銀河彼方での物語   作:秋鹿

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第3話 悩みゆえの夢

(本当に大きな木だな・・・)

幹全体を視界に入れることさえもできないロシュアの木が真っ直ぐ天高くそびえ、茂る大きな葉が青空を覆い隠している。

そのため日の光はほんの僅かしかここまで届かない。光が差さないので、この辺りには苔類やシダ類しか生えず、じめじめとした空気を醸している。

オビ=ワンは仰向けに天空を見上げるような形で、ロシュアの木の枝上に倒れていた。

このまま倒れていたら誰にも見つからず、キャッシークに棲むという肉食獣の餌食になりかねない。もし、そうならなかったとしても、ここで朽ち果てる可能性もある。

しかし、動くことができないのには訳があった。

ロシュアの葉にぶつかりながら落下速度を弱め、最後にフォースを体に集め、何とか直撃だけは免れたが、フォースを使いきり疲れた体と落ちる際に捻った足首の捻挫により、立ちあがることもままならなかったからだ。それに・・・。

 

頭は何故か冷めている。

(本当に本当に大きな木だ・・・)

オビ=ワンは再び思った。

この樹木達は何百年、何千年、もしくは何万年と変わらずこの姿で生きていくのだろう。

それに比べ、自分達の人生の何て短いことか。

そして、何て小さく孤独な存在で有ることよ。

ちっぽけで・・・無力で・・・

フォースが使えるからといって、人一人の命を救えないのなら何のためのジェダイか。

ジェネヴァー・・・彼を救いたかった・・・

やりきれない、切ない想いが彼を支配する。

オビ=ワンは静かに瞳を閉じた。

 

☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

 

(ここは、どこだろう?)

まるで星のない宇宙に浮かぶが如く、漆黒の闇が広がっている。

足元を見ても暗闇。空を見上げても光さえ差さない。何もない世界。自分だけが存在する世界。

ふと心細さを覚える。すると、闇が一層濃くなったような気がする。

(誰も、何もいないんだろうか・・・)

 

不意に背後から微かなフォースの揺らめきが、命の煌きが感じられた。

すかさず振りむくと

「うわぁ」

歓声が口から漏れた。

そこには、先ほどまでなかったはずだが、一本の大きな木が立っていた。

「すごくきれいだ・・・」

その木は見たこともない木だった。

黒褐色の幹がうねるように天に伸び、無数の枝を広げている。その枝の至る所に薄いピンク色をした小さな花びらが、今が盛りとほのかな香りとともに咲き誇っている。

オビ=ワンはその美しい木を見あげた。

だが、すぐに寂寥感が押し寄せてくる。空しさが込みあげてくる。

(ここには僕と、この木しかいない)

 

「オビ=ワン」

突如闇に響き渡るその声に驚き、下を向いていた顔を上げる。

その木の横に人影が見えた。影は徐々に形を取り二人の姿になる。

「!?・・・父さん?母さん!」

逞しく精悍な父親。いつも明るく優しい母親。別れた時の姿のままだ。

「オビ=ワン、がんばっているか?」

父親の声が聞こえる。変わらず穏やかな声。

(父さん・・・母さん・・・)

涙がポロポロと零れそうになる。必死で歯を食いしばり堪える。

思わず駆け寄りたくなる。駆け寄って母親に抱き締めてもらいたかった。何も言わず受けとめて欲しかった。

この心細さを消して欲しかった。

「オビ=ワン」

母親の優しい声がかかる。

「辛いことも悲しいこともあるかもしれない。でも、私達はあなたを誇りを持って送り出したの。あなたが立派なジェダイになることを信じて」

「母さんっ・・・」

「何があっても負けない勇気を持って。私達はいつでもあなたのことを心から想っているわ・・・」

ニッコリと微笑む母親の顔が、姿がだんだんぼやけていく。

涙のせいだけではない。彼らは消えようとしている。

まだ彼らと一緒にいたい。切なさが気持ちを支配しオビ=ワンは思わず叫んだ。

「待って!まだ・・・」

しかし、二人の姿は闇に溶け込むように消えてしまった。

「まだ、話したいことがいっぱいあったのに・・・」

再び空しさが込みあげオビ=ワンは涙をぬぐった。

 

「オビ=ワン」

再び声が響く。涙をぬぐいさると目を凝らす。

「マスターっ?マスター・ヨーダ・・・」

影は小柄な一人の影に集約した。

「悩みがある、そうじゃろう?」

「・・・はい、マスター・ヨーダ」

オビ=ワンは偉大なるジェダイ・マスターの前に跪いた。

「言ってみよ」

(これは・・・夢だ。マスター・ヨーダがここにいるはずがない。きっと、僕の迷いがこんな夢を見させているんだ。だから、僕が何を言おうとヨーダは気にしないはずだ・・・)

オビ=ワンは唾を飲み込むと、覚悟を決めて声を出した。

「僕は一人の人間を助けられませんでした。たった一人の人間を救えないのなら、・・・ジェダイになる資格がないのかもしれません」

「ジェダイとて完璧ではない。それがその人間の運命(さだめ)だったのじゃ」

「でも、未来は変わりやすいものだとあなたは以前言いました。もしかしたら、その運命を変えられたかもしれないのに・・・」

ヨーダは無言で杖をつきつつ歩き出した。オビ=ワンはその姿を目で追う。

ややあってヨーダはポツリと言った。

「オビ=ワン、この木は何と言う木か知っておるかの?」

杖で指す方向を見やり、オビ=ワンは首を振った。

「いいえ、知りません」

「これは、伝説の中でしか出てこないリーチェの木じゃ。幻の惑星ルサエに生えているという な」

木の名も惑星の名も初めて耳にする名前である。

「リーチェの花は、一生に一度だけこのように美しく咲き乱れるという。わしらの一生もこのようなものじゃ。この宇宙の歴史に比べれば、一瞬の如き人生で何を残すか。それを考えてみるのもよかろう」

相変わらず禅問答のようなヨーダの言葉に、オビ=ワンは一生懸命考え込む。

と、ヨーダの偉大なる姿は闇に紛れて消えてしまった。

オビ=ワンはまた独りになった。

 

☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

 

「何か手がかりはつかめましたか?」

【いいえ、偉大なるジェダイ・マスター。まだ、小さき勇者の行方は全く・・・。フレールからも何の連絡もありません】

「そうですか」

溜め息とともに言葉を吐き出す。

他のウーキーと連絡を取り合うためにラルラが家を離れると、クワイ=ガンは目を閉じ、瞑想し始めた。

パダワンのフォースを例え僅かでも探すことができたら。

キャッシークの森はそれ自体生命に溢れ、フォースで満ち満ちているのだ。

この広大な樹海で、自分の弟子の小さなフォースを探す・・・大変なことだが不可能なことではなかった。つながりさえあれば。

そして、ついに目指すフォースを捕らえた。

彼の弟子は微かだが、まだフォースを放っている。クワイ=ガンはそれにそっと近づくと、優しく包み込み囁きかけた。

//オビ=ワン//

と。

 

☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

 

「オビ=ワン」

三度目に闇の中で呼びかける声がある。オビ=ワンはハッと声のした方を見つめた。

「!マスター!!」

クワイ=ガンはリーチェの木の横に立っていた。

(このマスターも夢だ・・・。僕は変な夢ばかり見ている・・・)

苦笑を漏らす。

「ここにいたのか。心配したぞ」

「・・・すみません、マスター」

オビ=ワンはうつむいた。そんな様子を見て苦笑いしながらクワイ=ガンは問う。

「どうして森に行ったんだ?」

「フレールを追って迷子になったんです。・・・それより、マスター」

と一回言葉を切ったオビ=ワンは思いつめた表情で再び口を開いた。

「・・・僕はジェダイになれるのでしょうか? ジェネヴァーを救えなかった、こんな僕は・・・」

「それで今まで悩んでいたのか?」

「はい・・・」

クワイ=ガンは優しい眼ざしでじっと見つめている。

オビ=ワンは闇の中で怪しくも美しく咲き続ける木を指して、言葉を続けた。

「マスター・ヨーダは、この木がリーチェの木と言いました。一生にたった一度だけきれいに花を咲かせる木だ、人の一生もこの木の花と同じで短い、その間に何を残すか考えてみよ と」

「意味がわかるか?」

「あまり良くわかりません」

クワイ=ガンは歩き出し、リーチェの木の幹に手を触れた。風もないのに木はそよぎ出す。

「確かに人の一生は短い。できることも限られているだろう。しかし、その間に悔いの残さぬような人生が送れれば、死ぬ時に安らかな気持ちで死ねるようなら、その者は素晴らしい人生を送ったといえるのではないか。ジェダイと言っても限りがある。ジェネヴァーを救えなかったかもしれない。しかし、今後そのフォースを使い、もっと多くの人々を救うことになるかもしれない。悩むこともあるだろう。だが、悩み立ち止まっていても仕方がないのだ。歩き出せねば。違うか?」

「なんとなくわかった気がします」

オビ=ワンは心の中の寂寥感がだんだん消えていくのを感じた。

それとともに、暖かい流れが自分の中で脈打ち、そして、周りの空気も暖かさを帯びてきたことも。

 

リーチェの木が風に揺れるようにそよいだ。

咲き乱れる花びらが一斉に枝から離れ、オビ=ワンの周りに舞う。

「わぁ」

花びらは渦となり暗闇に舞い落ちる。

暖かい・・・

オビ=ワンは自分を取り囲む巨大で暖かな流れを心の底から感じた。

「オビ=ワン」

クワイ=ガンが声をかける。

「街まで戻ってこれるな?」

そう言い放つと、彼は花吹雪の間に消えた。

(街?戻る?何のこと・・・?)

花びらの舞いが渦を巻き、ぐるぐる、ぐるぐると ――

そして、オビ=ワンは目を開けた。

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