銀河彼方での物語   作:秋鹿

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第5話 崖端での攻防

まるでスローモーションのようにゆっくりと倒れるオビ=ワンを見つめながら、しかし、ガレンは一言も声が出せなかった。感覚が麻痺したようだった。心は必死に声を放とうとしているのに、体がそれに追いつかない。

ようやく呻き声とともに言葉が漏れた。

「・・・オビ=ワンっ・・・」

ガレンは怒りで我を忘れそうになったが、拳を握りしめ、全ての力をもって心を落ち着かせる。何とか冷静さを取り戻すと、この場を対処すべく考えを巡らせ始めた。

 

☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

 

向こう岸にいたラルメードは突然、巻きついていた蔓から解放された。

何があったかわからないといった風な表情を浮かべながら男は立ちあがると、すぐさま少年を追って走り去っていった。

「そいつらを殺せっ!!」

捨て台詞を残しながら。

 

☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

 

パレルはゆっくりとオビ=ワンに近づき、足で彼を転がし仰向けにさせた。

死んでいるか確認していたその瞳が、不意に驚愕に彩られる。

オビ=ワンのニヤッと笑う視線にぶつかったのだ。

「!?」

事態を把握する前に、オビ=ワンの蹴りがブラスターを持つ右手に決まり、銃は手から放れ弧を描いたかと思うと滝壷に吸い込まれていった。

だが、パレルにはその顛末を悠長に眺めている暇はなかった。

少年が顔横の地面に両手を置き、反動をつけ両足で地面を蹴り手を軸にして後ろに飛んだかと思うと、ふわりと着地し彼に向き直ったからだ。

「パレルっ!?」

ガレンの背後にいたサイセタムが叫んだ。

二人の闘いに気を取られブラスターの銃口が僅かにずれる。

その機を逃さず、ガレンは両手を互いに組み反動をつけると、サイセタムの鳩尾に右肘鉄を食らわせた。

「う・・・」

崩れ落ちる男からブラスターを奪い取るとガレンはそれを構えた。

オビ=ワンとパレルは対峙している。男は何時の間にか振動ナイフ(バイブロブレード)を手にしていた。

渾身の力を込めてパレルがナイフを振りかざす。

向かってくる相手の力を利用するのだ、若きパダワンよ ――

つい先頃、クワイ=ガンから教わった体術の記憶が蘇る。

オビ=ワンはナイフを半身に躱し、男の突き出された右腕を掴み体を横回転させると、向かってきた勢いを利用し投げ飛ばした。

鈍い音を立てて地面に激突する。

「オビ=ワン、離れろっ」

オビ=ワンが後ろに飛びずさるとガレンはブラスターを放った。

青白い光に攻撃されパレルは静かになった。

失神(スタン)モード・・・だね?」

呼吸を整えながらオビ=ワンが微笑む。

「あぁ。それにしても驚いたよ。君が本当に撃たれたかと思った」

「思わせただけさ。辛うじて避けたんだよ」

ニッコリ笑う。

ガレンは友の思いもかけない強さに改めて驚かされた。

その瞬間。

「ガレンっ!!」

声にガレンが後ろを振り向く。

驚きで見開かれた瞳には、鳩尾を押えて苦しがりながらもサイセタムが振動ナイフ(バイブロブレード)を振りかざしている姿が映った。

ナイフが閃き、鮮血が宙を舞った。

 

「オビ=ワン!?」

突き飛ばされた衝撃で地面を転がりながら、ガレンは振り向きざま叫んだ。

彼をかばった友は右腕から激しいほどの鮮血を垂らしていた。

必死に押える左手から血があふれ、チュニックをみるみるうちに赤く染めていく。激痛の余りオビ=ワンは思わず膝をつき顔をしかめた。

サイセタムは勝ち誇ったようにゆっくりとオビ=ワンに近づくと、血が滴るナイフを振り上げた。

歯を食い縛りながらも彼はその様子を悲痛な思いで見上げる。

まさに振り下ろされんとしたその刹那、ガレンがサイセタムに体当たりした。

男とガレンはもつれ合うようによろけ、サイセタムの足が崖っ渕にかかったと見るや崖が大きく崩れた。と同時にガレンの足元も。

二人は宙に浮き

「うわぁぁっ・・・」

「ガレンっ!!」

オビ=ワンの必死の叫びも空しく、落下していった。

 

☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

 

「捕まえた。俺から逃げられると本気で思っていたのか?」

少年はラルメードに組み伏せられていた。

(せっかく彼が逃がしてくれたのに・・・)

悔しさでいっぱいになる。不慣れな場所で迷った挙句、結局見つかってしまったのだ。

「あのジェダイどもをちゃんと始末したか気になるな。それを確認するまで生かしておいてやろう」

ほくそえむラルメードに少年は心底怒りが燃え上がったが、全く成す術もなかった。

 

☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

 

土や石がパラパラと零れ落ちた。

ガレンは下を見て顔が青ざめるのを感じた。高さ30mぐらいはあるだろうか。轟音撒き散らし、何もかも呑み込むが如き滝壷が口を開けている。紛々たる水飛沫がこの高さまで飛んできそうな激しさ。ひんやりとした空気が辺りを漂っている。

彼は見上げた。友の顔が見える。

オビ=ワンは崖から身を乗り出すように手を差し出し、ガレンの左手首をしっかり掴んでいた。しかし

「オビ=ワン、手・・・っ!」

先ほど深い切り傷を負った右腕から赤い血がどくどくと流れ落ちる。それは徐々にガレンの手も濡らし始めた。

「こっちが利き腕だからね」

オビ=ワンは苦笑し、だが、血によって滑りやすくなり手が離れることを恐れ意識を集中させた。

「オビ=ワン、いいよっ。手を放すんだ。このままだと君まで・・・っ」

ガレンはそう言って諦めの混じった顔で友を見つめた。このままじゃ、二人とも・・・。

「ガレン」

思いもかけず落ち着いた冷静な声が響き、ガレンは驚いて見つめた。

「ガレン、落ちついて。フォースを使って・・・崖を蹴って飛び上がるんだ。フォースが助けてくれる。僕も・・・手伝うよ」

「でも・・・」

そう言いかけてガレンは、オビ=ワンがかなり疲労困憊していることを見て取った。

眉間に皺を寄せ集中し、右腕を襲う激痛に耐え、青ざめた顔でオビ=ワンは再び口を開いた。

「僕を・・・信じて欲しい」

 

既に血はガレンの右腕を伝い、纏っている黒いパイロットスーツさえ染め始めた。

こんなになってまでも自分を助けようとしてくれるオビ=ワンの姿に胸がいっぱいになり、ガレンは慌てて瞬きを繰り返すと静かに言った。

「わかった。君を信じる」

オビ=ワンは弱々しく微笑む。

「じゃ、行くよ。・・・3、2、1っ!!」

同時にガレンは崖を蹴った。

足元が少し緩み慌てるが、辛うじて勢いはつけられた。必死にフォースを纏い体を浮かせる。

途中で失速し落ちかけた瞬間、下から強い力が彼を押し上げ無事に崖の上に着地させた。

僅か5秒ぐらいの間のことだったが、ガレンにとって永遠とも思える長さだった。

心臓の鼓動が激しく、安堵から脱力感が生じ、しばし跪いたまま呼吸を落ち着かせる。

(そうだ、オビ=ワンっ!)

と左に視線を移した途端、ガレンの顔は凍りついた。

オビ=ワンはうつ伏せに倒れたまま、ぴくりともしない。崖へと差し出された右腕からは相変わらず血が滴り落ちている。

「オビ=ワン・・・?」

恐る恐る問いかけた。

しかし、少年は全く動く気配がない。動く気配がないどころか・・・

(もしかして、まさか? オビ=ワン、死 ―― )

気が動転し頭が真っ白になりパニックに陥りかける。

ガレンは慌てて立ち上がろうとして、でも、途中で断念せざるを得なかった。

ブラスターの冷たい銃口が、彼の右こめかみに当てられていたからだ。

 

「おっと動くなよ」

ブラスターを構えたまま男が言った。

どこにいたんだ?もしかして、シャトルの中に隠れていたのか?

気配に全く気づかなかった。それほど頭の中が真っ白になっていたということだろう。

(どうする?どうしよう?)

ジェダイの訓練を受け、パイロットとしては類希なる才能を開花しているガレンとて、さすがに実践は少ししか行ったことがない。

こんな時、どうするんだ?こんな時、オビ=ワンだったら・・・。

ガレン、落ちついて

ふとオビ=ワンの声が聞こえた気がした。気のせいかもしれない。だが、それによって急速にガレンは気持ちが冷静になるのを感じた。

跪いていることをいいことに、ガレンはさり気なく左手を地面につけた。

そして、フォースを使って離れた所で微かな物音をさせる。

「!?」

男が気をとられたその一瞬。ガレンは行動を起した。

左手に重心をかけ素早く右足を伸ばしながら、左手足を軸として体を沈めたまま回転させる。

その反動で右足を男の膝の裏側に叩き込んだ。

「うっ!?」

男は余りの衝撃で膝から地面に崩れ落ちる。

ガレンは男の手から零れ落ちたブラスターをすくい上げ、失神(スタン)モードに素早く変えると光線を放った。青白い光が男を包み声もなく倒れる。

「これで全員か・・・」

安堵の吐息を漏らした瞬間、足元の地面を光線が鋭くえぐった。

「!?」

緊張して身構えると、滝の反対側にあの男が立っていた。

割腹の良い口髭を生やしたその男は、少年を脇に引き寄せブラスターをこちらに向けていた。少年の瞳には恐怖の色が浮かんでいる。

逃げきれなかったようだ。

「動くな。そのブラスターを捨てろ」

だが、ガレンには自信があった。あの男が発射する前に、自分の放った光線があの男を貫くだろうという自信が。

意に介せずブラスターを構えた。少年が傍にいたが失神(スタン)モードになっている。巻き添えをくらっても気を失うだけだ。冷たいかもしれないが、この場を収めるにはこれが一番良いはずだ。

ひるむことなくブラスターを構えたガレンに男は驚いた表情を見せると、今度は脇にいた少年の頭にブラスターを突きつけた。

「これでもブラスターを捨てないつもりかっ!? この子供がどうなってもいいのか」

先ほど地面を穿った光線から考えれば、あの男が使っているブラスターのモードはどう見ても失神(スタン)では有り得ない。

軽く舌打ちすると、ガレンはブラスターを滝壷目がけて投げ捨てた。

銃は水煙上がる渦の中に消えていく。

「それでいい」

男はほくそ笑みながらガレンにブラスターを向けた。

 

「そこまでだっ!!ラルメード!! 我々はオルデラン国家保安局。誘拐及び殺人未遂の疑いで逮捕する」

宙に浮く大型のシャトルから放たれた輝くライトが辺り一面を照らす。

突然の眩しい光に男が両手で視界を覆った瞬間、隣りにいた少年は影も形も消え失せていた。

何台かのシャトルが猛スピードで走ってきたかと思うと、次々と急停車する。

開け放たれたハッチから、何十人もの暗赤色を基調とした制服を纏った軍兵が降りてきて、男を囲みブラスターライフルを向けた。

男は周りを見渡し観念するとブラスターを足元に放り投げ、しぶしぶ両手を挙げた。

 

ガレンはとにもかくにもオビ=ワンに駆け寄った。

しかし、手を差し出すことに躊躇いを覚えた。どうしよう、もし・・・。

そこへクワイ=ガンが走ってきた。

先ほどの一瞬で神業の如く少年を無事保護したジェダイ・マスターは、少年を執事に預けると、弟子達の様子が心配で駆けつけてきたのだ。

「マスター・ジンっ!!オビ=ワンが、オビ=ワンが・・・っ!!」

ガレンは安堵と今にも泣き出しそうな入り交ぜになった表情を見せる。

その顔とオビ=ワンの姿を視界に見とめると、クワイ=ガンは心臓が鷲掴みされたような気がした。

だが、あくまでも顔には出さず、彼は静かにオビ=ワンの傍に寄るとそっと抱え起した。

血の気の失った顔。固く閉じられた瞼。

クワイ=ガンは自分でも手が震えるのを感じながら、パダワンの首筋に指を当て脈を確認した。微かに脈打っている。彼はホッとした表情を浮かべた。

「大丈夫だ。オビ=ワンは生きている」

途端、ガレンがパッと顔を明るくさせた。

しかし、クワイ=ガンは楽観してはいなかった。

「だが、危険な状態だ。早く血を止めなければならない」

すかさず右腕の傷に両手をかざすとジェダイ・マスターは目を閉じ、ただ一点に全神経を集中させた。傍らにいたガレンも真剣な眼ざしでそれに倣い、両手をかざした。

 

暖かい流れに乗って漂い、まるで空に浮かんでいるようだ。

体全体に感覚はないが、何故かその暖かさは感じられた。そして、それが彼を癒してくれているということも。

断続的に続いていた右腕の痛みもほどなく消え、体に温かみが戻ってくる。

オビ=ワンはゆっくりと目を開けた。全身を取り巻く流れに促されるように。

「オビ=ワンっ!!」

声の方に顔を向ける。そこに嬉しそうに微笑む友の姿を見とめた。

「・・・ガレン、無事だったんだ・・・」

心から安堵の声を漏らす。

「君のおかげさ。ありがとう、オビ=ワン」

真剣な響きを感じさせながらガレンが言った。

そんな友を安心させようとして上体を起こそうするが、力が入らずもどかしそうにしている弟子に気づくと、クワイ=ガンは彼の背に手をあて優しく起こした。

「マスター・・・来てくれたんですね・・・」

途端、ガレンは抱きついた。一瞬、驚いた表情を浮かべるオビ=ワンに

「君が死んじゃったかと思ったよ・・・」

肩に顔を埋め低い声でガレンが呟く。その声に微かに震えが混じっていると感じるのは気のせいか。

少年は左手を優しくガレンの背に回し軽く叩いた。

「おおげさだな、ガレン。僕は大丈夫だよ」

苦笑しつつ応えるオビ=ワンに、ガレンはポツリと言った。

「君は・・・実は強いんだな」

オビ=ワンは笑うと言葉を返した。

「君も結構繊細なんだな。繊細というか優しいんだよ」

思わずガレンは顔を上げ呆気に取られたように友を眺める。先刻、自分が告げた言葉。そのまま、そっくり言い返されるとは。

二人はしばらく見つめ合った後、クスクスと笑い始めた。

笑い合う二人に、クワイ=ガンは溜め息を漏らしつつ苦笑するのであった。

 

そんな時。

「あの・・・」

声がおずおずとかけられ三人は顔を上げた。

執事に連れられ、先ほどの少年がそこには立っていた。

何かを言いたそうにしているが言葉にならず、もじもじとしている。

「坊ちゃま?」

執事の声に促されてついに少年は口を開いた。

「・・・ごめんなさい。助けてくれてありがとう」

オビ=ワンはニッコリ笑うと右手を差し出そうとしたが力が入らず、仕方なく左手を差し伸べた。

少年は一瞬驚いたが、引きつった笑顔を見せると彼も左手を差し出した。

お互い握手を交わす。

「君も無事で・・・良かった・・・」

緊張の糸が切れたからだろうか。

急にオビ=ワンの手が離れ地面に力なく落ちた。上体がゆらりと傾いだかと思うとクワイ=ガンは急いで抱きかかえた。

「早く、シャトルを!!」

ジェダイ・マスターの緊迫した声に急かされるように、執事が慌てふためいて待機しているシャトルを呼びにいく。

一人取り残された少年は不安な面持ちで、所在なさげに夕暮れの中で立ちすくんでいた。

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