銀河彼方での物語   作:秋鹿

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第14話 復興への一歩

復興への第一歩が始まった。

 

この街が美しい景観を取り戻すには、かなり長い時間がかかるであろうが、どの人々をとってみても顔が喜びで満ちあふれていた。

廃虚の解体、建物の建築など大変なことではあるが、長い間続いた争いの悲惨さを思えば明るい未来が待っているだけに、自然笑顔が零れ、作業にも精が出るのであろう。

そこにはもう先住民(オレベフ)後住民(テラフ)もない。

そんな様子を眺めながらオビ=ワンは微笑みを浮かべた。

彼自身、気持ちがすっかり晴れている訳ではなかったが、人々の復興にかける意気込みを見るにつれ嬉しさが込みあげてきた。

(平和っていいな・・・)

肩をポンと叩かれ顔を向けると、同じく穏やかな日差しを浴びて微笑みかける彼のマスターがいた。

「任務終了だな」

「はい。でも、すみません、マスター。勝手な行動をとってしまって・・・」

「お前にも勝手な行動をとった訳があるのだろう?後で聞かせてもらうつもりだ。それより、コルサントと連絡がついた。迎えの船があと2標準時間ほどで着くだろう。その間に行きたい所があれば言ってみるがいい」

「・・・すみません。では、二ヵ所ほどいいですか?」

 

しばらくのち、彼らは元ウェスト・クテーラにいた。

昨日の急転直下の争い停止により、街は以前使われていたクテーラとしての名前を取り戻しつつあるのだ。

この元先住民(オレベフ)側にはクワイ=ガンも頻りに足を運んではいたのだが、細い路地が縦横無尽に入り組んでいるこの裏道では、どこを歩いているのかわからなくなることも多かった。

しかし、今、オビ=ワンは確かな足取りで細い路地を歩いていく。

目的地が明確にわかっているからであろう。

ようやく歩を止めた。

クワイ=ガンが眺めるに、崩れ落ちたる廃虚である。ここに何が?

「ここは僕とリアが初めて会った場所です」

俯きつつ言葉を続けた。

「そして、ここはリアのお母さんのお墓でもあるそうです。彼女のお母さんはここで殺されたから・・・。リアはもうここに来られません。だから、僕が代わりに・・・」

口ごもる。

泣いているかと思ったが必死に堪えているようだ。クワイ=ガンは優しげな眼ざしを向けた。

少年は不意に頭を上げ、廃虚を目に焼きつけるようにじっと見つめた後、ゆっくりと頭を垂れ黙祷を捧げた。クワイ=ガンもそれに倣う。

それから俯いたまま、

「もう一つの方に行きましょう」

と消え入りそうな声で言った。

 

主がいない家は、しかし、今までと変わらず静かに佇んでいた。

畑に植わっている青々とした野菜も、世話をする者もいない今、徐々に枯れていくのだろう。

リシータも手当てを受けるため城に運ばれたまま、まだ戻ってはいないようだ。

「ここはあの少女の家か?」

「はい。僕が少しの間、お世話になった家です」

昨日と全く変わらぬ家。畑。

今でも家のドアからリアが飛び出してきそうな気がする。

そして、ニッコリ笑いかけて ――

それなのに・・・。

オビ=ワンは歯を食いしばった。

必死に泣くまいとしているパダワンを見るに見かねて、クワイ=ガンは彼の頭を撫でようとしたが、反って悲しみを増す結果になりそうな気がして、ただ無言でその傍に立っている。

ややあって深く大きい吐息を漏らすと、少年は踵を返し畑に向かった。

畑の隅で何やら動いていたかと思えば、手に数本の花を持って帰ってくる。

薄い青紫色の花弁をつけた可憐な花であった。

「行くか?」

静かにマスターが声をかける。

「はい・・・」

小さな声で応えた。

彼らは再び歩き始めた。

 

テレスト通りを南下する。宇宙港へ向かって。

クワイ=ガンは、先ほどオビ=ワンはできるだけこの通りを避けて、通るとしても横切る程度に歩いていたことに内心思い至っていた。

(このまま行けば、どうしてもあの場所を通ることになるが・・・)

ちらりと横を見る。彼の弟子は相変わらず俯き、地面を見つめたまま歩いている。

ジェダイ・マスターはふぅと溜め息を漏らした。

そこへ

「おぉ、クワイ ―― ではない、マスター・ジェダイ!!どうやら間に合ったようですな」

声とともに執事ザアーレが走りよってきた。

後ろには警備兵がいつもの如く従っている。

振り向いた二人にようやく追いつくと、ザアーレは息を弾ませた。

「王から・・・貴方がたに・・・伝言です・・・」

呼吸を整えると伝言を述べ始めた。

「王は雑務に追われ、貴方がたの見送りができないことを非常に残念に思っておられます。貴方がたには口では言い表せないほど、感謝しています。またこの街に来るようなことがあれば、是非お立ちよりくださいと。それから」

オビ=ワンに向き直り続ける。

「君の勇気には本当に感謝している。今後は争いなど絶対起させない、あの少女のためにも、とおっしゃっていました」

「ありがとうございます」

オビ=ワンが礼を述べると、クワイ=ガンも付け加える。

「お心づかい感謝致します。また、お会いする日を楽しみにしています、とアジェス王にお伝えください」

不意にオビ=ワンが意を決したように口を開いた。

「僕からも伝言があるのですが、いいですか」

「何なりとどうぞ」

微笑む執事。しかし、何故かオビ=ワンは一瞬、言いよどむ。ややあって、思いつめた表情でゆっくりと話し始めた。

「・・・リシータさんにお伝えください。・・・リアのことは申し訳ありません。僕がついていながら・・・本当に申し訳なく・・・なんと言ったらいいか・・・」

「パダワン・ケノービ」

絞りだされるような辛い言葉は、不意に執事の柔らかい声によって止められた。

不思議そうな顔で見つめる少年に、ザアーレは優しげな眼ざしで話しかける。

「もうお詫びは充分ですよ、パダワン・ケノービ。本当にあの方が言っていた通りですね。リシータ様から聞いていたのですよ、リアのことであなたが気に病んでいるのではないかと。そして、気に病む必要はないと」

「しかし、でもっ」

「リシータ様はこうも言っておられました。『あなたを助けると決めたのはリアです。無理強いされたわけでもなく、自らの意思で決めたのです。あなたは、リアの決めたことに異論を唱えるのですか?』」

「そんなつもりではっ」

「『では、あの子がしたことを受け入れてください。それがどんなことでも』と」

「・・・はい」

俯きがちに少年は言葉を漏らした。

ザアーレは微笑み、それから、二人に視線を向けると

「王と同じく、リシータ様もあなた方には感謝しておりました。そして、まだ体調がかんばしくないため、見送りができないことを申し訳なく思っておられました」

と言い添える。

クワイ=ガンが口を挟んだ。

「どうやらその女性には、オビ=ワンが世話になったようですね。こちらこそ感謝しています、本当にありがとうございました、とお伝えいただけますか?」

執事は頷いたあと、最後の挨拶を送る。

「では、道中どうかご無事で。フォースと共にあらんことを」

「フォースと共にあらんことを」

一礼を返し、ザアーレは再び警備兵とともに駆けていった。

「忙しそうな人ですね」

「ああ、だが、これからもっと忙しくなるだろう、彼は」

フッと笑うと振り向きクワイ=ガンは歩を進め始めた。オビ=ワンも後に続いた。

 

スピーダーの爆音が響いてきた。

さすがにこの音で、振り向かなくても誰が近づいてきているのか判断は可能である。

二人は顔を見合せると微笑み、声をかけられる前に振り向いた。

「よっ!」

走り寄ってきたベレルガが片手を上げて挨拶した。

「行っちまうんだってな」

「争いが治まったからな」

「ちょっとは寂しくなるけど・・・ま、いいさ。やることはいっぱいある。悲しがってはいられないほどにね」

ニヤッと彼女は笑い、不意に思いついたように話題を変えた。

「そうだ。ニュースが二つある。この街の統治機関が定まった。アジェス王が最高責任者で、その下に元テラフの政府がつくそうだ」

「二つの人民が融合しつつあるということか。良いことだな」

「そうそう。それに加えてもう一つ。いいニュースだ。アジェス王は婚約を発表するらしい。まぁ、まだ心の傷が癒えてないとかで、結婚は先のことになりそうだけど」

そんなこと、先ほど会ったザアーレは言っていなかったのに。オビ=ワンは急に現れたおめでたい話に不思議そうな問いを投げかけた。

「え?お相手は?」

「君の知っている人さ。リシータだよ。いや、これからはリシータ様と言うべきかな。王の一目ボレだって話さ。しかも彼女、大人しく見えて、実は情熱的ときた。王の母君の性格そっくりだ」

そう言って、目を丸くして驚いている少年を尻目に、ベレルガは豪快に笑った。

正式発表前に話してしまうのは、執事としてはばかられたのだろうとザアーレの気持ちを内心汲みつつ、微笑みながらクワイ=ガンが言った。

「素晴らしいニュースだな。これで、この街に争いが起こることは二度とないだろう」

「ああ、あたしもそう思うね」

「ところでいいのか?君は。それで」

一瞬、驚き、頬に赤みがさしたベレルガだったが、再び目を見開いているオビ=ワンの視線を感じながら慌てて応える。

「え?・・・あ、あたしか?べ、別に王のことは何とも思ってないさ・・・。それにあんたも知ってるだろ?あたしが城の中で大人しくしてるなんて、天地がひっくり返ってもないってことをさ」

クワイ=ガンは微笑みつつ、何事かを納得したかのように軽く頷いた。

「そうだな」

「そういうこと。じゃ、あたしはそろそろ行くから。元気でな」

ベレルガは踵を返し去っていった。

彼女の向かう先では4台のバイクが止まっていて、男達がこちらに向かって手を振ったりお辞儀をしていた。

 

バイクが見えなくなると、二人はまた歩き出した。

 

☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

 

広いテレスト通りの一角。そこだけ何かが積まれ、盛りあがっている箇所がある。

昨日のあの・・・場所だ。

ふと前方に視線を走らせ、そう確認すると、オビ=ワンは小さく呻くような声を上げた。

その声は本当に小さく、彼の行動に気を配っていなかったら全く気づかない程度のものだった。

クワイ=ガンは少年の中に哀しみと恐れが混ざり合った感情をとらえた。

(無理もない)

と思う。

(オビ=ワンはまだ子供だ。目の前で人が死ぬ光景など、そう見たことがある訳ではないだろう。しかも親しい者の)

だが、そんなマスターの思いとは裏腹に、オビ=ワンはそれでも歩みを緩めることはなかった。まるでそこに行くこと自体が目的であったかのように。

徐々に近づくにつれ、その盛りあがっている正体がはっきりしてきた。

無数の色とりどりの花々。

通りを行く者達が皆、花を持ち、そこに哀悼の意を示すかのようにそっと置いていく。数人は近づいてくるジェダイ達に気づき、寂しげな笑顔とともにお辞儀をした。

オビ=ワンはその花々の前に近寄り、静かに跪く。

少し見つめた後、手にしていた薄紫色をしたあの小さな花を取り出し、一番上に乗せた。

しばし頭を垂れ黙祷をする。クワイ=ガンも礼を尽すが如く静かに頭を下げた。

ようやく顔をあげると少年は言った。

「行きましょう」

だが、その声がわずかに震えていると感じたのは気のせいだろうか。

 

沈黙を纏い二人は歩き始めた。

クワイ=ガンには、制御しようとはしているものの、それでも溢れてくる哀しみを、必死に押えようとするオビ=ワンの心の動きが手に取るようにわかった。

わかるが掛けるべき言葉もなかった。

 

//オビ=ワン//

呼ばれた気がして驚いて少年は振り向いた。聞き覚えのある声に。

「リ・・・ア・・・」

少女は立っていた。通りに積まれたあの花々の横に。

美しく煌く青い光を纏いながら。

彼女はニッコリ笑った。

//悲しまないで、オビ=ワン。リアは後悔してないよ。だってオビ=ワンが無事なんだもん。オビ=ワンに会えてリアも楽しかった。だから・・・//

頭の中にリアの声が流れ込んでくる。リアは再び微笑んだ。

「でも、そんなのっ!・・・哀しいじゃないか・・・」

//いいの。これで争いは終わったから。リアみたいな子でも生まれてきて良かったんだなって思えたから。それに今は気持ちがいいよ。空気と一つになれたみたいで//

彼女はふわっと宙に浮きゆっくりと着地した。この状態を楽しむかのように。

//じゃ、そろそろ行かなきゃ。ママが待ってる。またね、オビ=ワン//

「あ、待ってっ!!」

リアは軽く手を振り、後ろを振り返ると、髪をなびかせ宙に溶けるように消えていく。青い光が少しの間、瞬いて消えた。

永遠の別れとも思えない別れ方だった。

 

差し出した手をゆっくりとしまいオビ=ワンは佇んだ。無言で彼女が消えた方向を見つめている。

「いい子だったな」

静かにクワイ=ガンが言った。

ハッと驚いてマスターを見上げ、彼にもリアが見えていたことを察し、併せてその言葉の意味を十分噛み締めると、もう堪えきれなくなった。

きつく閉じた瞳から涙があふれ頬を伝っていく。

(もう泣かないって決めたのに・・・。強くなるってフレールにも言ったのに・・・)

そう思う傍から涙がこぼれ落ちる。自分の弱さに情けなくなって、余計にそれが悲しさを募らせた。

急に辺りが真っ暗になって、不思議に思ったオビ=ワンは濡れた目を開けた。

焦げ茶色をしたポンチョが頭からくるむように彼を覆っていた。マスターが羽織っていたその。

必死に涙を見せまいとしていた弟子に敬意を表して。

その心づかいがオビ=ワンにとって何よりもありがたいものとなった。

クワイ=ガンはポンチョの上からオビ=ワンを支えると

「とりあえず行こう。宇宙港はもう目の前だ」

と穏やかに声をかけた。

歩きながらクワイ=ガンは諭すように言う。

「泣きたい時には泣けばいい。親しい者が亡くなったのだから、哀しいと思う感情は当たり前のことだ。何ら咎められるものでもない。いくら感情を制御しなくてはならないジェダイといえど、その前に人であることを忘れてはならない。優しさは時として弱点だが、大いなる長所にもなり得る。私はお前にはその長所を伸ばしてもらいたいと思っている」

「・・・はい、マスター」

くぐもった声が微かに聞こえる。ジェダイ・マスターは苦笑をし視線を上げた。

宇宙港が目の前にそびえていた。

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