銀河彼方での物語   作:秋鹿

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第2話 王からの依頼

白亜のベマール石で出来ているその城は、こじんまりとしてはいたが頑丈な造りになっていて、建設した者のこだわりを感じさせる爽やかな建物だった。

クワイ=ガンは今その城の通路を、灯りを持った召し使いと執事に連れられ謁見の間へと向かっていた。

薄暗い内部は、壁に灯された燭台の灯りに照らされ揺らめいているように見える。

しばらく歩いた後、天井につくかと思われる巨大な赤い布に覆われた扉が見えてきた。その回りには煌びやかな豪華な装飾が施されている。

「こちらが謁見の間です。王はここでお待ちです」

年老いた執事が言い、召し使いが扉を開けた。

 

一面赤い絨毯が敷きつめられた、その奥まった場所に王はいた。

「マスター・ジェダイをお連れしました」

執事の声に窓辺に佇んでいた王は振りかえると、玉座に歩みより腰を下ろした。

クワイ=ガンは前に進み出、その玉座に上がる階段の下で跪いて挨拶を述べる。

「ジェダイ・マスター、クワイ=ガン・ジンと申します。要請により参上致しました」

「顔を上げてください、マスター・ジェダイ」

声の若さに内心驚きながらも、クワイ=ガンは頭をあげる。

そこにはまだ30標準歳前半と思われる、彫りの深い顔立ちのくっきりした金髪碧眼の王がいた。

彼は執事達に顔を向けると

「お前達は下がってよい。私はマスター・ジェダイと内々の話があるのだ」

執事と召し使いは一礼して去って行った。

扉が閉まると、静けさが辺りを満たした。

 

ややあって王が口を開く。

「ようこそお越しくださいました。堅苦しい挨拶は抜きにしましょう。貴方を招いたのは他でもありません、この街の様子はもうご覧になりましたか?」

「はい。ここに来る途中に拝見しました」

その答えに含まれる感情を察したのだろう、王は溜め息をつくと続けた。

「その通り。今この街は、テレスト通りを境として東西に分かれ昼夜争いが絶えません。先ほども爆発があったようですが」

「遊技場が破壊されました。死傷者が多数出た模様です」

「そうですか・・・。私がこの街を統治し始めてまだ間も有りません。息子の私から見ても偉大な統治者であった父王でさえ、この争いに心を痛める余り、心労から体調を崩し・・・二年前みまかりました。私の微力な力ではこの争いを収めることができないでしょう。そこで、貴方にお願いがあります」

王は悲嘆に面を染めながら言った。

「貴方にこの争いを収めて欲しいのです。できますか?マスター・ジェダイ」

クワイ=ガンは王の顔をじっと見つめた。そして、微笑を湛えて言った。

「そのために私はこの惑星に来たのです。持てる限りの力を尽くしましょう」

「ありがとうございます」

心からの感謝の念を込め、王は微笑んだ。

 

☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

 

陽が本日最後の煌きを空に放っている。

街が茜色に染まる頃、クワイ=ガンは城から離れた。

「しばらくこちらをお使いください」

小柄な老執事は城からほど近いウェスト側にある一軒家までクワイ=ガンを案内し、入り口を指し示した。

その家は、実際は館と言うべきに相応しく一階建てではあったが、瀟洒な造りになっている。

さぞかし平和な時代であったら、この景色に美しく彩りを添えるであろう石造りの建物であった。だが、今は住む者のない空家と化していた。

「もし不都合なことがあれば、何なりと申し出てください。マスター・ジェダイ」

「いえ、私のことはクワイ=ガンとお呼びください。ジェダイがこの争いに干渉したと街の人々が知ったら、人々の感情を逆撫でするかもしれません。できれば平和的に解決したいのです」

「賢察恐れ入ります。では、そのように致しましょう」

その場を謝し、執事は城に戻っていった。

クワイ=ガンは家に入ると、必要最低限度の家具しか置いていない部屋部屋を見渡した。

(想像以上にこの争いは人々の生活を圧迫しているようだ)

被っていたポンチョを脱ぎ、ベットの傍に置かれた椅子に腰をかけると、彼は今までの話を総合し、頭の中で如何にこの争いを収拾させるか考えを巡らせ始めた。

 

☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

 

同じくその頃。

夕暮れ時、人影もまばらになりつつある街。

一人の者が道端に長い影を落しながら歩いていく。

ふと影は立ち止まり周囲を見渡し、誰も自分に気を止めていないことを確認すると素早く左手に折れた。

細い路地が続く。そこはもうウェストである。

イーストとウェストを隔てる真っ直ぐに南北を横切る大きなテレスト通り。ここは保護区域となっており、ここでは何人たりとも争いを起こすことはできない。

しかし、一歩横道へ入れば別だ。

茶色のローブを纏った小柄な影は辺りを気にし、しかし、確固たる目的があるかのように先へ進む。

黄昏時だというのに人通りは全くない。この時間に外出するような命知らずの者は多くないのだ。

しばらく歩いていると、左手に石造りの建物が密集する中、そこだけぽっかり空いた空間が現れた。

否、空間というのは当てはまらない。建物の名残だ。

かなり以前に爆発で吹き飛ばされたと思しき石造りの家の残骸。基礎や壁は少し残っているものの屋根はすっかりない。

何も無い家の跡地。空虚になって久しい場所。

だが、その人物の足はそこに向かっている。一体何があるというのだろう?

 

廃墟のような跡地に辿りついたそのローブ姿の人物の足が、ふと止まった。

誰もいないと思っていたその瓦礫の山の影から、複数の男達の小声がしたのだ。

かの人物は躊躇った。引き返そうとする。が、その拍子に足元の石を蹴飛ばし、壁に当たる音が静寂に響き渡った。

「誰だ!?」

男達が走り出た。目は血走っているが、一見普通の、どこにでもいるような男達である。特にならず者といった風ではない。

なのに、何故このように殺気走っているのか?この街の荒廃と関係があるのだろう。

「こんな所で何うろちょろしてる?」

「ここは、ウェスト・クテーラだぞ。見かけない顔だな。お前、オレベフじゃないだろ!」

通常争いの多いこの街では、パトロール・ドロイドが宙を浮遊しながら僅かな武器音やブラスターの発射音などを感知し、争いの場所に辿りつくと、逆らう者には攻撃を行いながら取締りを行っている。

しかし、残念なことに、今この付近に浮遊している姿は見られなかった。また、通りかかる者の姿もない。

止める者は誰もいない。

だが、ローブの人物は沈黙を保ったままだ。

男達は苛立ちを隠せず、口々に叫ぶ。

「黙ってないで、何か言ったらどうなんだ!!」

「・・・それとも、口がきけるようにしてやろうか」

振動ナイフ(バイブロブレード)がローブ姿の人物に狙いを定めた。

 

ガラガラッ・・・!!

突如、廃墟と化していた家の壁が豪快な音を立てて崩れ落ちた。

微かな音も逃がさないパトロール・ドロイドが遠くからその音を聞きつけ、現場に凄まじいスピードで到着する。

「オ前達、ソコデ何ヲシテイル?逮捕スル」

「お、俺達は何もしてないぞ!」

ドロイドは機械的な音声で言い放った。

「問答無用ダ」

男達は慌てて逃げ出した。

何かにつけてドロイドが支配しているこの街では、ドロイド ―― 特にパトロール・ドロイドに逆らったら牢獄行きという噂もあるのだ。

あとには、ローブを纏った小柄な者だけがポツリと残された。

 

そこへ、他に誰もいなくなったと見るや駆け寄ってきた影が一つ。

「大丈夫?けがは無かった?」

聞かれて小柄な者は無言で頷く。

駆け寄って来た影はホッとし、それと気づかれぬよう腰のベルトに武器をさすと被っていたフードを取った。

「良かった、無事で」

小柄な者はじりりと後ずさりをし、急に背を向けると脱兎の如く逃げ出した。

「あ、ちょっと、待って!」

走って行くその者のフードが風に煽られ、頭から離れそうになる。慌ててフードを押さえつつ夕闇に消えて行く。

しかし、それを凝視する少年の瞳には、そのフードからわずかに垣間見えた、夕陽に反射してきらめく薄い青紫色をした長い髪の残像がいつまでも残っていた。

(また、会えるかな)

一人ごち、やや彼方を立ち去りがたく眺めていたが、踵を返すと、彼もまた朱が消えかかる宵の街に走り去っていった。

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