銀河彼方での物語   作:秋鹿

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第2話 孤軍奮闘の末

クワイ=ガンは大広間に向けて、急ぎ早やに歩いてきた。

高い天井にシャンデリアがぶら下がる、その広間のあちこちでは、宇宙海賊から無事生き延びた人々が安堵と恐怖の声を漏らしていた。

ダークグリーンの絨毯を踏みしめ、彼は周囲を見渡した。

てっきりコクピットにいると思っていた。が、その姿は見当たらない。

彼のパダワンはどこに行ったのか。

 

面には出さないようにしているが、そんな心配そうな表情がつい見え隠れするのだろう。

一人の女性が立ち上がり、静かに彼の方に近づいてきた。

「誰かをお探しでしょうか?」

その声に振り向き、クワイ=ガンはまだうら若き女性を見とめた。

光の屈折により青や紫色に変わる輝くようなイブニングドレスを纏い、黒い髪を上品にまとめている。

「ええ。何かご存知ですか?」

「もしかして、あの少年でしょうか。貴方と同じような格好をしていた」

「そうです。彼がどこに行ったのか知っていますか?」

女性はうつむき、哀しげな表情を湛えたまま静かに応えた。

「あの子は・・・海賊の人質となりました。他の子供の身代わりに。自ら進んで人質になったんです」

クワイ=ガンは驚愕の表情を隠せなかった。海賊船はとうの昔にこの船から離れている。

「ありがとう」

言い終えるのももどかしく、クワイ=ガンはコクピットへと走り出した。

 

コクピットでは船のクルー達が修理作業に追われ、忙しく駆け回っていた。

宇宙海賊達はコントロールパネルを思いっきり破壊していったのである。

今だ火花が散るそのパネルの様子を横目で見ながら、クワイ=ガンは声をかけた。

「船は動きそうか?」

せわしげに動くクルーに代わってチーフクルーと思われる者が応えた。

「動く事はできます。しかし、速度はあまり出ません」

「レーザー砲やプロトン魚雷は使えるのか?あの海賊船を何としてでも止めなくてはならない」

「申し訳ありません。プロトン魚雷は元々装備しておりませんし、備えつけのレーザー砲は全く使い物になりません」

畳みかけるようにクワイ=ガンは訊ねた。

「小型船は積み込んでいないのか?」

「備えつけの船はあいにく一艘もないのです」

チーフクルーは言葉を切った後、言いにくそうに付け加えた。

「それに・・・ハイパードライブも壊れています。救難信号(ビーコン)は発信しましたので、近くに船がいれば救助してもらうことはできますが」

 

クワイ=ガンは愕然とした。

ハイパースペースに逃げ込まれでもしたら、オビ=ワンを助け出せるかわからない。

航路を辿ればなんとかなるかもしれないが、相手は海賊だ。

跡を辿られ、行先がばれることを恐れて中継地点を設け、別の進路を設定しジャンプするかもしれないし、それより何より恐れることは・・・

無事逃げおおせれば、途中でオビ=ワンを宇宙に放り出すかもしれないということだ。

 

(何か手はないのか、何か)

焦りを押えつつ思案を繰り返すクワイ=ガンを余所に、コントロールパネルの修理はなかなかはかどらない。

一人のクルーが叫んだ。

「そうだ。彼らを連れてこい。手先が器用だから役立つはずだ」

指示を受け、他のクルーが走り去っていく。

その姿を目で追っていくと、窓の向こうに小さくなりかけた海賊船が見えた。

(オビ=ワン・・・)

コムリンクを鳴らそうかと思い、考え直す。

敵に取られているかもしれないし、彼らにオビ=ワンの正体を知らせる訳にはいかない。それにこの距離だ。もう届かないだろう。

拳を強く握り、唇を噛み締め、押えようもない遣り切れなさを纏い佇んでいたクワイ=ガンに

「マスター・ジェダイ!」

突然声がかけられ、彼は後ろを振り向いた。

「君は・・・」

 

☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

 

オビ=ワンは周囲を見渡した。

海賊船のハッチから歩いた距離を思えば船の底近くかもしれない。もしくは船倉か。

目隠ししたままここまで連れてこられたせいで、自分が船のどの辺りにいるのかさっぱりわからなかった。

今いるこの場所は、何もないがらんとした部屋だとわかるだけで。

彼は視線を入り口に走らせた。

この部屋から出るとなればこの入り口のみ。たが、鍵が掛けられていた。

幸い手は動く。

少年と侮ったのだろうか。特に手枷もないことが彼に一縷の望みをもたせた。

この部屋から出て、ドックに格納されているかもしれない小型船か脱出ポットを見つければ、あるいは。

操縦はできるかわからないが、ここから逃げ出せれば何とかなるかもしれない。

食料は?水は?

今は否定的なことを頭から追いやった。とりあえず、ここから出なければ先に進めない。

 

そっとドアに近づくと外側の様子を窺った。微かな足音が聞こえる。

複数の見張りがいるようだ。この状況で無事にここから逃げられるのか?

その時、今まで規則正しい響きをもって聞こえていたエンジン音が、突然低く唸るような音に代わり始めた。

(ハイパードライブを起動したんだ・・・)

心臓が早鐘のようになり、鼓動が激しくなった。

このままハイパースペースに突入され、他の見知らぬ星系(システム)に行ったら、自分は今後どうなるのだろう?奴隷として他の惑星に売り飛ばされるか ―― それだったらまだいい。宇宙に放り出されたら・・・?

考えられる状況は悲惨なものだったし、考えたくもなかった。

だが、それが現実となるのも時間の問題だった。

危険なことは充分承知していたはずだ。もしかしてハイパースペースに逃げ込むかもしれないということも。

しかし、実際そんな状態になったら、果たして自分は平然としていられるのだろうか?

 

オビ=ワンは懐から石を取り出した。

13標準歳の誕生日に師から贈られた、その漆黒の美しき滑らかな石は、明かりに透かせば深紅の光を醸し出し、それは、まるで宇宙の闇に浮かぶ、輝く細長い星雲を思い出させた。

彼の宝物であり、クワイ=ガンと繋がる唯一の物。

その石の暖かさを感じ取ると彼は無性にマスターと話したくなった。たった一言でもいい。マスターの声が聞けたら・・・。

コムリンクを鳴らす。

だが、無情にも呼び出し音が鳴り続けるだけであった。

「マスター・・・」

ポツリと口から言葉が漏れた。

 

だが、彼はジェダイだった。

決意の眼ざしとともに顔を上げる。

(もし、ハイパースペースに逃げ込むことにでもなれば、この船を爆破させよう。それしか僕にできることはない)

船ごと海賊を消滅させれば。

今後、この海賊達に襲われる人々はいなくなるだろう。他の人々のためにも。

石を懐にしまうと、オビ=ワンはライトセーバーを起動させた。

海賊船に乗り込む際、武器検査は受けた。

だが、ライトセーバーもコムリンクも敵に見つからなかった。検査しようとした海賊の意識をフォースで操ったからだ。

セーバーがあれば何とかなりそうな気がした。握る両手に力がこもる。

 

と突然、部屋の電気が消えた。電気だけではない。エンジン音も停止したようだ。

急いでハイパードライブを起動したせいで動電力に負荷がかかり、ショートしたのかもしれない。

静かにドアに近づき足音の有無を確認する。

突然の停電に慌てふためく乗組員達の動きが手に取るようにわかったが、その後、静かになった。

今がチャンスだ。

オビ=ワンはセーバーを右上段に振りかざした。

スライド式のドアだ。多分鍵を焼き切っても電力が止まっている以上、開きはしないだろう。少々荒いが致し方ない。

左下に向かって切り落とすと、すかさずセーバーを左上に掲げ右方向に切り下げる。そして、最後に横に薙ぎ払った。

ドアは切り口鮮やかに三角形の口を開ける。オビ=ワンは切り落とされたドアの一部をフォースによって静かに床に落とした。

そこから顔を出しセーバーの光により周囲を窺う。

長い通路が伸びており、その両端の先には上に登る階段がついていた。どちらの階段を使えば機関室に通じているのだろう?

勘に従いオビ=ワンは部屋から抜け出ると、左側へと駆け出した。

ハイパードライブが使えないとなれば、船の動力を停止させ続ければここから逃げ出すことも可能である。僅かだが希望が見えてきた。

 

けれど、彼一人がこの船から脱出するという考えはたった20mほど通路を進んだだけで、改めなくてはならなくなった。

通路左側の一面に張られた強化ガラスの向こうを見た時に。

かなり広い部屋になっているそこには、セーバーの光に照らされ十数人という子供達がうずくまっていたからだ。

ガラスはマジックミラーの役目を果たしているのだろう。向こうからこちらは見えないらしい。

汚れた服を着た様々な人種が混じっている彼らからは、諦めの感情が漂っている。

オビ=ワンと同じくあちこちから人質として連れて来られた子供達だろう。

一瞬にして見て取ると、彼は脱出方法を考え直した。

(一人じゃだめだ。皆でここから逃げ出さないと)

そうなると攻撃の仕方も変わってくる。機関室に行ってそこを破壊する。ここまではいい。

だが、その後に格納庫に行って大勢乗れる船がなかったら?そうなればこの海賊船を乗っ取るしかない。たった一人で。できるだろうか?

オビ=ワンは眉をひそめた。

とりあえず、なるべく敵に見つからないようにコクピットに行くしかない。敵に見つかれば見つかるほど、この船を支配することが難しくなるからだ。

覚悟を決めると、彼は通路の隅にある階段を上り始めた。

 

階段の突き当たりには扉があった。

耳をあててみる。機械の音は全くしなかったが、人々が叫び走り回っている雰囲気は感じ取れた。それから金属の擦れ合う音も。

(機関室だ)

確証はなかったが確信はあった。

オビ=ワンはライトセーバーを構えると深呼吸一つして、おもむろに振り下ろす。扉に先ほどと同じように入り口を造ると、素早く中に滑り込んだ。

右手に全く停止している動力炉が見え、その周りを技術者と思しき者達が囲んでいる。なんとか動かそうとしているようだが、原因がわからないのかお手上げ状態なのか、それほど真剣そうに見えない。

左側には配電盤が窺え、その前にいるトランドーシャン ―― 惑星トランドーシャ出身の蜥蜴の姿をしたエイリアン ―― もケーブルを繋ぎ変えてはいるが、電力が戻る気配もない。

そして、オビ=ワンのちょうど真向かい、反対側には、通路から漏れる灯りに照らされ、ようやくそれとわかるほどの入り口が黒い闇を見せていた。機関室には両端に扉があり、通常使う方が向こうなのだろう。電力が使えない今、無理矢理扉をこじ開けたらしい。

 

ライトセーバーを構えたまま静かにオビ=ワンは歩を進めた。

予備電力の灯りが細々と照らす中、彼の持つ蒼い美しい光は否が応でも目についた。

技術者達は驚愕の色を浮かべて振り向き、思い思いの行動をとり始めた。つまり襲いかかって来る者と逃げる者と。

振動ナイフ(バイブロブレード)を振りかざしてきたローディアンの右腕を切り落とす。

と痛がる敵に目もくれず、高く跳躍、宙返りし着地する。

セイバーを左手に持ち変え手首を返し同時に腰を低くして、ブラスターを構えていたトランドーシャンの鳩尾にセイバーの柄を突き刺した。

崩れ落ちるトランドーシャンの横を駆け、前を逃げて行く二人のエイリアンの足元目がけてセイバーを横薙ぎに飛ばす。

回転する蒼く輝く光は、彼らの足をきれいに切断すると引き寄せられるようにオビ=ワンの手元に戻った。

 

(もう一人いたはず。いや、逃げられるはずはない。この部屋のどこかにいる)

オビ=ワンはすかさず反対側に向かうと、入り口の横の壁に背中をつけた。

これで後ろから襲われる心配はない。

気配を探る。たが、フォースを伸ばしてもなかなか掴めない。

一瞬、視界に影が走ったと思った時は遅かった。

オビ=ワンの首は巨大な手に掴まれていた。宙に浮いた足をばたつかせるが如何ともし難い。

目の前に赤い光が二つ爛々と輝いている。

(シ、シスタ・・・ヴァネン・・・?)

ウヴェナⅢ出身の赤い目をした狼男のようなこの種族は、影に姿を潜める事もでき、ウーキー並みの腕力を誇る。

シスタヴァネンは左手でオビ=ワンの首を押さえると、右手に振動ナイフ(バイブロブレード)をかざした。

必死で頭を動かそうとするが、がっちり固定されて身動きできない。

少年に焦りが生じる。

しかし、心を平静に保ち、ナイフが突き刺さる瞬間、セーバーを立てると回転させた。

目の前を蒼い光が横切り、シスタヴァネンの両腕を切り落とす。

勢いがついたナイフは顔のすぐ横に突き刺さり、彼は解放されて床に落ちた。

咳き込みつつ素早く立ちあがる。

呻き、のた打ち回っている敵を尻目に、オビ=ワンは動力炉と配電盤に向かい、蒼い光を突き刺した。

 

外の様子を窺う。

通路は真っ直ぐ伸び広い部屋へと通じているようだ。その部屋ではガモーリアンやローディアン達が動き回っているのが見て取れる。

ここから少し行った先に左へ曲がる通路もあった。

オビ=ワンは気配をなるべく消し、足音立てずにその左へ曲がる通路まで辿りつく。

左側の通路の先は暗くどこに繋がっているか定かではない。

(コクピットは広い部屋の先かもしれない)

彼は通路に身を潜め壁に体をつけて、広い部屋の様子を探る。

と突然、毛むくじゃらの手にものすごい力で後ろから口を塞がれ

(!? もしかして、シスタヴァ ―― ?)

思う間もなく、オビ=ワンは物陰に引きずり込まれた。




*エイリアンの画像は以下の通りです。
 トランドーシャン
【挿絵表示】
 シスタヴァネン
【挿絵表示】
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