銀河彼方での物語   作:秋鹿

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第5話 触れあう思い

食事を終えるとオビ=ワンは家の外に出て、リアの姿を探した。

彼女はほどなく見つかった。腰まで達するかという薄い紫色の長い髪を後ろで軽く三つ編みにし、一生懸命、目の前の畑で水撒きを行っていたからだ。畝の間にスプリンクラーのような装置が転々とし、畑の隅にある装置のスイッチを入れると一斉に水を放出する。

日の光を浴びてきらきら輝く水は命の水となり、畑に生育している野菜に降り注ぐ。野菜はその恵に喜び、小刻みに体を震わせているように見える。

 

オビ=ワンはリアに近づくと声をかけた。

「すごい畑だね。これ君の家の?」

「そうよ」

あくまでも仕事に専念しつつ少女は応えた。でも、他の者に対するほどの冷たさはない。オビ=ワンには心を許しているのか?

逆にリアが訊ねた。

「よく家がわかったね」

「君が売っていた周りの人達に聞いたんだ、家の場所を」

「場所だけ?他に何も言ってなかった?」

「いや、別に」

何事かを考えるようにリアは沈黙する。無言のまま水分放出機を止めると畑に向かった。オビ=ワンも慌てて後をついていく。

 

畑にしゃがみ込み、生えている雑草をむしりながら、ようやくリアは口を開いた。

「・・・リアは特別へんいなんだって」

「とくべつへんい?」

突然の聞き慣れない言葉にオビ=ワンは意表を突かれ、ただ鸚鵡返しに訊ねた。

「いでんしの情報が変化して、急に両親とはちがう固体になること」

「む、難しいこと、知ってるんだね」

リアは勢い良く雑草を引き抜いた。まるでそれ自体に怒りをぶつけるように。

「だって、リアを見た人は必ず言うんだもの。特別へんい、いでんしが変わったんだって」

「違うようには見えないけど」

「・・・このかみの色。普通の人じゃないって。でもリアが特別へんいじゃないのに」

「?・・・お母さんの髪の色は黒だね」

「ママ?そうだけど。あぁ、違うの。リシータはママじゃないの」

「えっ?違うの?」

「だってリア、10標準さいだよ。リシータは24標準さいだもん。リシータはね、ママの妹なの」

「じゃ、お母さんは?」

「・・・三年前死んじゃった」

「ごめん・・・」

 

つかの間、沈黙が全てを支配する。

オビ=ワンは困惑して、かけるべき言葉を必死に考えた。そんな彼の心を知ってか知らずか次に言葉を発したのはリアだった。

「あの場所ね・・・ママのおはかなの」

「えっ?」

不意に会話が飛んだため、オビ=ワンは頭を目まぐるしく回転させ記憶を辿る。ついにそれに相当する場所が見つかった。リアと最初に出会った場所だ。

「あの・・・ウェスト・クテーラにあった、壊れかけた家のこと?」

「そう。あの家にはリアとママが三年前まで住んでいたの。リシータは四年前ここに来たって言ってたけど、あれはうそ。四年前この星に来たのはリアとママ。リシータは体が弱いから、昔からここで野菜を作っていたんだ。だれにもかんしゅう・・・かんしょ・・・」

「干渉?」

「そうそう、かんしょうされなくて気持ちが楽だからって。それに街の空気、特によごれている空気が体に良くないから街のはずれにいるの、とも言ってた」

「・・・」

「・・・でね、三年前ママがあの家で殺され、家がばくはされてから、あの家がママのおはかになったの。ママの体、ドロイドに持ってかれちゃったから・・・」

またしても会話に飛躍が生じた。この飛躍はリアが言いたくないことを隠すために使うのだと、オビ=ワンは薄々感じ始めた。

「それで、あの時もあそこにいたの?」

「時々さびしくなるとあの家に行くんだ。先住民(オレベフ)側にあって危ないけど、ママに会うために」

なんとなくわかる気がした。形見も何もない状態で、唯一あの場所だけがママを思い出させる心の拠り所なのだろう。あの壊れた廃墟だけが。

 

少しずつ移動しながらリアは無心で雑草を引き抜いていた。だが、オビ=ワンは彼女の中に誰にも悟られないようにしまい込んだ、哀しみの感情を見た。

「この街ってドロイドが多いんだね」

自分でもあまり冴えた会話のかわし方じゃないなと内心苦笑しつつ、オビ=ワンは話題を変えた。

「うん。P・D(パトロール・ドロイド)FF・D(ファイアファイティング・ドロイド)C・D(クリーニング・ドロイド)。でも、争いで死んじゃった人を片づけるドロイドもいるし、人を殺すドロイドもいるよ」

「本当に!?」

「この街はね、人からかんしょうされるのが嫌いな街なの。だからドロイドが多く使われている」

「そんなものなのかな・・・?」

少年は割り切れない物を感じながら言った。街それぞれ個性がある。それはその街の歴史でもある。それでも・・・

(それでも・・・寂しくはないのかな。人との関わりがない街なんて)

 

突如リアが意を決したように顔を上げると、オビ=ワンの顔を真剣な眼ざしで見つめた。

「それより、あなたジェダイ?」

「えっ!?・・・どうしてそう思うの?」

オビ=ワンの心臓が早鐘のように鳴る。フォースを使うのは極めて限定した。バレるはずなんて・・・

「だって、この前も今日も不思議な力を感じたもん。少しだけだけど」

「君もフォースを感じられるの!?」

「フォースっていうんだ、その力」

(げっ・・・しまった。つい・・・)

オビ=ワンは呼吸を整え平静さを取り戻そうとする。本当のことを言うべきか、言わざるべきか ――

真摯な視線に耐えかねて、彼は口を開いた。

「僕はジェダイじゃない。確かにジェダイを目指していたけど、フォースが弱くてなれなかったんだ。ジェダイになれない者は農夫になるしかなくって・・・。で、僕はこの星に農夫として来たんだ。この星の食糧不足をなくすために」

ちょっとオーバーに言い過ぎたかなと後ろめたく思いつつ、正体を知られないためにもこの方がいいだろう、だって、クワイ=ガンのパダワンになれなかったら本当に農夫になるところだったし。きっと、マスターだったらこのように対応したはずだと自分に言い聞かせるオビ=ワンだった。

「なんだ、ジェダイじゃないんだ。ジェダイだったらリアのパパのこと、知ってるかと思ったのに」

「リアのお父さん、ジェダイなの!?」

「パパはジェダイだから銀河を飛び回っているのよって、いつもママが言ってた。あなたの髪の色もパパそっくりねって。でもリアはパパのことを覚えてない。パパを探すためにあちこちに行ったけど見つからなくって。リアのこともあって疲れたママはこの星にやってきたの」

「そうなんだ・・・」

悲しげな表情をする少年に、元気づけるようにリアは明るく言った。

「でも、オビ=ワン。農夫ならリアの畑を手伝ってくれるよね。いい?」

 

☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

 

夕食の後片づけをしながら、リシータが言った。

「オビ=ワン、もし行くあてがないのなら泊っていってもいいのよ」

「そ、そこまで甘える訳にはいきません」

それを聞いてリアがニヤニヤしながら意地悪く言った。

「じゃ、行くあてがあるんだ」

「う・・・」

「遠慮せず泊っていきなさいな。私達も男の人がいた方が気が休まるもの。家にいても安全とは限らないのよ、この街では。それに夜は特に危険なの。外に出る人はほとんどいないわ」

「僕、まだ子供ですけど・・・」

「大丈夫、あなた、しっかりしているから」

微笑みさえ漂わせているリシータの言葉にオビ=ワンは一瞬頬を赤く染め、それから真剣な瞳で訊ねた。

「この街には治安を守るものはいないんですか?そういった組織とか」

「今は全く麻痺しているわ。P・D(パトロール・ドロイド)だけが見回りを行い、異変があるとセンサーで関知し駆けつけてくるけれど、彼らには処理能力はないの。以前だったら、そのP・Dが集めたデータを処理し、事件の内容や原因・犯人を特定していったのだけど、争いが起こると真っ先にそういった組織は壊滅させられたものだから」

先住民(オレベフ)の人達って、そんなにひどいこと行ってるんですか?後住民(テラフ)に対して」

「リアから見れば先住民(オレベフ)後住民(テラフ)も同じだけど」

「・・・先住民(オレベフ)は集団で襲うの、人や家々を。彼らが去った後には殺戮のあとしか残ってない。血も涙もない人々よっ」

リシータは肩を震わせた。

「現に姉だって・・・姉だって・・・っ」

「ごめんなさい、あなたを悲しませるつもりはなかったんです。ただ・・・争いを終わらせられないかと思って」

「無理よ」

「それは無理ね」

「無理なんですか?」

リシータは俯いたまま言った。きっぱりと。

「ここまで争いが激化するともうだめ。この争いは誰にも止められない。誰にも」

 

☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

 

夜、皆が寝静まった頃。

不意に妙な気配を感じオビ=ワンは目を開けた。すぐさま頭をはっきりさせる。気配はまだ漂っている。

(この家からじゃない)

それに気づきしばし安堵する。だが、胸騒ぎを感じさせる気配。邪悪な感情。

オビ=ワンは隣りの部屋で寝ているリア達を気づかいそっとベットから身を起すと、身支度をし、家の外に出た。

月(衛星)が辺りを明るく照らしている。畑の野菜も光を浴び青白く染まっている。

オビ=ワンは腰のライトセーバーを確認すると、気配が立ち込めている場所に小走りで音も立てずに駆けていった。

と急に立ち止まり、家の物陰に隠れると息を潜める。

道の右手にある大きな家から、複数の影が飛び出てきたからである。彼らは手に何かを抱え忍びやかに去っていく。

(一体、何者なんだ?)

彼らが視界から消え失せたのを確認するとオビ=ワンはその家に走り寄り、少し開いているドアから中を窺う。

勿論何があっても良いように、僅かにフォースを伸ばしながら。

中を垣間見た途端

(うっ・・・)

オビ=ワンはしばらく絶句した。

中は荒らされ、椅子やテーブルが転がっている。

壁には切り傷がつき、カーテンは切り裂かれ、金目の物はほとんどなくなっているようだ。そして。

かつて人だった原形を留めないほどの肉片が、床一面を染める血の池に浮かんでいる。転がる手や足が辛うじて元の姿を推測させる唯一のものだった。

(どうして・・・こんな・・・ひどいことを)

ショックを受けて思わず後ずさる。膝はガクガク震え、口の中に苦いものが込み上げてくる。

オビ=ワンは吐き気をなんとか堪えると、心を落ち着かせようとした。

息を数回吐き出し、だんだん気持ちが落ちついてくると、おもむろに腰からライトセーバーを取り出し起動させる。

光は、青ざめたオビ=ワンの顔をますます青く見せた。

彼は家の周りを囲む塀に向けて、セーバーを切りおろす。

ガラララ・・・ッ

轟音とともに衝撃が夜の静寂を走る。

異変に気づいたP・Dが音の元に飛んでくるのを感じつつ、あとはドロイドに任せるためオビ=ワンは急いでその場を去った。顔を悲憤に染めながら。

そんな彼の様子を、暗闇からそっと眺めていた影があったことにも気づかずに。

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