第1話 ゆくえ知れず
//マスター・・・ッ//
瞬間、頭に響いた声は現れた時と同じく突如、消え去った。
長身のジェダイ・マスターは聖堂内の通路でピタリと歩みを止める。
言い知れようもない不安が鎌首をもたげた。
//オビ=ワン!?//
だが、パダワンのフォースを感じることはできなかった。微塵も。 ―― そこに広がるは恐ろしいほどの無。
ジェダイ・マスター、クワイ=ガン・ジンは急ぎ訓練室に向かった。
彼の弟子はそこにいるはずだった。オビ=ワンが単独のライトセイバー訓練を申し出たのだ。
たまに任務から解放されたのだ、久しぶりにのんびりするのも良かろう?と言ったのだが、オビ=ワンは首を横に振って頑なに訓練を望んだ。今思えば何かがおかしかった。
クワイ=ガンは訓練室に辿り着いた。
入り口に佇み、明かりの消えた真っ暗な室内を不審に思いつつ声をかける。
「オビ=ワン?オビ=ワン!?」
返るは沈黙のみ。
彼は部屋に足を踏み入れ、内部に向かい歩き出した。その爪先が何かに当たる。
拾い上げて確認するや、クワイ=ガンの表情はこわばった。
それはオビ=ワンのライトセーバーだった。
☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆
足早やに通路を歩いていく。
その何時になく眉をしかめ、緊張した面持ちで歩を進めるジェダイ・マスターに、行き交う者達は声をかけるのもためらわれるほどだった。
ちょうど授業が終わり休み時間に入ったらしい。生徒達が賑やかに歓談しながらたむろっている。
その横を滑るようにクワイ=ガンは歩き去った。
何歩か進んだ辺りだろうか。彼の背中に向かって
「・・・マスター・ジン?」
との幾分ためらいを感じさせる声がかかった。
しかし、思案にふけるクワイ=ガンは気づかなかったらしく、足をとめる気配もなく曲がり角に消えようとしている。
「マスター・ジン、マスター・ジン!!」
再び声が放たれ、ようやく耳に届いたらしく立ち止まるとジェダイ・マスターは後ろを振り返った。三つの小さな影が彼に走り寄る。
「マスター・ジン、どうかしたのですか?」
カラマリアンの少女が大きな目をくりくりっとさせて、見上げながら心配そうに訊ねた。
「君は・・・バントか。それにガレンとリーフト・・・オビ=ワンの友達だな?」
バント、ガレン、それにドレッセリアンのリーフトはコクンと頷いた。
クワイ=ガンは溜め息をついた。
感情を表に出しているつもりはなかったが、必然的に滲み出る心配と不安は隠せなかったらしい。
じっと見つめる少年達の眼ざしに促されるように、ややあってジェダイ・マスターは重い口を開いた。
「オビ=ワンを見かけなかったか?」
途端に不安が伝染したらしい。
彼らは眉間に皺を寄せ代わる代わる顔を見合わせて、それから一斉に首を横に振った。
「いいえ、マスター・ジン。見ていません。何かあったのですか?」
代表してガレンが問いかける。
「オビ=ワンの姿が見当たらないのだ。訓練室でライトセーバーの訓練を独りで行っていたはずなのだが。・・・見に行ったら姿を消していた」
「食堂に行ったということはありませんか?」
バントの言葉にクスッと笑いを漏らしガレンが続ける。
「オビ=ワンって結構食いしん坊だし」
だが、そんな和やかな雰囲気を吹き飛ばすかのように、クワイ=ガンは重々しい口調で言った。
「いや、それはないだろう」
刹那、三人は顔に浮かぶ笑いを消して、不安そうな眼ざしを交わす。
しばらくしてバントが恐る恐る口を開いた。
「どうしてですか?」
ジェダイ・マスターは再び溜め息をついた。まるで今から自分が言おうとしていることを否定したいが如くに。
「訓練室に彼のライトセーバーが落ちていた。しかも、訓練室の灯りが故意に壊されていた。それともう一つ」
一旦言葉を切り、認めたくないように彼は軽く頭を振って言葉を続けた。
「オビ=ワンの相手をしていたと思われるシーカーが、爆破されたように粉々になって床に落ちていた」
「何があったのでしょう?」
「わからないが・・・とりあえず、何か気づいたことがあったら教えて欲しい」
「はい、マスター・ジン」
クワイ=ガンは辛うじて微笑みを見せると、ローブを翻し足早やに去っていった。
「何かのトラブルに巻き込まれたのかしら」
「オビ=ワンって巻き込まれやすいからな・・・」
「そうね。でも、あのマスター・ジンがあんなに張りつめた表情をしているなんて。・・・嫌な予感がするわ」
ガレンに同意しながら、バントはジェダイ・マスターが去った方向に視線を走らせた。
決意をみなぎらせてガレンが口を開く。
「よし、僕たちも訓練室に行ってみよう」
少女も顔を輝かせた。
「手がかりが見つかるかもしれないわね」
友達の会話に、リーフトは小さな声で口を挟む。
「次の授業は・・・?」
「緊急事態なのよ、あとで補習を受ければいいわ」
「お腹も減ったし・・・」
バントとガレンは異句同音に叫んだ。
「それもあとっ!!」
☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆
一縷の望みを抱き、クワイ=ガンはオビ=ワンの部屋に立ち寄った。
「マスター、どうしたんですか?」
と笑みを浮かべた少年がいることを、半ば望みながら。
しかし、彼の望みは全く絶たれた。
少年の部屋はカーテンに覆われ暗く、しばらく人が立ち入った形跡さえもなかった。
クワイ=ガンは深い息を吐くと、目を瞑り集中した。
フォース。
全てのものとものを繋ぐ、彼らジェダイの命の源でもあるこの力。
そのフォースを集め
//オビ=ワン?//
静かに問いかけてみる。微かな反応でさえ祈るように期待して。
だが、彼の思いに応える声もない。
クワイ=ガンは、今度はフォースをジェダイ聖堂内全体に伸ばし弟子の痕跡を見つけ出そうとした。しばし集中していたが、蒼き双眸を開き、頭を悲しげに振ると部屋をあとにした。
全く手がかりもなく、沈痛な表情を浮かべクワイ=ガンは自らの部屋に足を踏み入れた。
不意に冷たい空気が彼を出迎え、一瞬、顔がこわばる。それはすぐさま消え去った。
(今の気配は・・・?)
知っているようでもあり、知らないようでもある。
彼は今日、何度ついたかわからぬ溜め息を漏らした。
突如、その視線が緊張の色を見せる。
彼の目は、ベッドの枕の上、
☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆
「クワイ=ガン様。お久しぶりです」
「タールはいるか?」
目の見えないタールの世話をする専用ドロイド、2Jは部屋の入口で彼を受けつけ、
「いらっしゃいます。タール様、クワイ=ガン様がお見えになりました」
と部屋の奥へと声をかけると、トコトコと歩いてクワイ=ガンを案内した。
クワイ=ガンの長年の友人であり美しきジェダイ・ナイト、タールはソファーに腰かけ、入れたばかりのティを味わっていた。
「どうしたの?クワイ=ガン。珍しいじゃないの」
「タール様、クワイ=ガン様にもルシティをお入れしますか?」
「あぁ、入れてあげて。それから2J、ちょっと買い物に行ってきて欲しいんだけど」
「かしこまりました」
ソファーの前にあるテーブルの上にもう一つカップを置くと、2Jは買い物へと向かった。
おしゃべりなドロイドが行ってしまったことを音で確認し、ようやくタールはホッとした表情を浮かべた。
しかし
「どうしたの?何かあった?ま、座りなさいよ」
無言で佇むクワイ=ガンの様子に、目が見えないながらも只ならぬものを感じたタールは自分の前を指し示すと身を乗り出した。クワイ=ガンはタールに向かい合うように座ると、ルシティを口に運び喉を湿らせてから静かに言った。
「実はオビ=ワンが行方不明なのだ」
「あの子が?で、何があったのよ」
「それが、良くわからない」
彼は今までの経緯を事細かにタールに話した。
聞き終わるとタールはソファーに背をもたせかけ、見えない目でクワイ=ガンの心を見透かすように口を開いた。
「で、クワイ=ガン。貴方はどう思ってるの?」
「私は・・・彼が誘拐されたと思っている」
「その根拠は、落ちていたライトセイバーと粉々になったシーカーね。それで、その紙には何て書いてあるの?」
「読むから聞いて欲しい」
------------------------------
峻厳なる心は天にそびえ
慈愛なる思いは地を潤す
硬き基盤に逆らうは
唯一の生なる証なり
------------------------------
「クワイ=ガン、貴方はこれがオビ=ワンの行方を指し示す手がかりになると思っているのね」
「そうだ」
「どういう意味なのかしら」
「それを君にも考えてもらおうと思い、ここに来たのだ」
タールは腕を組み天井を見上げ、クワイ=ガンは紙を穴が空くかと思うほど睨みつけた。