銀河彼方での物語   作:秋鹿

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第6話 一件落着の後

「マスター・・・」

「気づいたか?」

医療(メディ)センターの浮遊寝台(フロート・ガーニィ)に横たわっていたオビ=ワンは、左手でゆっくりと鼻と口を覆っている酸素マスクを取り外そうとした。

それをクワイ=ガンは優しく押し留める。

「まだつけていた方がいいだろう」

「僕は・・・?」

「出血による貧血状態だな。適切な処置は済んだから、寝ていれば直に良くなると医療ドロイドが言っていたぞ」

道理で頭がクラクラする訳だ。オビ=ワンは視界をはっきりさせるため目をぎゅっと強く瞑ると再び開いた。

「今は何時頃ですか?」

「もう昼近いと思うが」

聞いてオビ=ワンは弱々しく微笑んだ。

「また・・・寝過ごしてしまいましたね」

クワイ=ガンは途端に破顔し、目を細めて言った。

「そんなことが言えるのなら大丈夫だろう」

「・・・ご心配をおかけしました」

「お前が倒れた時、最悪な状況が頭を過ぎって心臓が止まりそうだった。かなり慌てたぞ」

師は真剣な表情を浮かべ弟子をじっと眺める。

自分の大切な者が危険にさらされることは、自分の命を危険にさらすより辛いことだと言った、総督の気持ちがわかったのかもしれない。

オビ=ワンはえっ?といった顔で見つめ、それからそこまで心配してもらったことに心底から嬉しそうな笑みを浮かべた。

が、一瞬のちにクワイ=ガンは言葉を続けた。

「ガレンがな」

言って口の端をニヤッと歪める。その様子はまるで、くるくると変わるパダワンの一挙手一投足を面白がっているようにも見えた。

聞いて、今まで沈黙したまま後ろから状況を窺っていたガレンが慌てて口を開いた。

「マスター・ジンっ!それはあなただって同じでしょう!」

さも心外なと言った風な顔をして真剣に言い張っているガレンを見て、オビ=ワンは思わず吹き出した。そんな彼の様子にようやくホッとしたのか、クワイ=ガンとガレンは顔を見合わせて微笑む。

「何はともあれ元気になって良かった」

溜め息をつきクワイ=ガンは言った後、弟子をいつになく真摯な眼ざしで見つめ、再び言葉を紡いだ。

「だが、オビ=ワン?これからは無謀な行動は慎むのだ。いいか、勇気と無謀は違う。心から正しいと信じて思い切った行動を取ったとしても、周りの状況が良く見えていて、しかも心が平静な状態での行動は勇気と呼べるが、周りの状況が良く見えず不安を抱えたままの行動なら無謀となる。そして、無謀はいつも危険と隣り合わせだ。私はお前と別行動を取った時、いつも心配になる。別行動を取っていても私が安心していられるように、お前にはよくよく考えて行動をして欲しいのだ。わかるか?」

「・・・はい。すみません、今後は気をつけます」

「わかればよい。では、ゆっくり休むんだぞ」

クワイ=ガンは言い終わると部屋を出ようとした。

「マスター?」

訝しげに問うオビ=ワンに、彼の師は

「私は総督にお前の容体を伝えにいく。あの方も随分と心配しておられたからな。それにガレンがお前に話があるそうだ」

「ガレンが?」

それからガレンに向き直る。

「ガレン ―― ほどほどに、な」

「はい」

そして、ジェダイ・マスターはそっと部屋から出ていった。

 

沈黙が訪れた。

「話って何?」

酸素マスクを取りながら、気まずい雰囲気に耐えきれなくなってオビ=ワンは訊ねた。

促されてガレンは言葉を発した。

「・・・ごめん。それからありがとう」

「僕こそ。君がいてくれて助かったよ」

ガレンは俯いていた視線を上げオビ=ワンを見つめると、意を決したように口を開いた。

「・・・実のこと言うと、ほんとは君が羨ましかったんだ。偉大なマスター・ジンのパダワンになった君が」

聞いてオビ=ワンは寂しそうな顔をし、一瞬芽生えた内心の不安を押し殺しながら、あくまでもそれと見せぬよう明るく悪戯な笑みを浮かべて応えた。

「農夫になりそうだった僕がパダワンになってしまったから?マスターが気まぐれで僕を選んだんじゃないかって思ったでしょ?」

「いや・・・」

咄嗟に否定したが、ややあって溜め息をつくと再びガレンは言った。

「うん。気まぐれというか、成り行き上で師弟の関係になったのかなと思ってた。でも、実際は違ったんだね。君の闘いを見て思った。君はもう立派なジェダイだよ。マスター・ジンはそんな君の素質を見抜いていたんだ」

今度はオビ=ワンが溜め息をつき、顔を天井に向け消え入りそうな小さい声でポツリと言う。

「そうとも限らないよ・・・よくわからないんだ」

「え?」

そして、何事もなかったかのように顔をガレンに戻すと微笑む。

「まだまだ僕だって修業は足りないよ。学ぶべき所はいっぱいある」

ガレンは窓の外を眺めた。医療(メディ)センターから見える景色はまた格別に美しかった。この街の至る所にある噴水がここでも正面に覗える。

ガレンは重い口を開いた。

「僕も来年には13標準歳になる。それまでにパダワンにならなくちゃいけない。だけど、マスターになってくれそうな人はまだいないし、焦りばっか出てきて」

「君だったら大丈夫だよ。フォースだって使いこなせているし、それに何よりパイロットとしての才能もある。直になれるよ、パダワンに」

「・・・だといいんだけど」

「そうか、それで悩んでいたんだね」

「うん」

オビ=ワンは悩める友に力強く微笑んで言った。

「ガレン。君は言ってくれたじゃないか、僕が農夫として送られる時に。僕は、『パダワンになるということが、誰にでも重要な意味を持つ訳ではない』と君が言ってくれたあの言葉に、すごく勇気づけられたんだ。まだ時間はある。ジェダイとして修行に励んでいれば、いつかきっと認めてくれる人が出てくるはず。それに・・・僕としては、君が何になっていようと、どこにいようと友達だよ。それだけは変わらない」

「何になっていようと?どこにいようと?」

「そうだよ」

表情に明るさが戻る。ガレンは感謝の言葉を述べた。

「うん・・・ありがとう」

オビ=ワンは左手を伸ばすと差し出した。ガレンも左手を伸ばす。

二人は微笑み、固い握手を交わした。

暮れなずむ日の最後の煌めきが彼らを優しく包んでいた。

 

その後、しばらくしてガレンは病室を後にした。

自分の負の部分を友に話したことにより幾分吹っ切れた気持ちで。足取りも軽やかに。

(ありがとう、オビ=ワン)

今はゆっくりと眠る友に心の中で呟いて、彼は静かに通路を歩いていった。

 

☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

 

空が藍色に染まるころ、オビ=ワンは病室を離れた。

先ほどよりは若干顔色も良くなり、ふらふらせずとも歩けるようになったからだ。

心配げな医療ドロイドが隣りを歩きながら、苛立ち交じりの口調で呟く。

「本当だったらもう一日、二日ぐらい入院してほしい所なんですよ。それなのに貴方ときたら、すぐに退院するなんて・・・。血圧は安定してきましたが、まだ無理は禁物ですよ。無理は」

「わかってます」

苦笑を顔に滲ませながらオビ=ワンは応えた。

「全く無茶な人ですね、貴方は。もうちょっと出血がひどかったら危険だったんですよ。こんな平和な街で何をどうしたらあんな大怪我になるのか・・・。料理でもしていたんですか?それとも、工作でも?どちらにしても、今度、刃物を使うときは気をつけてくださいね。それから ―― 」

総督が事件をあまり表沙汰にしなかったせいか、ドロイドは少年が怪我した理由を知らないらしい。かなり勝手なことを言っている。

オビ=ワンは笑いを堪えるのに必死になった。

どうしてこのドロイドは良くしゃべるんだろう?話し相手がいないのだろうか?

もし、マスターにこんなペラペラしゃべるドロイドがつきまとったら、あの人はどんな反応をするだろう?無視するかな?困惑するかな?

考えれば考えるほど、笑いが込み上げてくる。

「聞いているんですか?」

「聞いてます」

辛うじて声を出すが、笑いで震えているのは致し方ない。

医療ドロイドは呆れたといった顔つきで(ドロイドにそんな表情があればの話だが)

「仕方のない方ですね。では、お大事に、オビ=ワン・ケノービ」

と言い放ってステーションの方へ去っていった。

 

笑いを堪えるのに苦労しつつオビ=ワンは、ふと医療(メディ)センターの入り口の外で噴水を眺めている二つの人影を見つけた。

すぐさま真剣な顔に戻ると談笑している人影に近づく。

「マスター。ガレン」

呼びかけて

「ご心配をおかけました」

とはにかんで言った。

二人は噴水から目を離すと振り返った。ジェダイ・マスターが問いかける。

「もう大丈夫なのか?」

「はい」

クワイ=ガンは穏やかに目を細めた。

「マスター。あの・・・、シャトルを追っていた時、スピーダ・バイクを通りにいた方から借りました。そのバイク・・・」

「その件だったらガレンに聞いた。総督に申し出たら、すぐにその人物を探し出し、より性能の良いバイクを進呈するとおっしゃっていた。また、ブラスターのこともパグェスに伝えるつもりだ」

「ありがとうございます」

そこへ、彼方から背の高い男性と優雅な服を纏った女性が歩いてきた。

気づくとクワイ=ガンは彼らに道を譲る。

男性がオビ=ワンを見止めると開口一番聞いた。

「君がオビ=ワン・ケノービだね?」

「はい」

「あの子を助けてくれてありがとう。心から感謝したい」

「いいえ、当然のことをしたまでです。あの・・・貴方は?」

「あぁ、言い忘れていたな。私はこのオルデランの総督ノマディ・オーガナ。そして、これが妻のサレフィだ」

女性が微笑みつつ静かにお辞儀をした。

オビ=ワンも慌ててお辞儀を返す。

「もう怪我は大丈夫なのか?」

「ええ、良くなりました。それより式典の方は?ここにおられても大丈夫なのでしょうか?」

「式典は無事滞りなく行われた。今は1標準時間後に行われるパーティの準備を行っている所なのだよ」

安堵し、総督はクワイ=ガンの方へ向き直る。

「マスター・ジン。貴方はいい弟子を持ちましたね。本当にありがとう」

「ただジェダイとしての務めを果たしたに過ぎません」

控えめにクワイ=ガンは言葉を返す。

総督は微笑みサレフィと顔を見合わせた後、きっぱりと決意を込めて言った。

「しかし、この件で私は心を決めました。もし、私達に子供ができなかったら、あの子を養子にし、成長したあかつきには総督に推薦しようと思います」

「それは、楽しみなことですね」

クワイ=ガンの言葉に総督も頷く。

「あの子も、我が侭など言わず、これからは素直に勉学に励むと言っています。これも貴方がたのおかげですよ」

 

オビ=ワンは、総督と夫人の向こうに佇むあの少年の姿を見つけた。

失礼にならないよう総督にお辞儀をすると、歩いていって笑いかけた。

今度は堂々と少年は口を開いた。

「大丈夫?」

「うん。君こそ大丈夫だった?」

少年は心からの言葉を述べる。

「・・・本当にありがとう。君達と友達になりたかったんだ。近くに同じ年頃の子がいなくって。でも、こんなことに巻き込んじゃったけど・・・」

「気にしてないよ。いい友達になれると思う」

ニッコリ笑うオビ=ワンに少年は顔を輝かせる。

「本当に?」

「本当に。君の名前を教えてくれるかな?僕はオビ=ワン・ケノービ」

「僕はベイル。ベイル・アンティルス。よろしくね」

 

そんな二人の様子を横目で見ながら総督が嬉しそうな笑みを見せる。

「貴方がたにはなんて感謝して良いやら。本当にありがとうございました。どうです?パーティにご一緒しませんか?」

「折角の申し出、誠にありがたいのですが、私達はこれにて失礼させていただきますよ。弟子の調子もまだ完全ではありませんから」

「そうでしたね。あの少年にも再度、お礼を伝えておいてください」

クワイ=ガンは微笑み深々とお辞儀をし、ガレンを連れてオビ=ワンの元へと向かった。

少し離れた王宮から施政10周年を祝う美しき花火が上がり、夜空を彩り始めた。

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