心臓がドキドキ音を立て、恐怖の余り顔が引きつる。
オビ=ワンは、口を塞ぐ手と体を押さえつける腕を何とか振り払おうともがき、不意に気づいた。
(あれ?)
決して乱暴に扱っている訳ではない、相手の態度。そして、この暖かい感じは ――
振り向いてオビ=ワンは驚愕の表情を浮かべる。
(フ、フレールっ!?)
茶褐色の毛並みをしたそのウーキーはニヤッと笑い、静かにといった風に自分の口に指を当てると、ようやくオビ=ワンの体を自由にした。
余りのことに声も出ない。パクパクと口を動かしているうちに、かろうじて言葉が出た。でも、まだ心臓は早鐘を打っている。
「ど、どうして、ここに?」
フレールはオビ=ワンを引き寄せるとぎゅっと優しく抱きしめた。
「僕を助けに来てくれたの?」
オビ=ワンの問いに頭上からフルル・・・と肯定の返事が返ってくる。
孤立無援で闘っていた少年にとって、フレールの存在は何よりも嬉しく有り難いものだった。彼は心から安堵の吐息を漏らした。
聞きたいことは山ほどあったが、今はそれどころではない。
しばらくして体を離すとオビ=ワンは見あげて言った。
「この船を支配するためにコクピットに向かわなきゃならない。船にはまだ、僕と同じように人質にとられた子供達がいっぱいいるんだ。彼らを助けないと」
唸り何かを考えていた風に見えたフレールが、突然、決心したように顔を上げると自分の後ろを指差した。
「え?あっちがコクピット?フレール、コクピットの方向から来たの?」
ニヤッと笑みを浮かべてフレールは少年の肩をパンパンと叩くと、ついてこいと言わんばかりに走り出す。
慌ててオビ=ワンもその後に続いた。
巨大な体に似合わずウーキーは足音立てずに駆けていく。
遅れまいとついていくオビ=ワンは、急に声をかけた。
「右、気をつけて!」
フレールが左に身をかわすと同時に、右からブラスターの光線が走り彼の脇腹を掠める。
「フレール!」
一瞬、呻き声を上げたが意に介さず、ウーキーはドアの開かれた右の部屋の中に逞しい腕を突き入れると、ブラスターを構えているガモーリアンを引きずり出した。
ガモーリアンは首をつかまれ宙に浮いた足をばたつかせている。
その手に握られているブラスターの銃口は折れ曲がっていた。
オビ=ワンがハッと息を飲む間もあらばこそ、ガモーリアンの分厚い首から嫌な音が響き、頭がだらりとぶら下がった。
ウーキーの腕力の凄まじさを垣間見たオビ=ワンはしばし足がすくんだが、唾を飲み込むと、転がっているガモーリアンを見ないようにしてフレールの元へ駆け寄った。
「大丈夫?」
平気という風に牙をむき出して笑う。
少年は火傷に軽く手をあてると、意識を集中させた。
完治とまではいかなかったが痛みが薄れるとフレールは嬉しそうに笑い、オビ=ワンの頭をくしゃくしゃにして感謝の意を表した。
照れくさそうに肩をすくめていたが、ややあって
「急ごう」
というオビ=ワンの言葉にフレールも頷くと、二人は走っていった。
オビ=ワンは驚いた。
「ここって格納庫じゃ・・・?」
思わず問いが口から漏れる。
てっきりコクピットに向かっているかと思っていた。
それなのに小型の、しかも、改造された船々が収納されているドックを見下ろしていたのだ。
大型の船があればまだいい。他の子供達を乗せられる規模の船があれば。だが小型ばかり。これでは子供達を助けられない。
疑問の眼ざしを向けるオビ=ワンに、首を傾げどうした?といった表情を見せ、それから理解したのかフレールはドックの一角を指差した。
視線を移し、オビ=ワンは驚きで目を見張った。
「<Winged House>?・・・どうして・・・?」
だが、それより何より、その白い優雅なクルーザーの周囲で海賊達と闘っている二人の姿。
長身な体躯ながら最低限度の動きでライトセイバーを振るい、海賊達にブラスターの光線を撥ね返しているジェダイ・マスター。
そして、その少し離れた場所には。
亜麻色のサラサラした髪をなびかせ、突進してきた海賊の上を軽やかに飛び越し、宙返りして着地すると、振り向きざまセーバーを薙ぎ払い倒していく。紫がかった青色の光を放つライトセーバーに、黒いパイロットスーツを纏った少年。
その姿を目にし、オビ=ワンは信じられないといった顔をし、しばらくして嬉しさに顔をほころばせた。
張りつめていた気持ちが緩み、涙さえ溢れそうになる。
しかし、オビ=ワンはもどかしい気持ちに突き動かされるが如く、ドックへと通じる階段を急ぎ足で駆け下りていった。
「マスターっ!!ガレンっ!!」
叫び声に二人は同時に振り向き、走ってくる少年の姿を見とめて異口同音に叫んだ。
「オビ=ワン!!」
クワイ=ガンは安堵の溜め息とともに頬を緩ませ、ジェダイ見習い、ガレン・マルンは顔を輝かせて友を迎えた。
オビ=ワンはマスターの元へと駆け寄った。
「フレールと無事出会ったのだな?」
「はい。ところで、どうしてここに?しかも、フレールとガレンまで」
「話は後だ。今は早く船から離れよう」
一番声を聞きたかった相手なのに、オビ=ワンの頭の中はそれどころではなかった。
「しかし、この船にはまだ囚われている子供達がいます。彼らを助けないと」
ジェダイ・マスターは眉をひそめて考え込んだが、飛んできたブラスター光線に邪魔をされた。
「とりあえず船に乗りなさい。子供達のことは考えがある」
「・・・わかりました」
不承不承といった感じで応える。クワイ=ガンは苦笑するとガレンにも声をかけた。
「ガレン、私がここを抑えるから先に乗りなさい」
ライトセーバーを払ってブラスターの光線を撥ね返し、それが海賊の胸を貫くのを目の隅にとらえると
「わかりました。マスター・ジン」
ガレンは頷き、まだ渋っているオビ=ワンの手をつかむとタラップを駆け上った。
その後をフレール、クワイ=ガンが続く。
<Winged House>はすぐさま
☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆
船は滑らかな動きでみるみる海賊船から遠ざかる。
「何故、止まっているんだろう?」
<Winged House>のコクピットに駆け寄ってくるなり、オビ=ワンは不思議そうに呟いた。
横の窓から眺めると海賊船はまるで死んでいるかのように、一切の灯りを消して宙を漂っていたのだ。
「イオン砲だ。備えつけのイオン砲を撃って、あの船の全電力を停止させたんだよ」
操縦桿を握って前方を見据えたまま、船のパイロットが応えた。
確かにイオン砲なら相手の船を行動不能に追いやり、しかし、中の乗員にはなんら被害を与えない攻撃ができる。
オビ=ワンはパイロットの方を振り向き
「パグェスさん・・・」
と驚きの声を出した。
船は<Winged House>である。彼が操縦していても全くおかしくはない。だが、どうして皆ここに集まっているんだろう?フレールもガレンもパグェスも。
「驚いただろう?」
ガレンが近寄ってきた。
「僕だって驚いたからね。君と同じ客船に乗っているなんてさ」
微笑みを浮かべる友に、まだ訳がわからず眉をひそめるオビ=ワン。
だが、そんな穏やかな会話も途中で遮られた。
コクピットに入るなり、フレールが唸り声を上げたからである。
「どうやら来たようだな」
ジェダイ・マスターの言葉にセンサーを食い入るように見つめていたパグェスは頷き、推進装置のバーを上げ速度を加速させ、同時にシールドを作動させた。
「
不敵な笑みを浮かべて問いかけるパグェスに、クワイ=ガンは同じく微笑んで頷いた。
それを受けて、パグェスは後ろに声をかけた。
「ガレン、砲塔を頼むよ。撃ち方はわかるね?」
「はい、キャプテン」
彼は走りだし、ふと立ち止まるとオビ=ワンを見つめた。
「君も撃ってみる?覚えると簡単だよ。この船には両端に砲塔があるんだ。もう一方を君に任せれば漏れなく撃ち落せる」
「僕が?でも・・・」
オビ=ワンはマスターに視線を向けた。クワイ=ガンはしばしパダワンを見つめていたが静かに頷いた。
ガレンはニッコリ笑い、不安そうなオビ=ワンを引き連れるとコクピットから出て行った。
「フレール、君もウーキーだけに手先は器用なんだろう?副操縦士をお願いしたいんだが」
パグェスの言葉にフレールはニヤッと笑って吼えた。
すかさずパグェスの隣に ―― いささか狭そうだったが ―― 腰を下ろすと計器を確認する。
「私にできることはあるか?」
クワイ=ガンの問いに、前を見つめたまま船長は微笑んで言った。
「貴方は座っていてください。しっかりベルトを締めたまま。少し揺れますから」
その言葉通り<Winged House>は急激に針路変更すると、海賊船から放たれた
☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆
「
走りながらオビ=ワンがガレンに聞いた。友はすぐに応える。
「いろいろな船の部品を組み合わせて、作った船のことなんだ。例えばインコム社製軽貨物船とYウィングの良い所を取り出して、くっつけたりしてね。よく海賊や密輸を行う奴らがこの
「良く知ってるね」
「オビ=ワンも聞いただろ?僕がパイロットの勉強をしてるってこと」
「知ってたけど・・・驚いた」
ガレンはニッコリ笑うと左を指差した。
「こっちだ。こっちに砲塔がある」
砲塔は<Winged House>の翼の両端に突き出るように作られており、270度は見渡せる強化ガラスで覆われていた。
そこに設えた座席にガレンは滑り込むと
「僕が手本を見せるから、君は手順を覚えてくれ」
と言い放つ。
「まず操縦桿を握り、左手の所にあるスイッチを押す。これが照準調整装置なんだ。操縦桿を自由自在に動かすと、前方にあるレーザーの砲身も同じように動く。この座席は左右には動くけど上下には動かないから、上下に動かしたい時は操縦桿で狙いをつけるしかない。照準を調整して敵機に狙いをつけると、前にあるディスプレイに、黄色い箱型の枠が敵機を囲むように出る。そして、敵機に十字線が重なると枠の色が赤色に変わる。ほら、こんな風に。で、これで相手をロックしたことになるから、ここでこれを押すと」
彼は一旦言葉を切り、操縦桿の右手、親指辺りにあるボタンを立て続けに押した。
砲身から赤い光が続けざまに発射され
「こうなるんだ。わかった?このレーザー砲は連射が可能だから扱いやすいと思うよ」
呆然と見ていたオビ=ワンは慌てて
「多分わかった」
と応える。
ガレンは素早く立ちあがると、微笑みながらオビ=ワンの肩を叩き
「じゃ、任せたよ、オビ=ワン。フォースと共にあらんことを」
そして、もう一方の砲塔に向かって駆け出していった。
オビ=ワンは少し不安な面ざしで座席に腰を下ろした。
目の前には複雑な計器が並び、しかも、どんな意味があるかわからないため、余計に不安にさせる。
彼は頭を振ってそんな感情を振り払うとベルトを固定し、操縦桿を握った。
(重い・・・)
ガレンは軽々と操っていたのに、自分が持つとずっしりとした重みが手に伝わりうまく動かせるか心配になる。
もう一度頭を振り、照準調整装置を作動させた。
敵機が見え、急いで操縦桿を動かす。だが、急激に進路を変更する敵機の動きに全くついていけない。
固定された目標だったら簡単だったかもしれない。
だが、相手は急激な飛行を行う戦闘機のプロだ。しかも、こちらも回避行動をとっているため照準を合わせにくい。気も焦り、ロックもせずにレーザー砲を発射させても敵機を掠めるばかりか、全く検討違いの闇を切り裂く始末。
余計に慌てふためくオビ=ワンの視界右隅に、赤く点灯するランプが突然見えた。
(な、何だろう、これ)
何かやってはいけないことをやってしまったんだろうかという強烈な不安が募る中、恐る恐るランプの下のスイッチを押してみる。
『オビ=ワンっ?右の砲塔にいるのはオビ=ワンかっ?』
通信機だったらしい。パグェスの切羽つまった声がいきなり飛んできた。
どうやって応えればいいかわからなかったが、とりあえずスイッチは押された状態になっているのでそのまま返事をする。
「そうですっ」
しばらく後、パグェスの妙に低いゆっくりとした声が聞こえてきた。
『いいか、オビ=ワン。落ちついて聞いて欲しい。奴らは左側からは攻撃しにくいと見たらしく、右側へ集まり始めている』
「右側って・・・?」
『そうだ、君の方だ。心を落ちつかせてこの危機を乗り越えて欲しい。君なら大丈夫だ。信じているよ』
通信は切れた。
オビ=ワンが緊迫した事態を呑み込む前に、