――あっ、ええ、わかりました!」

 

――――原因不明で倒れ伏す、教授や生徒たち。

皆、よく見ると何かに苦しむようにうなされている。

その倒れ伏す人たちの中に、よく知った顔を見つけた。

 

「――ッ、月村さん……バニングスさんまでも……?」

 

月村すずか、アリサ・バニングス。

聖祥大学の二大マドンナとして入学当初から――いや、聖祥大学付属の高校、中学、小学校から人気だった女性達。

なぜこの原因不明の状態に彼女たちまで――

 

「いったい、なにがどうなって……」

 

フラフラと、気づけば彼女たちのそばに座り込み、バニングスさんの肩に自身の右手を触れさせた――

 

 

『――アナタは選ばれたの』

『選ばれたって、そんな馬鹿な、死ぬことが選ばれるってことなら、そんな選択はご免被りたいものだよ』

『ええ、普通ならそうね。でもアナタはここにいる、新たな生を授かる選ばれた者』

『……新たな生?』

『そう、アナタは、新たな世界で新たな生を授かる――アナタが中心となる物語を紡ぐために』

 

 

「――ッ!?」

 

なんだ今の……真っ白で、光がすっげーまぶしくて……

変な声が、≪俺≫のことを話してた……

 

「ぅぅ……」

「ッ!? バニングスさん、大丈夫!?」

「――キサマガ、修正者カ!」

「っわ!?」

「鏡君!? バニングスさん何してるの!」

 

バニングスさんは突如立ち上がり、俺の喉元を締め上げる。

華奢ながらも友達をアイアンクローで沈めていたバニングスさんだが、この締め上げる力は……絶対おかしい。

なんだ、この、目。

バニングスさんのこの目は、なんか……おどろおどろしい!

 

「我々ガ集メラレタ、ソウイウコトカ――ウォァァアアア!」

「なっ! なんだあれ!? バニングスさんが……」

「逃げろっ! 化け物だぁ!」

「キャァァアア!」

 

ぶん投げられた。

耳の遠くとかでなんか聞こえる……

バニングスさんはどうしたんだろう……なんで変な目をしてるんだろう……

――ああ、月村さん、起きて……そこで寝てたら危ないよ……

 

 

『――でもね、転生させてすぐ記憶を解放してしまったら、悲しいことになるからしばらく封印しておくわね』

『その心は?』

『これからアナタを転生させるのは、既に運命に定められた主人公がいる世界。その主人公の物語が、アナタと交わらない位置にまで動いてから、アナタの記憶はようやく解放される』

『……つまり?』

『アナタはその主人公が物語を紡いでいる間は一切中心になることが無い。中心になれなかったことを「約束を破った」と暴れられて、それで死なれたら私が困るの。だから、アナタが必ず主人公となれる時まで、アナタがアナタであった記憶は封じるわ』

『……そうまでして、なんで俺を主人公にしたがるんだ?』

『アナタが戦うのは、私たちが創り出してしまった世界のバグそのもの。要するに、世界と戦うのだから、主人公くらいじゃなきゃ喧嘩は売れないでしょう? アナタたちの言葉でいうと、「鉄則」かしら』

『……随分と俗っぽいことをいうもんだな、女神とやらも』

『あら、私たちに「こうであれ」って望んだのはアナタたち人間でしょう? 私たちの在り方は、アナタたちの想い一つでいくらでも変質するの。だって私たちはアナタたちの信仰がなきゃ存在できないし――あら、話し込みすぎちゃったわね。そろそろ送ってあげなくちゃアナタの存在が溶けちゃうわ』

『……分かった、よくわからないけど、俺はめんどくさいことに巻き込まれたんだな?』

『ノーコメントよ。でもこれだけは神の私が祈ってあげる――よい人生を。時が来たら、アナタを目覚めさせるわ。私たちの使い、修正者さん』

 

 

目を開けると、そこは見慣れた聖祥大学の敷地内。

なぜか俺は立っていて――目の前には異様にうねうねとした巨大なバケモン。

おそらくこれが――あの時の神とやらのいう≪世界のバグ≫なのだろう。

 

「……急に思い出すと少しばかり頭がイテェな……」

 

しかし、おかげで全部理解できた。

俺が神童って言われていた理由も、やけに金持ってた癖にゲームばっか買ってたことも、なんで月村とバニングスの二人にはいつも目を奪われていたのかも。

俺が俗にいう≪転生者≫だったからだ。

元庶民、現医者の卵の俺は強くてニューゲーム。ただし転生したという事実はロックしてた。

だから俺は勝ち組だった、必ず主役として登場できるように、どこで問題が起きてもどこにでも行けるような家に生まれた。

 

「思い出せたってことは――主役として戦う時が今ってことだろ……だがどうやって戦うんだ?」

 

――そう、結局色々と分かったところでこれが問題だ。

世界のバグと戦うって言ってもどうやって、何を使って、どんな方法で?

しまった、そこらへん何も聞いてなかった!

 

「修正者、倒ス、倒ス!」

「うわわわわ、やべぇちょっと撤退しなきゃ!」

 

走ってデカブツから俺は逃走を始める。

大学敷地内の人影が見えない場所をぐるぐると逃げ回る。

逃げながら対策を考えてみるが、結局考えられるのは物理的な解決策。

しかし、そのための道具がないのだから話にならない!

 

「ちっくしょう、大体わかったで済ませなきゃよかったぁ!」

 

叫びながら、建物の陰に飛び込み、息を整える。

――ふと思い出した。

前に、よくわからないカセットを買ったことを。

そのカセットはなぜだかわからないが、ハードが存在せず、いじっても何も反応がなかったもの。

捨てようと思ったものの、絵柄に飛行機があったからなのか結局捨てきれず、自室の机の引き出しに入れっぱなしだったくせに、今日に限って持ってきていた謎のゲームカセットを、俺は内側のポケットから取り出す。

 

「このタイミングで思い出すってことは――これがそのアイテムってことか?」

 

確証はない。

だけど、確信はあった。

息を吸って、ゆっくりと吐き、カセットについているボタンを押す。

 

<GAME START!!>

 

「うぉっ!? なんだなんだ――ベルト? うわ、外れねぇ!」

 

どこか聞きなれた音声とともに緑色ベースのちょっとごてごてした厚いバックルのベルトが腰に巻きつく。

外れない不良品、このベルトを用意したのはおそらくその神とやら。

なるほど、これがそのゲームカセットを挿入するハードっていうわけか。

よし、これで手段はわかった。目的もハッキリしている――なら、あとはやるだけ。

 

「……大丈夫、主人公なら、何とかできる」

 

脳裏に浮かぶのは倒れ伏す学友たちや、バニングス達。

彼女たちを救えるのは俺だけなら――やってやる。

 

「おいデカブツ! 待たせたな、相手してやるよ、ゲームでだがな!」

「――修正者、発見。排除スル」

 

啖呵に反応してこっちを向くバケモン。

正直怖い、目がどこにあるかわかんない見た目してて怖い。

でも――バニングスは今もアイツに取り込まれてるから。

怖くたって、立ち向かわなきゃいけない!

 

<CAPTAIN FLIGHT!>

 

「キャプテンフライト……航空機を操縦するゲーム――」

 

スイッチを押して聞こえた音声とともに、脳内に流れてくるゲーム映像は、昔自分が触りなれた航空機の操縦席のもの。

明らかに場違いな戦闘機のようなエンジン音が聞こえたとき、目に映る舞台はさっきまでいた大学のものではなくなり、空港のようなものになっていた。

 

「――じゃあ、記念すべき初フライトだ。離陸から着陸まで、お付き合い願うぜ!」

 

カセットの透明部分を上から下に反転させ、中央寄りのバックル挿入部に差し込む。

 

<Gasshatte!>

 

グルグルと自分の周囲に、キャラクター選択をさせるような顔の表示が現れる。

俺その中から一つ、戦闘機パイロットのヘルメットのような見た眼をしたキャラを右手ではじくように選択する。

 

<Let's Game! Mettya Game! Muttya Game! What Your Name!? ―― I'm a Kamen Rider>

 

――なんか、俺の視線が変だ。

体を見る、なんかずんぐりむっくりしている。

うそ……俺の姿、等身変すぎ……?

 

「なぁにぃこれぇ……? 」

 

――実に変な見た目だ、鏡はどこかにないのか?

いや、後でもいいや、自分の姿を笑いものにするのはしばらく後でも問題ない。

まずは――あのデカブツをつぶして、バニングスを助け出さなければ。

 

「どうやって戦うかなんとなくわかるのも、主人公特典ってやつかい!」

 

デカブツの真横をすれ違うように通り抜けて、いつの間にか腕に引っ付いてた航空機の羽っぽい見た目の何かをぶつける。

実際の航空機でこんなことやったら死亡事故待ったなしだが、今はゲーム。被害にあうのはデカブツだけだ。

 

「あれは……」

 

ふと空を見上げると、なんか金色に輝くリングがある。

どうやらあれをくぐると強化アイテムが手に入るらしい。

レースゲームだとブーストかかったりしてくれる奴だ、ゲームを利用した戦いだっていうならそういうのがあっても確かにおかしくはない。

デカブツに背を向け、勢いよくジャンプする。

うまい具合にリングより高い位置にふわっと行けた。

下に落ちる前に、感覚に従って両腕を広げ、リングに向かって飛び込んでいく。

 

「よし、アイテムゲット!」

 

チャラリンという音とともに、黄色のメダルっぽい何かが俺の体に入り込む。

どうやらこれは一定時間自分のスピードを速めるものらしい。

 

「スピード制限超過はここだけだからな!」

 

飛ぶ姿勢を保ちながら、風を切る感覚でついでにデカブツの体に体当たりを数度かましていく。

――ええい! さっきから出てくる≪HIT!≫の表記が邪魔!

あんまりにも表記が邪魔なので、一発で勝負を決めたいと思い、フリーフォールのように空中までひっつかんでやろうと考えた。

しかし度重なる突撃によってスピードが落ちているので、一度奴の周囲から離脱。

こういうゲームはぶつかることなく飛び続けることでスピードが上がっていくのだ。

 

「――うっし、このスピードなら一発で上まで!」

「グゥォ!?」

 

デカブツをひっつかんだまま俺はゲームステージギリギリまで上昇。

――あとはギリギリまで地面に落下し、そのギリギリで地面から逃れるだけ!

 

「やってやる、やぁってやるぜぇッ! ウオォォォオァッ!」

 

決まった。

GREAT! の文字と共にデカブツを落とした場所で爆発が起こる。

上空上限ギリギリからの落下衝撃のダメージはバカにならない。

ヤツを離して急上昇する俺の体にも過度の重力がかかるのだ、相手も無事では済まないはずだ。

きっとこれで、バニングスは助かる。

 

「ガァァァァァ!」

「……うっそ、なんか姿変わってる……」

 

煙のなかから現れたのは、大砲のような見た目をしたバケモノ。

恐らくさっきのデカブツが進化をしたのだろう。

 

「撃ツ! 撃ツ! 撃ツァ!」

「ちょっ! これ対空砲かよ! うわっうわわっ!」

 

対空砲の爆風にやられ、地面に激突する。けっこう衝撃が強くて痛い。

だが、意識ははっきりしている。

まだ戦える。

 

「修正者、案外大シタコトガナイナ! 気ノセイダッタカ!!」

「うるっせぇ、今のは驚いただけだ、こちとらピンピンしてんぞ!」

 

バケモノに啖呵を切りつつ、周辺に目を向ける。

――いた、バニングスはステージの端位にいる。

勢いあまって彼女ごとバケモノを倒す心配はしなくてもよさそうだと確認し、少しホッとする。

――ならこっちも容赦なくやっちまってもいいわけだ。

 

「ナラバ、完膚無キマデニ叩キ潰シテヤルワ!!」

「……うわぁ、なんかワラワラ戦闘員みたいなのわいてきたぁ……」

 

どこかからか、戦闘員のような雑魚臭漂う軍勢がバケモノの周りに続々と現れる。

多勢に無勢というもので、今の時点で少し苦戦しそうなのだから、このままだとボコボコにされてしまうだろう。

だがなんとかなる、レベルをあげて物理で勝てば数などおそるるにたらず。

そのレベルのあげかたは…

 

「ここを、開くように、こう!」

 

バックルの真ん中、閉じた蓋のような場所を開くように右に動かす。

 

<LEVEL UP!>

 

ベルトから現れた四角形のよくわからない光が上に昇る。

あれをジャンプして潜れということか。

……なんか怖いが、ええい、ままよ!

 

<テェイクオフ! インザースカイ! キャープテェンフラァイッ!>

 

一瞬の異様な浮遊感のあと、地面に降り立った俺は自分の目線がいつもの高さになっていることに気づいた。

なるほど、こっちの姿は等身がいつも通りになるのか。

 

「よくわかんねぇけど、この姿ならお前を倒せる」

「ホザケ!」

 

こちらに走ってくる戦闘員擬きを一体、一体ずつ殴り飛ばす。

なんか武器が無いかなと思ったところ、ベルトから両腕の部分にさっきのずんぐり状態に見たものよりも鋭く、細い物が現れる。

これはいい、周囲の雑魚を倒すにはうってつけだ。

 

「そぉれっ!」

 

大量のHITエフェクトと共に戦闘員たちは爆散する。

腕の武器を取り外して、端同士を繋げる。

ブーメランのようなナニカになったそれを、見た目通りの使い方で敵の軍勢に向かってぶん投げる。

一斉に敵がエフェクトとともに爆発するのを視認し、すぐさま戻ってきたブーメラン的なものを空に投げる。

あれは俺が飛び上がって、背中にくっつくことでさっきよりも滑空の精度が伸びるものだっていうのはなんとなくわかった。

ならば使ってみよう、対空砲に落とされないような操縦をしろということならばそれなりに自信はある。

 

<ガシャコン・ウィング!>

 

「うぉあ! なんかこれマジンガーなんたらだ!」

 

超合金系のスーパーロボットみたいな感じで空を飛ぶ。

地面からはバカスカと爆撃音が聞こえるが、今の俺にはまるで輪ゴム鉄砲程度の衝撃しかない。

――超気持ちいい。

空をビュンビュンと飛んでいる感覚が気持ち良すぎて、一瞬何をしているか忘れそうになるところだった。

何度か空は飛んだけど、風が肌に当たる感覚は初めてで――

 

「――さて、そろそろきっちり片付けないとな!」

 

まっすぐ、急な速度を以って大砲のバケモノに突撃する。

突撃中、左手でカセットを左腰のあたりにあるホルダーのような見た眼をした場所に装填。

スイッチがあるので一度押す。

 

<キメワザ!>

 

キメワザということは、必殺技スイッチ。

しかしエネルギーが集まる感じがしない、もう一度押せというお達しのようだ。

 

<CAPTAIN CRITICAL FINISH!>

 

脚にエネルギーが集まる感覚がする。

つまりやるべきことは、この急降下の速度を保ったまま反転、そして蹴りを奴に食らわせること。

大変危険だ。速度が上がっている航空中に急な方向転換をすればどうなるか。

だが――

 

「――主人公なら――やれないわけがない!」

 

<会心の―― 一発!>

 

速度をほぼ保ったまま、見事視点を空に向けることに成功。

態勢を蹴りの形に変え、バケモノにぶつかると≪Perfect!≫のエフェクトと同時にエネルギーが――爆ぜた。

 

<GAME CLEAR!>

 

軽快な音声とともに、自身のいる場所が見慣れた大学の敷地へと戻る。

なるほど、さっきまで戦っていたのはこのカセットによって創り出された隔離空間のようなもの。

思う存分、暴れられるということだ。

 

「…………うぅ」

「――バニングスさん!」

 

バニングスの元へ駆け寄ったその時、自身の足元で軽い爆発が起こる。

左右に視線を向けると、右側の方に月村が立っていた。

いや、違う。あれは俺がよく知っている月村ではない。

 

「月村さん――だと思いたいけど、誰だ!」

「ほう、一目で見抜くか。やはり修正者は一味違うな。油断しているところを近寄って殺すつもりだったが……」

 

月村さんの姿がゆがむ――代わりに現れたのは、さっきまで戦っていたバケモノよりも人間のような――なんだか、俺の今の姿に少し似たような黒い人型。

なんだこの圧は……体が震えている……!?

 

「まぁいい、少しばかり調査といこう」

「なんだか意味わかんないけど、月村はどこだ!」

「ツキムラ……? 私が先ほどまで姿を借りた人間なら――そこらへんで倒れているのではないかな?」

 

心底どうでもよさそうにいう人型。

こいつはきっとバグの中ボスか大ボス系。

気を抜いたら、やられる。

 

「では、楽しませてくれ?」

「くっ……! ぐおっ、重ッ!?」

「へぇ、あの程度の仲間なら倒せても、俺とかには圧倒されちゃうんだぁ?」

 

腕を組み合った時にはっきりと分かった。

こいつは強い。こいつらとやりあうほどの力は俺に無いっていうのに……!

奴に簡単に投げ飛ばされる、アニメで人を投げ飛ばす描写とか他人事のように見ていたが……結構怖いぞこれも!

 

「君の力ってそんなものかい? それとも、さっきまでの戦いで疲れちゃった?」

「うるっせぇよ……まだぴんぴんしてるって言ってんだろ!」

 

売り言葉に買い言葉といわんばかりに言葉を返すが、実際のところはだいぶ厳しい。

胸あたりに表示されているゲージが半分を切った。これは俺のHPを示すものだ、つまりゼロになったらゲームオーバー……死だ。

どうすればこいつに勝てる? キメワザをバンバン撃つことはできない以上、撃てる時まで耐えなければならない、だが、耐えられるほど俺のHPが保つかどうか――

 

「――受け取りなさい!」

 

突如声とともに何かが俺に向かって投げられる。

投げつけられたのは――俺が使用しているCAPTAIN FLIGHTとはまた違ったカセット。

投げてきたのは――

 

「ッ!? これは……バニングス!?」

「アンタに渡せって……誰かに言われた気がしたの……負けんじゃないわよ! 男だったら気張りなさい!」

「へぇ……人間ってそういうことをする種族なのかぁ……面白いなぁ」

 

さっきまで倒れていたバニングス。

自分だってつらいだろうに、わざわざこれを渡すために立ち上がって、激励まで送ってくれて――

 

「悪いバニングス、少しばかりビビってたようだ――もう、恐れない」

「ハッ……その意気よ、ヒーローさん?」

「来なよヒーローさん、その道具使ってどこまでやりあえるか見ものだな!」

「俺がヒーローならさしずめお前はヴィランだな!」

 

人型を見据え、バニングスから受け取ったカセットのスイッチを押す。

 

<COSMO WARS!>

 

コスモウォーズ……宇宙を主な舞台にした戦略シミュレーションゲーム。

頭の中で広がる映像だけ見れば『これなんてスパロボ?』って言いたくなるものではあるが、一応違うゲームだと思う。

カセットをキャプテンフライトの隣の窪みに挿入。

一度開いた部分を閉じ、再び開いて――

 

<LEVEL UP!>

「レベル……アップ!」

 

四角形のエフェクトが二つ重なり、中から何かが出てくる――船のような形をしたものだ。

 

<A-Gattya! ドコモ・カシコモ・ユクモ・ユカヌモ・ウミモ・ダイチモ・コスモウォーズ!>

「うぉ!? ……うわ、ますますロボットみたいな見た眼になったな……」

 

音声とともに船はバラバラになり、パーツごとに自分の体に装着される。

どう見ても言い逃れのできないくらいスーパーロボットしているが、多分大丈夫だと思う。

 

「なに……今の音声?」

「おお、面白い姿をしているね! じゃあ、改めてその力見せてもらおう!」

「上等! 第二ラウンドはこうもいかねぇぞ!」

 

<ガシャコン・バズーガ!>

 

先ほどからキープしているガシャコン・ウィングに引き続き、バズーガ状の武器を召喚。

牽制として数発撃ち、即座に収納。

脚をもたつかせた敵に近づき、拳を叩き込む。

反動があまり来ない、体もさっきよりさらに軽く感じる!

 

「へぇ……パワーがさっきとはけた違いだ。どういう理屈なのかおしえてもらいたいものだけどねぇ」

「知るか! レベルを上げて物理で殴る、常識だろ!」

 

<キメワザ! COSMO CRITICAL FINISH!>

 

キメワザを発動させると同時に、無数の砲弾やらレーザーやらが敵の周囲へと降り注ぐ。

続いて、跳び蹴りの体制をとると、自身のアーマーとなっていた船が再び現れ、脚を先導するように敵へと向かう。

敵にぶつかった船ごと、敵を蹴り飛ばすと、≪Perfect≫の表示とともに爆発が起こる。

――決まった。だが、倒したわけではない。

 

「ぐうぅ……痛いなぁ……死ぬところだったよ……」

「うそ……あいつまだ……」

 

爆風の中から奴が現れる。

ぼろぼろな姿から見るに、間一髪何かしらの方法で逃れたに違いない。

だが――その目に戦意は感じなかった。

 

「やっぱり人間って面白いねぇ、ここで戦いを終わらせるのはすごくもったいないと思わないか?」

「ふざけんな、俺はここで終わらせるつもりだぞ」

「無理をしない方がいい、君のその胸のゲージはもうギリギリじゃないか」

 

……奴の言う通り、俺のHPはもう限界に近い。

 

「私としてはだが、ここで私を仕留め弱った君がほかのバグに仕留められることを良しとしないのだ。君との戦いは君の戦いの最後まで残しておきたいものでね。君たち風に言うなら――気に入ったよ、修正者のことを」

「つまり、最後まで邪魔には来ないってことでいいんだな?」

「ああ、私も自分のレベルを上げなければならないしね。常識なのだろう? レベルを上げて物理で殴るというのは」

 

人型は、月村とはまた違う人間の姿に変わる。

 

「私にはまだ名前がないが……次会う時までには名前を決めておくことにするよ。君の名前を教えてくれ、修正者」

「……パイロット。仮面ライダーパイロットだ」

「パイロット……いいね、じゃあまた会おう、仮面ライダーパイロット、我が宿敵よ」

 

――なぜこう名乗ったのかはわからない。

だけど、自然と頭に浮かんだのはこの名前だった。

開いている蓋を閉じ、カセットを両方抜いて変身を解除する。

体力はもうぼろぼろ。

正直、もう――休まないと……

 

 

 

***

 

 

 

目を覚ますと、そこは見慣れない部屋だった。

豪華なベッドの、おそらく客用の部屋だろう。

俺の家ではない。俺の家だったら俺の部屋に入れればいいだけだ。

――ドアからノック音がする。

 

「はい、起きています」

「お目覚めになられましたようでよかったです、鏡夢羽様」

「……アンタは確か、バニングスの……?」

「はい、鮫島と申します。お目覚めしてすぐで申し訳ありませんが、お嬢様がお待ちです。お召し物はベッド脇の籠に入れてございますので、着替え終わりましたらベッド脇のそちらのボタンでお呼びください」

 

『では』といいながらドアを閉めるバニングスの執事、鮫島さん。

わざわざおこしに来てくれたのだから、ありがたい話である。

では、さっさと着替えて呼んでいるらしいバニングスの元に向かわなくては。

――あれ、カセットはあるのに、昨日のごてごてしいバックルがついたベルトが見つからない?

 

 

 

「来たわね鏡。よく眠れたかしら?」

「おかげさまでぐっすりだ。あんなに良いベッドで寝たことが無いから寝てる時の記憶がないのが少しばかり惜しい気がしたけれど」

「そうなの? 意外、次期院長の立場が約束されてる身なんだから寝具も相応だと思ったけれど」

「世の中のお金持ちがみんな豪華な部屋に住んでると思うなよ?」

 

応接室に連れてこられた俺は、出合い頭にバニングスから声をかけられる。

挨拶もそこそこに、バニングスへとこちらからの疑問を投げつける。

 

「――で、なんで俺はバニングスの家にいるんだ?」

「アンタが倒れて本当だったらアンタの家に連絡するところだったけど、同時になぜか倒れていた人たちがみんな何事もなかったかのように起き上がってきたの。病院側も混乱が起こって連絡できる余裕がなかったのよ。携帯借りようにもパスワードとかわからないから使えないし。あ、でも事後承諾という形でパパから連絡を入れてもらったからもう大丈夫よ」

 

バニングスの言葉に携帯を開くと、確かに両親からの不在着信やメール、メッセージアプリの通知がすごいことになっている。

首都県最大の病院、聖徒大学付属病院の院長でもある灰馬伯父さんと、従兄弟の飛彩からも一件ずつメールが来ているな……後で返しておかないと。

 

「そっか、ありがとうバニングス」

「どういたしまして……それで、次は私から聞いてもいいかしら?」

「ああ、こたえられることはそんなに多くなさそうだけど」

「そう、じゃあまず最初に、アイツは何? アンタのことを修正者って呼んでたけど、アンタはアイツの何を修正するの?」

「……あいつらは、世界のバグってやつらしい。俺はそいつらを倒すためにバニングスのくれたカセットとかを使って戦う――仮面ライダーっていうヒーローらしい」

「あいつら? 他にもあんな奴らがいるっていうの? それと、らしいらしいって……アンタ自分が何やってるか把握できてないの?」

 

うん、鋭い。きっと間違いなくほかにもあんな奴らはいるだろう。

それと把握できてないことはしかたがない、記憶を取り戻したのは昨日なんだから。

――とは言えないんだよなぁ、ただでさえ変なこと言ってるって思われてるのに、さらに自称記憶喪失とか認識されかねん。

 

「まぁ、な。正直言うとなんであのカセットを使えるのかとかも微妙にわかってない」

「ふうん、アンタ知識だけどこぞの誰かさんに与えられてるって感じね。知ってるけどなぜ知ってるかはわからないってことは普通ならあり得ないもの」

 

やっぱバニングスは鋭い。変に追及させると俺が転生者だって話まで掘り下げられかねんぞ。

 

「……そういえば、何事もなく起き上がったって話だが、月村はどうだった?」

「露骨に話をそらしたわね……すずかなら元気よ。ほかの人たちと同じように目覚めたの」

「そっか、月村はこんなカセットを持ってはいないのか?」

 

懐からバニングスより受け取ったコスモウォーズのカセットを見せる。

しばし考えるそぶりをしたが、バニングスは記憶にないと言わんばかりに首を横に振る。

 

「そもそも、そのカセットを私が受け取ったのはパパがパーティーでもらったからなのよ」

「もらった……?」

「古い付き合いの社長さんなんだけど、その人もどこで手に入れたか覚えてなかったんだって」

 

このカセットというのは大変謎な代物らしい。

しかし、まるで示し合わせたかのように誰かの手にあるものなんだな……

 

「大手ゲームメーカーのGanme Corporationでは作っていないっていうから謎よね。奇抜なゲームを作ることに定評があるから作るとしたらあそこくらいだけど……」

「まぁ、出所がわからなくてもいいさ――なぁバニングス」

「みなまで言わなくてもいいわ。黙っててあげるわよ皆には。人には言いづらいでしょ、私ですら半信半疑なんだから」

「助かる」

「いいのよ。見ちゃった私の責任みたいなもんだし、できることならサポートしてあげるから、頑張りなさいよ、仮面ライダーパイロット!」

 

 

 

――君は、自分が人生の主役になれると考えたことはないか?

 

実は俺もそう考えたことはあった。

 

だが当時、あまりにも自分の立場が恵まれすぎていて、逆に無理なんじゃないかとあきらめてしまっていた。

 

だけど、この日――俺は主役として戦うこととなった。

 

神が創り出した世界、そこに潜んでいるバグと。

 

この戦いはもしかしたら神とやらにとって都合のいい筋書きなのかもしれない。

 

だがそうだとしても俺は戦うしかほかない。

 

主役であるべきだからではなく、こうしてバニングスが――幼いころから目を奪われていた女性たちの一人に応援されているのだから、意地でも負けたくないだけだ。

 

俺は聖祥大学附属病院次期院長で、天才ゲーマーの鏡夢羽――そして、世界を救う仮面ライダー、パイロットなんだ。

 

俺たちの戦いは――ここから始まる!

 




・リリカルなのは
三部作のうち、地球が舞台となるのはA'sまで。STsになると主な舞台が別世界へと変わるため、地球や主人公高町なのはの親友であったアリサ・バニングス、月村すずかはフェードアウトする。
そのため、割と自由なクロスオーバーも可能だと判断したのが主なチョイス理由。
また、作者がアリサとすずかが好きだというのが二つ目の理由だったりする。

・仮面ライダーエグゼイド
現行ライダー。医者×ゲーム×ライダーという割と移植じみたいつもの。
鏡夢羽がゲーマーで、医者の卵だというのはライダー側の原作を意識したキャラ設定だったりする。
当短編ではあえてオリジナルガシャットを利用したオリジナルライダーを使用。
キャプテンフライトガシャット……フライトシミュレーションゲームのガシャット。
コスモウォーズガシャット……スペースオペラ戦略シミュレーションゲームのガシャット。
仮面ライダーパイロット……キャプテンフライトガシャットを用いて変身する鏡夢羽の仮面ライダー姿。
また、エグゼイドに登場する人物や建物名が一部出たがこれは特に伏線でもない。

・鏡夢羽
転生した主人公。
別に彼じゃない人間が別の名前でこの世界に降り立って、別の存在として戦っているIFも存在してもおかしくない。それくらいには選ばれた理由なんてちんけなもの。
死因も事故ではあるが神がミスしたわけではない。
仮面ライダーを知らないため、『変身』というわけでもない。
知識は神からのもらい物。転生特典だが、リリカルなのはの物語がSTsに動くまで、主人公として戦うことはなかった。

その他設定はあれど、長くなるので以下割愛。
読了ありがとうございました。

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