スパイス密売の情報を得るため、この惑星を訪れた師弟。その任務は思わぬ方向へ進んでいき、オビ=ワンは窮地に陥る ―― といった展開です。
クワイ=ガンは48歳、オビ=ワンは13歳の設定。
シリアスです。
残酷な描写があるので、お気をつけください。
第1話 不穏な始まり
「いいか、何があっても私の傍を離れるな。わかったな」
「はい、マスター」
と殊勝な応答をしているが、いささか食傷気味である。
惑星アルカスの首都リルパの宇宙港に着く前から、万事が万事この調子で、ジェダイ・マスター、クワイ=ガン・ジンは若き彼の弟子、オビ=ワン・ケノービに今回の任務の危険性を充分認識させようとしていたからだ。
惑星アルカス ―― 銀河の首都をコルサントと位置づけるなら、どちらかと言えば
大地は星の約8割を覆い、南半球には山脈が多く、北半球は砂漠も含む平地が広がっている。そして、首都リルパは北半球に位置し、商売がこの地を潤している。
そんな知識をこの惑星に関して仕入れていた。
今、二人の目前には、両側に店が並び人々が溢れ、活気がある様相を呈す街並みが広がっている。
怪しげな土産物を売る露天商の掛け声が響き、観光客をひきつけていた。
クワイ=ガンは街に溶け込み、通りがかりの旅行者風情を装いながら足音静かに歩いている。
彼の目的は何か、オビ=ワンにはわからなかった。
昨夜この惑星に着き、宿屋で一泊すると、今朝から首都の探索に向かったのである。
今回の任務 ―― それは、首都リルパで行われているというスパイス密売の実態調査であった。
スパイスは、通常街で売られている比較的手に入りやすいものから、グリッタースティムのようにケッセルで採掘しないと採れない貴重な物まで幅広い。
貴重なスパイスは本来共和国が管理すべきものだが、裏取引で売られているものも多い。法外な値段で売れるからだ。
そこで、事態を重く見たジェダイ評議会は、クワイ=ガンと彼の若きパダワンをこの任務に遣わしたのであった。
何度、クワイ=ガンに問いかけようとしたことか。その都度オビ=ワンはその疑問を心の奥底にしまい込んだ。
(何を探しているんですか?)
クワイ=ガンに話す意思があれば自ら口を開くだろう。それまで待つしかない。
横目でマスターを見上げ、気づかれぬよう溜め息をつく。そんなオビ=ワンの心を知ってか知らずか、クワイ=ガンの歩調は変わらない。
ふと、そんな師の足が突然止まった。
クワイ=ガンは店の看板を眺めた。
「宝石店」とある。
(宝石店?)
訝しげに首を傾げるオビ=ワンに、
「ここにいるんだ」
彼のマスターは声をかけた。
(ここって、店の外ってこと?)
「僕も行きます」
「いや・・・お前はここで待つほうがいいだろう。ここから動くな、わかったな?」
「・・・はい、マスター」
表情に現れぬよう素直に応える。しかし、心の中では少し不満だった。
☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆
クワイ=ガンは店に足を踏み入れた。
ごく普通の宝石店に見える。強化ガラスで造られたカウンターの下に箱に入った宝石が並ぶ。
一見してオルデラン産やレリア産の宝石とわかる物もあったが、あとは美しくかつ人を妖しく惑わせる光を放っていることのみ感じ取れるだけだ。
「何か、用かね?」
しゃがれた声とともに主人が顔を出した。アイソリアンだ。
別名ハンマーヘッドとも呼ばれる彼らは、その名の通り、ハンマーのような突き出した顔の両端に眼が離れてついている。
「土産に宝石を買いたいんだが」
クワイ=ガンは笑みを浮かべ、旅行者のふりを装って訊ねた。
「いいとも、ここには素晴らしい宝石がいっぱいある。今ならお買い得だよ」
一通り宝石を見て、クワイ=ガンは首を振った。
「いや、もっと良い宝石があるはずだ。高い宝石が、な」
主人は驚いた顔をした。しばし、そんな金持ちには見えないクワイ=ガンを穴の空くほど見つめたあと
「ちょっと待ってな」
言葉を残し、奥に消えた。
ややあって主人が戻ってくる。その手には煌びやかな宝飾が施された宝石箱をいくつか抱えている。それをカウンターの上に乗せる。いかにも無造作に置き、店主は客に気を遣っていないかに見える。
しかし、視界には入らないが、カウンターの向こう側からブラスターを構えているのは明白だ。こんな街では気を抜いたらやっていけないのだ。
蓋を開け中身を確認しつつ、クワイ=ガンは煌く宝石を見ていたが、首を振った。
「これらも私の探している物ではない」
主人は驚いて、声を上げる。
「ここにあるので全部だ。これ以上高い宝石なんてないぞ」
「それなら・・・」
クワイ=ガンは言葉を切って、主人を静かな眼ざしで見つめた。意味深な光をたたえて。
「高い宝石を売ってくれる所を紹介してくれないか?」
主人は沈黙した。心当たりがあるのかもしれない。それとも、クワイ=ガンの意図したことが呑み込めたのかもしれなかった。
「・・・わかった。高くて魅力のある宝石を売る店を教えよう」
☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆
あてもなく通りを眺め、しばらく辛抱強く待っていたオビ=ワンだったが、代わり映えもない街並みを見るにも飽きてきた。
(・・・疲れたな・・・)
痺れを切らし体の向きを変えると、宝石店の外に並べられている怪しげな土産物を見始める。
何やら四角い箱。平たい。箱の正面にボタンがある。ボタンを押してみる。蓋が開き、スクリーンが現れる。
右横に切れ目があるから、データパットを入れると、どうやらこのスクリーンに様々な画像が現れるらしい。パットに入ったちょっとした画像を楽しむための物なのかもしれない。
オビ=ワンはそれを元に戻すと、溜め息をついた。
そして、店の様子を覗き込む。
彼のマスターは背中を丸めてカウンターに肘をつき、まだ店主と何やら話し込んでいる。長くかかりそうだ。
オビ=ワンはもう一つ、先ほどより深い溜め息を漏らすと、不意にその場を離れた。
気配を街の空気と同化させ、街の人々に違和感を抱かせないようにする。これはクワイ=ガンと任務にあたるたびに身をもって習得した技である。
オビ=ワンは、買い物を行うために街をぶらつく一般市民にすっかり溶け込んでいた。
しかし、注意は怠らない。ここは密売が行われている街なのだ。一見ごくありふれた街に見えるが、影で何が行われているかわからない。
充分周りに気を配り、だが、そんな素振りを少しも見せずに、オビ=ワンはひたすら街を歩いていった。
10標準分ぐらい歩いただろうか。
不意にオビ=ワンは、右手にある普通の家と思われる建物と建物の間にある細い横道にそれた。
横道は100mほど続いている。オビ=ワンはさっきとはうって変わって慎重にゆっくりと歩を進めた。
そして、横道が終わる手前で、壁に背をつけ前方を見やる。
そこには倉庫があった。何の倉庫かはわからないが、薄汚れて誰も立ち寄らなくなって久しいようだ。
(いや、そんなことはないな)
オビ=ワンは口の端に笑みを浮かべると、素早く走り寄り倉庫の影に身を隠し、様子を探る。倉庫の周りには誰もいないらしい。
一瞬ホッとし、しかし、何があっても対処できるよう一層緊張を高め身にフォースをまとい、朽ち果てゆがんだ入口の扉から中を伺う。
(いた。多分彼らだ)
複数の影が、天井に取りつけられた黄色いライトに照らされ、揺らめいている。フォースを取り込み、聴覚を鋭くした。
「早くよこせ」
「そう、焦るな」
それに対し、聞いたことがない言語が苛立ちの返事を返す。
「わかってるさ!ほら、これがお前の取り分のスパイスだ」
どうやら人間とエイリアンが雑多に混ざっているらしい。
ここは密売の現場だろう。
先ほど街並みを眺めていた時、普通の人なら気づかぬはずの不穏な微かな気配をフォースで感じた。しかし、相手に気づかれぬよう土産物を見てやり過ごし、それとなくあとをつけてきたが、勘は外れていなかったようだ。
オビ=ワンは密かにほくそえんだ。
(よし、この場所をマスターに知らせよう。そのためには何人いるか確認しておいた方がいいかもしれない)
オビ=ワンは身を乗り出し、集中しながら前方の闇にフォースを送った。
荒くれどもの苛立ちや興奮した気持ちが流れ込んでくる。
(一人、二人・・・七、いや八人はいるかも・・・)
「そこにいるのは、誰だ。何をしている!?」
(しまった!)
前方に注意を払っていたために後方が疎かになってしまった。
「前を向いてろ!死にたくなかったらな」
心臓がドキドキ音を立て始め、一瞬にして体が熱くなる。だが、平静を取り戻そうと、手元にフォースを引き寄せる。
そして、背後の気配を探り始めた。
ブラスターの銃口がオビ=ワンの背に向いているのがわかる。
(二人・・・)
渦巻く殺意がひしひしと感じられるなか、オビ=ワンは正確に人数を把握した。
(中の彼らに気づかれないうちに、後ろの二人を倒そう)
そう決め、呼吸を落ちつかせて機会を図る。
ところが
「どうした?何かあったのか?」
倉庫内から声が飛んだ。と同時に入口に駆け寄る足音が聞こえる。
万事急す だ。
ここで今、オビ=ワンがフォースを使って背後の二人を倒した所で、中にいる奴らの攻撃を防ぎきることができるかわからない。
が、オビ=ワンは鼓動が激しく高鳴る中で、自分が妙に落ちついていることを感じ取っていた。
(うまくいけば、彼らから密売のことを聞けるかもしれない)
「ここじゃ、まずい。誰かに見られるかもしれねぇからな」
「・・・入れ!!」
ドンッと荒々しくオビ=ワンは背中をこづかれ、倉庫の中に転びそうになりつつ足を踏み入れた。天井の薄明るい光しか放たないライトによって、全体を見極めるのは難しかったが、フォースで探ると、積み重なる巨大な木箱に隠れこちらを伺っている者が数人いることがわかった。
「何だ、まだ子供じゃねぇか」
「さぁ言え。何故ここにいる?誰に頼まれた?」
オビ=ワンはか弱い子供を装うことに決めた。その方が相手も油断するからだ。
「頼まれたわけじゃないよ。通りかかっただけなんだ」
「ふん、本当か?」
さも信じられないといった風に、背後にいた男が鼻を鳴らす。こんな街では子供も素直には育ちにくいのだ。
「本当だよ。ねぇ、母さんの所に返してよ」
「まだ、子供だ。返してやろうぜ」
上の方から声がする。
それに対し、耳障りな言語が憤懣たる響きをもって放たれた。
続いて背後の男が言葉を吐き出す。
「ホストグの言う通りだ。ザーロブ、お前は相変わらず甘ちゃんだぜ。子供といえども俺達の顔を見たからには容赦しない」
(やはり説得は無理か・・・仕方ないな)
しかし、オビ=ワンはむざむざと殺られるつもりは毛頭なかった。
(最初が肝心。きっと彼らは油断してる。最初の攻撃で何人倒せるか、それが重要だ。倒しそこなったら、残りはきっと慎重になるだろう)
高揚感が高まり体が熱くなる、かつ冷静を保ちつつ、オビ=ワンは背後にいた男 ―― 屈強そうな大男、どうやらこいつが、ここのボスらしい ―― が、オビ=ワンにブラスターの銃口を向けるのを静かに見守った。
きっと相手は観念したと思っているに違いない。
ふと笑みが漏れそうになる所を押え、その一瞬を狙う。ブラスターの光線が放たれるその一瞬を。
発射音が暗闇に響き渡った。
☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆
店の外に出るまで気が抜けなかった。
いくら旅行者然としていても、もしかしたら不信人物と思われたかもしれない。
あの店主には、普通の旅行者だというイメージをフォースで植えつけてはおいたが。
と、独り沈思していたために、オビ=ワンがいないのにしばらく気づかなかった。
(どこに行ったのだ!?)
辺りを見渡す。道を埋め尽くした人ごみにより若きパダワンの影形も見えない。急ぎフォースで探る。微かにそれらしきフォースに触れる。
//オビ=ワン?//
試しに呼びかけてみる。返事はない。返答する余裕もないのかもしれない。
クワイ=ガンは溜め息を大きくついた。
(あれほど、一人で歩き回るなと言ったのに)
不安が急速に膨らむ。早く探したほうが良さそうだ。嫌な予感がする。
クワイ=ガンはフォースを感じた方向へ急いだ。