銀河彼方での物語   作:秋鹿

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第2話 勇み足の代償

瞬間、一人の男が積み上げられた木箱の上から胸を押えたまま転がり落ち、1秒ほど遅れて相次いで三人もの影が地面に音を立てて倒れ込んだ。

苦痛に満ちたうめき声が広がる。

何が起きたかのかわからないと呆然とした表情を浮かべていたボスが、目を凝らし闇に浮かぶ青い棒状の美しき光を見とめた。

「ジェダイだ!!こいつ。くそっ、やりやがったな」

怒号が巻き起こり、ますます殺意が濃くなる中、意に介せずオビ=ワンは静かにライトセーバーを構えていた。

ブラスターの光線を打ち返し他の者に当て、返す刃で三人の腕を構えたブラスターごと切り落としたのだ。痛いだろうが仕方がない。こうでもしなければ自分の身が危ない。

しかし、今はフォースが彼と共にある。それだけで安心できた。

 

「やっちまえっ!!」

その声に弾かれたように、四方八方からブラスターの光線がオビ=ワン目がけて発射される。オビ=ワンは打ち返し、または跳躍してかわした。

セーバーで撥ね返された光線が天井のライトを吹き飛ばし、辺りは一面の暗闇となった。微かに壊れた入口のドアから光が漏れている。

青く光るライトセーバーは、どこからでも良く見え格好の的になっていたが、オビ=ワンは攻撃を避けつつ暗闇から飛来する光線の発射元を見極めた。フォースを研ぎ澄ませれば、漆黒の闇など何てことはない。

(あそことあそこにいる)

オビ=ワンはライトセーバーのスイッチを切り、空に高く跳躍し宙返りして木箱の上に静かに着地する。

「どこだっ!!奴はどこに行ったっ」

青い光を見失った奴らが右往左往しているのが感じられた。

フォースを自らに集め、暖かい気流が体中を見たすのを思い浮かべるとオビ=ワンは手をかざした。

倉庫の隅に転がっていた擦り切れた鎖が、目指す二人に蛇のように襲いかかる。

「うわぁっ」

不意を衝かれた二人は悲鳴を上げたが、鎖は彼らにニ重三重と巻きつき体の自由を奪った。その中の一人が『ザーロブ』と呼ばれた人物であることをフォースを伸ばして確認し、オビ=ワンはホッとした。

(彼は僕を助けようとしてくれた。殺したくないし、傷つけたくもない)

残りは・・・四人。

 

辺りの気配を探る。四人は床にいるらしい。ブラスターの攻撃は止んでいる。彼らは完全に敵を見失ったのだろう。

オビ=ワンは闇を透かし下を覗き見た。呼吸が荒い。

(フォースを使いすぎたからかな?これじゃ、マスターに怒られてしまう)

無言で眉をひそめ自分を見ているクワイ=ガンの姿が思い浮かんだ。

(だめだ。体力をつけないと)

溜め息が零れる。しかし、その思いを振り切り、今に集中した。

(今、この戦いに集中するんだ。彼らがいる場所は大体わかっている。早く片づけないと。マスターが心配しているかもしれない)

オビ=ワンはとんぼを切って、膝を曲げ音もなく床に飛び降りた。

 

攻撃に転じようと立ち上がった瞬間

(あ・・・れ・・・?)

頭がクラッとし、足がよろめいた。思わず右手に力が入り、ライトセーバーのスイッチが入ってしまう。

突然現れた青い光に、

「いたぞっ、あそこだ!!」

再びブラスターの光線が飛び交う。

(しまったっ)

急いでセーバーを構え応戦する。だが先ほどに比べ体に切れがない。

(何かおかしい・・・?)

フォースを使って原因を探ろうとしても、その暇も惜しいほどレーザーが向かってくる。しばし撥ね返し、突如、彼は宙に飛び上がった。

一回転するとともに奴らの背後に降り立ち、セーバーを横薙ぎに一閃する。

「うわぁぁ」

のた打ち回る二人の密売人を余所に、オビ=ワンはすかさず前方に走り出た。目にも止まらぬ速さで反対側にいた人物に切りかかる。

「ぐわっ」

 

何時の間にかオビ=ワンは一人だけ残った影の正面に立ち、彼の首元にライトセーバーの刃先を向けていた。

「無駄な抵抗はしない方がいいよ」

オビ=ワンはニッコリ笑って言った。

「痛い目にあいたくなかったら」

「・・・何が望みだ」

内から溢れくる恐怖をどうにか押え、ボスは声を絞り出した。

「あなた達のことを知りたいんだ」

「知って・・・どうするんだ?保安部隊に訴えるんだろう?」

ドスを利かせたつもりだったようだが、微妙に声が震えているのがわかる。

「それは、内容しだいだね」

オビ=ワンはニッコリ微笑む。

 

ボスは考え込んだ。どう無事にここから逃げようか思案しているのかもしれない。

この中で彼が一番事情に通じているだろう。

オビ=ワンはそう考え最後に残したのだ。

無言で見守るうちに、だんだん息苦しくなってきた。沈黙のプレッシャーに耐え切れなくなった訳ではない。何かがおかしい。

頭がふらふらする。体が火照ったように熱い。気を抜けば視界に霞がかかってくる。

(そういえば、昨日から熱があったような気がする・・・)

続けざまに任務が続いた上に休息の時間もなかったからだろう。

でも、マスターには言えなかった。

ジェダイたるもの、任務が続いて当たり前なのだ。

こんなことでマスターを煩わせたくなかったし、マスターに体力がないなと呆れた顔をされるかもしれないと考えるだけで怖かった。

(早く終わらせよう。このまま彼をマスターの元に連れて行くか、逃げられないようにしておけばいい)

 

その時、危険を感じた。纏っていたフォースの導きにより、意図せず右に体をかわす。

「つぅっ」

いや、かわしたつもりだったが、思ったより体がついていかずブラスターの光線が左のふくらはぎをかすったのだ。

熱い痛みが全身を走りぬける。その痛みに気を取られた瞬間、激しく振り下ろされた拳で右手を叩かれ、思わずライトセーバーを取り落とす。

目の前に銃口がつきつけられた。

「形勢逆転だな」

ボスは可笑しそうに安堵の響きを感じさせながら言う。

背後にも殺意を感じる。先ほど右腕をプラスターごと切り落としたのに、何故その痛みに耐えられるんだ?

「驚いたろ」

背後の敵はゆっくりと体を起こした。

「俺の手は人工義手でね。機械の手を切り落とされても痛くも痒くもないのさ。やられたふりして機会を窺っていたんだ」

オビ=ワンは心を落ちつかせようと試みた。

(考えろ、何か活路があるはずだ)

 

後ろから近づく気配がする。

オビ=ワンはフォースをかき集めると、左のふくらはぎに送った。徐々に痛みが和らぐ。

「おい、逆に俺が聞く番だ。誰の命令でここに来た。何を探っている?」

「さぁ?」

肩をすくめ余裕の笑みを見せるオビ=ワン。

何故まだ余裕があるのか、何か俺達の知らない切り札を持っているんじゃないかと、ボスがたじろいだその時。

オビ=ワンの手が素早く動いた。

右手が振られると、引き寄せられた青い光にボスの持つブラスターの銃口が切り口鮮やかに切断され、同時に後ろから飛んできたブラスターの光線が、発射した本人に跳ね返された。

声もなく敵は倒れる。

ボスに対峙しようと、振り向いたオビ=ワンの右肩が突然焼けつく激痛に襲われた。

弾みで吹っ飛び、倒れ込む。手から離れたライトセーバーが彼方に転がった。

ボスがブラスターを構えたまま歩み寄ってくる。

「予備のブラスターだ。残念だったな」

オビ=ワンは左手で肩を必死に押さえながら、相手を見あげた。

光線が貫通した右肩からズキズキと痛みが激しい波のように押し寄せる。

歯を食いしばり痛みを堪えるが、その押さえる左手が震え始める。

「勝負あったな」

ブラスターの銃口はオビ=ワンの頭に狙いをつけた。

 

熱と肩の痛みにより、オビ=ワンは意識を保つのが難しくなってきた。

それでも敵を睨みつける。最後の力を振り絞って。

不意に、倉庫のドアがギッと音を立てた。

ハッとそちらに注意を走らせたボスは、一瞬後には、軽くなった右手を驚いて見つめる。

フォースによって飛ばされたブラスターが、乾いた音を立てパーマクリートの床を転がった。

「くそっ!!」

巨大な体躯のボスは、いきなりオビ=ワンにのしかかると、首に両手をかけた。

一瞬にして酸素の供給が止まる。

肺が酸素を求めカッと熱くなり、心臓がまるで頭にあるように激しい動悸が体全体を揺さぶる。

何とかして空気を吸い込もうと喘ぐが、無駄な努力と言わんばかりに、より一層ボスの手が首に食い込んだ。

周囲が暗くなり光景がぐるぐると渦を巻き始める。

(このまま・・・じゃ・・・殺される)

しかし、そう思う間も意識は遠のき、深い闇に包み込まれそうになる。

ついにボスの手を剥がそうともがいていたオビ=ワンの左手が、力なく床に落ちた。

 

瞼が閉じられた青白い顔を、ボスは覗きこむ。

(殺ったか?)

緊張を緩めたその瞬間、強烈な勢いで胸を押され、ボスは5m後方に飛ばされた。

音を立て地面に激突しつつ痛みに顔をしかめながら、何があったんだと訝しげに上体を起こすボスの視線が、

「ゴ、ゴホッ、ゴホゴホッ」

と激しく咳き込むオビ=ワンに驚異の眼差しを伴い注がれる。

彼には、消えゆく意識を繋ぎとめ渾身の力で集めたフォースが、彼を飛ばしたなんて信じられないに違いない。ましてやこんな重傷の少年が。

が、それは刹那のことで、ボスはすかさず立ちあがりオビ=ワンに向かった。彼の目は怒りで燃え上がっている。

しかし、彼の突進は途中で止まった。怒りから驚きに、そして、戸惑いの表情に変わり、ボスはゆっくりと横向きに床に転がった。

未だ激しく上体を上下に揺らし喘いでいたオビ=ワンだったが、体を休めながら時間をかけ這うようにボスに近づくと、その胸に突き刺さる青く輝くライトセーバーを引き抜いた。

(殺す・・・つもりはなかった・・・けど・・・)

 

時々意識を失いそうになりながら、座り込みしばし息を落ちつかせる。

(・・・マスターに・・・伝えないと)

立ちあがろうとするが、膝に力が入らない。右肩の痛みは耐え難いほどになっている。

オビ=ワンはスローモーションのように床に崩れ落ちた。

手足の先が徐々に冷たくなる。何も感じない、感じられない。

(このまま・・・僕は死ぬ・・・のかな・・・)

闇が思考を蝕む。意識が遠くなっていく。

突如、光が差し込みオビ=ワンの体を照らす。

倉庫の入り口のドアが開き、誰かが立っていた。

何か叫んでいるようだったが、水の中にいるみたいでオビ=ワンにはその内容は届かなかった。

(マスター・・・・・・?)

近づいてくる足音を微かに感じながら、オビ=ワンの意識は闇に呑み込まれていった。

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