小さく四角い、暗黒漂う、一筋さえ光の射さぬ部屋。
少年は膝を抱え座っていた。どのくらい時間が移り変わったかわからないこの部屋で。
ふぅと溜め息をつき顔を膝の間に埋めると、心の静寂を求めフォースに手を伸ばす。
その時、急に彼はフォースの乱れを感じ、素早く立ち上がった。
今いる部屋の闇よりも暗く、邪悪なフォースを纏った者が部屋へと近づいてきている。
気配の訪れとともに、彼を取り巻く周囲の空気が濃厚に密度を増し重くなるようだった。
少年はだんだん息苦しくなってきた。背筋がざわざわしてくる。
フォースが危険を告げていた。
気配がドアの前で立ち止まった時には、真っ直ぐに立っているのも辛いほどだった。
音もなくドアが開いた途端、部屋の空気が暗黒に支配された。
ドアから明かりが漏れてきているはずなのに、依然として暗闇に包まれたままだ。いや、逆に闇が更に濃く深くなったようだ。闇にも濃さがあるとすれば ―― だが。
突然、少年は喉を強く締めあげられた。振りほどこうと喉元に手をやったが、そこには何もなかった。
(誰かがフォースで締めつけているんだ!でも、誰が!?)
彼は浅い呼吸を繰り返しながら考えた。
(ダークサイドに陥ちた集団 ―― シスなんて、授業で習ったことがあるだけだし・・・)
(ブルック ―― 彼のフォースには暗い小波がたつことはあったけど、それだけだ。それに・・・もう死んでしまった。僕の目の前で・・・)
喉が更に締めつけられた。
少年は必死に酸素を求めて喘ぎ、見えない力に対抗するが如くフォースに手を伸ばす。
だが、フォースは彼の指の間をすり抜け消えてしまった。
絶望が彼を支配した。
全身の血管が音を立てて脈打ち、頭が朦朧としてくる。視界の周りが黒く滲み狭まってきた。
(強い・・・ダークサイドのフォース・・・太刀打ち・・・できない)
そう思った瞬間、突如、暗闇に白い顔が浮かびあがった。
その顔を認識しようとしても、すでに思考が働かない。
茫然と見つめる少年の前で顔はニヤリと笑い、不意に崩れ始めた。皮膚がどろどろと溶け落ちて骨が見えるほどになったが、口元の笑みは消えず凄みを増して更に広がった。
その顔が急に目の前に迫ってくる。
恐怖の声が喉元で止まり、少年は霞む目を見開いた。
どろどろと溶けつつある両手で少年の顔を挟むと、ほとんど骸骨だけになった顔が嬉しそうに言った。
「次はお前の番だ」
少年の頬は蒸気を発し溶け始めた ――
「うわぁぁぁ・・・」
叫び声とともにオビ=ワンは目を覚ました。
肺は空気を求めて喘ぎ、冷汗が全身を濡らしていた。思わず両頬に手をやり何もないことを確認する。
(また、あの夢・・・)
耐え切れずに目を瞑る。
ここ数日彼を悩ます悪夢。体が溶けていくあの恐怖。
(夢だ、夢なんだ。現実じゃない・・・)
落ち着かせるため自分に言い聞かせる。次第に鼓動は大人しくなり汗はひき始めた。
深い呼吸を数回しようやく彼は目を開け、しかし、恐怖で喘いだ。
部屋の中は真っ暗で何も見えなかったからだ。
まるで先ほど見た夢の中の部屋のように。
(あの部屋みたいに暗い・・・?)
オビ=ワンは再びドキドキし始めた心臓をなだめようとした。
(これは夢だ、きっと僕はまだ夢を見てるんだ)
深い息を吸い込み額に手を当て汗をぬぐうと、次第に気分が落ち着いてきて、溜め息と共に彼は手を横に下ろした。その指先に冷たい感触が走る。
恐る恐る手を伸ばし調べてみた。それはごつごつとした手触りがする。
これは ―― 石?石の床?
不意にそれに気づきガバッと体を起こすと、途端、激しい目眩と強烈な頭の痛みに襲われた。起きていられないほどの目眩に倒れそうになり、思わず右手を床に着いて
「ぐっ・・・」
オビ=ワンは激痛にうめいた。
痛みの感覚により、ようやく彼は現実を把握した。
(これは・・・夢じゃない)
(何故こんな所にいるんだろう?)
冷たい石の床に横たわりながら少年は考えた。目眩の酷さに今は体を休めるしかなかった。
(頭痛と脳しんとう、右の二の腕の火傷・・・一体、何が?)
彼の思いは過去を溯る ――
ついにオビ=ワンは、シーカー相手にライトセイバー訓練を行っていたことを思い出した。
(そうだ、シーカーが止まって・・・突然、僕は何かの攻撃を受けたんだ。それで飛ばされて、床に頭を思いっきりぶつけたような気がする・・・)
薄れ行く意識の中で辛うじて、少年はフォースを通して心の中で叫んでいた。//マスター!//と。
彼の声は師に届いたのだろうか?ここはどこだろうか?誰が彼を攻撃したのだろうか?そして、誰が彼をこの部屋に閉じ込めたのだろうか?
わからない。何も。全く。
痛みは癒されていた。
彼を取り巻くフォースが温かく救いの手を差し伸べている。床に打ちつけた頭に、そして、レーザーで焼かれた右腕に。
細胞一つ一つに波のようなフォースが浸透し、それは彼の心にも穏やな暖かさを与えてくれた。
少年はゆっくりと体を起こした。
頭痛は治まり ―― ま、こぶはできただろうが ―― 目眩もそれほどでもなくなった。右腕の痛みもズキズキする痛みから鈍いものへと変化していた。
ここにおいてようやくオビ=ワンの思考は、部屋の中を調べてみることに思い至った。
明り取りにライトセイバーを使おうと何気なくベルトに手を伸ばし、彼は思わず息を呑む。
(ない!)
左腰の辺りを慌てて触ってみたがセイバーはなかった。焦って近くの床の上をもう一度探ってみたが、やはりどこにもなかった。
不意に記憶が蘇る。
(訓練室で落したんだ・・・)
それしか考えられない。
オビ=ワンは天を仰ぎ溜め息を深くついた。
だが、ここで、このままずっと意気消沈している訳にもいかない。
また、焦っても何の解決にもならないことは充分にわかっている。そして、この、何も見えない状況でむやみに動き回るのもかなり危険だ。
少年は一度ゆっくりと深呼吸した。
目を瞑ってからもう一度深く呼吸をすると、自分の中にある静寂を見つけた。集中力を保ったまま、それからフォースを呼び込んで感覚を部屋の隅々にまで広げる。
どうやらそれほど広くない四角い部屋にいるようだ。
彼は立ち上がり、フォースの導くままでこぼことしている石の床を躓くことなく、壁際まで歩いていった。壁に手が触れると、今度は手探りで調べ始めた。
四方の壁を手の届く範囲で入念に調べたが、わかったことと言えば、この部屋には窓はなく、一ヵ所を除いて全て岩壁で囲まれているということだけだった。
その問題の一ヵ所には滑らかなスチール製のドアがあったが、手をかけるところもアクセスパネルもなく、向こう側からしか開けられないようになっていた。
ロック機構は単純な物のようだが起爆装置が併設されており、正規の手順を踏んで解除しなければ爆発する仕組みらしい。しかも、起爆装置に繋がる配線はドア全体に広がっており、これでは例え今、ライトセイバーが手元にあったとしても、ドアを焼き切って脱出することなど到底不可能だ。
オビ=ワンはドアを開けるのをひとまず諦めて、また部屋の中央辺りまで戻ると座り込んだ。
誰に連れてこられたにせよ、生かして監禁しているということは、彼から何か聞き出すか何かさせるか、とにかく生かしておく必要があるということだ。
そのうちここに来るだろう。
(・・・以前にもこんなことがあった?)
オビ=ワンは軽く頭を振った。思い出すのは後でいい。
今に集中しなければ。今できることをやるんだ。
いつ何が起こってもすぐに反応ができるように、オビ=ワンは頭と右腕を癒すことに専念し始めた。