銀河彼方での物語   作:秋鹿

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第4話 腹黒い襲撃者

「これであいつらも終わりだ」

隣に座っている男が頬を歪めながら、そう吐き捨てた。

少年はブラスターの銃口をつきつけられながらも、思わず後ろを振り返った。

シャトルの窓越しに、赤く燃え上がる火とたなびく煙が見える。

悲しくなって涙が溢れそうになるのを、ぐっと堪えた。

彼らは死んでしまった。一生懸命、僕を助けようとしてくれていた彼らが。あんなにきついことを言ってしまったけど、素直になれなかっただけなんだ。

身近に同じ年頃の者はおらず、また、周りの人間も自分をちやほやしてくれる。

どうしても図に乗りやすく、高飛車な態度をとりがちだった。

だが、そんな少年に対して彼らは気にせず、それどころか助けようとさえしてくれた。

彼らとは友達になれそうな気がしていた。それなのに・・・。

少年は涙を拭うと隣の男を睨みつけた。

(こいつは僕を殺して、伯父さんを失脚させるつもりだ。そんなことは絶対させやしない。しかし、この男、どこかで見たことがある。それもつい最近・・・)

少年は考え込む。恐怖はあった。が、それより先にこの現状を打開させる方が先だった。

(こんなやつらにこの星は任せられない・・・)

 

シャトルはしばらく走行した後、一旦停止し、一人の男が降りると、それからまた走り始め、すぐにゆっくりと停まった。

開いたドアから降りる男に続くように、少年も背中を銃口で小突かれながら地面に足を下ろした。

途端、冷ややかな空気が辺りを満たし轟音が耳をつんざく。

そこには滝があった。

島である首都オルデラの中腹の山脈から南へと向けて流れてきたであろう幅10mほどの川が、左手の下方で瀑布となって海に注いでいる。滝の両横は水に穿たれたかなり大きい崖となり、黒く濡れた地肌を光らせていた。

少年は気づかれないように逃げ道を探した。

前には絶えず水飛沫を上げる滝が口を開け、その滝の向こう岸には樹木が、そして、その右向こうには細い道が続いている。おそらくその道を辿ればメイン・ストリートが横たわっているであろうが、その前に一人の見張りと思しき男が立っていた。

逃げにくいように、滝の反対側へわざわざシャトルを停めて、少年を下ろしたのだろう。

また後ろには苔が生い茂り、蔓が絡みつく鬱蒼とした樹木の波が続き、その樹木を通りぬけたとしても、高さから考えれば海に面した断崖絶壁があるに違いない。

左にも同じく断崖絶壁がそびえている。だが、右は?

右へ川沿いに行けば何とか川を渡る橋があるかもしれない。しかし、銃を構えた男達とシャトルが逃げ道を塞いでいた。

 

(無理だ・・・)

少年は絶望した。でも、簡単には諦めたくなかった。

(時間稼ぎをすれば、さっきの騒ぎを聞いた伯父さん達が駆けつけてくるかもしれない)

淡い望みだったが、一途にそれにすがった。

先ほどまで銃口をつきつけていた男がブラスター片手に歩いてきた。

「どうして僕を殺そうとするんだ?」

少年は訊ねた。怯えている様子を見せないように気をつけたつもりだったが、声に幾分かの震えが混じったことは否めない。

恰幅の良い口髭を蓄えたその男は、鼻を鳴らすと軽蔑した目つきで少年を眺めた。

「そんなこと聞いてどうする?」

「どうって・・・僕にも聞く権利はある」

男は無言を保った。

(このままじゃ、殺されるっ)

少年に焦りが生じたその時、男が口を開いた。

「現総督を引きずり下ろし、俺が総督になるためさ」

「どうして僕を殺すことで、伯父さんが引きずり下ろされるんだ?」

答えはわかっていたが敢えて聞くことによって時間を稼ごうとした。

男は馬鹿にしたように再び鼻を鳴らす。

「そんなこともわからんのか?総督はお前を可愛がっている。お前が死ねばショックの余り職を退くだろうよ。なんせ、お前をいずれ総督にと考えているほどだからな」

(僕が総督に?)

総督の件。それは初耳だった。

民意で選ばれる総督だが、人気の高い現総督が推せば、それは人々に多大なる影響を与えるに違いない。

(伯父さんがそんなにも僕を気にかけてくれていたなんて・・・。それなのに僕は全く気にせず、勝手気ままなことばかりやってた・・・。もし、僕が生きてここから帰れたら、伯父さんの言うことをしっかり聞いて勉強するよ。ごめんね、伯父さん・・・)

命の瀬戸際に立ったが故か。少年の気持ちに変化が生じた。今までの傲慢さは影をひそめ、真摯な態度を見せ始める。顔つきにも内面の想いがにじみ出てきた。

だが、そんな少年の変化に気づくことなく、男は言い捨てた。

「さぁて、もうそろそろいいだろう?」

「まだだ、もう一つっ!!・・・もう一つ。聞きたいことがある」

男は辺りを見渡した。追っ手がかかっている様子もない。先ほどのジェダイも今はいない。

「わかった、一つだけだぞ」

「何故、僕をこんな所で殺すんだ?もっと大勢の人がいる所で殺した方がインパクトがあるんじゃないか?」

「そう思っていたが気が変わった。お前を滝壷へ落とせば、すぐには死体は発見されまい。となると総督はお前が生きているか死んでいるかわからず、相当苦しむだろう。また、犯人の目処もつきにくい」

男はニヤッと笑った。

「総督の嘆き悲しむ顔が目に浮かぶぜ」

(絶対こんな奴を総督になんかさせるもんかっ。絶対)

その時、不意にひらめいた。この男の正体。

「お前はラルメードだな。伯父さんの秘書の」

男の顔がみるみる変わった。今までの卑屈な笑みを浮かべていたそれから、殺気のこもった凄みのある顔に。

「ますます生かしてはおけんな」

ブラスターをゆっくりと構えた。

「滝壷に落ちて死ねっ!!」

 

「やめろ。その少年を放すんだ」

不意に静寂を破り解き放たれた言葉に、少年は驚いて顔を上げた。隣りにいるラルメードからも驚愕した気配を感じる。

滝を隔てて向こう側に崖の上に人影を認めた。二つの小柄な。

見張りの姿はとうに影形もない。

一人は、羽織っていたローブを何時の間に脱いだのか、髪の短く右側に三つ編を垂らしている少年。もう一人は亜麻色の髪をした黒い服を纏った少年。

(彼らだっ。無事だったんだ・・・)

少年は安堵し、ホッとした表情を浮かべた。

「ちっ。ジェダイめ」

ラルメードは鋭く舌打ちする。

急にシャトルがエンジン部分から煙を吐き出しながらも宙に浮くと、開け放たれた窓からブラスターの乱射が少年二人を襲う。

少年達は素早く筒状の物を取り出すと美しく輝く光を放出した。

蒼く光るそれと、時折紫色の輝きさえ見せる蒼い光は、優雅とも思える最小の動きで難なくブラスターの光線をシャトルに向けて弾き返す。

その時、捕われの身である少年が突如として叫んだ。

「抵抗をやめるんだっ!!早く!今すぐに・・・」

 

少年は密かに唇を噛み締めた。こんなことを言いたくなかった。何があっても。絶対に。でも・・・。

「よし、それでいい。いい子だ。これで彼らを死なせずに済むだろうよ」

ラルメードが耳元でほくそえむように囁いた。銃口を彼の脇腹に突きつけたまま。

怒りで腸が煮え繰り返りそうだった。死にたくはない。だが、こんな奴の言うことを聞くくらいだったら死んだ方がましだと思い始める。

彼は恐る恐る視線を移した。あの二人の少年の方へ。

さぞかしショックを受け愕然としているだろうと思った。折角助けに来てくれたのに、その僕がこんなことを言ったら。

だが。

ブラスターの乱射が止まった今、依然として二人とも光る武器を構えてはいるが、抵抗はせず平然と落ち着き払っている。

そして、彼と三つ編を垂らした少年と目が合った途端、その少年は微笑みさえ見せた。

まるで心配はいらないよ、大丈夫だからと言っているが如く。

彼は鼻の奥がツンとし、あふれそうになる涙を堪えた。

そして ―― 体の底から勇気が湧いてくるのを感じた。

 

☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

 

「やめろ。その少年を放すんだ」

不意に隠れていた木陰から姿を現すと、良く通る声でオビ=ワンが言葉を放った。

その今までとは明らかに違う口調にガレンは思わず友を見やる。

横顔には先ほどまで悩んでいた影など一切見せず、逆に精悍さを醸し出していた。

ジェダイとしての成長した姿を垣間見た気がして、ガレンは眩しそうにオビ=ワンを見つめた。

 

滝の向こう、崖の上で今にも少年を滝壷に落そうとしていた男も、そして、あの少年も驚いてこちらに視線を向けた。

(不思議に思っているだろうな。死んだと思っていた僕達が現れて)

ガレンは思わず笑いそうになった。

二人はあの時、危険を察知し、バイクの舵を左に切った直後、バイクから飛び降りたのだ。オビ=ワンのロープをカモフラージュに乗せたまま。案の定、男達はその一瞬だけ見た、フォースで膨らんだロープを二人と思いこみ、ブラスターで攻撃したという訳だ。

足元には、見張りがぐったりと横たわっている。

目にも止まらぬ早さで、オビ=ワンがセイバーの柄を鳩尾に叩き込んだその者が。

ガレンはオビ=ワンを見直し始めた。

 

急にシャトルがエンジン部分から煙を吐き出しながらも宙に浮くと、開け放たれた窓からブラスターの乱射が二人に襲いかかった。

二人は素早くライトセーバーを構えると美しく輝く光を起動した。

蒼く光るそれと、時折紫色の輝きさえ見せる蒼い光は、優雅とも思える最小の動きで難なくブラスターの光線をシャトルに向けて弾き返す。

その時、捕われの身である少年が突如として叫んだ。

「抵抗をやめるんだっ!!早く!今すぐに・・・」

 

一瞬オビ=ワンとガレンは唖然とし、しかし、すぐにその理由を悟った。

多分あの男が少年に言わせたのだろう。そんな姑息な手段が、逆に彼ら二人の闘志に火をつけるとも知らずに。

少年が悔しそうな表情を浮かべている。オビ=ワンは彼の心中を思うと辛かった。

言葉により抵抗はやめたため、観念したと思ったらしくブラスターの攻撃は止まっていた。

しかし、いざ何が起きても良いようにセイバーを構えたまま二人は立っている。

オビ=ワンは少年を気づかってそっと視線を彼に移した。

途端、目と目が合う。

オビ=ワンは柔らかに微笑んだ。

まるで心配はいらないよ、大丈夫だからと言っているが如くに。

少年は驚き、だが、微かに頷いた。

 

☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

 

シャトルがゆっくりと近づいた。

こちら側の崖の上に着地すると中から男達が二人降りてくる。

依然としてブラスターを構えたまま慎重に歩いてきた。やはりジェダイの力を恐れているのだろう。

向こう岸からあの男が叫んだ。

「サイセタム、パレル、武器を残らず奪えっ!!・・・そして、こっちに持ってこい」

男達は無言でブラスターを突きつける。

オビ=ワンとガレンはセーバーの刃を収めると、しぶしぶ男達に渡した。

「それもよこせ」

隠していたはずなのにバレていた。ガレンは仕方なくブラスターも手渡した。

何があってもいいようにとキャプテンから借りた物だった。

(本当にこんな平和な惑星で、何かあるとは・・・)

ガレンは争いの絶えないこの世界を平和にすべく、自らも貢献したいと心の底から思った。

 

男の一人 ―― 多分サイセタムと呼ばれた方だろう ―― が奪ったセイバーとブラスターを抱えるとシャトルに乗り込んだ。もう一人 ―― 体のがっしりとしたパレルがブラスターを構えたまま、二人を交互に監視する。

向こう側についたシャトルから現れたサイセタムは、少年の傍らに立つ恰幅の良い男に武器を手渡した。

「これがライトセーバーか・・・。貴重な物だな。是非、私の展示品に加えたい」

さも珍しそうに男は眺め回す。そして、ニヤッと不気味な笑みを浮かべた。

「こいつを使ってこの子供を殺すのもいいな。ジェダイが殺ったことにし、しかも、その現場を目撃しジェダイを殺して仇討ちしたことにすれば、俺達に容疑はかからない。ジェダイ贔屓のあいつの権威も地に落ちるというものだ」

男は受け取ったオビ=ワンのセーバーを構えた。

オビ=ワンは観念したように目を閉じる。

男は少年に向けてセーバーを突きつけ、そして、おもむろにスイッチを押した。

恐怖の余り目を瞑る少年。

しかし。

何も起こらない。輝く蒼い光刃が出るはずの先端は沈黙したままだった。

男は舌打ちすると、今度はガレンのセイバーを取り出し起動させようとする。

だが、やはり同じように刃が出るどころかハム音さえ聞こえない。

怒り心頭に達した男はセイバーを地面に叩きつけようとしたが、思い直したらしく懐にしまい込むと、最後にブラスターを構えた。

ガレンにはオビ=ワンが一層集中するのが感じられた。

途端に、後ろの木立から木に絡みついていた蔓が音もなく伸びてくると、男のブラスターを持つ手、両足に勢いよく巻きついた。

 

「逃げるんだっ!!早くっ!!」

オビ=ワンが突如叫ぶ。

その声に弾かれたように少年は彼をしばし見つめ、それから意を決して、蔓に巻かれて身動きできぬ男に体当たりを食らわせ地面に倒す。

転がって喚いている男を尻目に脱兎の如く駆け出した。川沿いを北に向かって。

それを見てパレルがブラスターを構えた。

すかさずフォースを纏うとオビ=ワンはパレルに体当たりする。

放たれた光線が少年の足元を穿ち、少年は慌てて樹木の影へ姿を消した。

激しい勢いで吹っ飛び呻いているパレルの右腕に、オビ=ワンは両手拳を叩きつけると零れたブラスターを拾い上げ ――

ようとしたその右手を、ブラスターの光線が掠める。

「動くな。手を挙げてこっちに顔を向けるんだ」

ゆっくりと体を起しながらそっと背後を探る。立ちすくむガレンの傍に人の気配が感じられた。

オビ=ワンは両手を挙げたまま振り向いた。

ガレンの後ろにサイセタムが立っている。多分、背中に銃口を突きつけているのだろう。その向こうにシャトルの姿が見えた。

友は唇を噛みしめ、すまないといった表情を浮かべている。オビ=ワンはそんな彼を安心させるべく微笑んだ。

と突然、倒れていたパレルが立ちあがり、怒りの表情もあらわにブラスターを発射すると、それは背後からオビ=ワンを貫いた。

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