銀河彼方での物語   作:秋鹿

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第3話 真夜中の刺客

深夜。皆が寝静まる真夜中。

通常だったら出歩くこともないこの時間帯。しかし、何かを企む者にとっては都合の良い時。

音もなく忍び寄る影が三つ。

それらはある一軒の石で造られた家の前で佇んでいた。

一つの影が懐から何か物を取り出す。それは一見ペンライトのように見えた。

周りを気にし、それからおもむろにスイッチを入れる。その先からレーザービームらしき光が出、そこだけ木で作られたドアに当たった。

その僅かな光は暗黒に棲まう彼らの顔をおぼろげながら照らし出した。

ローディアンが二人、クラトゥイナンが一人。

ローディアン、それは複眼にバクのような鼻、緑色の皮膚をした二本足の種族である。彼らの背中には頭骨まで一本の刺々しい隆起が走っており、指は長くしなやかで先端に吸盤が付いている。

暴力と死に取りつかれているとも言われる者達だ。

そしてクラトゥイナン。

オリーブ・グリーンから暗い茶色にわたるきめの粗い皮膚をした長身のヒューマノイド型種族で、平らで薄い犬鼻、厚い眉の下に暗い目がある。粘り強さと獰猛さ、揺るぎ無い忠誠心を併せ持つ。

 

その彼らにより、黙々と無言のうちに行われる作業。

糸のように細く集約されたその光はシュゥと軽い音を立てつつ円を描き、しばらくして消えた。

影がその円の真ん中を軽く押すと、ドアが丸く切り取られ、人が通りぬけられるほどの穴となった。

一人、また一人と影達はその穴の奥へ消えた。

広い内部に関わらずこじんまりとした部屋が続く。部屋のドアを開け、中を確認しつつ彼らは一番奥まった部屋まで難なく辿りつく。

軋みさえ鳴らさずに音もなくドアを開けると、右手のベットサイドの灯りに照らされ、ベットの上に膨らみが見えた。

彼らはそこに素早く静かに近づき、一人の者が巨大な振動ナイフ(バイブロブレード)を取りだし振りかざすと ――

思いっきり力を込めて振りおろした。

 

「!?」

余りの手応えのなさに慌ててカバーをめくる。

そこには引き裂かれた枕があるだけだ。

「い、いないぞ、どこだっ!?逃げられたか!?」

 

と、部屋の左隅、暗がりから静かな声が放たれた。

「こんな夜更けに客が来るとは聞いていないが?」

驚愕の気配が侵入者から感じられたその瞬間。

ローディアンが一人、全身でぶつかってくる。

それをクワイ=ガンは右に半身で躱すと、振動ナイフ(バイブロブレード)が風を撒いて空を切った。

その突き出された右手首を左手で強く掴み、と同時に伸び切ってスキだらけの侵入者の腹部に、右膝蹴りを食らわす。

うっと呻きながら体を二つに折るその後頭部に、両手で組んだ拳を叩きつけた。

脳震盪を起こし崩れ落ちるローディアンを尻目に、彼の手から零れ落ちたナイフをフォースで一瞬の後に引き寄せつつ、もう一人のローディアンが放った消音(サイレンサー)付きブラスターの光線が、顔めがけて飛んでくるのを紙一重で躱す。

振り返りざま、手首を捻ってナイフを投げた。

ナイフは光のようにビュンッと唸りを上げてローディアンの胸に突き刺さり、勢いで彼の体ごと石壁に串刺しにする。

床に落ちたブラスターをまたもやフォースで手元に呼ぶと、残ったもう一人のクラトゥイナンの胸元に銃口を向けた。

その間、僅か10標準秒。

 

余りの速さに呆然としている暗殺者に

「さて、話してもらえるかな」

クワイ=ガンは穏やかに語りかける。

「な、何のことだ」

訛りがある共通語(ベーシック)だが聞き取れぬことはない。しかし、恐怖の色が混じっているらしく苦労を要したが。

「誰の命令でここに来たのだ?どうして私を殺そうとする?私が誰だか知っているのか?」

「・・・教える必要はないし、・・・聞く必要もないっ!!」

言い放つと、いつの間にか手にしていた丸い物体のスイッチを押した。

 

永遠とも思える一瞬が過ぎたが、何も起こらない。

「言い忘れていたが」

クワイ=ガンは微笑んで言った。

「その熱爆弾(サーマル・デトネーター)の起爆装置は壊れているぞ」

「な、何っ!?」

慌てて自分の右手を見

「くそっ」

途端に床に投げ捨てた。

「俺は何も知らない。教えてもらってもいない。ただ、お前を殺すよう言われただけだ」

クワイ=ガンは無言でブラスターを構え直す。

「ほ、本当だ。何も知らないんだ」

フォースで探ってみる。恐怖と焦燥があるものの確かに何も知らないようだ。

クワイ=ガンは軽く溜め息をつくと、フォースを全身に集め、塊とし投げつけた。

暗殺者は吹っ飛び壁に激しく激突した後、床に倒れ込んだ。

(執事に連絡した方がいいだろう)

気を失っている暗殺者二人を館の物置に置いてあった古びた紐で縛った後、クワイ=ガンは身支度をして城へと向かった。

 

「どうしてあの家に侵入者が・・・」

いまだ寝ぼけ眼で眠い目を擦りつつ、やせ細った執事は問いを繰り返した。

彼は寝ている所をクワイ=ガンに起されたため、身支度する間もなく寝間着の上にガウンを羽織った姿で、クワイ=ガンの後をついてくる。

その二人の後ろを城の警備をしていた兵隊達が数人、執事の指令により歩いてきていた。

「王と貴方以外に、私があの家に泊ることを知っている者はいますか?」

執事は頭を振って眠気を飛ばすと、はっきりと言った。

「いえ、いません。いないはずです」

クワイ=ガンは溜め息を軽くついた。

「そうですか。しかし、昨日、私があの家に入るのを、誰かに見られたかもしれませんね」

しばらく考え込んだ後、執事が口を開いた。

「・・・クワイ=ガン、たまたまあの家に押し入ったら貴方がいて、驚いて襲ったというのは考えられませんか?」

微笑みを浮かべクワイ=ガンは応えた。

「昨日まであの家は空家だったのですよ。そんな空家にドアを焼き切るようなたいそうな武器を持って忍び込む者がいますか?」

「では、一体誰が・・・」

「それを貴方がたに任せようと思っているのです。あの者達から何か聞き出せるかもしれませんからね」

 

目指す館まであともう少しの所。

一瞬、邪悪な気配を感じた。それは刹那のことだったが、クワイ=ガンの心に影を残すには十分だった。

足を止め漆黒の闇を見すかす。この惑星の衛星である月の明りが僅かに辺りを照らしてはいるが、夜は濃い密度を保ち体に纏わりついてくる。

「どうしました?クワイ・・・」

「しっ」

執事が話しかけるのを制し、クワイ=ガンは視覚を鋭くさせた。

途端、何者かが闇に紛れて素早い身のこなしで去っていくのを感じた。クワイ=ガン達が目ざしている正にその館から。

夜、しかも不慣れな街において追いかけても無理だろうと判断し、クワイ=ガンは眉をひそめつつ建物を見やる。急激に嫌な予感が湧き出てくる。

ややあって再び歩み始めると、不思議そうに自分を眺めている執事にポツリと言った。

「今しがた、あの館から不審な人物が去っていきました」

「では、侵入者を助け出しに来たのでしょうか?そうであれば、一足遅かったと・・・」

「いえ、そうとも思えません。その人物は一人で去りました。それに・・・」

急にフォースが危険を告げた。思わず足が止まる。

次の瞬間。

目前の館が大音響を上げて、爆発を起こした。

 

天を焦がさんばかりに炎の柱が上がる。

嵐のように爆風が押し寄せ、クワイ=ガンはフォースを集めると自分と執事、警備兵達の体を覆った。そのフォースを掠めるように瓦礫となった石や木切れが激しい勢いで飛んで行く。

爆風が収まるとようやく彼らは体を起こした。

「こ、これは、一体・・・?」

その後が言葉にならない。年老いた執事は乱れた白髪も気にせず呆然と佇んだ。

「先ほどの者が、熱爆弾(サーマル・デトネーター)を仕掛けたのでしょう。タイマー付の」

顔をしかめながらクワイ=ガンは答えた。

騒ぎを聞きつけ、P・D(パトロール・ドロイド)FF・D(ファイアファイティング・ドロイド)が周辺に駆けつけてくると消火に飛び回っている。

しばらくして執事も何とか立ち直ると

「や、館の中を捜索してきます」

と言い放ち、従っていた警備兵とともに現場に走っていった。

一人取り残されたクワイ=ガンは思案顔で考えた。

(口封じのためか・・・しかし、何も知らない者達だ。殺す必要があるのだろうか。となると、やはり狙いは私か。どうやら、この街にはジェダイがいると都合の悪い者がいるらしい)

苦笑する。狙われるのは慣れている。だが、早く相手を突き止めねば。

でなければ

(私だけではない。私に関わる者にも被害が及ぶかもしれない)

といった深刻な事態に陥る可能性もあった。

(しかし、本当に誰が私を狙っているのだ?しかも気になることがある。昼間の様子から見て、この街にヒューマノイド以外の人種がいるようには思えなかったが・・・)

 

その時、お馴染みの轟音を立てながら1台のスピーダーバイクが現場に到着した。運転していた者はバイクを置くと、つかつかとクワイ=ガンに向かって歩いてくる。

「まぁた、あんたか」

ヘルメットを脱ぎつつ、ベレルガが噛みつきそうな勢いで言った。

「あんたのいる所には、必ず爆発騒ぎが付きまとうな」

暗にあんたがやったんじゃないのか と言いたそうである。昼の時は信用したが二度目ともなるとその信用も脆くも崩れるのかもしれない。

クワイ=ガンは思わず苦笑した。

「私が泊っていた家が爆発させられたのだからな。私がいてもおかしくはないだろう?」

ベレルガは廃虚と化し、ようやく火も収まりつつある館に視線を走らせた。

「あの家に?」

「そうだが?」

今度はまじまじとクワイ=ガンを見つめた。何か考え込んでいる様子が窺える。

そんなくるくると変わる表情を、興味深くクワイ=ガンは見ていた。

沈黙の後、彼女は再び口を開いた。

「あの館は今ではあんなに寂れているが、城から一番近く立派な造りのため、王と深い関わりがある者しか泊れないようになっているはずだ。なのに、何故あんたが?」

「関わりが深いなら、城の中に泊るはずではないのか?」

「そうとも言えない。今あの城には王の部屋しか家具類が置いてないんだ。ほとんど全て、争いに巻き込まれた人民に分け与えたからな」

(そうか、そういうことか。人民を城に迎えることもできたが、さすがに他国の使者が訪れた時に都合が悪いということだろう)

「で、もう質問はいいだろ?何であんたはあの家に泊れるんだ?」

「私か?王からこの星に招かれたからだ」

「何のために?」

クワイ=ガンは肩から提げていた袋を担ぎなおした。ベレルガの視線がそちらに向かう。

「王はこの争いに心を痛めておいでだ。そして、心痛の余り床に臥せがちになられた。そこで、病を良く治すと評判の私を呼ばれたのだ」

ぎっしりと薬の瓶が入っているこの袋。身支度する際持って行くか迷ったが、持ってきて正解だった。

この商売道具はカモフラージュにもなる大事な物なのだ。

「王が、病気にっ!?」

ベレルガは思ったほか深刻な顔つきで考え込んでいる。その顔が必要以上に青ざめていると感じたのは気のせいか。

ちょっとオーバーに言い過ぎたかなと後ろめたく思いつつ、正体を知られないためにもこの方がいいだろうと自分に言い聞かせるクワイ=ガンだった。

 

「クワイ=ガン、やはり残念なことに生存者はいない模様です」

執事が息を切らして駆けてきた。

「おや、ザアーレじゃないか」

白髪頭の執事に気がついてベレルガが驚きの声を上げる。

「おぉ、これはベレルガ様。お久しゅうございます」

この二人の関係が気になりつつも、クワイ=ガンは彼女に微笑みかけた。

「これで、私が王に招かれたことを信じてもらえたかな?」

ベレルガは顔を背けて足元を見つめ、吐き捨てるように言った。

「あんたのやることなすこと、気に入らないな。筋道が通り過ぎていて」

クワイ=ガンは聞いて微笑む。筋道が通っている ―― 確かに彼女の言う通りなのだ。辻褄が合うように脚色しながら説明してきたのだから。

てっきり逆切れされるかと思いきや、全く逆の効果をもたらしたことにベレルガは一瞬唖然とし、それから怒りに赤く頬を染め、いきなり踵を返すと無言で自分のバイク目がけて走り去っていった。

 

「本当は心の優しい方なのですが」

取り成すように執事が言った。

「いえ、気にしていませんよ。彼女は鋭い感性を持っている。いずれ私の正体に気づくかもしれません」

「あの方の父親は、この城の近衛隊長だった方なのです。三年前の暴動で惜しくも亡くなられました・・・。その時、近衛団も解散してしまいましたが、父親の遺志を受け継いで、あの方はこの街の治安を守ろうとしているのです」

「わかりますよ、彼女は冷徹な心の奥底に熱い情熱を秘めている。王は素晴らしい部下をお持ちだ」

クワイ=ガンはニッコリ笑った。

 

「ところで、何か手がかりはありましたか?」

「いえ、全く。どういうつもりなんでしょう・・・この館を爆破して何の得があるのやら」

無言に徹し、クワイ=ガンは敢えて自分の考えを述べなかった。いたずらに刺激しても王に多大な心配を与えるだけだ。

「とりあえず貴方が無事で良かった。また新しい家を探しますので、少々お待ちいただけますか?」

「私は無論構いません。その間に街へ出て情報を得るとしましょう」

執事ザアーレは一礼すると、警備兵を引き連れ城に戻っていった。

(この争いを調停するのは、少々やっかいなことになりそうだ)

またしても、オビ=ワンを連れてこなくて良かったと思うとともに、この任務の先行きに暗雲立ち込めるものを感じた。

(嫌な予感がする)




*エイリアンの画像は以下の通りです。
 ローディアン
【挿絵表示】

 クラトゥイナンの絵は描いていません・・・。
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