銀河彼方での物語   作:秋鹿

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第6話 忍び寄る危機

「お早うございます・・・」

「お早う、オビ=ワン。昨日はゆっくり眠れたかしら?」

「は、はい・・・」

嘘だ。昨夜はあの一件以来、全く眠れなかった。目をつぶるとあの惨劇の様子が瞼の裏に蘇る。食欲もはっきり言ってない。

「あの・・・リアは?」

「あの子ならテレスト通りに出かけたわ。今朝取った新鮮な野菜を売りに」

「昨日あんなことがあったのに?」

「何があったか知らないけれど、あの子は強い子よ。私とは全然違う・・・」

「え?」

「何でもないわ。それより朝食は?食べるでしょ?」

「すみません。ちょっと食欲がなくて」

「もしかして、あの事件を情報端末のニュースで見たの?」

「あの事件?」

「昨日の夜、もう深夜といってもいい頃だけど、ここからちょっとしか離れていないネイガントさんの家に先住民(オレベフ)が強盗に入ったらしいの。すぐさまP・Dが駆けつけたけど、悲惨な状況だったらしいわ・・・あ、ごめんなさい。余計に食欲をなくしてしまったかしら。大丈夫?顔が青いわ」

「だ、大丈夫です。ちょっと外の空気を吸ってきますっ」

オビ=ワンは言い放つと、慌てて外に飛び出た。

 

青い空が広がり、澄み切った朝の風が頬に心地よい。瑞々しく茂った畑の野菜が涼風に揺られている。

深呼吸を何回か行うと、ようやく気分がすっきりしてきた。

(まだまだダメだな、こんなんじゃ。ジェダイらしくない)

深い深い溜め息を漏らす。

「どうしたの?」

「うわっ」

戻ってきたリアの気配に全く気づかず、オビ=ワンは驚きの声を上げた。

「そんなに驚かなくてもいいのに」

「ごめんごめん。全く君の気配に気づかなかったものだから」

「だめね、そんなんじゃ。あなた本当にジェダイ?」

呆れたようにリアが鋭い言葉を発する。オビ=ワンはしどろもどろになりながら慌てて応えた。

「ち、違うって、昨日言った・・・」

「昨日の夜、リア、あなたを見たの。ネイガントさんの家の近くで。あなたきれいに光る武器出したでしょ。あれジェダイの武器でしょ?」

心臓がキュッと音を立てて縮まるような気がする。顔が青ざめた。

「あ、あの場に君もいたの?」

「あなたが家を出る気配がしたものだから、気になったの。それで後をつけたわけ。大丈夫だった?気持ち悪そうにしてたけど」

(みっともないところを見られた・・・)

「そんなに落ち込まない。元気だしなよ」

(どっちが年上かわからない・・・)

ますます落ち込むオビ=ワンに、リアはニッコリ笑いながらパンパンと肩を叩いて励ますのであった。

 

(でも、僕の隠した気配に気づくってことは、そうとうフォースが強いんだろうな)

「本当にリア、フォースが強いんだね。まだ10標準歳なんだよね?なら急げば可能性があるかも」

「何の?」

「ジェダイのパダワン ―― 弟子ってことだけど ―― になれるかもしれない」

「リアがジェダイになってどうするの?」

「そうしたらお父さんを探すことができるかもしれない、ね?」

「パパを・・・?でも、ジェダイになるって大変なんでしょ?」

「君ぐらいフォースが強ければ大丈夫だよ、多分」

「リアがジェダイ・・・。そしたらパパに会えるかも・・・。でもリア、リシータを置いてはいけない・・・」

「そうだね・・・」

オビ=ワンは寂しそうに微笑んだ。

 

「ねぇ、どうやったらフォースを使えるの?」

「君がいつもやっている方法を使えばいいんだよ」

「いつもやっている方法?」

「野菜を育てる時に君は意識しなくてもフォースを使っているんだ。だから野菜がおいしくなって、多くの人達が買いに来るんだよ」

「リアはただ、一つ一つの野菜に愛情を込めて世話しているだけだよ」

「そう。フォースを使いこなすには集中力が必要なんだ。それを君は実践しているって訳」

「集中力ね。わかった、ありがとオビ=ワン」

リアは輝くばかりの美しい笑顔を見せた。

 

☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

 

後ろから規則正しいエンジンの音が風に乗って流れてくる。

それはテレスト通りを南下するクワイ=ガンの後を、一定の距離を保ちながらぴったりついてきていた。

彼は思わず苦笑した。

音の主はわかっている。声を掛けにくいのだろう。そろそろこちらから助け船を出してやった方がいいのかもしれない。

クワイ=ガンはゆっくりと振り向いた。

「や、やぁ」

スピーダーバイクに跨ったベレルガが、慌てて手を上げて挨拶した。

「買い物かな?」

「い、いや、たまたまあんたを見かけたから。その・・・一昨日はひどいこと言ってごめん。あたしも爆破事件が多くてイライラしてたんだ」

「別に気にはしていないが」

「それは良かった」

心からホッとしたような声を漏らし、ベレルガはバイクから降りた。

クワイ=ガンの横に並ぶと、スピーターバイクを引きながら歩調を合わせ歩き始めた。ただ少し大股気味にはなったが。

しばらく無言のまま歩く。どうやらベレルガは今までと打って変わって話しにくそうだ。

 

逆にクワイ=ガンから話の口火を切った。

「昨日も爆発があったようだな」

「ああ、3件ほどね。しかも1件は図書館(ライブラリー)だぜ。あんな所に何の脅威があるってんだ?後住民(テラフ)の奴等、全く手加減というものを知らない」

吐き捨てるようにベレルガが言う。彼女自身、自分の力が及ばないことをいまいましく思っているのかもしれない。

「今まで多くの爆破事件があったと思うが、犯人は捕まっているのか?」

「全くだね。そういった事件を調査し、犯人を逮捕する組織は、真っ先に破壊されたんだ。野放し状態だよ」

話の焦点がこの争いに向いている今なら、聞くチャンスかもしれない。

クワイ=ガンは一番聞きたかったこと、この先住民(オレベフ)後住民(テラフ)の争いの元となった原因を聞くべく、話を振った。

「そうか。・・・ところで、三年前に何があったのだ?」

ベレルガは不思議そうな顔つきをし、しかし、暗い表情を浮かべながらも素直に答えてくれた。

「商人なのに変なこと聞くね。ま、いいけど。・・・ちょうど三年ぐらい前に、一人の先住民(オレベフ)が街で複数の後住民(テラフ)に殺害されるって事件があったんだ。しかもその先住民(オレベフ)は現王の母君でさ。王家はこの街 ―― 特に先住民(オレベフ)にとって街の象徴だったから民衆は怒り狂ったんだ。・・・それで、後住民(テラフ)の人々と争いが始まったんだ」

後住民(テラフ)に復讐したのだな?」

彼女は辛そうに頷いた。黄色味がかかった赤い髪がサラサラと揺れる。

「あの時、民衆の心は狂ってたからね。結局、犯人は捕まらないし、後住民(テラフ)たちも、誰もかれも知らないと言い張って犯人を差し出そうとしない。かくまっているんじゃないかって疑い、何十人何百人という後住民(テラフ)の人々を殺したんだ」

「それが今にまで尾を引いている ―― と」

「ああ」

クワイ=ガンは一瞬ジェダイ・マスターの顔つきに戻ると、さりげなく、しかし、慎重に訊ねた。

「敢えて聞くが、この争いは終わると思うか?」

「無理だね。こうなったら誰にも止められないよ」

 

重苦しい沈黙のみが存在した。

テレスト通りには相変わらず武器の露天商が並び、威勢の良い掛け声が飛びかわっている。また、その露天商めがけて客が集まっていた。

そんな中、二人は黙々と歩いていた。

ベレルガが独り言を呟くように言った。

「あたしさ、三年前、近衛団が解体しちまった時に、近衛隊長だった父さんの遺志を受け継いで、この街を守って行けるって自信があったんだ。でも、浅はかだったよ」

いささか自暴自棄気味な彼女に、クワイ=ガンは元気づけるかのように微笑を浮かべた。

「それでも必死に守っているのだろう?この街を。命がけで。執事のザアーレにも言ったことがある。王は素晴らしい部下をお持ちだとな」

「素晴らしい部下ってあたしのこと?」

「他に誰かいるかな?」

クワイ=ガンは微笑んだ。

一瞬、頬を染めて照れを見せたベレルガだったが、それを隠すように慌てて口を開いた。

「そ、そうだ、あたしの仲間を紹介するよ。あたしと同じようにこの街を守りたいっていう、命知らずな野郎どもをね」

 

まだ情報が少なすぎる。そう考えクワイ=ガンはベレルガに付いていくことにした。

誘われるまま右手、ウェスト・クエーラの細い路地に入り込んだ。

しばらく歩くと広場、と言ってもそれほど広くない、どちらかと言えば空き地と言った方が的確な場所が見えてくる。

そこには何台かのスピーダーバイクと男達が屯っていた。

「何もない時はあいつら、あそこにいるんだ。で、好きなバイクの手入れや改造をしているって訳さ」

ベレルガの説明にクワイ=ガンは静かに頷く。

向かってくる二人に気づいたのか、男の一人が声を掛けてきた。

「よ、ベレルガ。その男は?」

「つい先日知り合った薬の商人で、クワイ=ガンって言うんだ。で、クワイ=ガン、こっちがセニス家の名立たる四人兄弟さ」

クワイ=ガンは会釈をした。ベレルガが引き続き言葉を継ぐ。

「これが長男のロイことナプロイサス」

逞しい二の腕を見せ力を誇示する長男。

「で、そっちの神経質そうなのがディルことディルフォダ」

「神経質そうで悪かったな」

と苦笑しながら、しゃがみ込んでバイクを磨いている男がポツリと呟いた。

ハハハと口を開け、ベレルガは紹介を続けた。

「セニス四兄弟一の美男、クーンことサシクーン」

「どうも」

額にかかる髪をかきあげつつ優男が挨拶を返す。

「最後に、まだまだやんちゃなジョンことクイルジョン」

「こんにちはっ」

まだ青年にも達していないだろう年齢の少年が立ちあがって、ぴょこりとお辞儀をした。

「セニス家も代々、近衛として王家に仕えていたんだ。で、三年前から一緒にこの街を平和にするために闘っているのさ」

一通り男達を眺め渡し、クワイ=ガンは感心して言う。

「頼もしい男達だな」

「だろ?だから、あたしも逞しくなるって訳だ」

男達の間から笑いが上がった。つられてベレルガも笑い出す。クワイ=ガンも微笑みを見せた。

 

が、突然、その笑いが凍りついた。

彼らがいる空き地を囲み、何十体という、しかも見たことのないドロイドが突然降って湧いたように現れたのだ。

 

高さは1m80cmほど。頭は逆三角形をし、両隅に複眼のような目がついている。首は細く、胴部と腹部とは関節のような部位で繋がっている。

腹部の脇から生えるように二本の足が出、しかも、くの字に曲がり長い足の甲へと伸びている。

そして手。胴部から生えるその手は、それ自体曲線を描く鎌となり獲物を求めている。

ざっと見て20体ほど。

 

「シクル・ドロイドだっ・・・」

ベレルガから思わず漏れた叫びを聞きとがめてクワイ=ガンが訊ねた。

「聞いたこともないが」

後住民(テラフ)狂った科学者(マッドサイエンティスト)がいるんだ。そいつの工場で生産している。鎌が見えるだろ?だから、あたし達は鎌ドロイド(シクル・ドロイド)って呼んでるんだ。しかも厄介なことに、あの体、ブラスターが利かない。撥ね返してしまうのさ。それにすごい跳躍力を持っている。3mは軽々跳ぶね。付け加えてあの鎌ときた」

「では、こちらに攻撃してくるとなれば、あの鎌と跳躍だけが脅威となる訳だな」

「まぁね。でも、あんまり甘く見ない方がいい。奴等にはもう何十人と殺されているんだ」

「そのドロイドが何故ここに?」

「きっとあたし達を()りにきたんだ。ついに目障りになったんだろうよ」

男達が口々に声を上げた。

「ベレルガ、すっかり囲まれているぜ」

「どうする?」

こんな事で弱腰になるようなベレルガではないことは皆、承知していた。ただ指揮をとってもらいたかったのだ。

「どうするもなにも・・・強行突破しかないだろっ!!・・・クワイ=ガン、すまないね。あんたを巻き込んじまって。あたし達が逃げ道を作ったらすかさず逃げて(いって)くれ」

 

(もう潮時だな。これ以上ライトセーバーなしでは闘えまい)

「いや、私が道を切り開く。道が出来たら君達こそ逃げるんだ」

「無理だよ、あんたじゃっ!!」

「ただの商人ならそうだろう。だが、私は違う」

クワイ=ガンは、今までポンチョに隠れていたライトセーバーを腰から抜き放ち起動した。

美しい碧色に輝く光が皆の目を射る。

「あんた・・・やっぱり」

「私が合図をしたら行くんだ。いいな?」

有無を言わさぬ迫力にベレルガは思わず肯く。

円陣を組みドロイドに睨みをきかせているバイク達の前に静かに歩を進めると、クワイ=ガンはライトセーバーを右に構える。

ドロイドが一斉に鎌を振り上げ、この中で一番手強そうな獲物に襲いかかった。

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