銀河彼方での物語   作:秋鹿

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第3話 カーチェイス

北にある宇宙港から王宮を経て、メイン・ストリートを真っすぐ南に下っていく。

このまま南に行くと、両端を延々と続く崖の合間に存在する、オルデラ有数の美しき浜辺がある。少年二人は店先で軽くお昼をつまんだ後、海 ―― 厳密にいえば湖だが ―― を眺めようとそこに向かっていた。

ただでさえ観光地として名高い首都オルデラであったが、その周囲を囲む湖は常に水が涌き出ているため澄んでいること限りない。底まで見えるといった噂もあるぐらいなのだ。

 

瀟洒でモダンな邸宅が道沿いに並んでいる。家々の庭には樹木が茂り、それがまた建物とうまく調和して見目麗しい景観の一環を担っていた。

また、お洒落なショップも多く、若者達が店を冷やかしていたり、買い物していたりとおおいに賑わっていた。

オビ=ワンとガレンはそんな様子を物珍しそうに見ながら歩いている。

二人の横を着飾った若い少女達がすれ違っていった。

彼らは急に足を止めた。お互い顔を見合わせる。

先に口を開いたのはガレンだった。

「オビ=ワン、君が声をかけてみてよ」

慌ててオビ=ワンが応える。

「どうして?君の方が適任だと思うけど」

「いや、君の方こそ、こういうの慣れているだろう?」

「そんなことないよ」

「ほら、早く」

ニッコリと微笑むガレンに急かされるように、オビ=ワンは溜め息をつくと踵を返し、元来た方へと足を向けた。後ろからニヤニヤしながらガレンがついてくる。

オビ=ワンはしばらく歩き足を止めると、口を開いた。

「ねぇ、君・・・」

溜め息をも一つつき、それから街路樹の影に視線を走らせる。

「どうして、僕達のあとをついてくるの?」

街路樹の影に隠れていた少年がムッとした顔を覗かせた。

「べ、別にあとをつけてた訳じゃない」

先ほどの少年である。

この焦げ茶色の髪を持つ彼は、オビ=ワンとガレンの後を延々とここまでついてきたのだ。それに気づいていた二人が、ようやくこちらから声をかけたという訳である。

 

オビ=ワンは後ろを振り返り、ガレンに向け肩をすくめた。友も苦笑を返す。

とその時、オビ=ワンのコムリンクが鳴った。

 

☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

 

ドアがトントンとノックされた。

「入りなさい」

声がかけられるとゆっくりとドアが開き、おずおずと痩せた男性が入ってきた。

総督は威圧感を与えないよう、優しい口調を心がけて訊ねる。

「パロ、一体何があったのか?」

「申し訳ございません。私が目を離したばっかりに・・・」

「そのことはもうよい。それより何が起きたのだ?」

パロは手短に詳細を説明した。

「 ―― で何とか探しまして、オルデラニアン・エールを買って戻ってきましたら、坊ちゃまのお姿が見えなかったのでございます」

総督は天を仰ぎしばし目を瞑ったが、顔を戻すと言った。

「パロ。お前には話していなかったが、あの子の命を狙う者がいるかもしれないのだ」

「そんな・・・っ。申し訳ございません、申し訳ございません」

可愛そうなぐらいに青ざめて執事はただ平謝りを繰り返すばかり。

総督は溜め息を漏らした。

「いいのだ。お前は知らなかったことなのだから。マスター・ジン、どうすればいいでしょう?」

傍らに立つ長身の男を見上げた。

クワイ=ガンは執事に向かうと口を開いた。

「その少年と別れる前に変わったことはありませんでしたか?不審な人物を見かけたとか、不審な車を見かけたとか」

「・・・そう言えば、少年を二人見かけました」

「少年?」

「はい。そうです、一人は貴方と同じような格好をしておりました。坊ちゃまお気に入りの場所にいた、その少年達を、後から来た坊ちゃまが追い払ってしまったのです・・・」

ジェダイ・マスターは思案した。

少年二人 ―― あの二人かもしれない。

クワイ=ガンの沈黙した理由を別の意味にとった総督が口を挟んだ。

「実はあの子には何不自由なく過ごさせているため、性格に多少強情な所がありまして。全く困ったものです。自分の思い通りにならないことはないと思っているふしがあるのです。あのように育ててしまった妹夫妻や私達にも原因はあるのでしょうが・・・。マスター・ジン?」

余りにも反応を示さないクワイ=ガンに、総督は不思議そうな顔をした。

「ちょっと、コムリンクを使ってもよろしいでしょうか?」

突然の申し出に怪訝な表情を浮かべたものの総督は快く了承した。

すかさずコムリンクを鳴らす。

 

「・・・私だ」

「先ほど王宮近くの広場で少年に出会ったか?背の高い痩せた男性と一緒にいた」

「そうだ。それで、その少年が今どこにいるかわかるか?彼は命を狙われている可能性があるのだ」

「その後、彼はどうした?」

「オビ=ワン?」

「どうした?」

「何!? そのシャトルはどこに向かっている!?」

「待て、オビ=ワン。 ―― オビ=ワン!?」

 

コムリンクは既に切れていた。

クワイ=ガンは振り返ると総督に沈痛な面持ちで、しかし、急いた口調を滲ませながら言った。

「その少年がたった今、シャトルで誘拐されたそうです。メイン・ストリートを南下しているそうですが。すぐに追いかけましょう」

 

☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

 

「はい、オビ=ワンです。 ―― マスター?」

「ええ、出会いました。僕と同じぐらいの歳の子ですね?」

「やはり・・・。僕達がその場を離れた後、彼は5人ぐらいの男達に襲われたんです。僕達が助けたら男達は逃げていきました」

「彼とはその時別れましたが、今は何故か僕達のあとを・・・あれ?いない」

「さっきまで僕と話していたんですが、姿が見えなくなり ―― あ、いました。・・・あっ!!」

「しまった・・・っ。マスター、彼が誘拐されましたっ!!黒塗りのシャトルにっ!!」

「メイン・ストリートを南に向かって走っていきます。あれを追いかけますっ!!」

 

すかさずコムリンクを切るとオビ=ワンはあとを追って走り出した。

ガレンが驚いた顔で、しかし、一緒に追走する。

「どうした?何があったんだ?」

「彼が・・・さっきの少年が誘拐されたんだ。マスターとコムリンクで話している最中」

ガレンは背後に視線を走らせた。確かにあの少年の姿はない。

オビ=ワンが続ける。

「急にシャトルが現れて彼に近づいて、いきなり中に連れ込んだ。彼は命を狙われているみたいなんだ」

「そうだろうね。さっきも狙われていたし」

「助けないと」

真摯な表情でオビ=ワンはきっぱり言いきった。ガレンは苦笑し、だが、友に暖かな眼ざしを向ける。

「君の性格じゃ見捨てておけないもんね」

「ガレンだって見捨てておけないでしょ?」

「まぁね。だけど、このまま走っていくつもり?」

オビ=ワンは周囲を見まわした。何か足になりそうなものは・・・。

「あれを借りよう」

言うが早くガレンがそれに向かって駆け出す。

「ちょ、ちょっと、ガレン。それ・・・」

ガレンは無言で道端に停めてあったスピーダー・バイクにまたがった。

すると、持ち主だろうか。ちょうど家から出てきた男が、不意に血相を変えて叫んだ。

「お、おい。それは俺のバイクだぞっ!!」

オビ=ワンは思わず天を仰ぎ一呼吸置くと、持ち主を静かに見つめ手をさりげなくかざす。

「少しの間、貸して欲しい」

「少しの間、貸してあげよう」

虚ろな表情で応える持ち主に、オビ=ワンはこんなことにジェダイの技を使っていいのだろうか?いくら緊急事態といっても。

と内心忸怩たる思いを抱きつつ

「すぐ返します。すみませんっ」

ペコリとお辞儀をし、すぐさまスピーダー・バイクの後部座席に飛び乗った。

スピーダー・バイクは轟音立ててシャトルを追い始めた。

 

バイクは他のエア・スピーダーやホバーカーを避け、流れるような動きで走っていく。

「ガレン、バイクの運転もできるんだ」

余りのスピードに必死にガレンにしがみつきながら、オビ=ワンが問う。

涼しい顔でガレンは応えた。

「いや。だけど操縦は得意だから。多分大丈夫だよ」

「う・・・」

一瞬顔をしかめたオビ=ワンだったが、すぐに真剣な表情に戻った。

「ガレン・・・」

「あぁ。やつら、気づいたみたいだ。しっかり掴まって。行くよっ!」

言い終わるか終らないうちに、アクセルをふかし加速する。バイクは今までにないスピードでシャトルに追いすがった。

顔を叩きつける強風に目を凝らしながらオビ=ワンが叫ぶ。

「右に避けるんだっ!」

すかさずハンドルを右に切ると、光線がバイクの左を掠めて行った。

「どうやら、本気で僕達を殺す気みたいだ」

ブラスターの真っ黒い銃口がシャトルの窓から覗いているのを視界に収めつつ、ガレンが信じられないといった風に半ば呆然としてポツリと言った。

「多分そうだろうね」

いつになく強い友の口調にガレンがえ?と視線を後ろに走らせた時、オビ=ワンが再び怒鳴るように叫んだ。

「ガレン、前!前っ!!」

ガレンが前方に注意を向けた時には、反対から直進してきたエア・スピーダーが目前に迫っていた。

 

咄嗟のことでガレンは思わず硬直する。

ハンドルに手を伸ばしても届かないと見るやオビ=ワンは瞳を閉じると、引き寄せたフォースを使ってバイクを操った。

すかさずエンジンを切る。

急激な停車に二人は前に体を投げ出されそうになる。

しかし、オビ=ワンは必死にハンドル左にあるバーをフォースで押し上げた。

バイクは瞬間、反重力装置(リパルサーリフト)を起動して上昇する。

そのすぐ下を、エア・スピーダーが擦るようにすれ違っていった。

安心する間もなく後ろから激しいクラクションが響くと、今度は一転、反重力装置(リパリサーリフト)を切り、エンジンを点火させると加速する。

下降しながらバイクは再び車の流れに乗り、シャトルを追いかけ始めた。

 

「・・・ありがとう・・・」

青ざめた顔で、ガレンが止めていた息とともに言葉を吐き出す。

オビ=ワンも心臓の鼓動が激しかったが、ようやくそれを落ちつかせるとニヤッと笑い口を開いた。

「見直した?これでも一応、ジェダイのパダワンだからね」

友の軽口にガレンも思わず微笑み落ちつきを取り戻す。

「よし、ここからは僕に任せてくれ。もう大丈夫だ」

ハンドルを握り直す。

黒塗りシャトルはかなり前を走っていた。まさしく逃げるように。追いつけるだろうか?いや、追いつかねばならない。

バイクは加速を繰り返す。

シャトルに近づいたと見るや、またもや車からブラスターの光線が放たれた。

右や左、上下にかわしながら差をつめる。

突然始まったカーチェイスに、通りを行く人々は興奮と恐怖の混じった声を放った。

平和なオルデラにおいて、このような出来事は滅多にないのだろう。

「いい感じに注目を浴びているよ」

横に視線を走らせながら、ガレンが笑って言った。

「そうだね。これで彼らもここでは目立つ動きはできないだろうし、ね。しかも、この騒ぎがマスター達に伝われば」

オビ=ワンも相槌を返す。

「・・・ね、オビ=ワン?」

「何?」

ガレンは前方を見すえた。周囲に木々が多くなり、間もなくストリートの終点が見えてくる。両端を生い茂った森に挟まれるようにして窺える、その向こうは海だ。

「やつら、海を越えて行こうとしてたら、どうする?バイクの燃料はシャトルより少ないし、そこまで追いかけるのは無理だ」

聞いてオビ=ワンは沈黙した。目まぐるしく何かを考えているのがわかる。

ガレンは左に少し舵を切った。ブラスター光線が右横を飛び去っていく。

「・・・ガレン。君のブラスターを借りていい?」

「ブラスター?いいよ。右のベルトに挟んである」

オビ=ワンはブラスターを抜き放った。

叩きつける強風をものともせず彼はブラスターを構えた。

狙った所が外れたら ―― などとは考えないことにした。もし、そんなことが起きればシャトルは少年もろとも爆発し、周辺の建物にも被害が及ぶ。

フォースを纏い集中力を高め、オビ=ワンはブラスターを発射した。

輝く光線は前行くシャトルのエンジン部分を貫通した。エンジンから黒い煙が噴き出す。

シャトルは途端に減速した。急に左側へ通じる道へ舵を切り、生い茂る木々の間に消えていった。

オビ=ワンが促す。

「ガレン?」

「OK」

ガレンも言い放ち、一瞬後にはバイクの進路を左に向けた。

 

途端、待ち構えるように宙に停止していたシャトルからブラスターの一斉射撃が起こり、バイクを貫く。破壊されたバイクは地面に墜落すると、炎を巻き上げ爆発した。

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