銀河彼方での物語   作:秋鹿

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第4話 少女との再会

朝のテレスト通り。

この時間帯だけは武器販売の露天商も影を潜め、変わって様々な食材を売る者達がちらほら見かけられるようになる。ちょっとした朝市のようだ。

その中で、一際人々が集まっている箇所があった。

押しつ押されつ賑わいながら買っている人々の手にあるのは野菜だった。

他にも野菜を売る者がいながら、何故この一角に集まるのだろう?

 

と突然、他の野菜売りが立ちあがり、誰も寄りつかない自分の売り場を離れると、そこに向かった。手には護身用の電気棒を握り締めている。

「どけ」

その男は買い物客を手荒く追い払うと、野菜を売っている者の前に立ちはだかった。

人々は男の剣幕に押されながらも、どうなることかと近くで見守っている。

茶色いローブを頭から被った小柄な者が、座ったまま男を見あげた。

「何でここで売ってるんだ?」

「いつも売ってる。何も悪いことはしてない」

小さな、しかし、澄んだ声が凛と答える。

「お前がいると邪魔なんだよ、この突然変異がっ!!」

その言葉にローブを被った者はビクッと反応する。

「邪魔だ、行っちまえ。行かないと ―― 」

男は電気棒を大きく振りかざした。だが、小柄な者はピクリとも動かない。

引くに引かれぬ男は

「どうなっても知らないからなっ!!」

と言い捨て、棒を脳天目がけて振り下ろし ――

周りから人々の悲鳴が上がり ――

小柄な者が身をすくめ ――

 

突如、男は左横から強烈な衝撃を受けた。振りおろした腕が宙を切り、電気棒が危うく男の足を直撃しかける。

かろうじて躱した彼は、何事かと怒り心頭で睨みつけた。

「あ、ごめんなさい。よろけちゃったんだ」

そこには、すまなそうに謝る一人の少年の姿がある。

よろけたにしては凄まじい勢いでぶつかってきたことにも思い至らず、電気棒が足に直撃しかけたことしか頭にない男は怒鳴った。

「危ないじゃないか、この坊主っ!!」

少年は男を見あげ言った。

「おじさんこそ危ないよ、そんな物振りまわしたら。・・・だって」

ニッコリ笑うと少年は続ける。

「それ、壊れてるから」

「ばかな、先日買って・・・」

と狼狽しながら電気棒を男が見た瞬間、棒からいきなり電気が放出され青い火花を散らす。

「うわわっ」

火花はバチバチ飛び散り、男はスパークする棒をどうしていいかわからず慌てふためく。

「ほらね」

少年は楽しそうにそんな様子を見つめている。

ついに男は棒を放り投げると、バツが悪くなったのか野菜売りの者にも少年にも目もくれず、転がるように走り去っていった。

まだ地面に火花を散らしている電気棒を、通りかかった清掃ドロイド(クリーニング・ドロイド)が拾得物発見とばかりに、すかさず拾い上げ持ち去っていく。

その様子に何となく感心しつつ

「もう大丈夫だよ」

と声をかけ後ろを振り返った少年が見たものは。

主を失った野菜と散らばったクレジット数枚。

売っていた者は忽然と姿を消していた。

(また、行っちゃった・・・)

寂しそうな顔をし、しばし佇む少年の姿があった。

 

☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

 

家のドアが音を立てて閉まり、台所で朝食の支度をしていた女性は何事かと振り向いた。

「どうしたの?」

ドアの前には、茶色いローブを頭からすっぽり被った小柄な者がポツリと立っていた。

女性は一つにまとめた長い黒髪をなびかせ近づくと、しゃがみ込みその顔を心配げに見やる。

「また、何か言われたのね」

かの者はコクリと頷くと、女性にしがみついた。フードがはずれ、美しき長い薄紫色の髪が溢れ出た。まるで止めど無く流れる涙のように。

無言で女性は抱き締めた。

 

その時、閉じたドアから軽いノックの音が聞こえた。

顔を上げると、体を離し女性が言う。

「いいわ、私が出る。あなたは奥にいて」

ゆっくりとドアに近づきしばらく様子を窺った後、彼女は勢い良くドアを開けた。

そこには、手に抱えられるだけ野菜を持った少年が微笑を湛えて立っていた。

「あの・・・?」

不審な眼差しで問いかける女性に、少年は慌てて

「あ、あの、これ、あの子がテレスト通りで売っていた野菜なんです。で、こちらがクレジット、野菜の代金です。置いていっちゃったから・・・」

しばらく考え理解したのか、女性はようやくホッとした表情を浮かべた。

「ありがとう。わざわざ持ってきてくれたのね」

女性の後ろから今のやり取りを聞いていたのだろう。ローブ姿の女の子が顔をおずおずと覗かせた。

それに気づいた少年はニッコリ笑って

「こんにちは。また会ったね」

と挨拶を投げかける。しかし、少女は沈黙したままだ。

「あら、知り合いなの?」

女性は不思議そうに問う。少女は思いっきり首を横に振った。

(う・・・)

ショックを受ける少年を余所に、女性は何事かを察した風に微笑みを見せて言葉をかけた。

「折角持ってきてくれたのだし、あなたもどう?これから朝食なの」

「あ、いえ、そんな。ご迷惑はかけられません」

途端にお腹が鳴る。少年は耳まで真っ赤になってうつむいた。

ニッコリ笑うと女性は少年を家に招き入れた。

 

目の前には決して豪華とは言えないが、美味しそうなパン、サラダ、野菜スープが並んでいる。

「さぁ、どうぞ。お食べになって」

女性は微笑んだ。

「はい。本当にすみません・・・いただきます!」

言うが早く、少年は手を動かし料理を口に運ぶ。その食いっぷりに呆れつつ可笑しさを感じ、女性と少女は顔を見合わせると声を出して笑った。

しばらくして人心地がついたのだろう。少年は二人の視線に気づき慌ててスプーンとフォークを皿に置くと、照れながら言った。

「すみません、昨日からほとんど何も食べていないんです」

今まで無言で食事を取っていた少女が初めて口を開いた。

「あなた誰?テラフでもオレベフでもないでしょ?見たことないもん」

女性も同感だと言わんばかりに小首を傾げ、少年を見やる。

「僕はオビ=ワン・ケノービと言います。昨日の夕方に来たばかりなので、まだこの星のことがよくわからなくて・・・テラフとオレベフって何ですか?」

 

口を開きかけた少女を制し、女性が話し始めた。

「この街クテーラはちょうど丸い形をしているの。その丸い街の南北を貫くようにテレスト通りがあって、今は西と東。ウェスト・クテーラとイースト・クテーラという呼び名で分散されていて、ウェスト・クテーラにはオレベフが、イースト・クテーラにはテラフが住んでいるわ。昔から住んでいた住民達と、この星がコルサントに近いのに排他的であることに目をつけた、世捨て人のような者達が後から来て、両者を区別して前者を先住民(オレベフ)、後者を後住民(テラフ)と呼ぶのよ」

「その・・・先住民(オレベフ)後住民(テラフ)というのは互いに争っているんですか?」

「昔は確かにいざこざがあったけど、今ほどじゃなかった。三年前ある事件があって暴動が勃発したの。それ以来、激しい争いに発展してしまって・・・」

「ある事件?」

「ごめんなさい。今は余り話したくないの」

女性の顔が顕著に曇る。オビ=ワンは慌てて話題を変えた。

 

「あ、すみません。変なこと聞いてしまって。・・・貴方がたはどちらになるんですか?」

「私達は後住民(テラフ)よ。四年ほど前にこの惑星に来たの。あら、ごめんなさいね、自己紹介がまだで。私はリシータ。で、この子が」

その言葉を引きとって少女が言葉を継いだ。

「リアウィステ。リアって呼ばれてる」

「よろしくね、リア」

ニッコリ微笑みながら自分を見るオビ=ワンに、リアはポツリとまるで独り言のように呟いた。

「・・・あなたはリアのこと、他の人みたいに見ないのね」

「えっ?どうして?」

「リアの髪、普通と違うのに・・・」

「うん、最初見た時、驚いた。すごくきれいな髪だと思って」

「それだけ?」

「それだけだよ。どうして?」

不思議そうに見つめるその眼ざしに

「・・・何でもない」

急に居心地が悪くなったのだろう、リアは席を立つと

「ごちそうさま」

と言って家の外に出ていってしまった。

不意に家の中が静けさを取り戻す。ややあってリシータが言う。

「オビ=ワン、リアと仲良くしてあげてね。・・・あなたにだったらあの子、心を開くかもしれない」

「?・・・はい。でも、僕を信用してくれるんですか?今、会ったばかりなのに」

「そんなに澄んだ瞳をしているんですもの。信用するわ」

リシータは儚げに微笑んだ。大人の女性にそう言われ、オビ=ワンは頬を赤く染めると、照れ隠しのために再び食事に専念した。

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