銀河彼方での物語   作:秋鹿

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第2話 狙われる少年

「やっぱり気になっているんだね」

「え?」

ガレンの声にオビ=ワンは振り向いた。

「だって、ほら。もうすぐ王宮だよ」

オルデラのメイン・ストリートまで無料シャトルで来た後、二人はストリート沿いに立ち並ぶ博物館、塀に囲まれた巨大な画廊、オフィス、官公庁、また、モダンなタワーやドーム、美しく輝く白いビル等を物珍しそうに眺めつつ歩いていた。

そして、今、街の中心に近づくにつれ、明るい陽射しに白と金色に輝く、王宮の高い尖塔と低いドームが見えてきていたのだ。

「あれが、王宮か・・・綺麗だね。もうちょっと近づいてみようよ」

オビ=ワンが嬉しそうに王宮に向かって歩き出したあとを、ガレンは苦笑しながらついていく。

王宮に向かって歩いていたことに全く気づいていなかったようだ。本当に悩むととことん回りが見えなくなるタイプらしい。

 

王宮の正面には警備兵がいて、内部の様子を窺うことはできない。

オビ=ワンは見て諦めたらしく城の外を囲む広場に足を向けた。

大きな噴水があり、その周囲には樹木が陰をつくっている。広場には他にも憩う人々で賑わっていた。

綺麗に手入れされた噴水。広場を覆う若葉色の草々。そして、青々と茂った葉を風に揺らす木々。汚れなど全くなく、落ちているゴミさえもない。

それだけ見ても、この広場が人々に愛され大事にされていることがわかった。そして、その広場の真ん中にそびえる王宮への深い愛情、信頼も。

 

オビ=ワンは陽光に煌く水飛沫を眺めていたかと思うと、ガレンの元へ走ってきた。

ガレンはこの辺りで一番大きな木の下で、寝転びながら涼をとっていたのだ。

隣りにオビ=ワンも寝転ぶ。

木漏れ日がキラキラと輝き、葉と葉の間から真っ青な空が見えた。

オビ=ワンが静かに言った。

「ねえ、ガレン。何か悩みでもあるの?」

「どうして?」

「何となく、そんな気がして」

「いや、ちょっとね」

ガレンは言いきった。それ以上詮索しないで欲しいという意味も含めて。

オビ=ワンはそれきり黙り込んだ。彼には、友に無理矢理、話をさせるなんてことはできないだろう。

しばし沈黙が訪れた。

 

「そうだ、この星に着く時、面白い物を見たんだ」

自分の作り出した沈黙に気まずくなったのだろう。ガレンが話し始めた。

「面白い物って?」

草画(グラス・ペインティング)さ」

草画(グラス・ペインティング)?・・・そう言えばオルデランには草画家がいて、銀河でも指折りの芸術家だって聞いたことがあるけど」

「そう。それが宇宙港に通じる滑走路の途中に描かれていたんだ。1kmぐらいの大きさはあったかな。広い草原に様々な色の花でね。すごくきれいだったよ」

「・・・起こしてくれれば良かったのに」

悔しそうに呟くオビ=ワンに、ガレンは意地悪そうニヤッと笑って応えた。

「気持ち良さそうに寝てたし。それに・・・」

「お前達は誰だ」

突然、声が割り込み、二人はびっくりして体を起こした。

「お前達は誰だ?ここで何をしている?ここは僕のお気に入りの場所なんだぞ」

再度荒々しい声が響く。

二人は後ろを振り返った。

樹木の横には、褐色の髪に彫りの深い、オビ=ワン達とそう対して歳の変わらない少年が立っていた。

「坊ちゃま。そんなにきついことをおっしゃらなくても・・・」

隣りにかしずくように立っていた痩せた男性がおろおろと言う。

「お前は黙ってろ。ここは僕の場所だ。さっさと立ち去れ」

相手の口調にムッとしたガレンだったが、オビ=ワンが目配せして静かに制した。

「わかった。ごめんね、邪魔しちゃって」

微笑みつつオビ=ワンは立ちあがると、まだ怒りの収まらないといった風のガレンを伴いその場を離れていった。

 

二人が視界から消えると少年は

「ふん」

と鼻を鳴らし木陰に寝そべった。

そして、男性に命令した。

「パロ、喉が乾いた。オルデラニアン・エールを買ってこい」

「しかし・・・」

「執事のくせに口答えするのかっ?早く買ってこい」

「・・・わかりました」

執事は慌てふためいて走っていく。

王宮近くのメイン・ストリート、ここはビジネスの中心地だ。なかなかオルデラニアン・エールは売っていないかもしれない。

困り果てる執事の様子が目に浮かんで少年は忍び笑いを漏らした。

だが、その笑いもすぐに消えた。

「つまんないな。毎日毎日が同じことの繰り返しでうんざりだ。何か面白いことないかな?」

「面白いことだったらあるぜ」

少年は体を起こした。

少し離れた所に、突如現れた男性が立っている。

怪訝そうな顔つきをする少年に、男性は不敵な笑みを浮かべるとブラスターを構えた。その後ろには、数人の男がやはりブラスターを構えている。

少年は慌てて辺りを見渡した。

しかし、幸か不幸か、近くには今、全く人影は見当たらなかった。

この時を待っていたのだ、彼らは。少年の傍に人がいなくなるその一瞬を。

「ク、(クレジット)だったらやるよ」

(クレジット)なんていらないのさ。欲しいのはお前の命だ」

 

ビュン・・・

彼は身をすくめたまま恐怖の余り目をつぶった。

その時、左から風が吹いたような気がして彼は何故かふわりと浮きあがると、軽やかに一回転して静かに着地した。

「ガレン」

「OK」

そんな声が交わされると同時にブラスターの発射音が響いて、彼は思わず目を開ける。

目の前には髪の毛の短い、そして、三つ編を垂らした少年が厳しい眼ざしで、彼に横顔を見せていた。

その視線を追うとそこには、もう一人の少年が立ってブラスターを撃っている。その光線は狙い違わず襲撃者のブラスターに当たり、銃を弾き飛ばした。

全てのブラスターを撃ち落すと少年はニヤッと笑って言った。

「狙いをつけるのは得意なんだ。次はどこを狙って欲しい?」

突如として現れた少年達に、襲撃者どもは驚いたように呆然とし、

「引け、引けっ」

と蜘蛛の子を散らすように逃げ去っていった。

ブラスターを撃っていた少年がこちらを振り向き、ウィンクする。

彼を抱えていた少年はニッコリ笑って視線を戻し、手を離すと優しく訊ねてきた。

「大丈夫?けがはない?」

何時の間にか先ほどいた場所から10mほど横に動いている。元いた草地にはブラスターの焦げ跡がついていた。

だが、彼は言った。

「助けてなんて言ってない」

少年はびっくりしたような顔をして見つめている。

彼は再び口を開いた。

「助けてほしいなんて言ってない」

少年は瞬時に悲しそうな顔つきになり、それから寂しそうに微笑むと言った。

「無事で良かった。・・・じゃ、これで」

立ち上がり、もう一人の少年に近づくと二人は静かに立ち去った。

彼は一人呟いた。

「さっきの二人だよな。あいつら何者なんだ?僕とそう対して変わらない歳だと思うけど」

 

「元気だせよ、オビ=ワン」

「あ、あぁ。うん・・・」

オビ=ワンは悲しそうな表情で何かを考え込みながら歩いている。

溜め息をつくとガレンは励ますように言った。

「ま、人それぞれだし。元気だしていこうぜ」

オビ=ワンは視線を向けると寂しそうに笑った。

「君は強いんだね」

「いや、オビ=ワン。君が繊細すぎるんだ」

「そうかなぁ・・・」

「だって、君っていろいろと考え込む方だろ?」

「・・・うん」

鋭いと内心思いながら相槌を打つ。

「やっぱりね。繊細というか優しいんだな」

「君みたいにさっぱりとした性格が羨ましいよ」

「ははは。ね、次どこ行く?」

「博物館とか美術館かな」

オビ=ワンの答えに驚いてガレンが顔を向けた。

「・・・本気?」

「だってジェダイは、その星の文化や歴史をよく知った方がいいって聞いてるし」

「それはそうだけど・・・。たまには気晴らしもいいと思うけどね」

「・・・そうだね。君に任せるよ」

相変わらず気になるのか、憂いの表情で微笑むオビ=ワンだった。

 

(僕から見れば、君の方が本当に羨ましいけどな。マスター・ジンのパダワンなんて、皆がなりたがっていた。ただ彼は選んでくれなかったけど。そんな彼に認められるなんて、本当に羨ましいよ)

つい常々思っていたことが顔に出たのだろう。

「どうかした?ガレン」

「いや、何でも」

ガレンは思わず顔を背けた。そんな負の感情を悟られるのも嫌だったし、そんな感情を抱えている自分も嫌だった。

「?」

不思議そうな顔をしたが、ややあってオビ=ワンは空を見上げた。

「本当にいい所だね、この星は。何もかもきれいで。都会的だけど自然も多くて。ずっとこの星がこのままでいてくれたらいいな」

どうやら彼は先ほどのもやもやした気持ちから吹っ切れたようだった。澄んだ蒼い瞳には青い空が映っている。

ガレンも天を眺めた。ちっぽけな感情なんか吹き飛ばすかのようなスカイブルーに彼の心も和んだ。

「そうだね、いい所だね」

ガレンはオビ=ワンに向けてニッコリ笑った。

 

☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

 

「お願いとは何でしょうか?」

クワイ=ガンは総督の言葉に真剣なものを感じ取ったらしく、真摯な眼ざしを向けた。

「お恥ずかしい話、どうやら私の命を狙う者がいるらしいのです。ここまで続けて総督を勤めますと敵も多くなります。私としては胸を張り、正々堂々と統治しておりますが、それが気に食わない輩もいるようで」

「つまり、このオルデランを平和な星より、もっと物騒な星にしたいと考えている者がいるということですね」

「オルデランは豊かな星です。鉱物資源もいっぱいあるはずです。さぞ魅力的な星に見えるのでしょう。しかし、私は自然を守るために敢えて採掘などは行っていません。そんな輩から見れば、私のやっていることは宝の持ち腐れに思えるのです」

全て納得したという風にクワイ=ガンは頷くと口を開いた。

「今日の記念式典が危険だとお思いなのですね?だから、私を呼ばれたと」

「記念式典は絶好の場所となります。多くの人が訪れ、警備も行き届かないでしょう。でも、お願いは私を守ることではないのです」

「どういうことですか?」

「私には妹がおり、オルデランの旧家に嫁いだことは貴方もご存知だと思いますが、その妹に、12標準歳になる息子がおります。彼を守って欲しいのです」

「何故ですか?」

不思議そうに訊ねるクワイ=ガンに、総督は溜め息をつくと言った。

「先ほども言いましたが、私達夫婦には子供がおりません。ですから、妹の子供を実の息子のように可愛がっているのです。もし、あの子に何かあれば妻は耐えられないでしょう」

「つまり貴方を失脚、もしくは、総督から引きずりおろすには、貴方がたを攻撃するよりもその少年を攻撃した方がたやすいし、ダメージも大きいということですね。それには今日の式典、もしくは、その直前に行動を起こした方がよりインパクトがあると」

「そういうことなのです」

総督は沈痛な表情を見せた。自分の大切な者が危険にさらされることは、自分の命を危険にさらすより辛いことなのだろう。

ややあってクワイ=ガンは訊ねた。

「その少年は今、どちらに?」

「この王宮にいるはずです。厳重に守られている王宮内にいれば比較的安心ではありますが、しかし、何か予想外のことが起きないとも限らない。貴方には彼をさりげなく、目立たないように守っていただきたいのです」

「目立たないように・・・ですか?」

少し驚きの表情を見せたクワイ=ガンに、総督は困ったような口調で述べた。

「そうです。表立って警備をつけてしまうと、息苦しいと反発する子なんですよ。今までも、良かれと思い私がつけた警備の者を、高飛車に追い払ってしまったことが多々ありまして。そんなこともあって、今回、本人には身に危険が迫っているかもしれないことを伝えてはいないのですが」

なかなか一筋縄ではいかない少年のようだ。

「目立たないようにするとなると、年の近い、私のパダワンの方が適任だったかもしれませんね・・・」

しばしクワイ=ガンは考え込む。

 

そこへ、制服を着た青年が慌ただしく走り寄ってきて一礼すると、総督の耳に何ごとか囁いた。

「何だってっ!?いつの間に外に出たのだ!?」

「どうしました?」

ただならぬ気配にクワイ=ガンはすかさず言葉を出した。

総督は彼の方を振り向くと、顔をしかめたままポツリと言った。

「先ほど言った妹の息子、あの子が外に出たらしく、王宮前の広場で行方不明になったそうです」

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