(夢だったんだ・・・)
『街まで戻ってこれるな?』
不意に、夢の中でクワイ=ガンが言った言葉を思い出す。
(そうだ、こんなとこで寝ている訳にはいかない。フレールを探さないと)
体は疲れ切っていたが、なんとか上体を起こし始める。
その時オビ=ワンは、自分の体を支えるように暖かい流れが渦巻いているのを感じた。
自分の周囲に巨大で暖かいフォースが取り巻いているのを。それは天突くように生えているロシュアの木から感じられた。
(そうか、君たちが僕にあの夢を見せてくれたんだね。僕を勇気づけるために)
今や彼は、自分を労わり、傷 ―― 心の傷を含めて ―― を癒そうとする、巨木の暖かい意志を心の底から感じ取っていた。
この心地よい流れをオビ=ワンは心ゆくまで味わった。
瞬間、取り巻くフォースに邪悪な影が過ぎった。
オビ=ワンはハッと周囲に注意を向ける。
前方のロシュアの葉影から、獣の荒い息遣いが聞こえてくる。一匹ではない。二、三匹はいるようだ。
(僕を狙ってる)
オビ=ワンはライトセーバーを右手に持ち、いつでも起動できるように構えた。
幹に背をつけ、体を起こしただけのこの状態で満足に闘えるか不安もあったが、不安に捕われるなと自分に言い聞かせフォースを引き寄せる。
獣は姿を現した。全部で三匹。
体長1mほど。鼻先は尖り、耳は長く、目つきは爛々としている。開いた口から親指ほどの牙が並んでいるのが見えた。そして、5本の足。
(
昨日マスターから話を聞いた。ウーキー達も恐れるほどの肉食獣ケックラグ・ロー。
(でも、彼らはもっと下層にいるはず。どうしてこんなとこまで?それとも僕がそんなに下層まで落ちたのだろうか?)
立ちあがれないまでも、傷めていない方の左足を動かし立て膝をつく。これならまだ闘い易い。
ライトーバーを起動し斜めに構えた。
オビ=ワンはフォースを手元に集め纏った。
と、一匹の獣が右手から、続けざまもう一匹が左から突っ込んできた。
右上段から切り落とすと、返すセイバーで左から切り上げる。二匹は悲鳴と怒号を撒き散らしながら、ロシュアの枝から下に落ちていった。
(もう一匹は ―― 上だっ!!)
すかさずセーバーを突き上げる。
「ギャンッ!!」
獣の悲鳴は聞こえたが手応えがない。
「!?」
オビ=ワンが見上げると、獣が幹に射止められている。そこに突き刺さる一本の太い矢。
(もしかしてっ!!)
急いで矢が飛んできたと思われる方向に視線を向けると
「フルルルルル・・・」
「フレールっ!?」
オビ=ワンが喜びの声を上げると、ウーキーは彼をギュッと抱き締めた。フレールの抱擁は激しく、オビ=ワンは骨が折れるかもと半ば心配した。しかし
(こんなにまで僕のこと、心配してくれたんだ・・・)
と思うと嬉しさが滲み出てくる。
(暖かい・・・)
ひとしきり経って気が済んだのだろう。フレールはようやくオビ=ワンを離すと傷がないか調べ始めた。
「大丈夫。右足を捻挫しただけ」
歩けるか?と問いただしているような顔つきに
「わからない。けど、やってみる」
マスター・ヨーダに聞かれたら、「やってみる」のではない「やるのじゃ」と言われそうだなと内心苦笑しながら応える。
それを聞いてフレールは首を振ると、いきなり背中を向けた。
「え、背中に乗れって?」
フレールは唸る。肯定だ。
(それは恥ずかしい・・・どうしよう・・・)
ついに痺れを切らしたフレールは歯を剥き出して吠えた。
ウーキーを怒らせるものではない
との警告が頭に響く。
観念し、オビ=ワンはフレールの背中に身を預けた。
フレールはロシュアの葉を避け枝に飛び移りながら、ルークロロの街へ戻っていく。
ウーキーは気を遣って激しい走りをしなかった。ゆえに、その揺れが心地よさを出し、疲れきっていたオビ=ワンはいつしか眠ってしまった。
☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆
夕暮れ時、クワイ=ガンが仮の家を出て街の郊外に向かっていくと、フレールの遠吠えからそうとわかったラルラ達ウーキーが、総出でオビ=ワンを迎えに出ていた。
【おお、偉大なるジェダイ・マスター!!小さき勇者は無事なようです。本当に良かった】
「あなた方にもご迷惑をおかけしました。申し訳ない」
【小さき勇者が戻られたというのに意外でもなさそうですね。どうやらご存知だったようだ】
ラルラはニヤッと笑った。
クワイ=ガンも微笑み返す。
【小さき勇者は幸せ者ですね。こんなに心配し、しかも、信用してくれている者がいて】
笑うとラルラは、ようやくブラットフォームに辿り着いたフレールの元へと駆け寄る。クワイ=ガンも静かにその後を追った。
【どうやら、眠っているようですね。かなり疲れたのでしょう。このまま仮の家まで運ばせますか?】
「いいえ、私が運んで行きましょう。フレール」
呼びかけると、ウーキーに近寄った。
「いろいろ迷惑をかけて済まなかった。ありがとう」
フレールは首を振ると、ニッと笑った。
【友達だから。当たり前のことです】
嬉しさに目を細め、クワイ=ガンは言う。
「オビ=ワンが聞いたら喜びそうだ」
ウーキーも再びニヤッと笑いオビ=ワンを背から降ろすと、クワイ=ガンにそっと渡した。
彼は、自分のローブでオビ=ワンをくるみ両手で抱きかかえると、その場にいたウーキー達に深々とお辞儀をし、その場を後にした。
家に向かいつつ、すやすやと寝息を立て穏やかに眠るオビ=ワンの顔を見ながら
(来る前までとは違い、悩みがふっきれたようだな。ここに来て本当に良かった)
微笑みクワイ=ガンは歩いていく。
彼の背後では、無事に小さき勇者を連れ帰ってきたフレールが皆の歓声を浴びていた。
☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆
遠くで鳥の鳴く声が聞こえる。顔に光が当たって眩しい。
オビ=ワンはゆっくりと目を覚ました。
一瞬ここがどこだかわからなかった。
(あれ?・・・)
じっと考え込み、はたと思い当たる。
(ということは、ここはルークロロの仮の家っ!?あのまま眠っちゃったんだ・・・って、今、もう朝?)
激しく狼狽する。
(あんな格好をマスターに見られたんだろうか・・・)
背負われてルークロロの街に着くなんて恥ずかしい。しかも仮にもジェダイの卵なのに・・・
「起きたようだな。よく眠っていたぞ」
(うわぁぁぁっ)
「マ、マ、マスタ~っ」
オビ=ワンは思わず飛び起きた。
「どうした?」
しかし当の本人は平然としている。
「いや、あの、その・・・ご、ご迷惑をかけて、すみませんでしたっ」
とても、背負われていた僕を見ましたか?なんて聞けやしない。
「ああ、とりあえずお前が無事で良かったよ。お腹が空いただろう。ファクトリン・ミートパイをもらってきてやったぞ」
そんな動揺しているオビ=ワンを余所に、マスターは淡々と話を進めている。
(み、見てなかったんだろうか・・・)
「あ、ありがとう、ございます」
お腹が鳴る。確かに腹が減っている。考えてみれば昨日から何も食べていない。
オビ=ワンはミートパイに噛りついた。
「ああ、そうだ。背負われていたお前はまだまだ子供だなと考えさせられた。いつもは歳以上に気を張っているが、ふとしたことで本来の年齢に戻るものだな」
オビ=ワンは激しく咽せ込み、あやうく窒息しかけた。
☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆
【もう行かれるのですね】
「そろそろ、コルサントに戻らないとならないのです。あなた方には大変お世話になりました」
クワイ=ガンが言うと同時に、オビ=ワンも深々とお辞儀をした。
一抹の寂しさが漂う。オビ=ワンはそれと知れぬよう、周りを見まわした。
と、気づいたようにクワイ=ガンが訊ねる。
「フレールは?」
【今こちらに向かっているはずです。急な出立でしたので、連絡が遅くなりまして】
「そうですか・・・」
プラットフォームの片隅に止まっている宇宙船の周りの動きが慌ただしくなっている。間もなく出発の時刻だ。
クワイ=ガンはちらっとそちらに視線を向けると、戻して言った。
「本当にお世話になりました。このお礼は何と言ったら良いか」
【いえいえ、お気遣いなく。あなた方ジェダイをお迎えできただけでも、この街にとって喜ばしいことなのです。そしてフレールにとっても。小さき勇者を助けたことで彼はこの街の新たな勇者となりました。彼の名誉も子々孫々と受け継がれていくことでしょう】
クワイ=ガンは微笑み、別れの言葉を口に出した。
「それでは、我々は参ります。また会える日を心よりお待ちしています。フォースと共にあらんことを」
【フォースと共にあらんことを】
クワイ=ガンとオビ=ワンはラルラに別れを告げ、船へと向かった。
しかし、オビ=ワンは、フレールに一度でも会いたい、会ってお礼がしたいという気持ちでいっぱいだった。
彼は本当に間に合わないのだろうか・・・
宇宙船のタラップが視界に入ってきた。オビ=ワンはしばし立ち止まり溜め息をつくと、タラップに足を乗せた。その時
「フルルルルル・・・」
聞きなれたあの声。
「フレールっ!!」
オビ=ワンは躊躇い、タラップの上の方を歩いているクワイ=ガンを見つめた。クワイ=ガンは優しく肯く。
「行ってきなさい」
「はいっ、マスター!!」
オビ=ワンは駆け出した。フレールに向かって。
二人は中央で出会うとギュッと抱き締めあった。
言葉はなかった。いや、いらなかった。
(フレール、本当にありがとう・・・。君と会えて良かったよ)
突然オビ=ワンの頭に別の思考が流れてきた。
//俺も君と会えて楽しかったよ//
「!? フレール?」
オビ=ワンは見上げる。フレールはニヤッと歯を剥き出して笑った。
今この瞬間、友情の想いがフォースを通じて伝わったのかもしれない。
//あの時は本当にありがとう//
//友達を助けるのは、当たり前さ//
//君と別れるのは寂しいな・・・//
//なぁ~に言ってるんだ。また会えるさ、いつだって//
//そうだね。また会えるね//
オビ=ワンの瞳から零れ落ちた涙が、フレールの毛に吸い込まれていった。
//ジェダイらしくもない。もっと強くならなきゃダメだな//
フレールは笑った。
//そうだね。もっと強くなる。心も体も//
//楽しみにしてるぜ、小さき勇者//
//本当に本当に、ありがとう。君のことは忘れない//
大口を開けて笑うと、フレールは宇宙船を指さした。
//行きな。船が行っちまうぜ//
//じゃ、また会う日まで//
//元気でな//
オビ=ワンは涙を堪えるとフレールを見つめ、それから宇宙船に向かって駆け出した。
宇宙船が離陸し小さくなり消えてしまうまで、ラルラとフレールはじっと青空を見上げていた。
☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆
碧玉のようなキャッシークがだんだん小さくなると、オビ=ワンは微かな溜め息をついた。
「どうした?」
通信室から出てきた彼のマスターが心配そうな顔で見つめている。
「いえ、いろいろと思い出したら、長いようで短い任務だった と」
「任務?何のことだ?」
「何のことって、フレールを守ってくれという任務ですよ。マスターが争いを調停するまでの」
クワイ=ガンは不思議そうな顔つきをして若きパダワンの横に腰をおろした。
「私は任務だなんて一言も言っていないぞ」
「えっ!?だって目的地がキャッシークで、マスター・ヨーダに指示されて・・・それにフレールの傍にいろって・・・」
「その言葉のどこに、任務という言葉がある?」
「えっっ!????」
クワイ=ガンは、訳が分からず呆然としているオビ=ワンを尻目に微笑んだあと。
「お前が何か悩んでいるようだったから、マスター・ヨーダにコルサントに戻る前に寄り道をしたいと申し出たのだ。気分転換も必要だったからな。そうしたらマスター・ヨーダが寄り道するなら、アルカスから近いキャッシークが良いとおっしゃったのだよ。それでここに来たのだ」
「な、な、な・・・」
(もしかして・・・やられたぁーーーーーっ!!)
「フ、フ、フレールの傍にいてくれと言うのはっ?」
「フレールを守れとは言っていないだろう?フレールにはお前と遊んでくれと伝えてはおいたが」
(道理でフレールが不思議そうな顔をした訳だ・・・)
「で、では、あの争いの調停とか・・・言うのは?」
クワイ=ガンはニッコリ笑った。
「あれは嘘だ」
「う、う、嘘ーーーーーっ!?」
「お前は、休息を取るためキャッシークに寄ると言ったら素直に聞いたか?きっと自分のことはさておいて、すぐにコルサントに戻ると言ってきかなかっただろう。頑固だからな」
「う・・・・・・」
「たまにはいいではないか」
だんだん怒る気力も失せてきた。マスターも自分のことを思っていてくれたのだ。悪気はなかったに違いない。悪気があっても困るが。
「・・・・・・ありがとうございます」
ようやくお礼の言葉が出る。
そんなオビ=ワンを見てクワイ=ガンは彼の頭を撫でて微笑んだ。
「ようやく元気が出たようだな」
オビ=ワンは溜め息とともに言葉を出した。
「・・・ご心配をおかけしました」
「コルサントまでは長旅だ。ゆっくり休んでいくといい」
「はい、マスター」
クワイ=ガンは瞳を閉じた。
オビ=ワンも眠ろうとして、ふと新たな疑問に捕われた。
(あれ?そう言えばマスターって、どうして僕が悩んでいた理由を聞かないんだろう?あの時・・・夢で・・・って、もしかして、僕の夢の中に出てきたマスターって本物ーー?どういうこと??でも、道理で『街に戻ってこれるな』って、うわぁぁぁぁーーーーっ。すごく素直な自分を見せてしまった・・・)
オビ=ワンのひたすら葛藤する姿に、横にいるクワイ=ガンは寝たふりをしながら笑いを堪えるのに必死になっていたのであった。
余談 ――
コルサントに戻り、マスター・ヨーダに挨拶に行ったオビ=ワンが、真っ先に「わしの問いに対する答えは出たかの?」と聞かれ、慌てふためく一幕もあったらしい・・・
End
(2000年頃執筆)
*ラルラことラルラチーン<Ralrracheen>、フレール<Freyrr>及びショーラン<Shoran>はスピンオフのキャラクターです。
*キャッシーク<Kashyyyk>やルークロロ<Rwookrrorro>の街の描写はスピンオフを参考にしています。ブライダル・ヴェール・サッカー<bridal-veil sucker>等植物や、肉食獣ケックラグ・ロー<kkekkrrgrro>等の動物も同様です。
*ロシュア<Wroshyr>の木に傷や心を癒す効果がある・・・かはわかりません。
*オビ=ワンの両親を登場させましたが、JAで出てきたのかな・・・?ちょっと記憶にありません(汗)
*リーチェ<Rryche>の木、及び惑星ルサエ<Rthae>は架空のものです。ただし、リーチェの木のイメージは桜です。
☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆
裏話的な話は・・・ちょっと思い出せません。どうしてキャッシークを舞台にしたのか・・・?夢見の森というタイトルをただ使いたかっただけ?
そうだ、桜吹雪の中にオビ=ワンを立たせてみたかったのかもしれません。書いた時期がわかりますね(笑)
すごく昔のことなので、記憶が定かではありませぬが(汗)