銀河彼方での物語   作:秋鹿

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第9話 悲しみの犠牲

眩しい閃光が辺りを照らし、視界を真っ白に染め上げた。続いて爆風が吹き寄せる。

クワイ=ガンは呆然と立ちすくんだ。

争っていた人々も余りの衝撃に固まったように争いを止め、爆破した方向を見つめている。

そこには爆発でうがかれた窪地があるのみ。そして、点々と地面に飛び散る赤い染み。ちらばる細かい肉片。

熱爆弾(サーマル・デトネーター)が普通に爆発したのなら、もっとひどい惨状になっていただろう。

この付近にいた、何十人という人々も一緒に吹き飛ばされていたに違いない。

その被害を最小限度に留めたのは、たった一人の ――

 

うっと呻いてオビ=ワンは身を起こした。爆発跡から10mほど離れた場所で。

何が起きたのか一瞬わからなかった。

自分は確かに爆弾の上に身を投げた。それなのに何故、無事なんだ?確かに掠り傷はある。だが、それだけだ。何故?

「大丈夫か?」

その声にハッと振り向いた。

彼のマスターは心から安堵の微笑を見せて、急ぎ足で近寄ってきた。

オビ=ワンは急に何かを思い出した。慌てて辺りを見まわす。

ない。

それは彼を絶望の渕に落とし入れた。

ない。ないっ。

クワイ=ガンはパダワンの肩を抱いてゆっくりと立たせた。

「怪我はないか?」

若きパダワンは心ここにあらずといった風に頷くと、よろよろと歩き始めた。

「どうした?」

しかし、それには応えず、オビ=ワンは爆発の跡へと近づくとガクッと膝をついて座り込む。

「どうして・・・こんなことに・・・」

涙が零れ落ちそうになった。

信じられなかった。信じたくなかった。

"ない"なんて。リアのフォースが全く感じられ"ない"なんて ――

 

爆発の一瞬。

激しい勢いで突き飛ばされた感覚がある。フォースの塊に。あれがリアだったのか・・・。

フォースとフォースがぶつかった衝撃で気を失いかけた。その時に彼女の声が聞こえたような気がする・・・。

//死なないで、オビ=ワン ―― //

「何故・・・僕を・・・」

悔し涙が込みあげる。

食いしばる歯の間から嗚咽が漏れ、悔しさが不甲斐なさが胸につかえ、激しい怒りが言葉として溢れた。

「リアは一生懸命、生きてきただけなのに・・・どうして、彼女が死ななきゃならないんだっ!!」

オビ=ワンの声だけが辺りの空気を震わせる。

今まで争っていた民衆は、一人の少女が自分たちの命を救ってくれたことに気づき、先ほどとは打って変わって静かな面持ちで眺めていた。

少年の怒りの声は続く。

「どうして、同じ人間なのに争うんだっ。同じ生きている者達なのに・・・どうして、争うんだっ!!争いからは何も生まれないじゃないか・・・何も・・・」

吐露された少年の言葉は、争いを行っていた人々の胸に深く染み込んだ。

 

オビ=ワンは自分を責めた。争いを憎んだ。

そして、その怒りと憎悪は彼の胸を冷たく支配し始めた。

怒りの冷たい炎が体の隅々を駆け巡り、今までに感じたこともないような強い力がみなぎってくる。

(争いを起こした奴等をこの世から消してしまえばいい・・・)

そんな考えさえ浮かび、オビ=ワンはそう思っている自分に戦慄した。心の奥底にある安寧たるフォースに手を伸ばそうとするが、荒れ狂っている怒りと悲しみに翻弄され、うまくいかない。

オビ=ワンは嵐のような中で、しがみつくようにフォースを求めた。ただひたすら。

 

 

悲しまないで、オビ=ワン ――

(リア・・・!?)

心の奥底に声が響いたような気がして、オビ=ワンは徐々に冷静な心を取り戻し始めた。

(僕は何を考えていたんだ?あれほど怒りにとらわれるなと戒めていたのに)

唇を噛み締め、心を凪いだ海のように穏やかにさせる。

邪悪なフォースが消え失せていくのを感じるとともに、体の周りに暖かさが取り巻いているような錯覚を覚えた。

彼は不意に目を開け ――

驚いた。

 

「リ、リシータさん・・・」

体が弱く滅多に家から外出しないリシータが、街の空気は体に良くないと言っていた彼女が優しくオビ=ワンを抱き締めていたのだ。

リシータは涙に濡れる顔を上げ、オビ=ワンの視線に気づくと穏やかに言った。

「悲しまないで、オビ=ワン。あの子はあなたを助けたかったの。あなたが無事であの子、たぶん喜んでいるわ」

言い終わりゴホゴホと咳込む。ここまで走ってきたのだろう。なんて無茶な。オビ=ワンは急いでその体を支えた。

「リシータさんっ!」

肩を激しく上下しつつ彼女は儚げに微笑む。

「大丈夫、私なら」

そう言って立ち上がると、成り行きを静観していた民衆に対して言葉を発した。

「皆さん、争いは終わりにしてください。どうか、あの子で最後にして。もうこれ以上、犠牲を出さないで・・・」

言い終わると、気が緩んだのか崩れ落ちるように倒れた。

オビ=ワンが手を差し伸べるより早く、がっしりとした腕が彼女を支えた。

驚いたオビ=ワンが顔を向けると、いつのまに近くに来ていたのか、茶色い粗末な服を纏った彫りの深い整った顔立ちの男性が、リシータを支えながら哀しげな青い瞳で彼を見つめている。

男性は口を開いた。

「君は勇敢な子だ。そして、優しい心の持ち主だね」

「貴方は・・・?」

一瞬、穏やかに目を細め、しかし、直ぐに厳しい顔つきになると、彼は気を失っているリシータを優しくオビ=ワンに預け、立ち上がった。

そして、良く通る声で言った。

「こんな無益な争いは止めるんだ。停戦が無理なら、先住民(オレベフ)側としては休戦を申し込む」

 

双方からどっとどよめきの声が上がった。特に後住民(テラフ)側から怒声が飛んだ。

「そんな偉そうなこと言って、あんた誰なんだっ?」

「そう言って俺達を丸め込むつもりだろっ」

群集を掻き分け、ベレルガがつかつかと歩いてくると彼の前で跪いた。

頭を下げたまま言葉を述べる。

「アジェス王、お久しぶりでございます」

「そちも元気そうで何よりだ」

王と聞いて再び後住民(テラフ)側からどよめきが沸き上がった。

先ほどとは異なる感情で発せられたものではあったが。後住民(テラフ)の中で先住民(オレベフ)の王を見たことがある者はそうそういなかったからだ。

「我々の要求は伝えた。あとは君達の出方次第だが。いかがかな?」

朗々たる声でアジェス王は弁を述べる。その姿は威風堂々とし、爽やかな感じさえ与えた。

だが、後住民(テラフ)側からは何ら意見を出す者もいない。

「アジェス王よ、ご無事で何よりでございます」

突然声が聞こえ、人々の間を縫って執事ザアーレが姿を現した。後ろに城の警備兵も付き従っている。

「王のお姿が見えず、街では暴動が起こりそうだと聞いて王の身を案じていた所です」

「ちょうど良かった、ザアーレよ。あの女性を城に運び手当てしてもらえぬか」

「承知仕りました」

忠実な執事は警備兵を手伝わせながら、まだ目を覚まさぬリシータをそっと運んでいった。

 

しばらくの沈黙の後、王は言葉を継いだ。

「特に意見もないようであればこの争いは終わらせる。先ほど、あの後住民(テラフ)の女性が言った通りに」

「だが、さっき死んだのは後住民(テラフ)の子だ。余りにも不公平じゃないか?」

それまで無言でやり取りを聞いていたオビ=ワンがポツリと漏らした。

「でも・・・先住民(オレベフ)がやったという証拠があるの?」

「お前、悲しくないのかっ?復讐したいとは思わないのか!?」

少年は静かな眼差しを声の主に向けた。その瞳には哀しみはあれど怒りなどなかった。

「僕だって悲しいよ。でもこれ以上、悲しむ人を増やしたくないんだ。そんなのリアだって望んでない」

 

今までじっと腕を組み静かな眼ざしを周囲に配っていたジェダイ・マスターが、ついに口を開いた。

「その少年の言う通りだ。これ以上の争いは全くの無意味だ。それにお互い相手のせいにして今まで争ってきたが、誰かその証拠を掴んだ者はいるのか?」

「そんなの・・・」

「あいつらがやったに決まってるっ。他に誰がやったってんだ?」

クワイ=ガンは再び言葉を発した。

「第三者がいる可能性は考えたことがないということか」

「まさか・・・っ」

「マスター・ジェダイ、続けてください」

次々と叫び声を発する民衆を制し、アジェス王は穏やかに先を促した。

 

クワイ=ガンは深々とお辞儀を返し、王に相対すると、言葉滑らかに話し始めた。

「今まで私はこの争いを調停するため、様々な情報を得てきました。しかし、唯一手に入らないものがありました。それは行われてきた爆破や殺戮の犯人のデータです。犯人を挙げるための機関は争いが始まって早々に破壊されたと聞きました。それは何故か?実行犯が特定されれば困る人物がいるに違いないと」

一旦口を閉じ、皆の反応を窺う。

固唾を飲んで、息さえもひそめ聞いている民衆の姿を確認しながら、彼はまた言葉を紡いだ。

「そして、また、私はある点に思い当たりました。この街は排他的で、同じヒューマノイドでさえ排除したがる傾向があると。ましてや他の人種・・・エイリアンに対しては、よりいっそう排他的になると。しかし、私はこの街に着いた夜、ローディアン達に襲われた。これは何を意味するのか」

クワイ=ガンは息を継ぎ、効果を狙ったかの如く、少し声を大きくして言葉を続ける。

()()()()()のエイリアンがいて、実行犯が()()()()()()()()()を調べることのできる機関が真っ先に破壊された。これらを考えると、人知れず潜む第三の勢力がいると思われます。その勢力が先住民(オレベフ)後住民(テラフ)の争いを扇動していたとしたら」

この言葉の意味を考え、民衆は驚き、有り得ないことだと信じ込もうとした。もしそうなら自分たちが争ってきたのは何のためなんだ?

にわかに信じがたいジェダイ・マスターの話に、王は訊ねた。いささか半信半疑の面持ちで。

「証拠はありますか?」

偉大なるマスターは微笑んだ。この問いを待っていたかの如く。

そして、後ろを振り向いて声をかけた。

「今お目にかけましょう ―― ロイ」

 

呼ばれてセニス家の長男ロイは、縛られた小男をずるずる引きずってきた。

先ほど争いの最中、クワイ=ガンがロイに捕まえて欲しいといったあの男だ。

一目見るなりアジェス王は驚いた。

「これは城の召し使いではありませんか」

「この者は召し使いとしてあなたの城に潜り込み、スパイ行為を働いていました」

「どこにそんな証拠があるっ?」

召し使いは喚いた。なんとか手首を縛る紐を切ろうともがきながら。

クワイ=ガンは再び微笑んだ。

「この声です。先ほど、私とあの少年を闘わせようとけしかけたのが彼です。ただの召し使いがそんなことをしますか?しかも彼は先ほど、私達ジェダイを狙って熱爆弾(サーマル・デトネーター)を投げつけたり、その前には私が泊っていた家を爆破させた」

「家の爆破は俺じゃねぇ、そこまでは・・・あっ」

しまった、語るに落ちたと青ざめる召し使いに、クワイ=ガンが顔を近づけ蒼色の瞳で見つめる。

「では、君がしたことを言ってくれるかな?」

「な、何もしてねぇ」

「そうか」

クワイ=ガンはフッと微笑むと突然ライトセーバーを抜き放った。淡い緑色に輝くそれは美しい光とともにその持ち主を際立たせている。

「ライトセーバーはこう見えても結構な熱を放出しているのだ。なかなか慣れないと扱いにくいのだが」

と手首を返した途端、彼の手からセーバーが落ちた。

それは召し使いの顔を掠めるようにストンと突き刺さり地面を穿つ。

「あ、危ないじゃないか」

高熱が放出され、召し使いの顔を緑色に照らす。彼の額には恐怖と熱さによる汗が浮かんだ。

それを知ってか知らずか、クワイ=ガンは片頬を歪めニヤッと笑う。

「ああ、すまない。今後は気をつけよう」

「わ、わ、わかった。言うからこれをどけてくれっ!!」

ジェダイは素早くライトセーバーを引き抜くと、目にも止まらぬ早さでスイッチを切り、腰に差した。

 

「お、俺はただ命令されてやっただけなんだ。召し使いになって城に潜り込むのも、何かあったら報告するのも全部」

「誰に命令されたのだ?」

「ト、トレディスだよ、イースト・クテーラでドロイド工場を経営している」

「トレディス?」

聞き返すクワイ=ガンに王が説明した。

「巷ではマッドサイエンティストと呼ばれている男です。では、母君・・・女王が街へお忍びで出かけたということもトレディスに報告していたと?」

「ああ。し、知らなかったんだよ、あんなことになるなんて」

王は天を仰ぎ、唇を噛み締めた。無言のまま沈痛な表情を浮かべている。

代わりにクワイ=ガンが問いただした。

「実際に女王を襲ったのは誰だ?正直に言った方がいいぞ」

「・・・トレディスが雇った用心棒どもさ」

「では、後住民(テラフ)ではないのだな?」

「あ、ああ。ほとんどの爆破や殺戮は、俺達がトレディスから指示されてやったんだ」

道理で、女王殺害の犯人を差し出せと詰め寄っても、後住民(テラフ)の人々は知らないと言い張ったわけだ。

周りを囲む民衆から悲鳴のようなささやきが漏れる。

「昼間の爆破は主にヒューマノイド、夜はエイリアン達がやったのだろう。夜に多くの爆破を起こしたのは人々の外出を避けさせ、いないはずのエイリアン達が行っていることを知らしめないためだな」

「・・・その通りだ」

赤い髪が視界を横切ったのを見取ると、クワイ=ガンは素早く彼女の手首を握った。

手は召し使いの顔、僅か手前でかろうじて止まった。

ベレルガは怒りに震え、今にもこの召し使いに殴らんばかりである。

「あんたの・・・あんた達のせいで、何十、何百人という罪のない人達が死んだんだっ!!あんた達のせいで・・・」

彼女の肩は震えていた。怒りのせいかもしれない。泣いていたのかもしれなかった。

 

「どうして、こんな争いを起こしたのだ?」

「お、俺もそこまでは知らない」

これ以上尋問しても時間の無駄だと感じたクワイ=ガンは、この召し使いを王の裁断に任せようと判断した。

「・・・わかった。全てトレディスに聞けばいいのだな?」

「クワイ=ガン、あんた行くんだろ?あたしも行くよ。お前達も行くだろ?」

セニス四兄弟は揃って頷いた。

少し離れた所からも声が飛んだ。

「僕も、・・・僕も行きますっ」

オビ=ワンに視線が集中する。こんな少年を連れて行っても大丈夫だろうかといった雰囲気の中、彼のマスターだけは僅かに微笑を見せていた。

どうする?といった風にベレルガがクワイ=ガンを見やる。

「いいだろう。一緒に来なさい」

代わりに少年に声をかけた。

オビ=ワンは顔を明るくさせ、ベレルガは肩をすくめた。

 

クワイ=ガンはベレルガのバイクの後ろに、オビ=ワンは末っ子のジョンの後部座席に落ちつくと、激しい爆音とともに走り去って行った。

マッドサイエンティストの元へと。

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